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18章-10
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「よし終わり! ジュード、加勢するわ!」
【葬列の帰還】をほぼ怪我もなく倒しきった私とディアナ様は、呼吸を整えてから【誘う影】と戦っている男三人のほうへと向かう。
とにかく攻撃の速い魔物なので相性はよくないけど、だからって傍観しているわけにはいかないもの。
「アンジェラ、早くそこを離れて!!」
「え!?」
しかし、手伝おうと近付いたところ、かけられた声はまさかの否定。
次いで、ジュードが大慌てでこちらに向かって走ってきた。背後に見える影の腕は健在だし、一体何ごとかと思いきや、
直後に視界を染め上げる真っ白な光。――数秒をおいて、内臓に響くような重い轟音。
「またなの――ッ!?」
いい加減私も慣れろ!と言いたいとこだけど、間近への落雷音に慣れられるほど人間を辞めてはいない!
バチバチと爆ぜる音の混ざったそれは、お約束の破壊師弟の攻撃魔術だ。相変わらず、味方の耳にも大ダメージね!
「もう、加減しなさいよ!!」
「バカ言え、【誘う影】に加減なんぞできるか!!」
稲光が落ち着いてもジンジンする耳を押さえれば、カールの不機嫌そうな声が聞こえてくる。
それはもっともだけど、その魔物は貴方が名を呼ぶアンジェラなんだけど!? 本当にいいのか!?
「……あ、危なかった」
ジュードとは反対側へ避難した王子様とダレンも、魔術を回避できたようだ。
彼らの立ち位置のちょうど真ん中では、弱点の雷に打たれたコールタールの腕が、煙を上げながら消滅していっている。
「く、う……ッ!!」
その大元である聖女にも、当然甚大なダメージが入っただろう。離れていてもわかるほどに体を折り曲げ、苦痛に見悶えている。
……自分と同じ姿が苦しむところなんて、見てても面白くはないわね。
「……何にしても勝ちは勝ち。ボス魔物二体、きっちり倒させてもらったわ【無垢なる王】!!」
「うん、君たちは本当に強いね」
改めてサイファへ声をかければ、聖女へ歩み寄る彼は苦笑を浮かべながら答えた。
感情が動いたようには見えないけど、巨大な骨の塊と第三進化体の魔物だ。彼の手駒としても、こんなに簡単に失っていいものではないはずよ。
(さあ、次は何を出す?)
ゲーム的なボスラッシュなら、あとは【混沌の大蛇】が出てくるところだけど……それとも、精神攻撃が効かないとわかった以上、まだ戦っていない新種を出すかしら。
(聖女は……まだ戦えるのか)
覚醒体の魔物とは言え、彼女は今立て続けに攻撃を食らっている。【誘う影】も自分の一部のようなものだろうし、元々サポート役の聖女は直接戦闘はできないだろう。
さて、どうくるか。魔力の残量を確かめながら、グッと柄を握り直す。前衛全員に魔法をかけ続けているけど、まだ充分戦えそうだ。――ええ、絶対に勝ってみせますとも。
隣ではジュードやディアナ様も武器を構え直して、キッとサイファを睨みつけている。
……長いような短いような、睨み合いが続いた――その時だ、
「……何でしょう、あれ」
ウィリアムの呟きに、ハッと皆の視線が動いた。
サイファたちからはまた少し離れた場所に、人間ぐらいの大きさのものが湧き出ている。
当然ながら人ではなく、魔物の一種なのだろうけど……
「――え? 本当に何、アレ」
私もそれらを確認して、途端に間抜けな声が出てしまった。
比較的小型の魔物は、続々と湧き出てきている。人間のようなシルエットから虫のようだったり動物のようだったり、それぞれの形に統一感がない。
おまけに、表皮が溶けていたり中途半端に鱗がついていたり、どの個体もめちゃくちゃな作りだ。ある意味奇妙だけど、どちらかというと〝未完成〟な印象を受ける。
そして、ヤツらの頭上に浮かぶ敵ネームが……どれも異常だ。
見えるそれらは【No Name】【Unknown】【未登録】【0x80070002】など。
