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#98 後始末
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クラーリンは馬を降り、チェッシャーへと手を伸ばした。
チェッシャーは俺やディナ先輩の顔を不安そうな表情で見ている。行って良いのか、と目で訴えている。
ギルフォド一・マンクソム一・ニュナム三の共同夜営地はもう少し先だから。
「そうだな。ここいらが良いかもな」
ディナ先輩も分かっている風だが、ここいらが何に良いのか、頭に浮かぶ幾つも考えはどうしてもネガティブな方向に傾いてしまっている。
ディナ先輩が馬を降りる。
俺の緊張を察したのか、マドハトが俺の手を握る。
ディナ先輩はゆっくりと、自分が持っていたフラマさんを乗せた馬の手綱を、チェッシャーへと渡した。
「二人でテントを設営しろ」
テント? なんて呆けている場合じゃない。
二人ってのは俺とマドハトしか居ない。
「はっ、はい!」
「はいです!」
フラマさんが縛られたまま乗せられている馬には、クラーリンたちがウォルラースの隠しアジトまで旅してきたときの荷物が積んである。
そこからテント布とロープを下ろす。
適当な樹を二本選んでその間にロープを張り、蝋引き加工されたテント布を張る。
蝋引きのおかげで防水性能が高くなっているこの布は、縁を折り返した縁取り部分がしっかりと補強されており、そこを予め地面へ刺しておいた手頃な木の枝へ引っ掛ける。
布をきっちり引っ張らなければ、そんなんでもなんとか支えられる。
後は手頃な葉付きの枝を切り落とし、テント布の空いた両脇へ垣根のように刺して目隠し&風除けを作る。
あとはテントの中にも葉っぱ付きの枝の柔らかい部分を敷き詰める。
「フラマさんを下ろして、テントの中へ」
フラマさんの麻痺毒はまだ解除しておらず、そのうえ毛布にまでくるんである。
見栄えの関係もあってウォルラースやファウンの死体も毛布にくるんである。
マドハトと一緒にフラマさんを馬から優しく下ろすと、毛布ごとテントの中へ運び込む。
俺たちと入れ違いに、グリニーさんとチェッシャーとが入ってゆく。
クラーリンが申し訳なさそうな表情で立っている。
「助かる。グリニーたちにはあの凄惨な現場を見せたくないんだ」
ああ、そういうことか。
グリニーやチェッシャーを気遣うクラーリンの紳士っぷりに学ぶ気持ちと、いつの間にか死体が横にあっても気にしなくなっている自分の慣れとに思いを巡らせる。
グリニーさんも元気になってはいるのだが、それでも長い闘病生活で衰えた筋肉はすぐにどうこうなるものでもないため、表情は明るいもののしんどそうでもあった。
ディナ先輩の指示で、俺はクラーリンへ『カウダの毒消し』を教える。
俺たちが共同夜営地まで出発したら、フラマさんの麻痺を解除する手はず。
麻痺しているままだと食事も排泄もままならないからだ。
フラマさんは拘束も解き、チェッシャーとグリニーさんが世話をするということになっている。
ディナ先輩がウォルラースの所持品を全て調べ、フラマさんを洗脳していたと思われる魔法品も特定したので、そこに格納されていた魔術の構成が判明したのだ。
ディナ先輩とクラーリンが俺やマドハトに構成内の思考を説明してくれたのは、まるで授業みたいだった。
その魔法品は、どうやら「自己肯定感を著しく下げる」のが主たる効果のようで、「他人の意見が正しく思える」うえに、「一番たくさん助言をくれた人に一番の信頼を置く」という、何度も繰り返し使うことで洗脳を行うタイプの魔術構成だった。
これのイヤラシイ部分はキモの「脳に刷り込む」魔法で、一瞬だと単なる「気の所為」で済むが、繰り返し使うことで意識に定着し、時間をかけて洗脳しさえすれば魔法品を奪われようが壊されようがすぐには回復しない、というところ。
フラマさんの中ではまだ「ウォルラースの言葉」という価値観が強く残っているのだ。
幸い、ウォルラースの死体や、「タールだ」と吹き込まれた俺の姿や『虫の牙』を見せさえしなければ、一緒に行動してきたチェッシャーやグリニーさんの言う事を大人しく聞いてくれてるので助かった。
フラマさんの洗脳を解く方法としては、この魔法品をウォルラースに否定されていない誰か――チェッシャーが適任だろう――がウォルラース以上の回数を用いてフラマさんの「一番の信頼」を得た上で、それからようやく、徐々にだがウォルラースの言葉を否定できるようになる、という感じ。
そしてその際、フラマさん自身を肯定しまくって自意識を取り戻すという方法が良いということになった。
チェッシャーがフラマさんの一番になる前にウォルラースの言葉を否定するような発言を聞かせてしまうと、フラマさんがウォルラースの言葉に固執し、防衛本能として洗脳が強固なものに変わる恐れがあるということ。
魔法が使える世界とはいえ、魔法を使おうという気にさせなければ幾らでも人の支配が可能になるのだという、なんというか単純で恐ろしい事実に愕然とした。
悪意は地球のみならずこちらにもあるのだな、と。
俺とマドハトとディナ先輩とは、焼け焦げたご遺体が転がる共同夜営地へと到着した。
ウォルラースとファウンの死体を下ろし、馬を休ませ、テントを設営する。
交代で見張りをするなかで、マドハトが外当番のとき、俺はディナ先輩に対して『テレパシー』を使い、フォーリーを出てからウォルラースを倒すまでの経緯を何度かに分けて全てお伝えした。
ウォルラースとの出会い、因縁、道中で戦った敵、出会った地球からの転生者、そして傭兵団参加の経緯と、そこで出会ったタールのこと。『虫の牙』との出会い、それから死闘、ディナ先輩のお母様の『魔動人形』のことまで。
一応、ルブルムやレムとのイチャイチャとか、チェッシャーに告られたこととかについては極力ぼかしてお伝えはしたのだが、なんか見透かされてしまってる気はしている。
そっち関連については特に何も言われていないのが逆に怖い。
基本は俺が情報を伝えてばかりだったが、俺が作った魔法の思考について伝えたときには、ディナ先輩からの質問がけっこう返ってきた。
加えて戦闘などを乗り越えたタイミングでは何度も褒められた。
失礼な話だが、普段のディナ先輩らしくないなと感じた。
でも実際、そうだよね。
らしくなくとも当然なんだ。ディナ先輩には、あんなことがあったんだから。
それを裏付けるかのように、ウォルラースとの遭遇や、タールの屋敷に呼ばれた辺りの情報を送ったときは、ディナ先輩の感情が溢れて俺にまで伝わってきた。
哀しみと悔しさと抑えきれぬ怒りと、そしてある意味自分の支えであった復讐を失ったことによる虚無感と。
そういった感情と真反対のプラスの感情をわざと大きく持つことで、なんとかバランスを取ろうとしているのかもしれない。
そんなときに俺にできるのは、ディナ先輩が気分転換をしようと目を向けたそこに、しっかりと居ること、かな。
不思議と母さんや姉さんのことを思い出した。
自分勝手で傲慢で、でも弱さも持っている人たち。
思い出した自分が昔ほど嫌な感情に呑まれていないことに気付く。
俺は成長できているのかな。
なんかふと思ったんだけど、大切にしたいと思える相手が増えれば増えるほど、俺は紳士に少しずつ近づけている気がする。
ああそうか。
マクミラ師匠が紳士なのは、師匠が森や自然全てにまで感謝と愛情とを持っているからなのかも。
やがて、夕暮れが近そうな空の下、トゥイードル濁爵領兵の皆さんが到着した。
メンバーの中にオストレア率いる第一傭兵大隊第一小隊第一班の面々が居た。
タールの『魔動人形』脱出阻止のために、傭兵団から領兵へと班ごと派遣されていたらしい。
「タールの『魔動人形』を二つも仕留めたんだって?」
「俺一人じゃ到底無理だったよ。マドハトにファウンに協力者に、そして俺の尊敬する姉弟子も加勢してくださって、ようやく」
「ご謙遜。テルならやると思ってたよ」
「ほう。うちの弟弟子は女性のお友達を作るのが随分と上手じゃないか」
なぜか空気のピリつきを感じた。
ディナ先輩からしたら、俺がルブルムをないがしろにして他の女と仲良くしている、みたいに感じたのかな。チェッシャーにもかなり距離を詰められていたし。
オストレアの方は――あっ、そうだ。フラマさんのこと、詳細を伝えないと。
「こっ、こちらがその姉弟子様です。そしてこちらは傭兵団でタールを追い詰めるときに手を貸してくれたオストレアです」
早口で簡単に互いの紹介を済ませ、二人が何かを言い出す前にすぐ本題へと入る。
「オストレア。例の件でちょっと話があるから、こっちに来てもらっていいか?」
オストレアは察してくれたようで傭兵団の班員たちに領兵の遺体回収作業を手伝うように指示する。
その班員の何人かは見覚えがある。
俺が挑戦試合で戦ったボロゴーヴの部下だった傭兵たちだ――彼らはすぐには指示に従わず、何だか妙にざわついた後、片膝をついてお辞儀をした。
それも俺とマドハトに対して。
どういうこと?
