俺は善人にはなれない

気衒い

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第9章 フォレスト国

第134話 情報収集

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「隣、いいか?」

「ん?おお、いいぞ」

「すまない」

「見かけない顔だな?ここら辺は初めてか?」

「ああ。というより、この国自体が初めてだ」

「そうか」

「だから、分からないことだらけで少し困っていてな……………ほら、"郷に入れば郷に従え"って言うだろ?その土地ごとの文化や暮らしを他所者の俺が下手に刺激したくなくてさ。何か気を付けた方がいいことってあるか?」

「ん~特にはないな。この国では他と変わらない普通の暮らしがされている。別に神経をすり減らすようなことはないぞ……………普通にしていれば」

「なるほど。だが、どうにも不安が拭えなくてな…………実は以前、滞在していた国でとんでもないことに巻き込まれかけてさ。それからは一応、滞在する場所の事情は裏の方まで把握しておきたくて……………ほら、それを知っていれば巻き込まれないよう回避できるだろ?」

「それは……………災難だったな。そういう事情ならば教えてやってもいいことはあるんだが、それを教えるとなると俺も無事で済むかは分からん。言っちゃあ悪いが赤の他人のお前にそんな危険を冒してでも教える訳には……………」

「これでどうだ?」

「き、金貨1枚!?」

「それとここの飲食代も全て奢ろう」

「…………分かった。それで手を打とう」




――――――――――――――――――――





「どうだった?」

「ああ。上手くいった。では、一度全員の集めてきた情報を共有しよう」

俺達は全員が各々、散り散りとなり、フォレスト国の人間から情報収集を行っていた。1人の人間が行うよりも全員で行い、数が多くなれば、情報の信憑性が増すからだ。幸い、全員が何かあれば戦うもしくは逃げるだけの腕前を有していることから、この行為が成立した。そして、現在は宿屋の一室にて集めてきた情報を報告し合っていた。

「……………こんなところか」

そこで発覚したのはセバスが懸念していた通りのことだった。現在、この国では第一王子と第二王子が後継者の座をかけて争っており、貴族だけではなく国民までをも自陣へと取り込もうと画策していた。第一王子の掲げる思想は武装国家である。平和に毎日変わらぬ暮らしを続けていくだけではいつか他国から襲撃を受けた際、とてもではないが太刀打ちなどできない。だから平和ボケを直し、いますぐ目を覚ませと国民へと投げかけ、彼が王の座に就いた暁にはフォレスト国を完全なる武装国家へと様変わりさせるつもりのようだ。しかし、それには多額の費用や人手が要る。それは一体どこから捻出してくるのか……………答えは国民からである。税金を釣り上げ、まだ身体の動く国民また滞在している冒険者を兵士として活用しようという腹づもりなのだ。いくら普通に暮らしていけているとはいえ、そこまで貯蓄がある訳ではない。それと戦闘経験のない国民に戦いを強要するのも酷ではあるし、巻き込まれたくない冒険者もきっといるはずだ。いずれにしても他で確保するところの目処を立てなければ、破綻するのは目に見えている。もしも第一王子が勝ってしまえば、心身共に困窮する者が続出することだろう。一方の第二王子だが、彼の掲げる思想は法治国家である。フォレスト国にいる全ての者は法の下、生きていかなくはならないという考え方であり、彼が王の座に就いた暁にはフォレスト国を完全なる法治国家へと様変わりさせるつもりのようだ。具体的には言動の全てを監視され、それが法に触れるようなものなのかどうかを逐一チェックされる。一度問題を起こすとブラックリストに登録され、監視・チェックされた言動が上へと報告されるようになる。つまり、この国に暮らす全ての者が常に息苦しさを感じながら、生きていかなければならなくなるのだ。とはいってもそんな国家にする為には多額の費用や人手が要る。その出どころはやはりと言うべきか、国民またこの国に滞在中の冒険者である。そんなことをすれば、たちまち疲弊し、いずれは上手く立ち行かなくなってしまう。だが、そんなことは彼には関係ないみたいだ。国民が疲れ果てる前に国家としての理想の体制を整えることができれば国民や冒険者がどうなろうと知ったことではないのだそうだ。以上のことから、どちらの王子が後継者となろうが国の向かう先が真っ暗になることは変わりがない。リースやセバスが不安になるのも分かるし、何よりここまで聞いてしまった以上、後戻りなどできない。必ずや、この国の問題を解決し、リースの笑顔を見たい。

「大丈夫だ……………僕にはシンヤ達がいる。絶対にできる」

入国してから、ずっと不安そうな顔をしたリースを見て、そう思った。
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