【完結】ダフネはアポロンに恋をした

空原海

文字の大きさ
30 / 53
第二章 THE CRAP オブ・ザ・くず、バイ・ザ・くず、フォー・ザ・くず

02 仁科 充

しおりを挟む



 あるとき突然、落とし穴に落ちる。

 いつもと同じ時間に、いつもと同じ道を、いつもと同じメイクで、いつもと同じようなオフィスカジュアルスタイルで歩き。
 連日の残業は深夜を軽々超過し、終電を目の前で逃すのは二日に一度の割合。締め切り前は徹夜が当然。休日出勤以前に、休日が安定して存在しない。
 完全実力主義の社内で、学歴などひけらかす者ほど、三月みつきもせずに去ってゆく。
 掴み取る人脈。企画力に分析力、編集能力、管理調整能力、効率化アップのスキル。
 目まぐるしい毎日の中、わたしは生きていると感じる。
 いま、まさに生きている。

 それだから、もちろん体はクタクタだけど、気力は失われない。
 たまの休みに家に閉じこもることほど、バカげていることはないとも思う。
 まだ見たことのない場所へ足を運び、都合のよさそうな相手を引っ掛け、引っ掛けられ。ホテルで一晩過ごし、シャワーと共に関係を洗い流す。記憶にも残らない。

 そんな毎日の繰り返し。
 そして突然。
 すとーん、と視界は暗転する。



 仁科にしな みつると出会ったのは、ダイビングスクールだった。
 PADIのオープンウォーター・ダイバー・コース。
 仕事の休日を利用したスクールで、合宿ではない。

 勤務先の編集プロダクションは、主に旅行ガイドブックを手掛けている。
 ダイビングについては、企画が上がれば、他に担当している人間がいたから、当分担当する予定はなかったけれど、レンタルショップで『グラン・ブルー』を借りて観てから、興味がわいた。

 土曜日は休日出勤で潰れることがほとんど。
 仕事がないときには、観光ボランティアや、ボランティアで知り合った人たちとの付き合い、ボディコントロールのトレーニングや学習等に当てていたため、日曜日のみの参加でスクールの予定を三回分取った。
 日曜日は土曜日に比べれば、休日出勤は少ない。

 スクール内容は、まずはマニュアルとDVDで事前自宅学習。
 それから実習が三回。
 オリエンテーションと登録後にプール実習、そのあとにクイズとエグザム。海洋実習、そのあとにRDPテーブルのクイズとエグザム。海洋実習とオプション追加ダイビング、そのあとに申請手続きと認定式。

 Cカード取得のための第一日目は、プール実習。
 わたしはショップが出してくれたマイクロバスに乗り、インストラクターと生徒を載せたバスの到着を現地集合組が待っていた。
 ミツルは現地集合組の一人で、その日のわたしのバディだった。


「初めまして。仁科 充です。今日はよろしくお願いします」

「初めまして。結城ゆうき らんです。こちらこそ、よろしくお願いします」


 プールサイドでそれぞれバディ同士の自己紹介をするようインストラクターに促され、向かい合った青年。

 仁科 充。
 幼い顔つきの青年。まだ学生だろうか。
 どこかふわふわとしている。
 頼りなく見えるのは、その顔つきだけでなく、華奢な体のせいでもある。
 海水パンツ一枚のその姿。ラッシュガードを羽織らせてやりたくなる。

 青白くて小さくてヒョロヒョロで、深い海になんてもぐったら、海藻と同化してしまうんじゃないか。

 空からの光がまだ届くような、グラデーションに青い海中。
 ウエットスーツに包まれても薄いと知れる、貧相な体ではなく、圧縮空気入りの大きなシリンダーの方が本体であるかのように。揺れる海藻と一緒になって、静かな泡を口元から立ち昇らせながら、ゆらゆら揺られている様子が脳裏に浮かんだ。
 思わず噴き出しそうになって、慌てて頭を下げて誤魔化す。


「ええと、結城さんは、どちらかで体験ダイビングをなされてからの参加ですか?」

「いえ。体験はしたことがないです。仁科さんは?」

「ぼくは大学の夏休みにサークルの仲間と。それでダイビングの世界に魅了されて、ライセンスが取りたいなと」


 やはり学生か。
 夏休みにサークル仲間とダイビング体験とは。これはお坊っちゃん達の集うお坊っちゃんサークルだな。
 おそらく大学もなんだろう。


「今日はご友人とご一緒ではないのですね?」

「ええ。恥ずかしながら、ぼくはあまり運動神経がよくなくて」


 言葉通り、恥ずかしそうに笑う青年。もじもじと海水パンツの紐を指で弄ぶ。
 確かに、運動神経は優れていそうにない。おそらくも。
 素人童貞がいいところかも。

 青年が口を開いたので、ゲスな勘繰りを頭から追いやる。


「友人達は体験ダイビングのあと、さっさと合宿でライセンス取得したんです。ぼくも誘われたのですが……」


 なるほど。
 長期休暇のある、時間を持て余しているだろう学生が、全過程を一気に終えられる合宿ではなく、わざわざこのスクールにした理由。
 合宿で詰め込み式に、底上げされたくなかったのだろう。
 慎重派でもあるらしい。おそらく真面目な性質。