「あいつらは、テルたちの勇気除隊がタールの『魔動人形』を追い詰める別働隊結成のための嘘だったと勝手に信じてるんだよ。メリアン大隊長殿の密命を帯びて暗躍する特別な別働隊だってね。実際、君たちがタールの『魔動人形』を倒したことで、もはやその噂は真実へと変わってしまった」
いやいや。俺たち実際に足首切り落としたんだけどな。
変に否定しても話はこじれるかもしれないし、分かっている人だけ分かっていてくれるなら放置でいいかな。
「勘違いは後で正しておいてくれよ、班長殿……ってのは置いといて、フラマさんのことだよ」
クラーリンから聞いたことを中心に、フラマさんの身に起きたことを全てオストレアへと話す。
チェッシャーによる「治療」が終わるまでは、フラマさんが俺に対してどんなに酷い罵りを繰り返しても、否定しないで欲しいということも含めて。
そこから先はディナ先輩にバトンタッチし、領兵さんたちの隊長とクラーリンまでをも交えて話すことになり、俺とマドハトは共同夜営地の復旧作業へと加わった。
調査が終えたご遺体から油をかけ更に燃やし、焼け残りから脆そうな骨を拾って砕き革袋へと収める。
身内へ渡すためだ。
リテルの記憶の中に、リテル自身の祖父や祖母が亡くなったときの記憶を見つける。
遺灰を玄関の前へ撒き、「家族をお守ください」と「先祖」の一部になった祖父や祖母へと感謝を伝える。
そうだよな。
死が悼むべきものなのは当たり前のことなのに。
俺は、こちらへ来てから戦いというイレギュラーな死ばかり経験していたから感性がおかしくなっていたのかも。
命を尊び、死者へ感謝を伝え、大切な人たちの死を悼む。そういう想いをもっと大事にしないといけない。
改めてそう心に誓う。
ギルフォドで詳細調査があるからと焼かなかったウォルラース以外のご遺体は、焼け残った分を土深くへと埋める。獣や魔物が食い散らかしに寄ってこないように。
ここは共同夜営地でもあるわけなので、獣や魔物が来そうな原因は極力排除しなければならないので。
そういや領兵の皆さんはスコップに似た道具を幾つも持ってきていて、穴掘り作業がとてつもなく楽だった。
どの馬車にも数本積んでおくべきだろうと思ったくらい。
「テル、いったんテントの中へ戻れ」
ディナ先輩の声が聞こえ、言われた通りにテントの中へ。
外からフラマさんの声が聞こえる。
だから直後にテントの入り口をかき分けて誰かが入ってきたときは一瞬ビクついた。
フラマさんの火の鞭が飛んでくるかと身構えてしまった。
だが入ってきたのはチェッシャーだった。
行き場のなくなった緊張感を持て余しているうちにチェッシャーは俺に抱きついてきた。
「ありがとう。ありがとう。お姉ちゃんとクラーリンを助けてくれて、本当にありがとう」
「あ、ああ。良かったよ。チェッシャーにも怪我が」
口をチェッシャーの唇で塞がれる。
愛おしむように何度も繰り返される優しいキス。
寿命の渦に現れていることもあり、チェッシャーの気持ちを強く感じる。
「リテルがフラマにデレデレしなかったのも、私の気持ちが全然届かないのも、周りに美人さんばっかりだからなんだね」
いやそういうわけじゃ、と答えようとして、自身の思考が停止していたことに気付く。
俺はずっとチェッシャーへの返事を先延ばししている。
ちゃんと向き合ってこなかったのはなぜか。答えは恐らく決まっているのに。
今改めてその理由を考えてみると、自分の情けなさが浮き彫りになる。
きっと俺はチェッシャーみたいな可愛い子にまっすぐに「好き」と言われたことが嬉しかったんだと思う。
あのときはリテルの体だしとか言い訳していたが、ルブルムを好きだという気持ちを自身の中に確かめてからは、チェッシャーへの回答を引き伸ばしているのは単なる自己中だと自覚できる。
明らかに非紳士的だ。
「チェッシャー、俺は」
またキスで塞がれる。
「リテル、私ね。ちゃんと自分の体で稼ごうと思っている」
チェッシャーはクラーリンが教えた魔法で客に幻覚を見せることで、自身の身体に誰を受け入れることもなくずっと娼婦を続けてきた。
俺自身の決断が、チェッシャーにそれを辞めさせるということにつながるのか、と考えた途端、答えるのが怖くなる――今度は人の生き方を左右してしまう、ということに。
「ヤケクソになったわけじゃないよ。ちゃんと考えて、だから。だってお姉ちゃんはそうやってクラーリンに出逢えたんだもん。私も、見つけてやるんだから。そしてリテルを羨ましがらせてやるんだから」
「チェッシャー、」
またキス。
「そのくらい分かってるよ……リテルが誰のことを想っているのか。でも、言われたくない。言葉にはしないで」
チェッシャーの頬を伝わった涙が、俺の口の端から口の中へと入ってくる。
しょっぱい。味も、気持ちも。
こんなときに何をしたらいいのか、わからない。
ディナ先輩の気分転換に付き合ったときとは違って、今回の「原因」は俺自身だから。
こんなときにチェッシャーを慰めるのは違うと感じるし、チェッシャーの魅力を称えるのも違うと感じる。
チェッシャーを一番大切にする回答が何なのか、わからない。
様々な回答候補を脳内で探し続けるが、結局チェッシャーの求めた沈黙に逃げてしまっている気がする。
「私ね、リテルのそのちょっと困った顔も、好きだよ。いつか私を抱きにきて。サービスするから。じゃ、また」
チェッシャーは涙を拭い、テントを出ていった。
口元に、チェッシャーの唇の感触と涙の味が、まだ残っている。
そんな余韻に浸りかけた瞬間、また誰かがテントに入ってきた。
チェッシャーでも、フラマさんでもなかった。
オストレアだ。
「テル、本当にありがとう」
入ってくるなり、オストレアは俺の前に正座して頭を下げた。
「ありがとう。姉を助けてくれて、本当にありがとう」
なんだこれ。なんのデジャヴュだ。
「俺だけの力じゃない。というか皆で、」
そこまで言いかけたとき、オストレアが俺に抱きついてきた。
そのことに驚きはしたが、ハッと気付いてオストレアの肩に俺の両手を優しく添えた。
なんかこれ、さっきの見られてて、からかわれてるんじゃないだろうな、とまで思った気持ちをぐっと抑えて、静かに語りかける。
「オストレア。皆で必死に戦った。タールと戦ったことのあるオストレアならわかると思うが、あいつ相手に心のゆとりはまるでなかった。フラマさんを助けることができたのは、本当に運が良かっただけなんだ。だから決して手柄なんかじゃない。俺は、オストレアが評価してくれているほど凄くはないんだ」
実際、チェッシャーの気持ちにさえ向き合えていなかった。
戦闘と魔法の経験は積んだけれど、人間関係の方は地球に居た頃とほとんど変わらない未熟者のまま。
オストレアは目を閉じ、首をくるりと背中側へ回し、再びこちらを向く。
申し訳ないが心臓に悪い。
「それでも、ありがとう、テル。本当にテルは紳士だな」
何気ない一言だったのだろうが、その一言が妙に心に刺さった。
初めて他人に紳士だと言われたから。
「こ、こちらこそ、ありがとう、オストレア」
「フトゥールムだ。ボクの本名はフトゥールムと言う。姉は本名で活動していたが、ボクはタールに近づいていたからね。本名をさらしたくなかったんだ」
「俺は、リテルだ。もう、チェッシャーやフラマさんに聞いているかもしれないけれど」
本当は利照なんだけど、そこまではさすがに話せない。
紳士だと言ってもらえたのに、そこまで明かせないことが本当に申し訳ない。
「まぁね。でも、君の口から直接聞けて嬉しいよ。受け入れてもらった気がする」
しばらくの沈黙。
俺がまだ言いたいことがあるけれど言えないように、オストレアいやフトゥールムもまた何かを言い淀んでいるのを感じる。
「いつか、もっともっとゆっくり話ができるといいな」
なんとか絞り出せた言葉がそれ。
「おっ。期待するよ?」
オストレアが右手で拳を作り、俺の前へ差し出した。
俺も右手で拳を作り、こつんと合わせる。
リテルの知識の中にこのアクションはないが、地球に似たようなアクションはあった。
地球では相手を称える意味があったが、こちらでも同じなのだろうか。
フトゥールムが目を細めたので、あながち間違ってなかったっぽい。
そこからフトゥールムは事務的な話を始めた。
例の魔法品をチェッシャーから受け継いだことや、ギルフォルド王国に残る恐らく最後の『魔動人形』であろう彼女たちの父の捜索計画などを。
「そのときに一緒に来てくれると嬉しい。リテルが見習いを卒業して正式な魔法使いになったなら、依頼を出させてもらおうかな」
「ああ。それまで精進するよ」
戦いは決して好きではない。今までの戦いはいつだって生き延びるためだったし。
ただ、ここまで熱烈に要請されていることに加え、タールが生きている限り俺やディナ先輩の真の平穏は訪れないだろうという気持ちもある。
それに、こうして約束しておけば、フトゥールムが一人で乗り込んでしまう危険性も避けられる気がして。
「それまでにボクも自分をもっと鍛えるよ」
そう言い残してフトゥールムはテントから出て行った。
今度入れ替わりに入ってきたのはマドハトで、まっすぐに俺に飛びつき、顔を舐め始める。
そのマドハトの首根っこをつかんでテントから引きずり出したのはディナ先輩だった。
「話は終わったか? 出発するぞ」
「はっ、はい」
ディナ先輩は領兵さんの隊長への引き継ぎを全て終え、もう出発できる用意を済ませていた。
馬はもう一頭居て、そちらへはマドハトがこのテント以外の荷物を取り付けていた。
クラーリンたちは領兵さんたちが乗ってきた馬車に乗せてもらうということで、彼らがここまで使ってきた二人乗り用の鞍がついた馬をくれたのだ――とは言ってもレンタル馬ではあるが。
ニュナムのどこの貸馬屋に返しておいて欲しいと頼まれ、発生するであろう使用料だと言って金貨を何枚か渡された。
金額的に明らかに多過ぎるのだが、クラーリンに「気持ちも入っているから」と言われ、俺は大人しくテントの解体作業に取り掛かった。
ギルフォド一・マンクソム一・ニュナム三の共同夜営地を出た時には暮れ始めだった空は、あっという間に暗くなる。
それでも夜通し馬を走らせる。
幸い、双子月は明後日には半月になるため、地球の満月直前くらいには明るい。
本来ならばニュナムまでは馬車で三日かかるというのは共同夜営地の名前で明らかだが、このペースは二日で戻るつもりっぽい。
出発前、大きな戦闘があると血の臭いで獣や魔物が近寄って来やすいとディナ先輩は心配しておられたが、死体が全て焼死体だったためもあったのか、特に何かと遭遇することもなく、翌々日の夜にはニュナムまで戻ってこれた。
到着したのはもう夜になってからだったので、当然、門は閉ざされている。
しかし、門番担当が運良くムケーキさんであったため、わざわざレーオ様までご報告を上げていただき、特例として門を開けていただいた。
非常に申し訳なく、かつ、有り難いこと。
もう一つ申し訳ないことに、今夜もナイトさん宅に泊めていただいた。
どうやらムケーキさんがナイト商会にまで連絡を入れてくださったようで、本当に頭が下がる思い。
ディナ先輩にはナイトさんが地球転生者であることをお伝えしてあるので、特に抵抗もなく泊まることを承諾していただいた――けど。
なぜか三人とも同じ部屋で寝ることに。
緊張する。
そして深夜。
マドハトに頬を舐められて、目を覚ます。
右手にはマドハトがしがみつき、左手はディナ先輩に握りしめられていた。
いやしがみつくだけならまだしも、寝ぼけて舐めるのはナシだろ。
ずっと俺を支えてくれたことや、尻尾を切り落とされてまで頑張ってくれたことに絆されて、ちょっとマドハトを甘やかし過ぎたか?
