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第25話 《意識しちゃう》
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豊橋に追い出された利里と蒼柳は学生ホールに向かっていた。行く場所もなく、あてもないので帰ろうかという話にはなったが「俺は勉強してから帰るから」と言って学生ホールへ向かおうとした利里に、蒼柳も賛同したのである。
――利里はどうして蒼柳が自分と一緒に来るのかを不思議に思った。
というよりも、どうして自分を気に掛けるのかが分からない。理解不能だ。
鼻歌を歌っている蒼柳を尻目に、自分のなかで提示して回答を出す。
(こいつも変な奴なんだな~。まぁいいや、嫌われるより全然いいし)
などと思いながらも、いつもの場所に座って勉強に励むことにした。
今回は解剖生理の《内分泌系》を集中して勉強していくことにしたのだが……しかし。
「えっと、女性ホルモンにはエストロゲンが分泌されて、えっと……それで」
(どこを通って内分泌系に働くんだっけ?)
「視床下部から下垂体を通って卵巣にいくんすよ。そんで、視床下部からは性腺刺激ホルモン放出ホルモンが作られるんす。そっから2つに分かれて作用するんすよ~」
考え込んでしまうと、助け船のように蒼柳が答えていく。学習能力というか頭の良さに驚愕してしまった。それでも蒼柳は続ける。
「その2つのホルモンがなにわかるっすか?」
「……さっぱりデス」
「性腺刺激ホルモンと卵胞刺激ホルモンになるんす。ここら辺は基礎の母性看護でやるらしいから、今のうちに覚えた方がいいっすよ~」
「スミマセンね。理解力がなくて」
「なに言ってんすか~!」
拗ねたようにふて腐れる利里に、蒼柳はまた軽やかに笑って時計を見る。――時刻は18時前を指していた。
「そろそろ帰りますか? もうこんな時間だし、たまには息抜きした方がいいっすよ~」
「う~ん、そっか。……いや、やっぱりやるよ。俺はお前みたいに頭良くないし、バカだから、詰め込むだけ詰め込まないとみんなに追いつけないし」
集中力は切れかけているが、自分の理解力のなさに再度気がついて真剣にやろうとする。
(俺の努力が足りないから。足りないから留年なんかするんだ)
――だからできる努力はしないと。
そんなことを思って蒼柳が教えてくれた範囲を復習しようと教科書を開こうとして……その手を取られてしまう。
「なんだ?」と思っていると、蒼柳が盛大なため息を吐いて利里の邪魔をし始めたのだ。利里のリュックにノートや教科書類をどんどんしまい込み、チャックを閉めてしまう手早さに呆気に取られる利里だが、さすがに困惑と憤慨をしてしまう。
しかしそんなことなど蒼柳は承知している様子だ。
「そんなに詰め込みすぎたら逆に知識が入らないっすよ。こういうのはポイントと関連付けで覚えればいいんです。……ただ、闇雲に勉強をしても頭に入らないのなら自己満にしかならないっす」
「なぁ! 自己満って、お前には関係ないし――」
「関係があるから、こうやって言っているんすよ」
真剣みを帯びた黒い眼、鋭い視線が貫くように利里を見つめる。普段の柔和な態度と違う姿に利里は怯えて震えてしまいそうになった。
固まってしまい目を伏せようとする利里に、蒼柳は雪のように白く冷たい両頬を大きな手ですくい上げて、自分に向けるのだ。
――先ほどの戒めるような瞳は打って変わり、諭すような優しげな眼で丸くて大きな利里に向けて放つ。
「俺は乾さんと一緒に進級がしたいっす。そのためには俺の助けも必要かな、なんて思ったんす」
「……う、ん」
――ドクッドク……。
「今は時間がありますが、それだけじゃ進級なんてできないと俺は思います。たまには自分にご褒美でもあげないと、乾さんが……利里さんが潰れちゃう」
甘ったるい名前の呼び方に、利里は熱を浴びる。
(は、初めて名前呼ばれた。ちょっと驚いた)
――俺みたいな奴でも、名前を呼んでくれることがあるのか。
目を見張る利里に蒼柳はにこりと笑ってから、包み込んでいた両手をゆっくりと離していく。――どうしてだが名残惜しくて「もっと」とか反射的に言ってしまいそうになった。
「だから今日はこれでおしまい! また明日にしましょ!」
「うん……」
少し顔を下に向けてしまうのは不覚にも、ときめいてしまったから。だけどこんな気持ちを告げてしまったら去ってしまう、逃げてしまう、気味悪がられると思って……なにも言わないでいた。
だが蒼柳はなにも思っていないようで「じゃあ自販機でなんか買いますか~」なんて、間延びした様子で話しかける。
利里は火照った顔を見せぬようにずっと視線を下に向けて、大きく頷く。
蒼柳も利里もミルクティー缶を購入した。「プシュリ」と音を立てて、蒼柳は少しずつ飲み、利里は一気に飲み干してなぜか乾いている喉を潤した。
――はっきりとした甘さと冷たさは、今の利里に心地よさを与えた。
――利里はどうして蒼柳が自分と一緒に来るのかを不思議に思った。
というよりも、どうして自分を気に掛けるのかが分からない。理解不能だ。
鼻歌を歌っている蒼柳を尻目に、自分のなかで提示して回答を出す。
(こいつも変な奴なんだな~。まぁいいや、嫌われるより全然いいし)
などと思いながらも、いつもの場所に座って勉強に励むことにした。
今回は解剖生理の《内分泌系》を集中して勉強していくことにしたのだが……しかし。
「えっと、女性ホルモンにはエストロゲンが分泌されて、えっと……それで」
(どこを通って内分泌系に働くんだっけ?)
