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「やあ、男爵。呼び出してしまってすまないね」
「とんでもございません」
王宮にて、着いてすぐさま陛下の御前に連れて行かれ優雅にお茶など飲んでいる。当然味などわからない。緊張のあまりがっぷがっぷと飲み過ぎて、そろそろ尿意が湧き出ているところで陛下が柔かに声をかけた。
いよいよ本題だ。「俺の子を子分扱いにしたらしいな、なめとんのかワレ」とか「貴様は不敬にて斬首の刑に処す」とか言われるんじゃないだろうか。務めて顔には出さず、頭を下げる。
「君のご息女についてなんだけど」
「は」
「うちの三男坊と側近候補たちと腹を割って話し合ったという話を聞いたんだけどね?」
「ヒ…いひっ、あ、いえ。その実は我が娘は色々ありまして私めの血を分けた子供ではないのですが最近養女に迎えたばかりでしてお恥ずかしながら貴族の礼儀やらしきたりにうとうございますつきましては第3王子殿下に無礼を取ったことは大変恐縮ながら是非ともお目溢しをいただきたく」
「いやいや、別に無礼とか、思っていないから問題ないよ。それより息吸って」
息継ぎを忘れて喋り続けて顔が青を通り越して白くなっていたらしい。ダクダクと流れる汗を拭いつつ、目を瞬く。
「うん、子分というのは言葉が悪いけど、実はうちの三男はプライドばかり高くなって頭が悪くなってしまってね。すでに王位継承権は破棄させているし、「えっ!?」あ、これはまだ内緒だから誰にも言わないでくれるとありがたいかな。ええと、それでアブダル公国に婿入りを検討しているところだったんだよね」
「アブダル公国…」
ってどこだよ?この辺じゃないよな?海を隔てた国とかそういう?
「ああ、アブダル公国っていうのは最近海賊から成り上がった島国でね?うちと連邦国との輸出入にちょっかいを出して来て鬱陶しかったんだ。なんでうちの子をお婿入りさせてちょっと政治的介入をしようとしてたとこなんだよ」
「はぁ」
そんなこと男爵である俺が聞いて問題ないのか?
あれ?輸出入にちょっかいって、ひょっとしてウチの商会、被害受けてた?
「そうそう、フロランテ商会の会長からも散々忠告を受けていてねぇ」
いやあ、困った困ったと頭を掻く国王にちょっとこの人大丈夫だろうかと思ったりもする。ウチの会長、つまりドルシネアのお父上は、とても怖い。海賊だってきっと簡単に物理でナメしてしまえるくらいには強いと思う。国一番の商人なだけあって、コネも太く厚いんだろう。国王だってこの通り…。
「まあ、そんなわけで卒業を待たずに婿に出してしまおうと思っていたんだよ。ただ、婿に出すと言っても王配になるわけだから、自信満々のプライドお化けじゃ、役に立つどころか飛び出す鼻毛くらい見苦しい立場になりそうでねぇ。どうやってあの刺々しいプライドをへし折ってやろうか考案中のところに、君のお嬢さんが都合よく出て来てくれたんだよ、いやぁほんといいタイミングだった」
「………はぁ」
「実は、アブダル公国の第一姫カルメーラと言うんだけど、気の強いお姫様のようでね。まぁ、言っちゃなんだが君のとこのお嬢さんと似たような気質のようでね、これはちょうどいいと言うことになったんだ」
「え、あの。ちょうどいい、とは?」
「婿入りまでの1年間、ラズマリーナ嬢には女性に傅く基本を身につける教育係を担ってもらえないかなと、まあ保護者である君に一応相談というかね。受けてもらえないかな?報酬ならちゃんと出すよ?」
結果として、俺は否とは言えず、とんでも案件を家に持って帰った。いや、だって一応相談って、確定ってことだよね?ついでに、報酬の一部はすでにラズにも支払われていた。なんと学費免除とカンティーン(学院の食堂)の無料利用、制服や教科書の無料配布だそうだ。いつの間に。さすが商人の娘として育てただけはある。男爵の娘ととうに手はイマイチだがな。俺の娘、最高。
「カルメーラ!?」
愛しのドルシネアに一部始終を説明すると、素っ頓狂な声をあげて泡を拭いた。なんだ、なんだ?会ったことでもあるのか?
「なぜ、そんなところに…カルメーラ………。私の子じゃなかったの…」
「うん?ちょっと聞き捨てならない言葉が聞こえて来たけど?」
「えっ?」
「俺という男が居ながら、『私の子』ってどういうことかな?ドルシネア?」
「ち、ちがうの!そういう意味じゃなくて……っ、カ、カルメーラって名前が、、わ、私たちの子供が、女の子だったら、いいなぁーーって思っただけなの!で、でも王女と同じ名前はだめねぇ!残念だわぁ!」
「ドルシネア?嘘は良くないなあ、正直に言ってごらん?怒らないよ?」
まあ相手の男は海に沈めちゃうかもしれないけど?触ったの?触らせたのか?その麗しの目に映したのか?処女は俺がいただいたから、未遂だったか。残念だったなぁ!はっはーー!だが、目は抉らせてもらおうか!さあ、その男を差し出せ!
「吐くまで寝ずの攻防でも俺はいいけど?」
「ひぃぃ、胎教によくないわぁ!」
「前世の記憶?」
結局、睡眠時間を除く一週間に及ぶゆるゆるの愛撫(一応妊婦だと言うことを考慮したつもり)に、ドルシネアは根負けして全てを吐いた。
ラズが現れる前に、前世ではカルメーラと言う娘が俺とドルシネアの間に居たらしい。その娘と一緒になって俺の愛する奥さんはラズを虐め抜いたのだが、ラズが実は聖女だったせいで断罪され、娼館に売られた、だと?
「おのれ、第3王子めが。殺ス」
「前世の話なのよ!殺しちゃだめ!」
「何があろうと、ドルシネアを娼館になど渡さん!ついでに俺たちのまだ見ぬ娘もだ!よし、そう言うことなら遠慮はせん!クズどもに女性に傅く基本をしっかり身につけてもらおう!」
「ロシナンテ…」
「我が最愛のドルシネア。君はどんなことがあっても俺が守るから安心して」
「素敵よ、ロシナンテ!愛してる!」
「俺も永遠に愛してる!」
緊急伝書鳩で『要話し合い。帰宅せよ』のメッセージをもらって何が起こったのかと慌てて帰って来てみたら、やっぱりバカップルしてた。これを見るために帰宅させたのか?
カルトロと顔を見合わせたけど、カルトロも肩をすくめただけで「いつも通りでございます」とため息をついて、アタシの荷物を受け取った。
「とんでもございません」
王宮にて、着いてすぐさま陛下の御前に連れて行かれ優雅にお茶など飲んでいる。当然味などわからない。緊張のあまりがっぷがっぷと飲み過ぎて、そろそろ尿意が湧き出ているところで陛下が柔かに声をかけた。
いよいよ本題だ。「俺の子を子分扱いにしたらしいな、なめとんのかワレ」とか「貴様は不敬にて斬首の刑に処す」とか言われるんじゃないだろうか。務めて顔には出さず、頭を下げる。
「君のご息女についてなんだけど」
「は」
「うちの三男坊と側近候補たちと腹を割って話し合ったという話を聞いたんだけどね?」
「ヒ…いひっ、あ、いえ。その実は我が娘は色々ありまして私めの血を分けた子供ではないのですが最近養女に迎えたばかりでしてお恥ずかしながら貴族の礼儀やらしきたりにうとうございますつきましては第3王子殿下に無礼を取ったことは大変恐縮ながら是非ともお目溢しをいただきたく」
「いやいや、別に無礼とか、思っていないから問題ないよ。それより息吸って」
息継ぎを忘れて喋り続けて顔が青を通り越して白くなっていたらしい。ダクダクと流れる汗を拭いつつ、目を瞬く。
「うん、子分というのは言葉が悪いけど、実はうちの三男はプライドばかり高くなって頭が悪くなってしまってね。すでに王位継承権は破棄させているし、「えっ!?」あ、これはまだ内緒だから誰にも言わないでくれるとありがたいかな。ええと、それでアブダル公国に婿入りを検討しているところだったんだよね」
「アブダル公国…」
ってどこだよ?この辺じゃないよな?海を隔てた国とかそういう?
「ああ、アブダル公国っていうのは最近海賊から成り上がった島国でね?うちと連邦国との輸出入にちょっかいを出して来て鬱陶しかったんだ。なんでうちの子をお婿入りさせてちょっと政治的介入をしようとしてたとこなんだよ」
「はぁ」
そんなこと男爵である俺が聞いて問題ないのか?
あれ?輸出入にちょっかいって、ひょっとしてウチの商会、被害受けてた?
「そうそう、フロランテ商会の会長からも散々忠告を受けていてねぇ」
いやあ、困った困ったと頭を掻く国王にちょっとこの人大丈夫だろうかと思ったりもする。ウチの会長、つまりドルシネアのお父上は、とても怖い。海賊だってきっと簡単に物理でナメしてしまえるくらいには強いと思う。国一番の商人なだけあって、コネも太く厚いんだろう。国王だってこの通り…。
「まあ、そんなわけで卒業を待たずに婿に出してしまおうと思っていたんだよ。ただ、婿に出すと言っても王配になるわけだから、自信満々のプライドお化けじゃ、役に立つどころか飛び出す鼻毛くらい見苦しい立場になりそうでねぇ。どうやってあの刺々しいプライドをへし折ってやろうか考案中のところに、君のお嬢さんが都合よく出て来てくれたんだよ、いやぁほんといいタイミングだった」
「………はぁ」
「実は、アブダル公国の第一姫カルメーラと言うんだけど、気の強いお姫様のようでね。まぁ、言っちゃなんだが君のとこのお嬢さんと似たような気質のようでね、これはちょうどいいと言うことになったんだ」
「え、あの。ちょうどいい、とは?」
「婿入りまでの1年間、ラズマリーナ嬢には女性に傅く基本を身につける教育係を担ってもらえないかなと、まあ保護者である君に一応相談というかね。受けてもらえないかな?報酬ならちゃんと出すよ?」
結果として、俺は否とは言えず、とんでも案件を家に持って帰った。いや、だって一応相談って、確定ってことだよね?ついでに、報酬の一部はすでにラズにも支払われていた。なんと学費免除とカンティーン(学院の食堂)の無料利用、制服や教科書の無料配布だそうだ。いつの間に。さすが商人の娘として育てただけはある。男爵の娘ととうに手はイマイチだがな。俺の娘、最高。
「カルメーラ!?」
愛しのドルシネアに一部始終を説明すると、素っ頓狂な声をあげて泡を拭いた。なんだ、なんだ?会ったことでもあるのか?
「なぜ、そんなところに…カルメーラ………。私の子じゃなかったの…」
「うん?ちょっと聞き捨てならない言葉が聞こえて来たけど?」
「えっ?」
「俺という男が居ながら、『私の子』ってどういうことかな?ドルシネア?」
「ち、ちがうの!そういう意味じゃなくて……っ、カ、カルメーラって名前が、、わ、私たちの子供が、女の子だったら、いいなぁーーって思っただけなの!で、でも王女と同じ名前はだめねぇ!残念だわぁ!」
「ドルシネア?嘘は良くないなあ、正直に言ってごらん?怒らないよ?」
まあ相手の男は海に沈めちゃうかもしれないけど?触ったの?触らせたのか?その麗しの目に映したのか?処女は俺がいただいたから、未遂だったか。残念だったなぁ!はっはーー!だが、目は抉らせてもらおうか!さあ、その男を差し出せ!
「吐くまで寝ずの攻防でも俺はいいけど?」
「ひぃぃ、胎教によくないわぁ!」
「前世の記憶?」
結局、睡眠時間を除く一週間に及ぶゆるゆるの愛撫(一応妊婦だと言うことを考慮したつもり)に、ドルシネアは根負けして全てを吐いた。
ラズが現れる前に、前世ではカルメーラと言う娘が俺とドルシネアの間に居たらしい。その娘と一緒になって俺の愛する奥さんはラズを虐め抜いたのだが、ラズが実は聖女だったせいで断罪され、娼館に売られた、だと?
「おのれ、第3王子めが。殺ス」
「前世の話なのよ!殺しちゃだめ!」
「何があろうと、ドルシネアを娼館になど渡さん!ついでに俺たちのまだ見ぬ娘もだ!よし、そう言うことなら遠慮はせん!クズどもに女性に傅く基本をしっかり身につけてもらおう!」
「ロシナンテ…」
「我が最愛のドルシネア。君はどんなことがあっても俺が守るから安心して」
「素敵よ、ロシナンテ!愛してる!」
「俺も永遠に愛してる!」
緊急伝書鳩で『要話し合い。帰宅せよ』のメッセージをもらって何が起こったのかと慌てて帰って来てみたら、やっぱりバカップルしてた。これを見るために帰宅させたのか?
カルトロと顔を見合わせたけど、カルトロも肩をすくめただけで「いつも通りでございます」とため息をついて、アタシの荷物を受け取った。
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