マドハトから右手を引き抜き、その頭を俺の顔から少し離す。
うん。マドハトはまだ寝たままだ。
これでようやく安眠できるかな。
仰向けのまま、天井を見つめる。
この部屋の窓はガラスではなく完全な木製なのだが、それでも隙間から入り込む双子月の月明かりはそれなりの明るさ。
おかげで、天井の木目が仄かに見える。
馬に最低限の休憩を取らせる以外はずっと馬を走らせてニュナムまで戻ってきたため、体はとても疲弊しているはずなのだが、妙に眠れない。
それはこれから先のことを考えてしまうから。
当初の目的は達成し、ギルフォルド王国にタールの『魔動人形』がまだ残っているとはいえ、当面の危機は脱した。
ようやく公務ではなく自分の――というかリテルのために動くことが出来る。
これからストウ村へ戻ったら、ケティとのこともあるだろうが、まずは俺がリテルの体から出ていける方法を最優先に模索したい。
クラーリンがグリニーさんを助けるために使った魔法『つながれ、魂の形』と『寿命の渦譲渡』は、その魔術の構成要素にとても学びがあった。
俺の体を用意さえできれば自分の魂をリテルから切り離してそちらへ移れるんじゃないかと思えるくらいに。
そこで改めて気になるのが、俺の魂は寿命から切り離されたらどうなるのだろうということ。
途方もないと思っていたことが現実味を帯びることで、リアルな恐怖というか不安も自分の中に膨らんでゆくのを感じている。
こちらで転生するのだろうか。それとも地球に帰れるのだろうか。
この魔法の力を覚えたまま地球に戻れるならそれもアリかもな、なんて思ってもみたり。
でも。
正直な気持ちは「まだ死にたくはない」だ。
好きな人ができてしまった、というのも大きい。
ナイトさんみたいに死にたての体があれば、そこに移って完全に俺だけの体に――そこまで考えてその思考の危険性に、自分自身に、恐怖を覚えた。
だってそれって、人を殺して『魔動人形』化したタールと一緒じゃないか。
その死体がなければ作るのか?
その死体を手に入れたあと、死体となった人の知り合いに対してはどうするんだ?
フトゥールムは自身やフラマさんの父親はタールに『魔動人形』化されているだろうと言っていた。
そう言った時のフトゥールムの寿命の渦を歪ませた感情の動きを覚えている俺が、どうしてそんな思考ができるのか。
それならゴーレムみたいなのを作って移ったほうが――ただ、それだときっと、こんな誰かの体温を感じることなんてもうできないんだろうな。
ああ。俺はどこまで恥ずかしい奴なんだ。
俺はリテルに対して責任を取らないといけないのに。
本当はストウ村で平和に暮らせていたはずのリテルに。そしてケティに対しても。
俺が魔法を学びたいと思った、そのせいで巻き込まれたこの大変だった旅とウォルラースに関わる一連の事件。
何度も死の危険があった。ケティだって死にかけた。あんときは本当に危なかった。ルブルムが動いてくれてなかったら、俺はリテルの大事なケティを死なせてしまっていたのかもしれなかったんだ。
俺がこんな旅に出たせいで。
リテルもケティも生きていられるのは本当に運が良かっただけ。
背筋がぶるっと震える。
何度も死を見たせいか、死が身近過ぎて、自分やケティが死んでいたかもしれない可能性をリアルに感じてしまって。
俺が生きていられるのは、色んな人たちに助けられたから。
本当にたまたま。
フトゥールムはああ言ってくれたけれど、決して俺の実力ではない。
もしもこの責任を取ることが、俺の魂の消滅ということに繋がるとしても、俺はきっとそれを受け入れなければいけないんだろうな。
こんなことなら誰かを好きになる気持ちなんて知らないままで良かった。
複雑な気持ちで頭がぐちゃぐちゃになったあたりで、多分、俺は眠りについた。
● 主な登場者
・有主利照/リテル
猿種、十五歳。リテルの体と記憶、利照の自意識と記憶とを持つ魔術師見習い。レムールのポーとも契約。
傭兵部隊を勇気除隊し、ウォルラースとタールを倒した。地球の家族へ最初で最後のメッセージを送ったが、その記憶はない。
・ケティ
リテルの幼馴染の女子。猿種、十六歳。黒い瞳に黒髪、肌は日焼けで薄い褐色の美人。胸も大きくリテルとは両想い。
フォーリーから合流したがリテルたちの足を引っ張りたくないと引き返した。ウォルラースの牙をディナへ届けた。
・ラビツ
イケメンではないが大人の色気があり強者感を出している鼠種の兎亜種。
高名な傭兵集団「ヴォールパール自警団」に所属する傭兵。二つ名は「胸漁り」。現在は謝罪行脚中。
・マドハト
ゴブリン魔法『取り替え子』の被害者。ゴド村の住人。取り戻した犬種の体は最近は丈夫に。
地球で飼っていたコーギーのハッタに似ている。ゴブリン魔法を使える。傭兵部隊を勇気除隊。いつもリテルと共に。
・ルブルム
魔女様の弟子である赤髪の少女。整った顔立ちのクールビューティー。華奢な猿種。
魔法も戦闘もレベルが高く、知的好奇心も旺盛。親しい人を傷つけてしまっていると自分を責めがち。
・アルブム
魔女様の弟子である白髪に銀の瞳の少女。鼠種の兎亜種。
外見はリテルよりも二、三歳若い。知的好奇心が旺盛。
・カエルレウム
寄らずの森の魔女様。深い青のストレートロングの髪が膝くらいまである猿種。
ルブルムとアルブムをホムンクルスとして生み出し、リテルの魔法の師匠となった。
・ディナ
カエルレウムの弟子。ルブルムの先輩にあたる。重度で極度の男嫌い。壮絶な過去がある。
アールヴを母に持ち、猿種を父に持つ。精霊と契約している。ウォルラースを追って合流。
・ディナの母
アールヴという閉鎖的な種族ながら、猿種に恋をしてディナを生んだ。名はネスタエアイン。
キカイー白爵の館からディナを逃がすために死に、タールにより『魔動人形』化された。現在は灰に。
・ウェス
ディナに仕えており、御者の他、幅広く仕事をこなす。肌は浅黒く、ショートカットのお姉さん。蝙蝠種。
魔法を使えないときのためにと麻痺毒の入った金属製の筒をくれた。
・タール
元ギルフォド第一傭兵大隊隊長。『虫の牙』でディナに呪詛の傷を付け、フラマとオストレアの父の仇でもある。
地界出身の魔人。種族はナベリウス。『魔動人形』化したネスタエアイン内に居たタールはようやく処理された。
・メリアン
ディナ先輩が手配した護衛。ラビツとは傭兵仲間で婚約者。ものすごい筋肉と角と副乳とを持つ牛種の半返りの女傭兵。知識も豊富で頼れる。二つ名は「噛み千切る壁」。現在はギルフォド第一傭兵大隊隊長代理。
・レム
爬虫種。胸が大きい。バータフラ世代の五人目の生き残り。不本意ながら盗賊団に加担していた。
同じく仕方なく加担していたミンを殺したウォルラースを憎んでいる。トシテルの心の妹。現在、ルブルムに同行。
・ウォルラース
キカイーがディナたちに興味を示すよう唆した張本人。金のためならば平気で人を殺すが、とうとう死亡した。
ダイクの作った盗賊団に一枚噛んでいた。海象種の半返り。クラーリンともファウンとも旧知の仲であった。
・ナイト
初老の馬種。地球では親の工場で働いていた日本人、喜多山馬吉。
2016年、四十五歳の誕生日にこちらへ転生してきた。今は発明家として過ごしているが、ナイト商会のトップである。
・ファウン
ルージャグから逃げたクーラ村の子供たちを襲った山羊種三人組といっとき行動を共にしていた山羊種。
リテルを兄貴と呼び、ギルフォドまで追いかけてきた。傭兵部隊を一緒に勇気除隊した深夜、突如として姿を消した。死亡。
・フラマ
おっぱいで有名な娼婦。鳥種の半返り。淡いピンク色の長髪はなめらかにウェーブ。瞳は黒で口元にホクロ。
胸の大きさや美しさ、綺麗な所作などで大人気。父親が地界出身の魔人。ウォルラースに洗脳されている。
・フトゥールム(オストレア)
鳥種の先祖返りで頭は白のメンフクロウ。スタイルはとてもいい。フラマの妹。オストレアは偽名。
父の仇であるタールの部下として傭兵部隊に留まっていた。現在もギルフォドで傭兵部隊の任期消化中。
・オストレアとフラマの父
地界出身の魔人。種族はアモン。タールと一緒に魔法品の研究をしていたが、タールに殺された。
タールの、ギルフォルド王国に居るアモン種族の『魔動人形』が、この父である可能性が高い。
・エルーシ
ディナが管理する娼婦街の元締め、ロズの弟である羊種。娼館で働くのが嫌で飛び出した。
共に盗賊団に入団した仲間を失い逃走中だった。使い魔にしたカッツァリーダや『発火』で夜襲をかけてきたが、死亡。
・コンウォル