中には明らかに文字化けしたものまであり、ファンタジーには極めて似つかわしくない。
「なんなの、こいつら……」
ただ数だけが、ぞろぞろと増えていく。動きも速いわけではないので、まるでゾンビの行進のようだわ。
「強い魔物が倒されたから、物量戦に移行ってわけ?」
「まあ、そういうことになるかな。わたしは確かに魔物の創造主だけど、一度に動かせる魔物には限界があるんだよ」
魔物たちを睨みながら問えば、穏やかなままの口調でサイファが答える。
【無垢なる王】とて万能ではないのか。それとも、神様が制限をつけたのか。
……いずれにしろ、今の彼は第三進化体の魔物を召喚できない状態まで追い込まれている、とみていいだろうか。
あの奇妙な魔物たちも、数をそろえたせいで〝ちゃんとした形で召喚できない〟のだと。
「……僕らの勝利は目前ってことでいいかな?」
「だといいわね」
同じような意味で捉えたジュードが、迎撃ではなく攻め込む形に剣を構え直した。
数だけは増え続けているけど、ヤツらには聖女の影の守りはなさそうだ。なら、皆の魔法の付加を解いてもいいかしらね。
魔力に余裕はあるけど、ずっと命を削り続けるのも嫌だし。
――そんな、余裕を感じ始めていた瞬間、
ふいに、私の頭上が翳った
「え」
「アンジェラ!!」
とっさに動けなかった私をかばって、ジュードの剣が鈍い音とともに火花を散らせる。
間一髪で防がれたのは、同じく剣の刃。斬るというよりは叩きつけるような、厚みのある鋼鉄――西洋両手剣だ。
「……ッ!?」
防いだジュードも、刃を確認して言葉を失っている。
何せその武器は、かつての彼が使っていたものだ。
当然、今この場にそれを出せるのは一人しかいない。
「サイファ、貴方なんのつもりよ!!」
ずっと司令塔として傍観してきたサイファが、ジュードと剣を向け合っている。
白黒対象的だったはずの衣装まで、みるみる内に真っ黒な鎧に変わっていき……その対峙は正しく、今とかつてのジュード同士の戦いのようだ。
唯一色素の薄い頭の部分だけが、真っ黒い中で浮いて見える。
「アンジェラ殿、避けろ!!」
サイファの行動に驚いているヒマもなく、続けて響くのはディアナ様の声。
視線だけをそちらへ向ければ、先ほどまでノロノロしていた魔物たちが、こちらへ向けて一気に走り出していた。
「ちょっ……パニックホラー映画!?」
詳しくはないけど、最近のゾンビがアグレッシブになっているというのは聞いたことがある。
こちらへ向かってくる一群は正しくそんな様相で、形がガタガタの割にはずいぶんと速い。
「くっ!!」
突進を避けてメイスをふるえば、当然ながらジュードとは離れてしまう。
彼とサイファはそんな慌ただしい中でも、剣を交えたままジッと睨みあっていた。
「ジュード!!」
「彼は僕が引き受ける! それが、正しいはずだよ!!」
「その通り! 互いに『アンジェラ』という存在を愛した者だ。わたしたちは、わたしたちで決着をつけるべきなんだよ」
ギンッと鈍い音を立てて、二つの刃がようやく離れる。
ジュードの強さを侮るつもりはないけど、【無垢なる王】が自分で戦えるなんて想定外だ。スタイルはかつてのジュードの模倣のようだけど、実力は計り知れない。
――それに、彼らの戦いが〝正しい組み合わせ〟だというのなら。
「ッ!!」
死角から冷たい気配を感じて、慌ててメイスで防御する。
叩きつけられたのは細いコールタールの管だ。……彼らが彼らで戦うのなら、当然こっちはこうなるわよね。
「……貴女、戦えるの? 聖女様」
まだ肩で息をしている聖女が、細い腕を前に突き出しながら私を睨みつけている。
彼女を守るように蠢く影は健在だけど、最初と比べたらずいぶん弱々しくなっているようだ。
「サイファは殺させない。もう絶対に、殺させないわ!!」
お姫様のような白い礼装で、フラフラしながらも愛のために立つ少女。
……あーホントに、どっちが悪役だかわかんなくなってきたわ。
いや、命を削りながら戦っている私だって、まだヒロインの枠よね?