 このスクールの参加者は、主に社会人。
 だから平日ではおそらく、一人参加の彼のバディがいなかったのだろう。
 奇数人数でもインストラクターがバディを務めることで、実習催行はされるようだが、スクール側のプールレンタル料金を考えると、一人催行するより、他の参加者のいる日にちに詰め込みたいだろう。可能ならば。
 予約を取るとき、スケジュール管理帳をスタッフが覗き込み「プール実習ですと、この日とこの日が空いてますね。海洋実習はこのあたりですと、プール実習から日を置かずにご予約がお取りになれます」と言われたことを思い出す。


「こちらのスクールは、少人数の丁寧な指導で評判がいいらしいですよ」

「はい。そのように伺って、こちらにしたんです」


 石橋を叩いて渡るタイプ。
 わたしとはきっと、合わない。
 バディなのだから、彼のペースで進めるしかない。今日の実習は疲れるかもしれない、と思った。

 自己紹介タイムが終わり、マスクにシュノーケル、グローブ、ウエットスーツ、ウエイトベルトやBCDにブーツとフィン、レギュレーターにオクトパス、コンソールゲージ等の装着について、インストラクターが説明し始めた。







「結城さんは、次の実習のご予定はいつですか?」


 面倒だな、というのが正直な感想。
 想像通り、仁科 充という青年と組んだ潜水は、苛々させられた。
 カンが悪いのか、耳抜きがなかなか出来ないことだとか、安全を確認して進めるインストラクターの潜水スピードを遥かに下回る遅さだとか、コンソールゲージやハンドシグナルの確認がしつこいとか、浮上もまた遅すぎて、ようやく二人上がった頃には、他メンバーがプールサイドで白けた顔をしていたことだとか。


「スケジュール帳が手元になくて。ごめんなさい」


 思い切り突き放すか迷い、仔犬のような目に屈した。
 バスの通路を挟んだ向こう側で、青年がニコリと笑う。


「このあとショップに戻ってから、次の予定を入れるんです。結城さんと同日で予約を取りたいと考えています。結城さんのご予定をショップで確認してもいいですか? またあなたとバディを組みたい」

「ごめんなさい。わたしは組みたくない」


 繕ったことを後悔する。
 結局こうなるなら、最初から突き放せばよかった。
 だが青年は柔和な微笑みを崩さない。


「苛立ってらしたのは、知っています」

「お気づきならどうして?」

「隠しきれていないのが、可愛いなって思って」

「バカにしてるの?」


 囁くくらいの小声で会話していたなかで、少しだけ声のボリュームが上がる。
 車内は静かだ。
 プール実習で疲れた受講者達は、シートにもたれかかって寝息を立てている。
 マイクロバスは大きく揺れることもなく、高速道路を走る。


「していません。すみません。浮かれているだけです」

 耳を後ろにペタリと倒した、叱られた仔犬のように、小さく縮こまる。
 打たれ弱く、そのまま引き下がるかと思いきや。


「あなたはきっと、ぼくのことを苦手に感じている。だけど、ときどき気遣うような顔を見せる。
「潜水前の段階で、いつまでも耳抜きが出来ずにいるぼくに、インストラクターですら苛立っていたのに、あなたはぼくの耳を指でつまんで、ぐるぐる回してくれたり、マスクの上から一緒におさえてくれたり」

「バディなんだから、当然でしょう。協力しなくちゃ次のステップに進めないのだし」

「ふふ。当然ですか? 素敵ですね」


 頼りなくて純粋無垢な坊ちゃん。
 本当に?


「さっきだってぼくの問いに、冷たくあしらおうとしたのに、やめてしまった。
「なんて可愛らしい人なんだろうって。気持ち悪いですか?」

「ええ。すごく」


 青年は口元に手を当て、笑いを噛み殺した。
 想像していたタイプとは違っていた。おもしろい、と思った。

 だから。


「このあと、予定は?」


 またバディを組むのなら、相手を知っておいても損はない。
 その結果、相性最悪なら、次の予定日を変更すればいいだけ。第一、仕事が急に入って、予定変更せざるをえない可能性も大いにある。


「なにもありません」

「食事に行かない?」

「喜んで」


 頰を染めてもじもじと笑う姿は無邪気で、やはり早まったかと後悔しかけた。
 だが食事を終え、これからホテルに向かうことに少しの憂鬱を覚えながら店を出たところで、青年はホテル街とは真逆の、駅へ向かって歩き出した。


「あなたに惹かれています。ここでホテルに行くことは可能なのでしょう。けれどそれでは、あなたの中に、ぼくは残らない」


 よほどわたしが理解不能という顔をしていたのか。
 青年の口から、噛み殺そうとした笑いが漏れる。


「セックスにそれほど自信があるわけじゃないのは事実ですけど。それだけが理由じゃありません」

「それなら、なぜ?」

「わかっているでしょう?」


 沈黙で返すと、青年は手を差し出した。


「結城 蘭さん。来週の海洋実習でのバディ、よろしくお願いします」


 握手をして、その日は別れた。
 次の海洋実習のあとも食事をした。駅まで送られ、そこで別れる。
 その次の海洋実習もバディを組み、オプションでつけていた追加ダイビングでも、やはりバディを組み。
 認定式の後はまた、食事をしに。