スプリガン。定期便に乗る河馬種の男の子に偽装していた。タールの『魔動人形』の一体。
夜襲の際に正体を現して『虫の牙』を奪いに来た。そしてマドハトの首を刎ねたが、リテルに叩き潰されて焼かれた。
・クラーリン
グリニーに惚れている魔術師。猫種。目がギョロついているおじさん。グリニーを救うためにウォルラースに協力。
チェッシャーやリテルやエルーシに魔法や魔術師としての心構えを教えた。ホルトゥスと地球との繋がりを紐解くきっかけを作った。
・グリニー
チェッシャーの姉。猫種。美人だが病気でやつれている。その病とは魔術特異症に起因するものらしい。
現在かなり弱っており、クラーリンが魔法で延命しなければ危険な状況だったが、クラーリンと利照のおかげで回復。
・チェッシャー
姉の薬を買うための寿命売りでフォーリーへ向かう途中、野盗に襲われ街道脇に逃げ込んでいたのをリテルに救われた。
猫種の半返りの女子。宵闇通りで娼婦をしているが魔法を使い貞操は守り抜いている。リテルに告白した。
・傭兵たち
テルが挑戦試合で戦ったボロゴーヴの部下だった傭兵たち。テルたちがタールの『魔動人形』を追い詰めるため、メリアン大隊長殿の密命を帯びて暗躍する別働隊だと勝手に信じ、敬意を持っている。
・レムール
レムールは単数形で、複数形はレムルースとなる。地界に生息する、肉体を持たず精神だけの種族。
自身の能力を提供することにより肉体を持つ生命体と共生する。『虫の牙』による呪詛傷は、強制召喚されたレムールだった。
・ショゴウキ号
ナイト(キタヤマ)がリテルに貸し出した特別な馬車。「ショゴちゃん」と呼ばれる。現在はルブルムが使用。
板バネのサスペンション、藁クッション付き椅子、つり革、床下隠し収納等々便利機能の他、魔法的機能まで搭載。
・ドラコ
古い表現ではドラコーン。魔術師や王侯貴族に大人気の、いわゆるドラゴン。その卵を現在、リテルが所持。
卵は手のひらよりちょっと大きいくらいで、孵化に必要な魔法代償を与えられるまで、石のような状態を維持する。
・ナベリウス
苦痛を与えたり、未来を見ることができる能力を持つ勇猛な地界の一種族。「並列思考」ができる。
鳥種の先祖返りに似た外観で、頭部は烏。種族的にしわがれ声。魔法品の制作も得意。
・アモン
強靭で、限定的な未来を見たり、炎を操ることができるなどの能力を持つ地界の一種族。
鳥種の先祖返りに似た外観だが、蛇のように自在に動かせる尾を持つ。頭部は水鳥や梟、烏に似る。
■ はみ出しコラム【ギルフォド到着~ニュナム到着までのリテルの魔法】
※ 用語おさらい
・世界の真理:魔法の元となる思考について、より魔法代償が減る思考について「世界の真理に近づいた」と表現する。物理法則に則った思考をすると世界の真理となるようである。その思考自体が同じでも、思考への理解度が浅いと魔法代償は増加する。
・寿命の渦:生命体の肉体と魂とをつなげる「寿命」は、生物種毎に一定の形や色、回転を行う。これを寿命の渦と呼ぶ。兵士や傭兵は気配と呼ぶ。
・固有魔法:特定種族に伝わる魔法。魔法を構築するための思考に、その種族ならではの思考が組み込まれており、その種族以外が使おうとすると魔法代償を大量に要求されてしまう。
※ 技術おさらい
魔法使用に関する技術。
・『魔力感知』:範囲内の寿命の渦や消費命の流れを感知する。
・消費命:魔法を発動する際に魔法により要求、消費する魔法代償に充てるため、寿命の渦からごく一部を分けて事前に用意しておいたもの。
・偽装の渦:本来の自分の寿命の渦ではなく、あえて別の生物種の寿命の渦や、まるで寿命の渦が存在しないかのように意図的に寿命の渦の形を変えて偽装した状態のこと。
・偽装消費命:消費命自体について、その集中から消費までの間、存在しないかのように偽装したもの。魔術師の中においても一般的ではない技術。完全偽装から一部偽装など用途は様々。
・『戦技』:何度も繰り返した体の動きを再現する魔法的効果。消費命を消費して魔法を発動するよりも、気配を消費して戦技を発動する方が早い。
・『魔力探知機』:『魔力感知』は自分を中心とした円範囲だが、こちらの魔法は細く長く棒状に伸ばした精度の高い『魔力感知』を、自分を中心として回転させ、魚群探知機のように、周囲の気配を探る。利照のオリジナル技術。
・『魔力微感知』:『魔力感知』の扱いに長けると、自分以外の者が『魔力感知』で自分を感知したことに気づけるようになる。それを気取られぬよう感知の感度を低く粗くしたもの。
※ 習得した魔法
・『つるつる道』:『大笑いのぬかるみ』を一本の道の形として発生させたもの。マドハトの初自作魔法。
※ 利照のオリジナル魔法
・『アンチイノチ』:触れた部分に対して寿命の渦の動きを打ち消す流れを作り出し寿命の渦自体の動きを阻害する。その部位では消費命の集中はできないし、その部位を越えて寿命の渦の操作はできない。阻害度合いは、術者の寿命の渦操作性による。接触時の発動で相手に魔法の思考を理解されにくいよう、日本語で名付けている。
・『温度罠』:特定の温度と方向性とを決める。その温度を超過したら魔法が発動する。
・『水冷』:周囲(空気中含む)水分を周囲から集め、冷気をまとった霧を発声させる。『凍れ』の発展型。
・『遠回りドア』:自分の前面にある指定サイズの平面を、遠回りさせて自分の後方へつなげる魔法。一畳分サイズの扉(とはいってもドアノブすらない壁)を自分の(デフォが)前面と背面の二箇所に設置する(空間固定)。前扉と後扉とはつながっているので視界も投擲も抜ける。ただし上下左右はがら空きだし、一度設置した扉は効果時間内は動かせない。扉の内側からはまるでそこに何もないように見えるが、内側から通り抜けようとした場合、魔法は壊れてしまう。扉の大きさと発動時間は反比例する。ちなみに一畳二枚で効果時間は一ディヴ、扉間距離は一畳の短い幅。これで三ディエス。サイズや効果時間を増やそうとするとコストが増加する。方向は「前面」だけ決めれば良く、何もしない指定しない場合は顔の向いている方が前面となる。一方だけ決めれば、残りは勝手に生成される。上下左右はがら空きとなるが、自身が空中に浮遊することができるならば、三面作成して飛び道具と視覚による捕捉をほぼ全方位無効化できるという設計。ただし、扉作成時に自分の体や地面、その他の障害物などがあると壁は生成されない。ちなみに、術者にだけはどこにあるのか存在を感知できる。
・『見えざる銃』:『ぶん殴る』の威力を指先に集めて指で弾ける程度の小さな弾(硬貨や小石、鏃など)を指弾として発射する。『見えざる弓』だと弓を引くアクションが必要だし、光源がない真の闇の下では弓が出てこないという制約もある。しかしこちらは『遠回りドア』の手前で構えることができるし、深夜の森の中でも使用可能。
・『超見えざる銃』:『ぶん殴る』ではなく『ぶっ飛ばす』をベースにした同効果の魔法。
・『時間切れ』:触れた魔法にかかっている効果時間を『近道』させる魔法。『遠回り』と全く反対の概念。魔法の効果に反発しない、むしろ発動を補助している効果であるため、抵抗されにくい。
・『遠回りの秘密』:『遠回りの掟』をもとに一時停止する時間を最小0.1秒から最大12.0秒までの間で自由に設定できるようにしたもの。対象には魔法も選べる。秒は地球単位で十進数で指定。これは学ばれ対策のため。
・『魔力開放』:罠のために作った魔法。魔石に封じる魔法。その魔石内に格納されている魔法を使おうとした場合、先にこちらが発動する。その魔法のために消費した魔法代償をもとに、使用者にその倍の魔法代償を強制消費させる。発動時にこの魔法を解析すると『この追加魔法代償要求については十ディエス分の魔法代償を集中すれば解除できる』ことがわかるが、(十進法による)十ディエス以外の魔法代償を集中した場合、もしくはしなかった場合は、消費した魔法代償の三倍の魔法代償をさらに強制消費させる。
・『同じ皮膚・改』単一の素材の表面を、自分の皮膚として偽装する。それで触れられた場合、術者自身が触れられたように思う。この魔法は、自分の指先を伸ばすために用い、その指先には消費命を集中できるのだが、その素材に対して攻撃された場合に、そのダメージが「痛み」として術者にフィードバックすることが弱点。
・『カウンターイノチ』:寿命の渦を止める謎の強制効果へ対抗するために即席で作った魔法。
チェッシャーは俺やディナ先輩の顔を不安そうな表情で見ている。行って良いのか、と目で訴えている。
ギルフォド一・マンクソム一・ニュナム三の共同夜営地はもう少し先だから。
