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ラナキア洞窟攻略4
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「モ、魔物か…!」
ジョゼフが態勢を立て直し、右手に持っていた槍を構える。その横でルカもまた剣を抜きつつ敵を分析する。
「巨大な蟹…おそらく、カルキノスです!」
カルキノス。C+ランク相当の魔物。その姿形は、サワガニによく似ている。人間に比べリーチが長く、俊敏性もそれなりにある。しかし、カルキノス最大の武器はその肉体の強固さだ。中伝剣士レベルではいくら突こうが叩こうがダメージを与える事ができない。一応は目が弱点となっているが、そこを攻撃するためには鋏を搔い潜る必要がある。それはリスクが高い。
(本当なら距離を取って戦いたい所だけど…)
ルカたちの後方は湖。そちらに下がる事はできない。今まで通ってきた道を戻るにしても、地面からは鍾乳石が屹立しており足場が悪い。素早く移動する事はできない。追いつかれてしまうだろう。
「ジョゼフさん、アレクシアさん、僕たちで足止めしましょう!ゲルトさん、その間に攻撃魔術を――」
自分とジョゼフ、アレクシアの三人で足止めし、ゲルトの魔術で倒す。ルカは素早く戦略を組み立てた。
だが、その時。ルカの視界の端で人影が動いた。疾風の如き勢いでカルキノスに迫るその人物は、白金色の髪を持った女剣士。アレクシアだ。
脚に練気を集中しての素早い踏み込み。修伝体技、『雷足』。瞬く間に距離を詰めたアレクシア。だが、彼女目掛けてカルキノスの鋏が振り下ろされる。女剣士は腰の剣を抜きそれを迎え撃った。
「アレクシアさん、その敵に――」
物理攻撃は効きません。
ルカがそう叫び終わる前に…カルキノスの鋏は宙を舞っていた。
「なっ…」
ジョゼフが驚きに目を見開く。
アレクシアが放った技は、『斬鉄・逆払い』。剣に練気を纏い、鋼すら両断する斬り上げを行う皆伝剣技。そのまま勢いを落とさず、返す刀でカルキノスの頭部に向けて斬り込んだ。
皆伝剣技、『斬鉄・一刀両断』カルキノスの強固な甲殻は、まるでバターにナイフでも入れたかのようにいとも容易く両断された。
女剣士に頭部を割られた蟹型の魔物は、一度ビクリと痙攣した後…叫び声を上げる事もなく動かなくなった。
「ふう…」
アレクシアは小さく息を吐く。
「想像以上に強固な魔物だった…。中伝の『兜割り』や『鎧断ち』で対処できるかとも思ったが…咄嗟に皆伝の『斬鉄』に切り替えて正解だったね」
そう言ってルカの方へ振り向いて微笑んだ。
そんなアレクシアの姿を見るルカ、ジョゼフ、ゲルトは言葉もない。
「ん…?どうしたんだい?」
沈黙する三人に対し、アレクシアは不思議そうに小首を傾げる。そして何事かに気がついたのか、申し訳なさそうに眉尻を下げた。
「ああ、そうか…。すまない、ルカ君。せっかく君が指示を出してくれたのにそれを無視する形になってしまって。その…私も、最初は足止めを行おうとしたんだ。だが、倒してしまえそうだったので、つい…」
しょんぼりと俯くアレクシア。
「い、いえ…倒せてしまったのであれば問題ありません。その…アレクシアさんが強くて驚いてしまっただけですから…」
ルカは未だ驚きの冷めやらぬ表情で言った。
「そ、そうか。…怒っている訳ではないのだな?」
「もちろんですよ」
少年がそう答えると、アレクシアの表情が明るくなった。
「…そうか。それなら良かった」
「むしろ、僕の方こそアレクシアさんの実力をきちんと把握していなくて…的確な判断ができず、すみません」
カルキノスには物理攻撃が効き辛い。だが、強固な外殻を打ち破る圧倒的な力があるのなら話は別だ。そして、アレクシアはそれだけの力を持っていた。
(アレクシアさんは奥伝剣士…僕なんかとはレベルの違う剣術の使い手だって分かってたはずなのに、やっぱり僕の常識の中で判断しちゃってたな…)
