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棘先の炎

神に背く者神に喰われる 2話

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スネークが編み出した意外な策…。それを思い出しながらクイラはスネークに視線を向ける。すると彼はクイラへと歩み寄り…そして、とある物をフライに見せないよう注意して差し出した。…それは注射器とアンプル。恐らく予備で持っていたのだろう。
スネークは"茨"の幹部である。自身が狙われる事を予期してクイラに渡したのだ。そして彼は小声でこのような言葉を紡ぎ出す。
「いいか?…さっきお前に話した作戦で行こうと思う。そんで…。ーラビットは危険を感じたら出して良いとの薔薇姫様からの通達だ。取り敢えず気を付けろよ?」
「…はい。」
何かを話し込んでいる2人にフライは首を傾げていると…院長の帷が客室へ入室した。
「皆さん。紅茶でもどうぞ。…あと、少し空気が澱んでますね~。少し空調を付けさせて頂きますね?」
そして彼はクーラーを付けて空調管理をする。…するとクイラは彼の心を読んで叫んだ。
「気を付けて!今、息を吸ったらまずい事になる!」
「「何だって!?」」
クイラの言葉掛けにポンチョで鼻を抑える2人に、院長の帷は舌打ちをした。そして彼は隠していたガスマスクを取り出して言い放つ。
「何故バレたかは知らねぇが…。お嬢さん?正解だよ。…この空調には催眠ガスを混ぜていてな…。恨むなら俺じゃなくて、お前らをここに来させた薔薇姫を恨みな!…そんじゃあ。また後ほど。」
そして帷は客室を閉めた。…催眠ガスが客室に充満する中、クイラはスネークの予期した通りになった事に驚く。そして、何も知らないフライは視界が揺らぐ中でスネークへ叫んだ。
「スネークさん!…僕達本当にやばいですよ!このままじゃ捕まっちゃう…。」
怯える様子のフライにスネークは彼の不安を取り除くような笑みを浮かべ、言い放つ。
「いや、これで良いんだよ。…俺はともかく、お前ら2人は大丈夫なはずだ。…それに俺の作戦通りにもなったしな。ーだから大丈夫…。お前も…自分や…クイラを…信じて…。」
そしてスネークは床へ倒れ込んだ。その様子にフライも駆け寄ろうとするが…自身も睡眠ガスにより睡魔に襲われる。クイラのが何かを言っているが、それでも視界が揺らぎ、彼女の言葉が聞けぬまま意識を手放した。

頭がズキズキしつつ気が付くと…フライは自分が冷たい地面に横たわっている事に気付く。そして、フライが目を覚ました事を安堵したクイラが彼に声を掛ける。
「起きたか!…良かった…。あの後、私はあまり吸わなかったから平気だったんだけど…。スネークさんとはやっぱり引き離されたみたい…。ちょっと待って。ー縄、解いてあげる。」
そしてクイラは自身の手首を縛り付けている縄をいとも簡単に解いた。その光景に驚くフライを他所に、彼女はフライの縄を解く。そんな彼女の普段通りの様子に、鈍感であるフライでさえ流石に気が付く。
「あのさ…。君、スネークさんからなんか言われてたりしてるよね?こんな状況なのに冷静だし…。」
フライの問い掛けに彼の縄を解いたクイラは困った顔をして、そして白状する。
「スネークさんからの作戦でね?…ほら、向こうの狙いはラビットを筆頭にした動物の名前をしている…つまり、スネークさん達でしょ?あの時、スネークさんが"睡眠薬が入っているかも知れないから飲むなよ?"って言っていただろ?」
彼女の問い掛けにフライが頷く。すると彼女はこのような言葉を紡いだ。
「スネークさんは利用価値がある。…でも、私達はその付き添い。…もしかしたら紅茶に睡眠薬じゃなくて毒を仕込んでるかも知れない…。それも、私達だけにね。それを危惧したスネークさんが、紅茶を不自然に飲まなければあの院長が全員まとめて仕留めようとして、睡眠薬にするんじゃないかと考えた結果…あの作戦を取ったんだよ。」
クイラの答えにフライが驚いて目を見張ると、彼女は少し苦笑を浮かべて言い放つ。
「まあ、本当はスネークさん個人でやろうとしてたみたいだけど…。ほら?私って心が読めるだろ?ーだから、私には話したってワケ。…まあ、スネークさんと付き合いの長いあんたにとっては不屈だと思うけどさ~。スネークさんが、"フライは優しいからその作戦を取ったら乗らないだろう。"って言ってたからさ。」
そして彼に手を置くクイラにフライは先を見通すスネークの作戦に感心する。ーそして、他にも驚く事があったのだ。
「あとさ…。フライには今回の作戦の重要な事を言わなかったんだけど…。ーあの薔薇姫、院長を裁くのはもちろんの事、そこにいる孤児院の子供達を奪還させる為にわざと捕まれってさ。ースネークさんは許せるけど…。全く。あの女は人を駒みたいに使うからムカつく~。」
そう言って悪戯に微笑む彼女にフライは自分の方がクイラよりも信用されていない事に腹が立った。確かに自分は情けない。役にもあまり立てない。…だが、その心を汲み取ったクイラはこのような言葉掛けを彼にした。
「君は怒ってるみたいだけど、本当に信頼してる人だから言えなかったんだよ。…私は利用されただけだから。ーただ、それだけ。」
そして一瞬、哀しげな表情を浮かべるクイラではあったものの彼女は明るい表情を見せて言い放つ。
「まあ!取り敢えずここを出よう!…幸い、私達の入ってる部屋は普通の部屋のようだしね~。子供達の奪還と、…あとはスネークさんを助けよ!」
そして決意を秘めた彼女の言葉にフライも頷く。…すると、突然、扉がガラリと開いた。2人は驚いた様子で扉を見ると…そこには子供が立っていた。
「あれ?…さっきの人達?」
そこには特徴的な青髪を伸ばしたノイズと呼ばれた少年が居た。

目を覚ますとそこは地下牢のような場所であった。頭を抑えようと腕を上げようとするが…縛られている事が分かった。そして、2人がいない事に青年は溜息を吐く。
「やっぱな。ーまあ、俺の予感は的中って事か。」
縛られているスネークではあったが、冷静に考え、今度は自身の足元を見る。手首は縛られているものの、両足はなんともなかった。その状況にニヒルな笑みを浮かべた後、彼は自身が閉じ込められている室内を歩き回る。簡易なベットがあり、そしてトイレがある。…そして極め付けは大きな扉。恐らく閉じ込める時に使用されるのだろう。するとスネークは部屋を観察し終えた後、自身の右足を3回叩いた。…出て来たのはブーツの中に収納している鋭いナイフのような暗器であった。そして彼は壁にブーツを突き刺した後、後ろへ向き、刃に自分の縄をノコギリの要領で押し付けた。縄がハラリと解けて自由となった両手を手にかざした後、スネークは呟いた。
「さて…。これからどうするか…って感じだな。」
そして何かを考え込んだスネークは大きな扉を見つめるのであった。

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