「そうだな。ここいらが良いかもな」
ディナ先輩も分かっている風だが、ここいらが何に良いのか、頭に浮かぶ幾つも考えはどうしてもネガティブな方向に傾いてしまっている。
ディナ先輩が馬を降りる。
俺の緊張を察したのか、マドハトが俺の手を握る。
ディナ先輩はゆっくりと、自分が持っていたフラマさんを乗せた馬の手綱を、チェッシャーへと渡した。
「二人でテントを設営しろ」
テント? なんて呆けている場合じゃない。
二人ってのは俺とマドハトしか居ない。
「はっ、はい!」
「はいです!」
フラマさんが縛られたまま乗せられている馬には、クラーリンたちがウォルラースの隠しアジトまで旅してきたときの荷物が積んである。
そこからテント布とロープを下ろす。
適当な樹を二本選んでその間にロープを張り、蝋引き加工されたテント布を張る。
蝋引きのおかげで防水性能が高くなっているこの布は、縁を折り返した縁取り部分がしっかりと補強されており、そこを予め地面へ刺しておいた手頃な木の枝へ引っ掛ける。
布をきっちり引っ張らなければ、そんなんでもなんとか支えられる。
後は手頃な葉付きの枝を切り落とし、テント布の空いた両脇へ垣根のように刺して目隠し&風除けを作る。
あとはテントの中にも葉っぱ付きの枝の柔らかい部分を敷き詰める。
「フラマさんを下ろして、テントの中へ」
フラマさんの麻痺毒はまだ解除しておらず、そのうえ毛布にまでくるんである。
見栄えの関係もあってウォルラースやファウンの死体も毛布にくるんである。
マドハトと一緒にフラマさんを馬から優しく下ろすと、毛布ごとテントの中へ運び込む。
俺たちと入れ違いに、グリニーさんとチェッシャーとが入ってゆく。
クラーリンが申し訳なさそうな表情で立っている。
「助かる。グリニーたちにはあの凄惨な現場を見せたくないんだ」
ああ、そういうことか。
グリニーやチェッシャーを気遣うクラーリンの紳士っぷりに学ぶ気持ちと、いつの間にか死体が横にあっても気にしなくなっている自分の慣れとに思いを巡らせる。
グリニーさんも元気になってはいるのだが、それでも長い闘病生活で衰えた筋肉はすぐにどうこうなるものでもないため、表情は明るいもののしんどそうでもあった。
ディナ先輩の指示で、俺はクラーリンへ『カウダの毒消し』を教える。
俺たちが共同夜営地まで出発したら、フラマさんの麻痺を解除する手はず。
麻痺しているままだと食事も排泄もままならないからだ。
フラマさんは拘束も解き、チェッシャーとグリニーさんが世話をするということになっている。
ディナ先輩がウォルラースの所持品を全て調べ、フラマさんを洗脳していたと思われる魔法品も特定したので、そこに格納されていた魔術の構成が判明したのだ。
ディナ先輩とクラーリンが俺やマドハトに構成内の思考を説明してくれたのは、まるで授業みたいだった。
その魔法品は、どうやら「自己肯定感を著しく下げる」のが主たる効果のようで、「他人の意見が正しく思える」うえに、「一番たくさん助言をくれた人に一番の信頼を置く」という、何度も繰り返し使うことで洗脳を行うタイプの魔術構成だった。
これのイヤラシイ部分はキモの「脳に刷り込む」魔法で、一瞬だと単なる「気の所為」で済むが、繰り返し使うことで意識に定着し、時間をかけて洗脳しさえすれば魔法品を奪われようが壊されようがすぐには回復しない、というところ。
フラマさんの中ではまだ「ウォルラースの言葉」という価値観が強く残っているのだ。
幸い、ウォルラースの死体や、「タールだ」と吹き込まれた俺の姿や『虫の牙』を見せさえしなければ、一緒に行動してきたチェッシャーやグリニーさんの言う事を大人しく聞いてくれてるので助かった。
フラマさんの洗脳を解く方法としては、この魔法品をウォルラースに否定されていない誰か――チェッシャーが適任だろう――がウォルラース以上の回数を用いてフラマさんの「一番の信頼」を得た上で、それからようやく、徐々にだがウォルラースの言葉を否定できるようになる、という感じ。
そしてその際、フラマさん自身を肯定しまくって自意識を取り戻すという方法が良いということになった。
チェッシャーがフラマさんの一番になる前にウォルラースの言葉を否定するような発言を聞かせてしまうと、フラマさんがウォルラースの言葉に固執し、防衛本能として洗脳が強固なものに変わる恐れがあるということ。
魔法が使える世界とはいえ、魔法を使おうという気にさせなければ幾らでも人の支配が可能になるのだという、なんというか単純で恐ろしい事実に愕然とした。
悪意は地球のみならずこちらにもあるのだな、と。
俺とマドハトとディナ先輩とは、焼け焦げたご遺体が転がる共同夜営地へと到着した。
ウォルラースとファウンの死体を下ろし、馬を休ませ、テントを設営する。
交代で見張りをするなかで、マドハトが外当番のとき、俺はディナ先輩に対して『テレパシー』を使い、フォーリーを出てからウォルラースを倒すまでの経緯を何度かに分けて全てお伝えした。
ウォルラースとの出会い、因縁、道中で戦った敵、出会った地球からの転生者、そして傭兵団参加の経緯と、そこで出会ったタールのこと。『虫の牙』との出会い、それから死闘、ディナ先輩のお母様の『魔動人形』のことまで。
一応、ルブルムやレムとのイチャイチャとか、チェッシャーに告られたこととかについては極力ぼかしてお伝えはしたのだが、なんか見透かされてしまってる気はしている。
そっち関連については特に何も言われていないのが逆に怖い。
基本は俺が情報を伝えてばかりだったが、俺が作った魔法の思考について伝えたときには、ディナ先輩からの質問がけっこう返ってきた。
加えて戦闘などを乗り越えたタイミングでは何度も褒められた。
失礼な話だが、普段のディナ先輩らしくないなと感じた。
でも実際、そうだよね。
らしくなくとも当然なんだ。ディナ先輩には、あんなことがあったんだから。
それを裏付けるかのように、ウォルラースとの遭遇や、タールの屋敷に呼ばれた辺りの情報を送ったときは、ディナ先輩の感情が溢れて俺にまで伝わってきた。
哀しみと悔しさと抑えきれぬ怒りと、そしてある意味自分の支えであった復讐を失ったことによる虚無感と。
そういった感情と真反対のプラスの感情をわざと大きく持つことで、なんとかバランスを取ろうとしているのかもしれない。
そんなときに俺にできるのは、ディナ先輩が気分転換をしようと目を向けたそこに、しっかりと居ること、かな。
不思議と母さんや姉さんのことを思い出した。
自分勝手で傲慢で、でも弱さも持っている人たち。
思い出した自分が昔ほど嫌な感情に呑まれていないことに気付く。
俺は成長できているのかな。
なんかふと思ったんだけど、大切にしたいと思える相手が増えれば増えるほど、俺は紳士に少しずつ近づけている気がする。
ああそうか。
マクミラ師匠が紳士なのは、師匠が森や自然全てにまで感謝と愛情とを持っているからなのかも。
やがて、夕暮れが近そうな空の下、トゥイードル濁爵領兵の皆さんが到着した。
メンバーの中にオストレア率いる第一傭兵大隊第一小隊第一班の面々が居た。
タールの『魔動人形』脱出阻止のために、傭兵団から領兵へと班ごと派遣されていたらしい。
「タールの『魔動人形』を二つも仕留めたんだって?」
「俺一人じゃ到底無理だったよ。マドハトにファウンに協力者に、そして俺の尊敬する姉弟子も加勢してくださって、ようやく」
「ご謙遜。テルならやると思ってたよ」
「ほう。うちの弟弟子は女性のお友達を作るのが随分と上手じゃないか」
なぜか空気のピリつきを感じた。
ディナ先輩からしたら、俺がルブルムをないがしろにして他の女と仲良くしている、みたいに感じたのかな。チェッシャーにもかなり距離を詰められていたし。
オストレアの方は――あっ、そうだ。フラマさんのこと、詳細を伝えないと。
「こっ、こちらがその姉弟子様です。そしてこちらは傭兵団でタールを追い詰めるときに手を貸してくれたオストレアです」
早口で簡単に互いの紹介を済ませ、二人が何かを言い出す前にすぐ本題へと入る。
「オストレア。例の件でちょっと話があるから、こっちに来てもらっていいか?」
オストレアは察してくれたようで傭兵団の班員たちに領兵の遺体回収作業を手伝うように指示する。
その班員の何人かは見覚えがある。
俺が挑戦試合で戦ったボロゴーヴの部下だった傭兵たちだ――彼らはすぐには指示に従わず、何だか妙にざわついた後、片膝をついてお辞儀をした。
それも俺とマドハトに対して。
どういうこと?