「私だって、負けられないのよ。彼のアンジェラとして生きると決めたからね!!」
【葬列の帰還】をほぼ怪我もなく倒しきった私とディアナ様は、呼吸を整えてから【誘う影】と戦っている男三人のほうへと向かう。
とにかく攻撃の速い魔物なので相性はよくないけど、だからって傍観しているわけにはいかないもの。
「アンジェラ、早くそこを離れて!!」
「え!?」
しかし、手伝おうと近付いたところ、かけられた声はまさかの否定。
次いで、ジュードが大慌てでこちらに向かって走ってきた。背後に見える影の腕は健在だし、一体何ごとかと思いきや、
直後に視界を染め上げる真っ白な光。――数秒をおいて、内臓に響くような重い轟音。
「またなの――ッ!?」
いい加減私も慣れろ!と言いたいとこだけど、間近への落雷音に慣れられるほど人間を辞めてはいない!
バチバチと爆ぜる音の混ざったそれは、お約束の破壊師弟の攻撃魔術だ。相変わらず、味方の耳にも大ダメージね!
「もう、加減しなさいよ!!」
「バカ言え、【誘う影】に加減なんぞできるか!!」
稲光が落ち着いてもジンジンする耳を押さえれば、カールの不機嫌そうな声が聞こえてくる。
それはもっともだけど、その魔物は貴方が名を呼ぶアンジェラなんだけど!? 本当にいいのか!?
「……あ、危なかった」
ジュードとは反対側へ避難した王子様とダレンも、魔術を回避できたようだ。
彼らの立ち位置のちょうど真ん中では、弱点の雷に打たれたコールタールの腕が、煙を上げながら消滅していっている。
「く、う……ッ!!」
その大元である聖女にも、当然甚大なダメージが入っただろう。離れていてもわかるほどに体を折り曲げ、苦痛に見悶えている。
……自分と同じ姿が苦しむところなんて、見てても面白くはないわね。
「……何にしても勝ちは勝ち。ボス魔物二体、きっちり倒させてもらったわ【無垢なる王】!!」
「うん、君たちは本当に強いね」
改めてサイファへ声をかければ、聖女へ歩み寄る彼は苦笑を浮かべながら答えた。
感情が動いたようには見えないけど、巨大な骨の塊と第三進化体の魔物だ。彼の手駒としても、こんなに簡単に失っていいものではないはずよ。
(さあ、次は何を出す?)
ゲーム的なボスラッシュなら、あとは【混沌の大蛇】が出てくるところだけど……それとも、精神攻撃が効かないとわかった以上、まだ戦っていない新種を出すかしら。
(聖女は……まだ戦えるのか)
覚醒体の魔物とは言え、彼女は今立て続けに攻撃を食らっている。【誘う影】も自分の一部のようなものだろうし、元々サポート役の聖女は直接戦闘はできないだろう。
さて、どうくるか。魔力の残量を確かめながら、グッと柄を握り直す。前衛全員に魔法をかけ続けているけど、まだ充分戦えそうだ。――ええ、絶対に勝ってみせますとも。
隣ではジュードやディアナ様も武器を構え直して、キッとサイファを睨みつけている。
……長いような短いような、睨み合いが続いた――その時だ、
「……何でしょう、あれ」
ウィリアムの呟きに、ハッと皆の視線が動いた。
サイファたちからはまた少し離れた場所に、人間ぐらいの大きさのものが湧き出ている。
当然ながら人ではなく、魔物の一種なのだろうけど……
「――え? 本当に何、アレ」
私もそれらを確認して、途端に間抜けな声が出てしまった。
比較的小型の魔物は、続々と湧き出てきている。人間のようなシルエットから虫のようだったり動物のようだったり、それぞれの形に統一感がない。
おまけに、表皮が溶けていたり中途半端に鱗がついていたり、どの個体もめちゃくちゃな作りだ。ある意味奇妙だけど、どちらかというと〝未完成〟な印象を受ける。
そして、ヤツらの頭上に浮かぶ敵ネームが……どれも異常だ。
見えるそれらは【No Name】【Unknown】【未登録】【0x80070002】など。
中には明らかに文字化けしたものまであり、ファンタジーには極めて似つかわしくない。
「なんなの、こいつら……」
ただ数だけが、ぞろぞろと増えていく。動きも速いわけではないので、まるでゾンビの行進のようだわ。