「これで晴れて、オープンウォーターダイバーね」

「おめでとう」

「ミツルも」


 ビールのなみなみと注がれたジョッキを持ち上げる。


「それにしてもログ付けが早いのは意外だったわ」

「潜水スピード並みだと思った?」

「ええ。トロトロいつまでも続いて、昼食に移動できないんじゃないかって思ってた」

「記録をつけるのは、カルテで慣れているからね」


 ミツルは歯学部生だ。


「蘭さんも、さすがに早かったね」

「そりゃ、わたしは本業だもの」

「絵はヘタだけどね」

「イラストレーターとカメラマンは外注だからいいのよ」


 ダイビングログブックへの記録つけで、見た魚の名前とその姿を簡単に走り書きしていた。それをミツルが覗き込んできて「うわぁ」と小さく口にした。
 たしかに「うわぁ」な出来だと自覚している。
 インストラクターもサインするときに、固まっていた。「これはクマノミ? ウミウシじゃなくて?」と聞かれた。
 となりに描いたミノカサゴに至っては「これは……イソギンチャク――いや、ミノカサゴなのか」と渋面で頷いていた。


「あーあ……。来週からは、実習は実習でも、病棟かぁ。蘭さんもいないし。憂鬱だな……」


 残りわずかなビール。ミツルはぐっと飲み干すと、静かにジョッキをテーブルに置いた。
 ジョッキの内側にへばりつく白い泡。今日海で見た、アオリイカの卵のよう。残念ながら産卵シーンは見られなかったが。


「へぇ。ミツルは来週から病院実習ってわけ?」

「そう。まいったよ。まさかの対立病院が実習先なんて」


 眉をハの字にすると、ミツルは「まぁ、医学部に入らなかった時点で、一族の人間とは見なされないかもしれないけど」とため息をついた。
 ミツルの実家は代々大きい総合病院を経営している家らしく、多くは語らないが、しがらみがあるらしい。
 薄暗い室内を照らすペンダントライトが、ミツルの幼い顔に陰影を描き、憂いが浮かんで見えた。

 天井から吊り下げられた和紙の球体は、まるでぽっかりと浮かぶ、橙色の月のよう。
 古民家をリフォームした創作和食の居酒屋。
 和風モダンといったインテリアで統一されたこの店は、ダイビングスクール後の食事処となった。
 ダイビングをしたあとは、なぜか刺し身が食べたくなるのだ。
 それとジョッキ入りの泡立ったビール。ジョッキを空けたら、次はもちろん日本酒。
 ダイビング直後の飲酒は、テキストに従うならば、あまり奨められない。だけどダイバーのほとんどは飲ん兵衛だ。


「そんなに違うもの? 同じ医者でしょ?」

「同じではないね。少なくとも、ドクターの世界では」

「ふうん」


 だが、そんなことはどうでもいい。


「それで? ツラいツラーイ病院実習の前に、英気を養う気はあるの?」

「あるよ」


 きっぱりと言い切ったミツルに、内心驚く。
 どうせ今日もまた、駅前で別れるのだと思っていた。
 とはいえ、ピルは毎日飲んでいるし、コンドームも常に鞄に入れている。

 黒鯛の刺し身を箸で口に運ぶ充。
 今日のダイビングで、海中を悠々と泳ぐ姿を見た。それどころか、黒鯛はこちらに近寄ってきた。
 人懐こい魚なのだとインストラクターが言っていた。

 ミツルが箸を置く。静かに音もせず、きれいに揃えて。

 はじめは、地味で退屈そうな、どこにでもいる平凡な男だと思っていた。
 所作の整っている様は、決して平凡ではない育ちの良さを伺わせるし、純粋さと強かさが矛盾なく共存する会話は、これまでの男達にいないタイプだった。
 エリート坊ちゃんの典型、詰め込み型の頭でっかちな知識をひけらかすわけでもなく、頭の回転もそう悪くない。


「結城 蘭さん。あなたが好きです。結婚を前提に、お付き合いしてください」


 あまりに重い告白も、初めてだった。
 そしてやはり、この晩もホテルには行かなかった。
 手を繋いで駅まで歩き、電車に乗り。わたしのアパートまで充が送り届けて。


「じゃあ、またね」


 そう言って、ミツルはタクシーを呼んで帰った。終電はすでに出発してしまっていたからだ。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす

小木楓
恋愛
完結しました✨ タグ&あらすじ変更しました。 略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。 「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」 「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」 大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。 しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。 強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。 夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。 恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……? 「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」 逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。 それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。 「一生、私の腕の中で溺れていろ」 守るために壊し、愛するために縛る。 冷酷な仮面の下に隠された、 一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。 ★最後は極上のハッピーエンドです。 ※AI画像を使用しています。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処理中です...