ルカは今まで修伝より上の実力を持つ剣士とパーティを組んだ経験はなかった。ついその常識の元で咄嗟の判断を下してしまっていたのだ。
「ルカ君」
と、今度はジョゼフが口を開いた。
「助けてくれて…感謝する。もしあそこで抱き着いてくれなきゃ俺の足は真っ二つになってたかもしれねえ」
彼もまた先ほどのアレクシアと同じく、やや俯き加減でそう言った。
「いえ、無事に切り抜けられて良かったです」
「すぐに指示を下してくれたのも助かった。…俺がリーダーだってのに、咄嗟に何も出来なくてすまなかったな」
「そんな」
ルカは首を振る。
「僕はたまたまジョゼフさんの後ろにいて状況が見渡せただけです。前衛の人はどうしても真っ先に敵の脅威と遭遇して全体を見渡す事ができませんから…気にしないでください」
「そうか。そう言ってくれると助かるが…次からは俺ももうちょっと気を付けて進む事にするぜ」
ジョゼフは顔を上げて、眉を険しくさせつつも口元では笑顔を作る。
「それに、またさっきみたいな敵が出てきて…ルカ君に抱き着かれたら変な気持ちになりそうだからな」
「変な気持ち、ですか?」
ルカは不思議そうに首をかしげる。
「ああ、さっき抱き着かれて思ったんだが…ルカ君の体、小さくて抱き心地がよくて…こう…抱きしめてると、変な気持ちになるっていうか…胸がときめくと言うか…」
「え」
ルカの体が強張った。思わず一歩後ずさる。彼の信条としては、恋愛には色々な形があっても問題はないと思っている。恋する気持ちに種族や性別など関係はない。
だが、それはそれとして…突然そんな事を言われると、やはり身構えてしまう。
「――なんてな、冗談だよ、冗談」
ジョゼフは小さく笑った。
「何にしても、ルカ君やアレクシア殿にこれ以上迷惑はかけねえようにしねえとな。…ルカ君、この道の先を照らしてもらえるかい?」
「は、はい…!」
ルカはウィル・オー・ザ・ウィスプを捜査してカルキノスの出てきた穴の中を照らす。もう中に魔物はいないようだ。
「よし、今度こそ大丈夫そうだな」
内部の安全を確認すると、ジョゼフが先頭となって一行は穴の奥へと進んでいった。
ジョゼフが態勢を立て直し、右手に持っていた槍を構える。その横でルカもまた剣を抜きつつ敵を分析する。
「巨大な蟹…おそらく、カルキノスです!」
カルキノス。C+ランク相当の魔物。その姿形は、サワガニによく似ている。人間に比べリーチが長く、俊敏性もそれなりにある。しかし、カルキノス最大の武器はその肉体の強固さだ。中伝剣士レベルではいくら突こうが叩こうがダメージを与える事ができない。一応は目が弱点となっているが、そこを攻撃するためには鋏を搔い潜る必要がある。それはリスクが高い。
(本当なら距離を取って戦いたい所だけど…)
ルカたちの後方は湖。そちらに下がる事はできない。今まで通ってきた道を戻るにしても、地面からは鍾乳石が屹立しており足場が悪い。素早く移動する事はできない。追いつかれてしまうだろう。
「ジョゼフさん、アレクシアさん、僕たちで足止めしましょう!ゲルトさん、その間に攻撃魔術を――」
自分とジョゼフ、アレクシアの三人で足止めし、ゲルトの魔術で倒す。ルカは素早く戦略を組み立てた。
だが、その時。ルカの視界の端で人影が動いた。疾風の如き勢いでカルキノスに迫るその人物は、白金色の髪を持った女剣士。アレクシアだ。
脚に練気を集中しての素早い踏み込み。修伝体技、『雷足』。瞬く間に距離を詰めたアレクシア。だが、彼女目掛けてカルキノスの鋏が振り下ろされる。女剣士は腰の剣を抜きそれを迎え撃った。
「アレクシアさん、その敵に――」
物理攻撃は効きません。
ルカがそう叫び終わる前に…カルキノスの鋏は宙を舞っていた。
「なっ…」
ジョゼフが驚きに目を見開く。
アレクシアが放った技は、『斬鉄・逆払い』。剣に練気を纏い、鋼すら両断する斬り上げを行う皆伝剣技。そのまま勢いを落とさず、返す刀でカルキノスの頭部に向けて斬り込んだ。