「あいつらは、テルたちの勇気除隊がタールの『魔動人形』を追い詰める別働隊結成のための嘘だったと勝手に信じてるんだよ。メリアン大隊長殿の密命を帯びて暗躍する特別な別働隊だってね。実際、君たちがタールの『魔動人形』を倒したことで、もはやその噂は真実へと変わってしまった」
いやいや。俺たち実際に足首切り落としたんだけどな。
変に否定しても話はこじれるかもしれないし、分かっている人だけ分かっていてくれるなら放置でいいかな。
「勘違いは後で正しておいてくれよ、班長殿……ってのは置いといて、フラマさんのことだよ」
クラーリンから聞いたことを中心に、フラマさんの身に起きたことを全てオストレアへと話す。
チェッシャーによる「治療」が終わるまでは、フラマさんが俺に対してどんなに酷い罵りを繰り返しても、否定しないで欲しいということも含めて。
そこから先はディナ先輩にバトンタッチし、領兵さんたちの隊長とクラーリンまでをも交えて話すことになり、俺とマドハトは共同夜営地の復旧作業へと加わった。
調査が終えたご遺体から油をかけ更に燃やし、焼け残りから脆そうな骨を拾って砕き革袋へと収める。
身内へ渡すためだ。
リテルの記憶の中に、リテル自身の祖父や祖母が亡くなったときの記憶を見つける。
遺灰を玄関の前へ撒き、「家族をお守ください」と「先祖」の一部になった祖父や祖母へと感謝を伝える。
そうだよな。
死が悼むべきものなのは当たり前のことなのに。
俺は、こちらへ来てから戦いというイレギュラーな死ばかり経験していたから感性がおかしくなっていたのかも。
命を尊び、死者へ感謝を伝え、大切な人たちの死を悼む。そういう想いをもっと大事にしないといけない。
改めてそう心に誓う。
ギルフォドで詳細調査があるからと焼かなかったウォルラース以外のご遺体は、焼け残った分を土深くへと埋める。獣や魔物が食い散らかしに寄ってこないように。
ここは共同夜営地でもあるわけなので、獣や魔物が来そうな原因は極力排除しなければならないので。
そういや領兵の皆さんはスコップに似た道具を幾つも持ってきていて、穴掘り作業がとてつもなく楽だった。
どの馬車にも数本積んでおくべきだろうと思ったくらい。
「テル、いったんテントの中へ戻れ」
ディナ先輩の声が聞こえ、言われた通りにテントの中へ。
外からフラマさんの声が聞こえる。
だから直後にテントの入り口をかき分けて誰かが入ってきたときは一瞬ビクついた。
フラマさんの火の鞭が飛んでくるかと身構えてしまった。
だが入ってきたのはチェッシャーだった。
行き場のなくなった緊張感を持て余しているうちにチェッシャーは俺に抱きついてきた。
「ありがとう。ありがとう。お姉ちゃんとクラーリンを助けてくれて、本当にありがとう」
「あ、ああ。良かったよ。チェッシャーにも怪我が」
口をチェッシャーの唇で塞がれる。
愛おしむように何度も繰り返される優しいキス。
寿命の渦に現れていることもあり、チェッシャーの気持ちを強く感じる。
「リテルがフラマにデレデレしなかったのも、私の気持ちが全然届かないのも、周りに美人さんばっかりだからなんだね」
いやそういうわけじゃ、と答えようとして、自身の思考が停止していたことに気付く。
俺はずっとチェッシャーへの返事を先延ばししている。
ちゃんと向き合ってこなかったのはなぜか。答えは恐らく決まっているのに。
今改めてその理由を考えてみると、自分の情けなさが浮き彫りになる。
きっと俺はチェッシャーみたいな可愛い子にまっすぐに「好き」と言われたことが嬉しかったんだと思う。
あのときはリテルの体だしとか言い訳していたが、ルブルムを好きだという気持ちを自身の中に確かめてからは、チェッシャーへの回答を引き伸ばしているのは単なる自己中だと自覚できる。
明らかに非紳士的だ。
「チェッシャー、俺は」
またキスで塞がれる。
「リテル、私ね。ちゃんと自分の体で稼ごうと思っている」
チェッシャーはクラーリンが教えた魔法で客に幻覚を見せることで、自身の身体に誰を受け入れることもなくずっと娼婦を続けてきた。
俺自身の決断が、チェッシャーにそれを辞めさせるということにつながるのか、と考えた途端、答えるのが怖くなる――今度は人の生き方を左右してしまう、ということに。
「ヤケクソになったわけじゃないよ。ちゃんと考えて、だから。だってお姉ちゃんはそうやってクラーリンに出逢えたんだもん。私も、見つけてやるんだから。そしてリテルを羨ましがらせてやるんだから」
「チェッシャー、」
またキス。
「そのくらい分かってるよ……リテルが誰のことを想っているのか。でも、言われたくない。言葉にはしないで」
チェッシャーの頬を伝わった涙が、俺の口の端から口の中へと入ってくる。
しょっぱい。味も、気持ちも。
こんなときに何をしたらいいのか、わからない。
ディナ先輩の気分転換に付き合ったときとは違って、今回の「原因」は俺自身だから。
こんなときにチェッシャーを慰めるのは違うと感じるし、チェッシャーの魅力を称えるのも違うと感じる。
チェッシャーを一番大切にする回答が何なのか、わからない。
様々な回答候補を脳内で探し続けるが、結局チェッシャーの求めた沈黙に逃げてしまっている気がする。
「私ね、リテルのそのちょっと困った顔も、好きだよ。いつか私を抱きにきて。サービスするから。じゃ、また」
チェッシャーは涙を拭い、テントを出ていった。
口元に、チェッシャーの唇の感触と涙の味が、まだ残っている。
そんな余韻に浸りかけた瞬間、また誰かがテントに入ってきた。
チェッシャーでも、フラマさんでもなかった。
オストレアだ。
「テル、本当にありがとう」
入ってくるなり、オストレアは俺の前に正座して頭を下げた。
「ありがとう。姉を助けてくれて、本当にありがとう」
なんだこれ。なんのデジャヴュだ。
「俺だけの力じゃない。というか皆で、」
そこまで言いかけたとき、オストレアが俺に抱きついてきた。
そのことに驚きはしたが、ハッと気付いてオストレアの肩に俺の両手を優しく添えた。
なんかこれ、さっきの見られてて、からかわれてるんじゃないだろうな、とまで思った気持ちをぐっと抑えて、静かに語りかける。
「オストレア。皆で必死に戦った。タールと戦ったことのあるオストレアならわかると思うが、あいつ相手に心のゆとりはまるでなかった。フラマさんを助けることができたのは、本当に運が良かっただけなんだ。だから決して手柄なんかじゃない。俺は、オストレアが評価してくれているほど凄くはないんだ」
実際、チェッシャーの気持ちにさえ向き合えていなかった。
戦闘と魔法の経験は積んだけれど、人間関係の方は地球に居た頃とほとんど変わらない未熟者のまま。
オストレアは目を閉じ、首をくるりと背中側へ回し、再びこちらを向く。
申し訳ないが心臓に悪い。
「それでも、ありがとう、テル。本当にテルは紳士だな」
何気ない一言だったのだろうが、その一言が妙に心に刺さった。
初めて他人に紳士だと言われたから。
「こ、こちらこそ、ありがとう、オストレア」
「フトゥールムだ。ボクの本名はフトゥールムと言う。姉は本名で活動していたが、ボクはタールに近づいていたからね。本名をさらしたくなかったんだ」
「俺は、リテルだ。もう、チェッシャーやフラマさんに聞いているかもしれないけれど」
本当は利照なんだけど、そこまではさすがに話せない。
紳士だと言ってもらえたのに、そこまで明かせないことが本当に申し訳ない。
「まぁね。でも、君の口から直接聞けて嬉しいよ。受け入れてもらった気がする」
しばらくの沈黙。
俺がまだ言いたいことがあるけれど言えないように、オストレアいやフトゥールムもまた何かを言い淀んでいるのを感じる。
「いつか、もっともっとゆっくり話ができるといいな」
なんとか絞り出せた言葉がそれ。
「おっ。期待するよ?」
オストレアが右手で拳を作り、俺の前へ差し出した。
俺も右手で拳を作り、こつんと合わせる。
リテルの知識の中にこのアクションはないが、地球に似たようなアクションはあった。
地球では相手を称える意味があったが、こちらでも同じなのだろうか。
フトゥールムが目を細めたので、あながち間違ってなかったっぽい。
そこからフトゥールムは事務的な話を始めた。
例の魔法品をチェッシャーから受け継いだことや、ギルフォルド王国に残る恐らく最後の『魔動人形』であろう彼女たちの父の捜索計画などを。
「そのときに一緒に来てくれると嬉しい。リテルが見習いを卒業して正式な魔法使いになったなら、依頼を出させてもらおうかな」
「ああ。それまで精進するよ」
戦いは決して好きではない。今までの戦いはいつだって生き延びるためだったし。
ただ、ここまで熱烈に要請されていることに加え、タールが生きている限り俺やディナ先輩の真の平穏は訪れないだろうという気持ちもある。
それに、こうして約束しておけば、フトゥールムが一人で乗り込んでしまう危険性も避けられる気がして。
「それまでにボクも自分をもっと鍛えるよ」
そう言い残してフトゥールムはテントから出て行った。
今度入れ替わりに入ってきたのはマドハトで、まっすぐに俺に飛びつき、顔を舐め始める。
そのマドハトの首根っこをつかんでテントから引きずり出したのはディナ先輩だった。
「話は終わったか? 出発するぞ」
「はっ、はい」
ディナ先輩は領兵さんの隊長への引き継ぎを全て終え、もう出発できる用意を済ませていた。
馬はもう一頭居て、そちらへはマドハトがこのテント以外の荷物を取り付けていた。
クラーリンたちは領兵さんたちが乗ってきた馬車に乗せてもらうということで、彼らがここまで使ってきた二人乗り用の鞍がついた馬をくれたのだ――とは言ってもレンタル馬ではあるが。
ニュナムのどこの貸馬屋に返しておいて欲しいと頼まれ、発生するであろう使用料だと言って金貨を何枚か渡された。
金額的に明らかに多過ぎるのだが、クラーリンに「気持ちも入っているから」と言われ、俺は大人しくテントの解体作業に取り掛かった。
ギルフォド一・マンクソム一・ニュナム三の共同夜営地を出た時には暮れ始めだった空は、あっという間に暗くなる。
それでも夜通し馬を走らせる。
幸い、双子月は明後日には半月になるため、地球の満月直前くらいには明るい。
本来ならばニュナムまでは馬車で三日かかるというのは共同夜営地の名前で明らかだが、このペースは二日で戻るつもりっぽい。
出発前、大きな戦闘があると血の臭いで獣や魔物が近寄って来やすいとディナ先輩は心配しておられたが、死体が全て焼死体だったためもあったのか、特に何かと遭遇することもなく、翌々日の夜にはニュナムまで戻ってこれた。
到着したのはもう夜になってからだったので、当然、門は閉ざされている。
しかし、門番担当が運良くムケーキさんであったため、わざわざレーオ様までご報告を上げていただき、特例として門を開けていただいた。
非常に申し訳なく、かつ、有り難いこと。
もう一つ申し訳ないことに、今夜もナイトさん宅に泊めていただいた。
どうやらムケーキさんがナイト商会にまで連絡を入れてくださったようで、本当に頭が下がる思い。
ディナ先輩にはナイトさんが地球転生者であることをお伝えしてあるので、特に抵抗もなく泊まることを承諾していただいた――けど。
なぜか三人とも同じ部屋で寝ることに。
緊張する。
そして深夜。
マドハトに頬を舐められて、目を覚ます。
右手にはマドハトがしがみつき、左手はディナ先輩に握りしめられていた。
いやしがみつくだけならまだしも、寝ぼけて舐めるのはナシだろ。
ずっと俺を支えてくれたことや、尻尾を切り落とされてまで頑張ってくれたことに絆されて、ちょっとマドハトを甘やかし過ぎたか?