「視床下部から下垂体を通って卵巣にいくんすよ。そんで、視床下部からは性腺刺激ホルモン放出ホルモンが作られるんす。そっから2つに分かれて作用するんすよ~」
考え込んでしまうと、助け船のように蒼柳が答えていく。学習能力というか頭の良さに驚愕してしまった。それでも蒼柳は続ける。
「その2つのホルモンがなにわかるっすか?」
「……さっぱりデス」
「性腺刺激ホルモンと卵胞刺激ホルモンになるんす。ここら辺は基礎の母性看護でやるらしいから、今のうちに覚えた方がいいっすよ~」
「スミマセンね。理解力がなくて」
「なに言ってんすか~!」
拗ねたようにふて腐れる利里に、蒼柳はまた軽やかに笑って時計を見る。――時刻は18時前を指していた。
「そろそろ帰りますか? もうこんな時間だし、たまには息抜きした方がいいっすよ~」
「う~ん、そっか。……いや、やっぱりやるよ。俺はお前みたいに頭良くないし、バカだから、詰め込むだけ詰め込まないとみんなに追いつけないし」
集中力は切れかけているが、自分の理解力のなさに再度気がついて真剣にやろうとする。
(俺の努力が足りないから。足りないから留年なんかするんだ)
――だからできる努力はしないと。
そんなことを思って蒼柳が教えてくれた範囲を復習しようと教科書を開こうとして……その手を取られてしまう。
「なんだ?」と思っていると、蒼柳が盛大なため息を吐いて利里の邪魔をし始めたのだ。利里のリュックにノートや教科書類をどんどんしまい込み、チャックを閉めてしまう手早さに呆気に取られる利里だが、さすがに困惑と憤慨をしてしまう。
しかしそんなことなど蒼柳は承知している様子だ。
「そんなに詰め込みすぎたら逆に知識が入らないっすよ。こういうのはポイントと関連付けで覚えればいいんです。……ただ、闇雲に勉強をしても頭に入らないのなら自己満にしかならないっす」
「なぁ! 自己満って、お前には関係ないし――」
「関係があるから、こうやって言っているんすよ」
真剣みを帯びた黒い眼、鋭い視線が貫くように利里を見つめる。普段の柔和な態度と違う姿に利里は怯えて震えてしまいそうになった。
固まってしまい目を伏せようとする利里に、蒼柳は雪のように白く冷たい両頬を大きな手ですくい上げて、自分に向けるのだ。
――先ほどの戒めるような瞳は打って変わり、諭すような優しげな眼で丸くて大きな利里に向けて放つ。
「俺は乾さんと一緒に進級がしたいっす。そのためには俺の助けも必要かな、なんて思ったんす」
「……う、ん」
――ドクッドク……。
「今は時間がありますが、それだけじゃ進級なんてできないと俺は思います。たまには自分にご褒美でもあげないと、乾さんが……利里さんが潰れちゃう」
甘ったるい名前の呼び方に、利里は熱を浴びる。
(は、初めて名前呼ばれた。ちょっと驚いた)
――俺みたいな奴でも、名前を呼んでくれることがあるのか。
目を見張る利里に蒼柳はにこりと笑ってから、包み込んでいた両手をゆっくりと離していく。――どうしてだが名残惜しくて「もっと」とか反射的に言ってしまいそうになった。
「だから今日はこれでおしまい! また明日にしましょ!」
「うん……」
少し顔を下に向けてしまうのは不覚にも、ときめいてしまったから。だけどこんな気持ちを告げてしまったら去ってしまう、逃げてしまう、気味悪がられると思って……なにも言わないでいた。
だが蒼柳はなにも思っていないようで「じゃあ自販機でなんか買いますか~」なんて、間延びした様子で話しかける。
利里は火照った顔を見せぬようにずっと視線を下に向けて、大きく頷く。
蒼柳も利里もミルクティー缶を購入した。「プシュリ」と音を立てて、蒼柳は少しずつ飲み、利里は一気に飲み干してなぜか乾いている喉を潤した。
――はっきりとした甘さと冷たさは、今の利里に心地よさを与えた。
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