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ラナキア洞窟-SECRET BOSS-4

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「アレクシアさん、ジョゼフさん、一旦引いてください!」

 これ以上攻め続けても埒が明かないと判断し、ルカは指示を飛ばす。攻撃を中断し、下がるアレクシアとジョゼフ。

「お、お、おやおや…」

 ゲルトアルヴスは笑う。

「ま、ま、また引き下がるのですか…」

 ルカはゲルトアルヴスの言葉を無視し、アレクシアに視線を向けた。女剣士はその視線で、ルカが何を問おうとしているのかすぐに理解する。彼は、ゲルトアルヴスに攻撃を加えた感触を問いたかったのだ。

「…ゲルト殿の体は、私の攻撃で傷つくたびに強くなっている。おそらく、修伝剣技レベルの技はもう通用しないだろう」

「やっぱり…そうですか」

 傷つけば傷つく程強化される防御力。はっきり言って、手の付けようがなかった。

 ――撤退。

 その二文字がルカの脳裏を過る。絶対に勝てない相手ならば、引くよりほかはない。

 だが同時に、今ここで撤退しゲルトアルヴスを放置してしまえば取り返しのつかない事になるのではないかという思いもあった。

 圧倒的な再生能力と防御力を持ち、まるで楽しむかのように他者へと殺意を向ける人外。そんな彼を野放しにしてしまえばどうなる?

(下手をすると、町のひとつやふたつは壊滅しかねない…)

 それだけはなんとしても防がなけらばならなかった。

(考えろ。対処法を考えるんだ…。僕、アレクシアさん、ジョゼフさんの三人で攻撃を合わせて一度に大ダメージを与える?それとも、倒すのは諦めてなんとか拘束する方法を考えるべきか…考えろ、考えろ…)

 ルカは思考を巡らせる。そんな中、ふと

「■■■■――」

 と、ゲルトアルヴスが何事かを呟いた。何か意味のある言葉なのだろうが、ルカたちの使用しているものとは系統の異なっている言語のため内容は全く理解できない。

「なんだ…?」

 ジョゼフが訝し気な表情を浮かべる。対して、ルカはすぐにその言葉の意味する所に気がついた。

「これは…詠唱!気を付けてください!魔術が来ます!」

 ゲルトアルヴスが呟いたのは呪文の詠唱だ。おそらく、現代では途絶えてしまった古代魔術の詠唱。アレクシアとジョゼフが、詠唱を中断させようと一歩踏み出しかける。しかし、その時にはすでにゲルトアルヴスの詠唱は完了していた。

付与エンチャント黒炎ダークフレイム

 呟くようにそう言うと、次の瞬間…ゲルトアルヴスがその手に持つ剣が赤黒く燃え上がった。

「付与魔術…それも、幻想属性!?」

 ルカの顔が戦慄に染まる。おそらく、現代の魔術師で扱える者は数人しかいないであろう、幻想属性の付与魔術。

 ゲルトアルヴスの顔が黒炎に照らされる。その顔には、禍々しい笑顔が浮かんでいる。そして剣を振り上げ…、

「逃げてください!」

 ルカが叫ぶ。ゲルトアルヴスの剣がジョゼフに向かって振り下ろされた。だが、その時にはすでにジョゼフは数歩後ろへと退いている。しかし――ゲルトアルヴスの振り下ろした剣の炎が地に触れると、そこから炎の柱がそそり立ちジョゼフ目掛けて走っていった。

「ちいっ…!」

 逃げられない。そう悟ったジョゼフは槍を構えた。

「おるあああ!」

 一瞬のための後、渾身の力を込めて槍を振るう。修伝槍技、『旋風』。

 練気プネウマを込めた薙ぎ払いで、物理攻撃であろうと魔術であろうとかき消してしまう防御技だ。修伝以下の攻撃であれば、この技でほぼ防ぎきる事ができる。

 ジョゼフの扱える中で最大の防御技なだけあり、ゲルトアルヴスの黒炎もかき消す事ができた。

「よし…」

 ひとまずは窮地を脱し、安堵のため息を漏らしたジョゼフ。しかし、突如腕に刺すような痛みが走る。

…」

 そしてその痛みが走るのとほぼ同時に、ジョゼフの手に持つ槍の柄がボロボロと崩れ始めた。

「はあ…!?…なっ……ぐっ……うっ…ぐうううっ!」

 腕に走った鋭い痛みが、骨を焼き焦がすような苦痛に変化した。

「痛てえ!ぐあっ…ああ!なん…で…!」

 腕を抑えながら身悶えするジョゼフを見て、ゲルトアルヴスは顔を歪めて笑った。

「ふ、はは…さ、さすが幻想属性…」

 幻想属性。現実には存在しない、人の想像の中にのみ存在する架空の属性。それには、現実の物理法則を無視した『概念』が宿る。

 黒炎ダークフレイムの概念は『延焼』。例え炎を防ごうとも、一瞬でも触れたならばその対象を内側からじわじわと焼き、肉を焦がす。
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