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ラナキア洞窟-SECRET BOSS-5

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「は、ははは…今楽にしてあげましょう…」

 ゲルトアルヴスがジョゼフに歩み寄る。止めを刺すつもりだ。

「アレクシアさん、敵を引き付けてください!」

「任せてくれ!」

 アレクシアがゲルトアルヴスへと攻撃を仕掛ける。その間に、ルカはジョゼフへと駆け寄った。

「ジョゼフさん、回復薬です!」

 ルカは背嚢バックパックから回復薬の入った小瓶を取り出した。

 回復薬。特殊な魔力を帯びた植物…いわゆる薬草から取れる液体によって作られた薬で、負傷した箇所にかける事や服用する事で効果を発揮する。

 とはいえ、回復薬の効果はあくまで『人が本来持つ治癒能力を一時的に向上させる』というものに過ぎない。魔術で言えば、初伝レベル1ダメージ回復魔術と同程度の効能だ。

 それをジョゼフの腕にかけた。同時に、ルカは魔術の詠唱を行う。

「汚れよ、その身から立ち去れ『エレメンタリー・デトックス』」

 初伝レベル1状態回復魔術、『エレメンタリー・デトックス』。

 回復薬が肉体の損傷を回復し、エレメンタリー・デトックスが黒炎ダークフレイムの延焼効果を取り除く。ジョゼフの体から痛みが引いた。だが、それも束の間の事。

「ぐうっ…ううう…」

 すぐに体の内側から骨を焦がすような痛みが襲ってくる。回復薬と初伝レベル1状態回復魔術では完全に治療する事はできないようだ。

(僕の魔術では、この状態異常を治療する事はできない…)

 初伝レベル1状態回復魔術、『エレメンタリー・デトックス』では軽度の毒、呪いしか治療する事ができない。黒炎ダークフレイムの延焼に対して全く効果がないという訳ではないようだが、一時的に延焼を喰い留めるのが限界のようだ。

(ジョゼフさんを一刻も早く回復術士の所へ連れていかないと…)

 延焼の効果は、すぐにジョゼフの腕を燃やし尽くすというたぐいのものではないらしい。おそらく、徐々に時間をかけて骨を焼き、肉を焦がしていくのだろう。いや、本来ならばすぐにでも腕が焼ける程の威力なのかもしれないが、ジョゼフが練気プネウマで肉体を強化し延焼の効果を抑え込んでいる可能性もある。

 いずれにしても、長く放置しておけば取り返しのつかない事になる。

 だが、現在位置から最も近い町、ルフェールまでは急ごうとも丸二日以上かかるはずだ。それまで、ジョゼフの腕は持つのか。いや、そもそもの話として目の前の敵…ゲルトアルヴスを倒し、地上に戻る事はできるのか。

 ゲルトアルヴスは圧倒的な防御力と再生能力に加え、攻撃手段まで獲得した。さらにジョゼフは戦闘不能。

 ――全滅。

 そんな言葉がルカの脳裏に浮かぶ。だが…まだ、出来る事はある。それをやり切るまで諦めるつもりはなかった。

「ジョゼフさん、立てますか?」

「あ、ああ…」

「ひとまず、ジョゼフさんは敵の射程圏内から遠ざかってください」

「面目ねえ。…ぐっ」

 ジョゼフはよろめきながら立ち上がった。ルカはそれを支えつつ、ゲルトアルヴスの方へ視線を向ける。

 アレクシアが果敢に攻撃を仕掛けている最中だった。やはり単純な剣技ではアレクシアがゲルトアルヴスを上回っている。致命傷を与える事こそ出来ないものの、全ての攻撃を避け続けている。

(なんとかして、あの剣を奪う事が出来れば…)

 アレクシアはそんな事を思う。

 ゲルトアルヴスの持っている剣を奪えば、敵の攻撃力を大幅に削る事ができる。しかし、黒炎の宿る刀身部分については触れる事はおろか剣で受けるのも危険だ。となれば、刀身には触れないように気を付けつつゲルトアルヴスの手から剣をもぎ取るしかないが…さすがに、それは容易ではない。

 互いに決定打を与えられないままの攻防が続く。ゲルトアルヴスが剣を振り下ろした。決し遅い訳ではないが、アレクシアにとってはさして脅威ではない攻撃。――そのはずだった。

「…え?」

 アレクシアは横にステップしてゲルトアルヴスの剣をかわした。しかし、その先の床が…突如、崩れた。アレクシアは足元を見る。床のタイルは、まるで内側から炎で炙られたようにひび割れていた。

(延焼の効果で…床を焼いていた…!?)

 攻撃を行いつつ床にまで延焼の効果を及ぼし、脆くする事でアレクシアの動きを止める狙いだったのだろう。

(不覚…!)

 足を取られつつもすぐさま態勢を立て直す。が、その一瞬の隙をゲルトアルヴスは見逃さなかった。彼は、大きく剣を振りかぶった。

 アレクシアに、ではない。彼の狙いは…この場から離れようとするジョゼフだ。

「なっ…」

 ゲルトアルヴスの狙いは、最初からジョゼフだったのだ。最も手強いアレクシアではなく、まずは手負いのジョゼフを完全に片付け敵の数を減らす…それが、彼の作戦だった。

 しかし、あからさまにジョゼフを狙った所でアレクシアが妨害に入るだろう。そう考え、ずっと隙をうかがっていたのだ。

 ゲルトアルヴスが剣を振り下ろす。黒い炎が、火柱を上げつつジョゼフに向かっていった。
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