マドハトから右手を引き抜き、その頭を俺の顔から少し離す。
うん。マドハトはまだ寝たままだ。
これでようやく安眠できるかな。
仰向けのまま、天井を見つめる。
この部屋の窓はガラスではなく完全な木製なのだが、それでも隙間から入り込む双子月の月明かりはそれなりの明るさ。
おかげで、天井の木目が仄かに見える。
馬に最低限の休憩を取らせる以外はずっと馬を走らせてニュナムまで戻ってきたため、体はとても疲弊しているはずなのだが、妙に眠れない。
それはこれから先のことを考えてしまうから。
当初の目的は達成し、ギルフォルド王国にタールの『魔動人形』がまだ残っているとはいえ、当面の危機は脱した。
ようやく公務ではなく自分の――というかリテルのために動くことが出来る。
これからストウ村へ戻ったら、ケティとのこともあるだろうが、まずは俺がリテルの体から出ていける方法を最優先に模索したい。
クラーリンがグリニーさんを助けるために使った魔法『つながれ、魂の形』と『寿命の渦譲渡』は、その魔術の構成要素にとても学びがあった。
俺の体を用意さえできれば自分の魂をリテルから切り離してそちらへ移れるんじゃないかと思えるくらいに。
そこで改めて気になるのが、俺の魂は寿命から切り離されたらどうなるのだろうということ。
途方もないと思っていたことが現実味を帯びることで、リアルな恐怖というか不安も自分の中に膨らんでゆくのを感じている。
こちらで転生するのだろうか。それとも地球に帰れるのだろうか。
この魔法の力を覚えたまま地球に戻れるならそれもアリかもな、なんて思ってもみたり。
でも。
正直な気持ちは「まだ死にたくはない」だ。
好きな人ができてしまった、というのも大きい。
ナイトさんみたいに死にたての体があれば、そこに移って完全に俺だけの体に――そこまで考えてその思考の危険性に、自分自身に、恐怖を覚えた。
だってそれって、人を殺して『魔動人形』化したタールと一緒じゃないか。
その死体がなければ作るのか?
その死体を手に入れたあと、死体となった人の知り合いに対してはどうするんだ?
フトゥールムは自身やフラマさんの父親はタールに『魔動人形』化されているだろうと言っていた。
そう言った時のフトゥールムの寿命の渦を歪ませた感情の動きを覚えている俺が、どうしてそんな思考ができるのか。
それならゴーレムみたいなのを作って移ったほうが――ただ、それだときっと、こんな誰かの体温を感じることなんてもうできないんだろうな。
ああ。俺はどこまで恥ずかしい奴なんだ。
俺はリテルに対して責任を取らないといけないのに。
本当はストウ村で平和に暮らせていたはずのリテルに。そしてケティに対しても。
俺が魔法を学びたいと思った、そのせいで巻き込まれたこの大変だった旅とウォルラースに関わる一連の事件。
何度も死の危険があった。ケティだって死にかけた。あんときは本当に危なかった。ルブルムが動いてくれてなかったら、俺はリテルの大事なケティを死なせてしまっていたのかもしれなかったんだ。
俺がこんな旅に出たせいで。
リテルもケティも生きていられるのは本当に運が良かっただけ。
背筋がぶるっと震える。
何度も死を見たせいか、死が身近過ぎて、自分やケティが死んでいたかもしれない可能性をリアルに感じてしまって。
俺が生きていられるのは、色んな人たちに助けられたから。
本当にたまたま。
フトゥールムはああ言ってくれたけれど、決して俺の実力ではない。
もしもこの責任を取ることが、俺の魂の消滅ということに繋がるとしても、俺はきっとそれを受け入れなければいけないんだろうな。
こんなことなら誰かを好きになる気持ちなんて知らないままで良かった。
複雑な気持ちで頭がぐちゃぐちゃになったあたりで、多分、俺は眠りについた。
● 主な登場者
・有主利照/リテル
猿種、十五歳。リテルの体と記憶、利照の自意識と記憶とを持つ魔術師見習い。レムールのポーとも契約。
傭兵部隊を勇気除隊し、ウォルラースとタールを倒した。地球の家族へ最初で最後のメッセージを送ったが、その記憶はない。
・ケティ
リテルの幼馴染の女子。猿種、十六歳。黒い瞳に黒髪、肌は日焼けで薄い褐色の美人。胸も大きくリテルとは両想い。
フォーリーから合流したがリテルたちの足を引っ張りたくないと引き返した。ウォルラースの牙をディナへ届けた。
・ラビツ
イケメンではないが大人の色気があり強者感を出している鼠種の兎亜種。
高名な傭兵集団「ヴォールパール自警団」に所属する傭兵。二つ名は「胸漁り」。現在は謝罪行脚中。
・マドハト
ゴブリン魔法『取り替え子』の被害者。ゴド村の住人。取り戻した犬種の体は最近は丈夫に。
地球で飼っていたコーギーのハッタに似ている。ゴブリン魔法を使える。傭兵部隊を勇気除隊。いつもリテルと共に。
・ルブルム
魔女様の弟子である赤髪の少女。整った顔立ちのクールビューティー。華奢な猿種。
魔法も戦闘もレベルが高く、知的好奇心も旺盛。親しい人を傷つけてしまっていると自分を責めがち。
・アルブム
魔女様の弟子である白髪に銀の瞳の少女。鼠種の兎亜種。
外見はリテルよりも二、三歳若い。知的好奇心が旺盛。
・カエルレウム
寄らずの森の魔女様。深い青のストレートロングの髪が膝くらいまである猿種。
ルブルムとアルブムをホムンクルスとして生み出し、リテルの魔法の師匠となった。
・ディナ
カエルレウムの弟子。ルブルムの先輩にあたる。重度で極度の男嫌い。壮絶な過去がある。
アールヴを母に持ち、猿種を父に持つ。精霊と契約している。ウォルラースを追って合流。
・ディナの母
アールヴという閉鎖的な種族ながら、猿種に恋をしてディナを生んだ。名はネスタエアイン。
キカイー白爵の館からディナを逃がすために死に、タールにより『魔動人形』化された。現在は灰に。
・ウェス
ディナに仕えており、御者の他、幅広く仕事をこなす。肌は浅黒く、ショートカットのお姉さん。蝙蝠種。
魔法を使えないときのためにと麻痺毒の入った金属製の筒をくれた。
・タール
元ギルフォド第一傭兵大隊隊長。『虫の牙』でディナに呪詛の傷を付け、フラマとオストレアの父の仇でもある。
地界出身の魔人。種族はナベリウス。『魔動人形』化したネスタエアイン内に居たタールはようやく処理された。
・メリアン
ディナ先輩が手配した護衛。ラビツとは傭兵仲間で婚約者。ものすごい筋肉と角と副乳とを持つ牛種の半返りの女傭兵。知識も豊富で頼れる。二つ名は「噛み千切る壁」。現在はギルフォド第一傭兵大隊隊長代理。
・レム
爬虫種。胸が大きい。バータフラ世代の五人目の生き残り。不本意ながら盗賊団に加担していた。
同じく仕方なく加担していたミンを殺したウォルラースを憎んでいる。トシテルの心の妹。現在、ルブルムに同行。
・ウォルラース
キカイーがディナたちに興味を示すよう唆した張本人。金のためならば平気で人を殺すが、とうとう死亡した。
ダイクの作った盗賊団に一枚噛んでいた。海象種の半返り。クラーリンともファウンとも旧知の仲であった。
・ナイト
初老の馬種。地球では親の工場で働いていた日本人、喜多山馬吉。
2016年、四十五歳の誕生日にこちらへ転生してきた。今は発明家として過ごしているが、ナイト商会のトップである。
・ファウン
ルージャグから逃げたクーラ村の子供たちを襲った山羊種三人組といっとき行動を共にしていた山羊種。
リテルを兄貴と呼び、ギルフォドまで追いかけてきた。傭兵部隊を一緒に勇気除隊した深夜、突如として姿を消した。死亡。
・フラマ
おっぱいで有名な娼婦。鳥種の半返り。淡いピンク色の長髪はなめらかにウェーブ。瞳は黒で口元にホクロ。
胸の大きさや美しさ、綺麗な所作などで大人気。父親が地界出身の魔人。ウォルラースに洗脳されている。
・フトゥールム(オストレア)
鳥種の先祖返りで頭は白のメンフクロウ。スタイルはとてもいい。フラマの妹。オストレアは偽名。
父の仇であるタールの部下として傭兵部隊に留まっていた。現在もギルフォドで傭兵部隊の任期消化中。
・オストレアとフラマの父
地界出身の魔人。種族はアモン。タールと一緒に魔法品の研究をしていたが、タールに殺された。
タールの、ギルフォルド王国に居るアモン種族の『魔動人形』が、この父である可能性が高い。
・エルーシ
ディナが管理する娼婦街の元締め、ロズの弟である羊種。娼館で働くのが嫌で飛び出した。
共に盗賊団に入団した仲間を失い逃走中だった。使い魔にしたカッツァリーダや『発火』で夜襲をかけてきたが、死亡。
・コンウォル