「強い魔物が倒されたから、物量戦に移行ってわけ?」
「まあ、そういうことになるかな。わたしは確かに魔物の創造主だけど、一度に動かせる魔物には限界があるんだよ」
魔物たちを睨みながら問えば、穏やかなままの口調でサイファが答える。
【無垢なる王】とて万能ではないのか。それとも、神様が制限をつけたのか。
……いずれにしろ、今の彼は第三進化体の魔物を召喚できない状態まで追い込まれている、とみていいだろうか。
あの奇妙な魔物たちも、数をそろえたせいで〝ちゃんとした形で召喚できない〟のだと。
「……僕らの勝利は目前ってことでいいかな?」
「だといいわね」
同じような意味で捉えたジュードが、迎撃ではなく攻め込む形に剣を構え直した。
数だけは増え続けているけど、ヤツらには聖女の影の守りはなさそうだ。なら、皆の魔法の付加を解いてもいいかしらね。
魔力に余裕はあるけど、ずっと命を削り続けるのも嫌だし。
――そんな、余裕を感じ始めていた瞬間、
ふいに、私の頭上が翳った
「え」
「アンジェラ!!」
とっさに動けなかった私をかばって、ジュードの剣が鈍い音とともに火花を散らせる。
間一髪で防がれたのは、同じく剣の刃。斬るというよりは叩きつけるような、厚みのある鋼鉄――西洋両手剣だ。
「……ッ!?」
防いだジュードも、刃を確認して言葉を失っている。
何せその武器は、かつての彼が使っていたものだ。
当然、今この場にそれを出せるのは一人しかいない。
「サイファ、貴方なんのつもりよ!!」
ずっと司令塔として傍観してきたサイファが、ジュードと剣を向け合っている。
白黒対象的だったはずの衣装まで、みるみる内に真っ黒な鎧に変わっていき……その対峙は正しく、今とかつてのジュード同士の戦いのようだ。
唯一色素の薄い頭の部分だけが、真っ黒い中で浮いて見える。
「アンジェラ殿、避けろ!!」
サイファの行動に驚いているヒマもなく、続けて響くのはディアナ様の声。
視線だけをそちらへ向ければ、先ほどまでノロノロしていた魔物たちが、こちらへ向けて一気に走り出していた。
「ちょっ……パニックホラー映画!?」
詳しくはないけど、最近のゾンビがアグレッシブになっているというのは聞いたことがある。
こちらへ向かってくる一群は正しくそんな様相で、形がガタガタの割にはずいぶんと速い。
「くっ!!」
突進を避けてメイスをふるえば、当然ながらジュードとは離れてしまう。
彼とサイファはそんな慌ただしい中でも、剣を交えたままジッと睨みあっていた。
「ジュード!!」
「彼は僕が引き受ける! それが、正しいはずだよ!!」
「その通り! 互いに『アンジェラ』という存在を愛した者だ。わたしたちは、わたしたちで決着をつけるべきなんだよ」
ギンッと鈍い音を立てて、二つの刃がようやく離れる。
ジュードの強さを侮るつもりはないけど、【無垢なる王】が自分で戦えるなんて想定外だ。スタイルはかつてのジュードの模倣のようだけど、実力は計り知れない。
――それに、彼らの戦いが〝正しい組み合わせ〟だというのなら。
「ッ!!」
死角から冷たい気配を感じて、慌ててメイスで防御する。
叩きつけられたのは細いコールタールの管だ。……彼らが彼らで戦うのなら、当然こっちはこうなるわよね。
「……貴女、戦えるの? 聖女様」
まだ肩で息をしている聖女が、細い腕を前に突き出しながら私を睨みつけている。
彼女を守るように蠢く影は健在だけど、最初と比べたらずいぶん弱々しくなっているようだ。
「サイファは殺させない。もう絶対に、殺させないわ!!」
お姫様のような白い礼装で、フラフラしながらも愛のために立つ少女。
……あーホントに、どっちが悪役だかわかんなくなってきたわ。
いや、命を削りながら戦っている私だって、まだヒロインの枠よね?
「私だって、負けられないのよ。彼のアンジェラとして生きると決めたからね!!」
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