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ラナキア洞窟攻略3

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 空間のねじれを過ぎ、さらに数km。洞窟は左右に曲がり、時には人ひとりがぎりぎり通れる程度の幅に狭まる事もあった。だが、基本的には一本道だった。そして何度目かのカーブを曲がった所で…突如視界が開けた。

「これは…」

 誰からともなく声を上げる。

 前方に広がっていたのは広大な空間だった。まず前方には傾斜のきつい坂。その下、数mの場所には湖。地底湖だ。天井からは鍾乳石が垂れ下がり、中には地面と接触して柱状になっているものもちらほら見える。さらに岩壁が所々ぼんやりと輝いている。魔鉱石の放つ光だろう。

「あの狭い入口の先に、こんな空間が広がっていたとは…」

 アレクシアが感動した面持ちで周囲を見回す。

「これが迷宮ダンジョン、というものなのだろうか…?」

「そうですね。これだけ魔鉱石があるって事は、魔力が濃い証です。迷宮ダンジョンと判断しても…間違いないと思います」

 ルカが答えた。

「しかし、私の想像していた迷宮ダンジョンとは少し違うな。なんとうか、こう…もっと迷路じみたものを想像していたが…」

迷宮ダンジョンって言っても形態は色々だからな。古代遺跡が迷宮ダンジョン化したものだったら、通路が歪んでそれこそ迷路みたいになってる所もある。…らしいぜ。俺もそういった迷宮ダンジョンを見た事がある訳じゃねえから人づてに聞いた話だけどよ」

 そう説明しながら、ジョゼフも興味深げにきょろきょろと周囲を見回していた。

「それじゃあ、ひとまず…坂の下に降りるか。迷宮ダンジョンってもんは下にゴールがあるのが定番だしな」

 ジョゼフは坂の下に降りようとした。それをゲルトが止める。

「しばしお待ちを。…光よ、行く先を照し我らをまがごとより遠ざけよ『フエゴ・ファトゥオ』」

 ゲルトが前方に掌をかざしながら魔術を発動した。すると、その先の中空に青白く輝く光の玉が出現した。それはフワフワと浮遊し、ゲルトたちの頭上で漂い始める。

中伝レベル2形成魔術、フエゴ・ファトゥオです。ウィル・オー・ザ・ウィスプと同種の魔術による形成物質ですが、周囲を照らすだけではなく人体にとって有毒なガスなどを感知すれば点滅して知らせてくれます」

「こりゃありがてえ。気付かないうちにガスを吸ってお陀仏なんて事にはなりたくねえからな」

 ジョゼフが頼もし気にフエゴ・ファトゥオを見上げた。

 光源が増えた事で、足元もよりはっきりと見えるようになった。所々にある突起に足を取られないよう注意しつつ、坂を降りる。湖の目前まで到着した。

「…でけえ湖だな」

 ジョセフが呟く。確かに大きな湖だ。その水は異様な程に青々としており、むしろ不気味さを感じさせる。深さも相当ありそうだった。

「もしや、この湖の中を潜るのか?私は一応、泳ぎは出来るが…」

 アレクシアが湖を覗き込みながら言った。

「いやいや、まさかそんな事はしねえよ」

 ジョゼフが笑う。

「ここが迷宮ダンジョンになってるとしたら、奥へと続くルートがどこかあるはずだ。最深部と繋がってねえと、この辺りまで魔力が流れ込んで来ねえはずだからな。それを探そう」

「ふむ、なるほど…それは良かった。さすがに私もルカ君以外の者に裸を見られるのは抵抗があるからね」

(え…)

 ルカは内心でドキリとする。自分以外の者に裸を見られるのが嫌という事は、自分にならば見られてもいいという頃だろうか。

(い、いや…それは僕が子供だから…だよね。多分)

 ルカとしては自分はもう子供ではないつもりだったが、その事をいちいち口にするつもりはなかった。今はとにかく、迷宮ダンジョン攻略のためのルートを探すのが先決だ。

 一行は湖の周囲を歩いて捜索する事にした。この開けた空間では床の至る所に鍾乳石の突起が屹立し、それが視界を遮っている。もしどこかに道があったとしても、よく観察しなければ気がつく事ができないだろう。そう思っていたのだが…、

「おっ…」

 しばらく探索した所で、先頭を進むジョゼフは眼前の岩壁に穴を発見した。大人が屈んで通れるかどうかという大きさの空洞だ。

「この先から魔力が流れ込んで来ているのを感じます。おそらく、深部へ通じているのでしょう」

 とゲルト。

「へへ、なんだ。思ったより簡単に見つかったな」

 ジョゼフは肩をすくめる。そして屈みこみ、穴の中へと入ろうとしたその時――ルカは見た。穴の奥から、何かが現れるのを。

「――危ない!」

 ルカは咄嗟に走り寄り、ジョゼフに飛びついた。

「のわっ…!?」

 ジョゼフがよろめき、たたらを踏む。

「ルカ、いきなり何やって――」

 とジョゼフが言いかけた所で、ガチン――と、硬質な物体同士が触れ合う音が響く。そちらへ視線を向ける。先ほどまでジョゼフの足があった場所だ。そこには、赤黒いはさみがあった。人間の足など容易く切断してしまえるであろう巨大なはさみだ。

 そして、穴の奥からそのはさみの持ち主がぬっと姿を現した。四つん這いになった熊ほどの大きさもあるであろう、巨大なかにだ。
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