15 / 99
第一章
第十三話 第二王女への歴史の授業
しおりを挟む
時間があったのでちょこっと研究の続きをして、悠可への授業の十五分前には準備を終え、後は講義室(という部屋があるのだ。時葉や彩希は自室で授業を受けたいって言うからほとんど使わないけど)へ行くだけ。
――今日は研究に没頭しすぎて時間を忘れるということはなかった。偉い。
……いや、二日も続けてそんな失態を演じていたら教師としてどうなのかと思うが。前も考えた様に。
……よし、まあ、もう行くか。
無駄に長い王宮の廊下を歩き、階段を使って四階へ。そして王宮の端へ向かってちょっと歩くと、ほぼ使われない講義室が姿を現す。
正直、このロケーションが講義室を敬遠させるんじゃないかと思わなくもない。場所が極めて分かりづらい。
「……あれ」
講義室に入ると、既に悠可が席についてノートにペンを走らせていた。
「ごめん。待たせた?」
――あれ、なんかこのセリフは適切じゃない気がするな……という考えが刹那の内に脳裏をよぎった。
「いえ。今来たところです……」
そう言った悠可の頬はほんのり朱に染まっている。
「……まあ、授業を始めようか」
「そ、そうですね。それがいいです」
○
今日悠可に受けてもらうのは歴史の授業だ。魔法技術がいくら発達したとは言っても過去の出来事から得られる教訓の価値は下がらないし、何より過去は現在に通じている。王族として学ぶべき学問だ。
「さて、この国――極星国は周囲を海に囲まれていることは知ってる?」
「はい。島国、ということですよね」
「そうだ。外界から一定の距離を置いていることで、この国は独特な文化を持っていると言われているが――しかし、問題があるな?」
「……海の向こうの国々と関わるのが難しい――ことですか」
「うん。加えて、海の向こうの諸国から魔法により総攻撃を受けたら逃げ場がないということでもある。
「例えば隣の聖命国から勇者が、明涼国から聖女が広範囲魔法を同時に放ってきたとしたら、甚大な被害がもたらされるよな」
「……『祝福されし魔術師』が何もしなければ、ですけどね」
「……そうだな。うん。そいつが何もしなければ、甚大な被害は避けられない。だからこそこの国は外交に力を入れてきた」
「聖命国と明涼国はこの国の友好国――ですからね」
「今は、そうだな。しかし過去に友好関係が途切れた事もある。例えば七十三年前。もっと遡れば三百年前――」
○
――お察しの通り、テストでは満点を取られました。ま、まあ、魔法陣とかの授業とは違って教えてないことは出さないからな。べ、別に悔しくなんかないんだからね。
「じゃあ、あの……」
悠可がそう言うので、俺は手を悠可の頭にそっと置いた。艶のある黒髪は夜の美しさが投影されたようで、今にもそこに星が流れて来そうだった。悠可が目を細めて、猫のように愛らしい顔を見せる。
夜空を星が流れていく音が、聞こえた気がした。
さらさら…………と。
――今日は研究に没頭しすぎて時間を忘れるということはなかった。偉い。
……いや、二日も続けてそんな失態を演じていたら教師としてどうなのかと思うが。前も考えた様に。
……よし、まあ、もう行くか。
無駄に長い王宮の廊下を歩き、階段を使って四階へ。そして王宮の端へ向かってちょっと歩くと、ほぼ使われない講義室が姿を現す。
正直、このロケーションが講義室を敬遠させるんじゃないかと思わなくもない。場所が極めて分かりづらい。
「……あれ」
講義室に入ると、既に悠可が席についてノートにペンを走らせていた。
「ごめん。待たせた?」
――あれ、なんかこのセリフは適切じゃない気がするな……という考えが刹那の内に脳裏をよぎった。
「いえ。今来たところです……」
そう言った悠可の頬はほんのり朱に染まっている。
「……まあ、授業を始めようか」
「そ、そうですね。それがいいです」
○
今日悠可に受けてもらうのは歴史の授業だ。魔法技術がいくら発達したとは言っても過去の出来事から得られる教訓の価値は下がらないし、何より過去は現在に通じている。王族として学ぶべき学問だ。
「さて、この国――極星国は周囲を海に囲まれていることは知ってる?」
「はい。島国、ということですよね」
「そうだ。外界から一定の距離を置いていることで、この国は独特な文化を持っていると言われているが――しかし、問題があるな?」
「……海の向こうの国々と関わるのが難しい――ことですか」
「うん。加えて、海の向こうの諸国から魔法により総攻撃を受けたら逃げ場がないということでもある。
「例えば隣の聖命国から勇者が、明涼国から聖女が広範囲魔法を同時に放ってきたとしたら、甚大な被害がもたらされるよな」
「……『祝福されし魔術師』が何もしなければ、ですけどね」
「……そうだな。うん。そいつが何もしなければ、甚大な被害は避けられない。だからこそこの国は外交に力を入れてきた」
「聖命国と明涼国はこの国の友好国――ですからね」
「今は、そうだな。しかし過去に友好関係が途切れた事もある。例えば七十三年前。もっと遡れば三百年前――」
○
――お察しの通り、テストでは満点を取られました。ま、まあ、魔法陣とかの授業とは違って教えてないことは出さないからな。べ、別に悔しくなんかないんだからね。
「じゃあ、あの……」
悠可がそう言うので、俺は手を悠可の頭にそっと置いた。艶のある黒髪は夜の美しさが投影されたようで、今にもそこに星が流れて来そうだった。悠可が目を細めて、猫のように愛らしい顔を見せる。
夜空を星が流れていく音が、聞こえた気がした。
さらさら…………と。
0
お気に入りに追加
90
あなたにおすすめの小説
1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!
マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。
今後ともよろしくお願いいたします!
トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕!
タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。
男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】
そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】
アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です!
コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】
*****************************
***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。***
*****************************
マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。
見てください。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。
スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜
櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。
パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。
車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。
ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!!
相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム!
けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!!
パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※毎週、月、水、金曜日更新
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
※追放要素、ざまあ要素は第二章からです。
実はスライムって最強なんだよ?初期ステータスが低すぎてレベルアップが出来ないだけ…
小桃
ファンタジー
商業高校へ通う女子高校生一条 遥は通学時に仔犬が車に轢かれそうになった所を助けようとして車に轢かれ死亡する。この行動に獣の神は心を打たれ、彼女を転生させようとする。遥は獣の神より転生を打診され5つの希望を叶えると言われたので、希望を伝える。
1.最強になれる種族
2.無限収納
3.変幻自在
4.並列思考
5.スキルコピー
5つの希望を叶えられ遥は新たな世界へ転生する、その姿はスライムだった…最強になる種族で転生したはずなのにスライムに…遥はスライムとしてどう生きていくのか?スライムに転生した少女の物語が始まるのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる