【完結】その同僚、9,000万km遠方より来たる -真面目系女子は謎多き火星人と恋に落ちる-

未来屋 環

文字の大きさ
上 下
23 / 51

第12話 真昼の来訪者(前篇)

しおりを挟む
 ――少しずつあなたを知っていけること、それは何よりも嬉しいことでした。


第12話 真昼の来訪者


『鈴木さん、受付です。お約束のお客様がいらっしゃいました』
「わかりました、すぐに伺います」

 スマホから響いた呼び出し案内に答えて、雪花せつかは席を立った。
 向かいの席のマークが少し心配そうにこちらを見る。雪花はそれに「いってきますね」と笑顔で応えた。
 総務課の部屋を出て、廊下を一歩一歩進んでいく。逢うのは2度目――緊張が全くないと言えば嘘になるだろうか。雪花は深呼吸をしながら歩いた。

 そして、受付に到着した雪花の目に映ったのは――明るい色のスーツに身を包んだ、美しい女性。

「すみません、お待たせいたしました――古内ふるうちさん」

 雪花の声に、古内はその顔を上げ、綺麗に整った顔を艶やかに笑みで染めた。

 ***

 事の発端は、先週のことだ。

「え、JAXAの方がいらっしゃるんですか?」

 課長の浦河うらかわに呼ばれた雪花は、思わず声を上げる。
「あぁ、マークが来てからもう1ヶ月以上経つし、一度様子見に来たいんだとさ。まぁ様子を見るっつっても基本はオフィスワークだし、見てて面白いもんじゃねぇだろうけど」
 浦河はあまり興味がなさそうに頬杖をついている。
「マーク、おまえの方にもそういう話来た?」
「はい、ウラカワ課長。リサ――フルウチさんからは、来週の水曜の午前中に来ると聞いています」

 やはり、来るのは古内のようだ。雪花はとうきょうスカイツリー駅で古内に出逢った日のことを思い出す。とても綺麗なひとだった。そして、マークとも随分仲が良さそうだったのを覚えている。あの誰に対しても丁寧なマークが、彼女を「リサ」と名前で呼び、敬語を使わずに話していたのも印象的だった。

 雪花が黙っていると、浦河が怪訝そうな顔をする。
「何、鈴木、JAXAの人知ってんの?」
「――あ、はい……以前マークさんとスカイツリーに行った時、待合せの駅にいらしてまして」
「何だ、随分と過保護だな」
 そう笑い飛ばす浦河の前で、マークは「彼女、心配性なもので……」と少し申し訳なさそうな顔をした。

 それを見て、雪花はふと先日マークが見せた表情を思い出す。
 鳥飼とりかい部長と3人で食事した帰り、夜の路上で足を止め、マークは言った。

『――セツカさん。私は、そんな大した人間ではないんです』

 ――あれは一体、どういう意味だったのだろう。

 その後、マークはいつもの穏やかな表情に戻っていた。以降、仕事中も変わった様子はなく、普段通り仕事に取り組んでいる。
 しかし、あの時の言葉と悲しげな色が、やけに雪花の心に引っ掛かっていた。

「セツカさん」
 マークの声で、ふと現実に引き戻される。隣を向くと、マークが心配そうな顔でこちらを見ていた。
「お忙しい中、お手数をおかけしてすみません。あまりセツカさんのお仕事にご迷惑がかからないようにしたいのですが……」
 どうやら雪花が古内の対応に手間を取られてしまうことを心配しているようだ。
 マークの気遣いに、雪花は微笑みを浮かべて応える。

「マークさん、ご心配なさらないでください。マークさんが来てくれたお蔭で仕事量は減っていますし、古内さんがご希望であれば社内のご案内もさせて頂きますから」
 雪花の言葉に、マークが口元を少し緩めた。
「……そうですか、ありがとうございます」
 その顔を見て、雪花もほっとする。
 あの言葉の意味は、また機会があれば訊いてみよう。変な詮索をして、マークを悲しませるようなことはしたくなかった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜

羽村美海
恋愛
 古式ゆかしき華道の家元のお嬢様である美桜は、ある事情から、家をもりたてる駒となれるよう厳しく育てられてきた。  とうとうその日を迎え、見合いのため格式高い高級料亭の一室に赴いていた美桜は貞操の危機に見舞われる。  そこに現れた男により救われた美桜だったが、それがきっかけで思いがけない展開にーー  住む世界が違い、交わることのなかったはずの尊の不器用な優しさに触れ惹かれていく美桜の行き着く先は……? ✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦ ✧天澤美桜•20歳✧ 古式ゆかしき華道の家元の世間知らずな鳥籠のお嬢様 ✧九條 尊•30歳✧ 誰もが知るIT企業の経営者だが、実は裏社会の皇帝として畏れられている日本最大の極道組織泣く子も黙る極心会の若頭 ✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦ *西雲ササメ様より素敵な表紙をご提供頂きました✨ ※TL小説です。設定上強引な展開もあるので閲覧にはご注意ください。 ※設定や登場する人物、団体、グループの名称等全てフィクションです。 ※随時概要含め本文の改稿や修正等をしています。 ✧ ✧連載期間22.4.29〜22.7.7 ✧ ✧22.3.14 エブリスタ様にて先行公開✧ 【第15回らぶドロップス恋愛小説コンテスト一次選考通過作品です。コンテストの結果が出たので再公開しました。※エブリスタ様限定でヤス視点のSS公開中】

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

人生を諦めた私へ、冷酷な産業医から最大級の溺愛を。

海月いおり
恋愛
昔からプログラミングが大好きだった黒磯由香里は、念願のプログラマーになった。しかし現実は厳しく、続く時間外勤務に翻弄される。ある日、チームメンバーの1人が鬱により退職したことによって、抱える仕事量が増えた。それが原因で今度は由香里の精神がどんどん壊れていく。 総務から産業医との面接を指示され始まる、冷酷な精神科医、日比野玲司との関わり。 日比野と関わることで、由香里は徐々に自分を取り戻す……。

処理中です...