皆伝剣技、『斬鉄・一刀両断』カルキノスの強固な甲殻は、まるでバターにナイフでも入れたかのようにいとも容易く両断された。
女剣士に頭部を割られた蟹型の魔物は、一度ビクリと痙攣した後…叫び声を上げる事もなく動かなくなった。
「ふう…」
アレクシアは小さく息を吐く。
「想像以上に強固な魔物だった…。中伝の『兜割り』や『鎧断ち』で対処できるかとも思ったが…咄嗟に皆伝の『斬鉄』に切り替えて正解だったね」
そう言ってルカの方へ振り向いて微笑んだ。
そんなアレクシアの姿を見るルカ、ジョゼフ、ゲルトは言葉もない。
「ん…?どうしたんだい?」
沈黙する三人に対し、アレクシアは不思議そうに小首を傾げる。そして何事かに気がついたのか、申し訳なさそうに眉尻を下げた。
「ああ、そうか…。すまない、ルカ君。せっかく君が指示を出してくれたのにそれを無視する形になってしまって。その…私も、最初は足止めを行おうとしたんだ。だが、倒してしまえそうだったので、つい…」
しょんぼりと俯くアレクシア。
「い、いえ…倒せてしまったのであれば問題ありません。その…アレクシアさんが強くて驚いてしまっただけですから…」
ルカは未だ驚きの冷めやらぬ表情で言った。
「そ、そうか。…怒っている訳ではないのだな?」
「もちろんですよ」
少年がそう答えると、アレクシアの表情が明るくなった。
「…そうか。それなら良かった」
「むしろ、僕の方こそアレクシアさんの実力をきちんと把握していなくて…的確な判断ができず、すみません」
カルキノスには物理攻撃が効き辛い。だが、強固な外殻を打ち破る圧倒的な力があるのなら話は別だ。そして、アレクシアはそれだけの力を持っていた。
(アレクシアさんは奥伝剣士…僕なんかとはレベルの違う剣術の使い手だって分かってたはずなのに、やっぱり僕の常識の中で判断しちゃってたな…)
ルカは今まで修伝より上の実力を持つ剣士とパーティを組んだ経験はなかった。ついその常識の元で咄嗟の判断を下してしまっていたのだ。
「ルカ君」
と、今度はジョゼフが口を開いた。
「助けてくれて…感謝する。もしあそこで抱き着いてくれなきゃ俺の足は真っ二つになってたかもしれねえ」
彼もまた先ほどのアレクシアと同じく、やや俯き加減でそう言った。
「いえ、無事に切り抜けられて良かったです」
「すぐに指示を下してくれたのも助かった。…俺がリーダーだってのに、咄嗟に何も出来なくてすまなかったな」
「そんな」
ルカは首を振る。
「僕はたまたまジョゼフさんの後ろにいて状況が見渡せただけです。前衛の人はどうしても真っ先に敵の脅威と遭遇して全体を見渡す事ができませんから…気にしないでください」
「そうか。そう言ってくれると助かるが…次からは俺ももうちょっと気を付けて進む事にするぜ」
ジョゼフは顔を上げて、眉を険しくさせつつも口元では笑顔を作る。
「それに、またさっきみたいな敵が出てきて…ルカ君に抱き着かれたら変な気持ちになりそうだからな」
「変な気持ち、ですか?」
ルカは不思議そうに首をかしげる。
「ああ、さっき抱き着かれて思ったんだが…ルカ君の体、小さくて抱き心地がよくて…こう…抱きしめてると、変な気持ちになるっていうか…胸がときめくと言うか…」
「え」
ルカの体が強張った。思わず一歩後ずさる。彼の信条としては、恋愛には色々な形があっても問題はないと思っている。恋する気持ちに種族や性別など関係はない。
だが、それはそれとして…突然そんな事を言われると、やはり身構えてしまう。
「――なんてな、冗談だよ、冗談」
ジョゼフは小さく笑った。
「何にしても、ルカ君やアレクシア殿にこれ以上迷惑はかけねえようにしねえとな。…ルカ君、この道の先を照らしてもらえるかい?」
「は、はい…!」
ルカはウィル・オー・ザ・ウィスプを捜査してカルキノスの出てきた穴の中を照らす。もう中に魔物はいないようだ。
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