スプリガン。定期便に乗る河馬種の男の子に偽装していた。タールの『魔動人形』の一体。
夜襲の際に正体を現して『虫の牙』を奪いに来た。そしてマドハトの首を刎ねたが、リテルに叩き潰されて焼かれた。
・クラーリン
グリニーに惚れている魔術師。猫種。目がギョロついているおじさん。グリニーを救うためにウォルラースに協力。
チェッシャーやリテルやエルーシに魔法や魔術師としての心構えを教えた。ホルトゥスと地球との繋がりを紐解くきっかけを作った。
・グリニー
チェッシャーの姉。猫種。美人だが病気でやつれている。その病とは魔術特異症に起因するものらしい。
現在かなり弱っており、クラーリンが魔法で延命しなければ危険な状況だったが、クラーリンと利照のおかげで回復。
・チェッシャー
姉の薬を買うための寿命売りでフォーリーへ向かう途中、野盗に襲われ街道脇に逃げ込んでいたのをリテルに救われた。
猫種の半返りの女子。宵闇通りで娼婦をしているが魔法を使い貞操は守り抜いている。リテルに告白した。
・傭兵たち
テルが挑戦試合で戦ったボロゴーヴの部下だった傭兵たち。テルたちがタールの『魔動人形』を追い詰めるため、メリアン大隊長殿の密命を帯びて暗躍する別働隊だと勝手に信じ、敬意を持っている。
・レムール
レムールは単数形で、複数形はレムルースとなる。地界に生息する、肉体を持たず精神だけの種族。
自身の能力を提供することにより肉体を持つ生命体と共生する。『虫の牙』による呪詛傷は、強制召喚されたレムールだった。
・ショゴウキ号
ナイト(キタヤマ)がリテルに貸し出した特別な馬車。「ショゴちゃん」と呼ばれる。現在はルブルムが使用。
板バネのサスペンション、藁クッション付き椅子、つり革、床下隠し収納等々便利機能の他、魔法的機能まで搭載。
・ドラコ
古い表現ではドラコーン。魔術師や王侯貴族に大人気の、いわゆるドラゴン。その卵を現在、リテルが所持。
卵は手のひらよりちょっと大きいくらいで、孵化に必要な魔法代償を与えられるまで、石のような状態を維持する。
・ナベリウス
苦痛を与えたり、未来を見ることができる能力を持つ勇猛な地界の一種族。「並列思考」ができる。
鳥種の先祖返りに似た外観で、頭部は烏。種族的にしわがれ声。魔法品の制作も得意。
・アモン
強靭で、限定的な未来を見たり、炎を操ることができるなどの能力を持つ地界の一種族。
鳥種の先祖返りに似た外観だが、蛇のように自在に動かせる尾を持つ。頭部は水鳥や梟、烏に似る。
■ はみ出しコラム【ギルフォド到着~ニュナム到着までのリテルの魔法】
※ 用語おさらい
・世界の真理:魔法の元となる思考について、より魔法代償が減る思考について「世界の真理に近づいた」と表現する。物理法則に則った思考をすると世界の真理となるようである。その思考自体が同じでも、思考への理解度が浅いと魔法代償は増加する。
・寿命の渦:生命体の肉体と魂とをつなげる「寿命」は、生物種毎に一定の形や色、回転を行う。これを寿命の渦と呼ぶ。兵士や傭兵は気配と呼ぶ。
・固有魔法:特定種族に伝わる魔法。魔法を構築するための思考に、その種族ならではの思考が組み込まれており、その種族以外が使おうとすると魔法代償を大量に要求されてしまう。
※ 技術おさらい
魔法使用に関する技術。
・『魔力感知』:範囲内の寿命の渦や消費命の流れを感知する。
・消費命:魔法を発動する際に魔法により要求、消費する魔法代償に充てるため、寿命の渦からごく一部を分けて事前に用意しておいたもの。
・偽装の渦:本来の自分の寿命の渦ではなく、あえて別の生物種の寿命の渦や、まるで寿命の渦が存在しないかのように意図的に寿命の渦の形を変えて偽装した状態のこと。
・偽装消費命:消費命自体について、その集中から消費までの間、存在しないかのように偽装したもの。魔術師の中においても一般的ではない技術。完全偽装から一部偽装など用途は様々。
・『戦技』:何度も繰り返した体の動きを再現する魔法的効果。消費命を消費して魔法を発動するよりも、気配を消費して戦技を発動する方が早い。
・『魔力探知機』:『魔力感知』は自分を中心とした円範囲だが、こちらの魔法は細く長く棒状に伸ばした精度の高い『魔力感知』を、自分を中心として回転させ、魚群探知機のように、周囲の気配を探る。利照のオリジナル技術。
・『魔力微感知』:『魔力感知』の扱いに長けると、自分以外の者が『魔力感知』で自分を感知したことに気づけるようになる。それを気取られぬよう感知の感度を低く粗くしたもの。
※ 習得した魔法
・『つるつる道』:『大笑いのぬかるみ』を一本の道の形として発生させたもの。マドハトの初自作魔法。
※ 利照のオリジナル魔法
・『アンチイノチ』:触れた部分に対して寿命の渦の動きを打ち消す流れを作り出し寿命の渦自体の動きを阻害する。その部位では消費命の集中はできないし、その部位を越えて寿命の渦の操作はできない。阻害度合いは、術者の寿命の渦操作性による。接触時の発動で相手に魔法の思考を理解されにくいよう、日本語で名付けている。
・『温度罠』:特定の温度と方向性とを決める。その温度を超過したら魔法が発動する。
・『水冷』:周囲(空気中含む)水分を周囲から集め、冷気をまとった霧を発声させる。『凍れ』の発展型。
・『遠回りドア』:自分の前面にある指定サイズの平面を、遠回りさせて自分の後方へつなげる魔法。一畳分サイズの扉(とはいってもドアノブすらない壁)を自分の(デフォが)前面と背面の二箇所に設置する(空間固定)。前扉と後扉とはつながっているので視界も投擲も抜ける。ただし上下左右はがら空きだし、一度設置した扉は効果時間内は動かせない。扉の内側からはまるでそこに何もないように見えるが、内側から通り抜けようとした場合、魔法は壊れてしまう。扉の大きさと発動時間は反比例する。ちなみに一畳二枚で効果時間は一ディヴ、扉間距離は一畳の短い幅。これで三ディエス。サイズや効果時間を増やそうとするとコストが増加する。方向は「前面」だけ決めれば良く、何もしない指定しない場合は顔の向いている方が前面となる。一方だけ決めれば、残りは勝手に生成される。上下左右はがら空きとなるが、自身が空中に浮遊することができるならば、三面作成して飛び道具と視覚による捕捉をほぼ全方位無効化できるという設計。ただし、扉作成時に自分の体や地面、その他の障害物などがあると壁は生成されない。ちなみに、術者にだけはどこにあるのか存在を感知できる。
・『見えざる銃』:『ぶん殴る』の威力を指先に集めて指で弾ける程度の小さな弾(硬貨や小石、鏃など)を指弾として発射する。『見えざる弓』だと弓を引くアクションが必要だし、光源がない真の闇の下では弓が出てこないという制約もある。しかしこちらは『遠回りドア』の手前で構えることができるし、深夜の森の中でも使用可能。
・『超見えざる銃』:『ぶん殴る』ではなく『ぶっ飛ばす』をベースにした同効果の魔法。
・『時間切れ』:触れた魔法にかかっている効果時間を『近道』させる魔法。『遠回り』と全く反対の概念。魔法の効果に反発しない、むしろ発動を補助している効果であるため、抵抗されにくい。
・『遠回りの秘密』:『遠回りの掟』をもとに一時停止する時間を最小0.1秒から最大12.0秒までの間で自由に設定できるようにしたもの。対象には魔法も選べる。秒は地球単位で十進数で指定。これは学ばれ対策のため。
・『魔力開放』:罠のために作った魔法。魔石に封じる魔法。その魔石内に格納されている魔法を使おうとした場合、先にこちらが発動する。その魔法のために消費した魔法代償をもとに、使用者にその倍の魔法代償を強制消費させる。発動時にこの魔法を解析すると『この追加魔法代償要求については十ディエス分の魔法代償を集中すれば解除できる』ことがわかるが、(十進法による)十ディエス以外の魔法代償を集中した場合、もしくはしなかった場合は、消費した魔法代償の三倍の魔法代償をさらに強制消費させる。
・『同じ皮膚・改』単一の素材の表面を、自分の皮膚として偽装する。それで触れられた場合、術者自身が触れられたように思う。この魔法は、自分の指先を伸ばすために用い、その指先には消費命を集中できるのだが、その素材に対して攻撃された場合に、そのダメージが「痛み」として術者にフィードバックすることが弱点。
・『カウンターイノチ』:寿命の渦を止める謎の強制効果へ対抗するために即席で作った魔法。
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