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第一章 婚約破棄されたので魔王のもとに向かいます
20 聖カトミアル王国で実権を握っているのはジャンの父なのです
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(しかし、「国外追放を言い渡さねばなるまい」と、ただの騎士団の団長でしかない、ジャンに言われてしまうとはね……。この世界、いやこの国、ゲームとは言え、やはりかなりおかしいのよね)
本来ならば、爵位とは“王”が家臣に対して与えるものである。
そして、騎士とは、王である君主に仕えるものだ。騎士は、王から領地を賜り、その領土を、武力をもって守るべき存在であるはずだ。
他の貴族の持つ領地や爵位を剥奪する権利は、王が持つものである。一介の騎士が持っているはずがない。
国のトップに位置しているのは国王であり、本来、騎士とは王や国家を守るべき存在でしかないのだ。
しかし、聖カトミアル王国では、王よりも法王、そして修道会騎士団総長・ベルナール伯が絶大な力を持って、国を動かしている。政治的な実権を握っているのは、彼らなのだ。
ベルナール伯とは、ジャンの父にして、現宰相である。
聖カトミアル王国は、厳格な宗教国家だ。
1万年前に無からこの世をお創りになられたとされる、創造主ファシシュのみを信じる、ファシシュ教原理主義国家である。
しかし、この世界には、創造主ファシシュ以外の神を信じる異教徒もまた存在する。
もともと、修道会騎士団や聖堂騎士団は、そのような異教徒をこの世の中から駆逐するために編成された組織に過ぎなかった。
異教徒たちをすべてファシシュ教徒に改宗させれば、この世には安寧が訪れる。
ファシシュ教徒たちは、そう信じて疑わない。
この真理を広め世界に平和をもたらすために、伝道師たちは、聖カトミアル王国を出て、諸外国でもこの教えを説いて回るのだ。
しかし、伝道師たちがそのように説いても、「はい、そうですか」と教えを信じて恭順する国ばかりではない。当然、周辺の国家の中には、その教えに従わない者たちも多い。
たとえば、魔王と呼ばれるヴィネ、ヴィネが統治するアヴァロニア王国の民たちも、その中のひとつだ。
こういった者たちが存在する限り、この世に平和など訪れるずがない。
聖カトミアル王国のファシシュ教信者たちは、頑なにそう考えている。
この世のすべてを、創造神ファシシュを信じる者だけが住む楽園としなければならない。
そのため、従わない者たちに対して聖戦を行うのが、修道会騎士団とその下部に組織される聖堂騎士団の役目である。
今から数百年前。
異教徒たちの国家に対して、聖戦を仕掛け始めた当初は、まだ聖カトミアル王国の国王にも、国民や騎士たちを統率する力はあった、と伝えられている。
しかし、何百年と聖戦を繰り返すうちに、いつしか、その力関係は逆転してしまった。
王家は現在も存続しているが、王はもはやただのお飾りに過ぎない。
文官の長として法王が位置しており、武官の長としては修道会騎士団総長が位置している。
特に、近年、修道会騎士団の持つ権力はすさまじく、実質、この聖カトミアル王国の実権を握り、動かしているのは、ジャンの父であるベルナール伯なのだ。
つまり、王は傀儡に過ぎず、実のところ、ジャンの父が国のトップに立つ王に等しい存在なのである。
ジャンは肩書きこそ、聖堂騎士団の団長でしかない。しかし、他の国であれば「第一王子」と呼ぶにふさわしい、大きな権力をその手に掌握しているのである。
本来ならば、爵位とは“王”が家臣に対して与えるものである。
そして、騎士とは、王である君主に仕えるものだ。騎士は、王から領地を賜り、その領土を、武力をもって守るべき存在であるはずだ。
他の貴族の持つ領地や爵位を剥奪する権利は、王が持つものである。一介の騎士が持っているはずがない。
国のトップに位置しているのは国王であり、本来、騎士とは王や国家を守るべき存在でしかないのだ。
しかし、聖カトミアル王国では、王よりも法王、そして修道会騎士団総長・ベルナール伯が絶大な力を持って、国を動かしている。政治的な実権を握っているのは、彼らなのだ。
ベルナール伯とは、ジャンの父にして、現宰相である。
聖カトミアル王国は、厳格な宗教国家だ。
1万年前に無からこの世をお創りになられたとされる、創造主ファシシュのみを信じる、ファシシュ教原理主義国家である。
しかし、この世界には、創造主ファシシュ以外の神を信じる異教徒もまた存在する。
もともと、修道会騎士団や聖堂騎士団は、そのような異教徒をこの世の中から駆逐するために編成された組織に過ぎなかった。
異教徒たちをすべてファシシュ教徒に改宗させれば、この世には安寧が訪れる。
ファシシュ教徒たちは、そう信じて疑わない。
この真理を広め世界に平和をもたらすために、伝道師たちは、聖カトミアル王国を出て、諸外国でもこの教えを説いて回るのだ。
しかし、伝道師たちがそのように説いても、「はい、そうですか」と教えを信じて恭順する国ばかりではない。当然、周辺の国家の中には、その教えに従わない者たちも多い。
たとえば、魔王と呼ばれるヴィネ、ヴィネが統治するアヴァロニア王国の民たちも、その中のひとつだ。
こういった者たちが存在する限り、この世に平和など訪れるずがない。
聖カトミアル王国のファシシュ教信者たちは、頑なにそう考えている。
この世のすべてを、創造神ファシシュを信じる者だけが住む楽園としなければならない。
そのため、従わない者たちに対して聖戦を行うのが、修道会騎士団とその下部に組織される聖堂騎士団の役目である。
今から数百年前。
異教徒たちの国家に対して、聖戦を仕掛け始めた当初は、まだ聖カトミアル王国の国王にも、国民や騎士たちを統率する力はあった、と伝えられている。
しかし、何百年と聖戦を繰り返すうちに、いつしか、その力関係は逆転してしまった。
王家は現在も存続しているが、王はもはやただのお飾りに過ぎない。
文官の長として法王が位置しており、武官の長としては修道会騎士団総長が位置している。
特に、近年、修道会騎士団の持つ権力はすさまじく、実質、この聖カトミアル王国の実権を握り、動かしているのは、ジャンの父であるベルナール伯なのだ。
つまり、王は傀儡に過ぎず、実のところ、ジャンの父が国のトップに立つ王に等しい存在なのである。
ジャンは肩書きこそ、聖堂騎士団の団長でしかない。しかし、他の国であれば「第一王子」と呼ぶにふさわしい、大きな権力をその手に掌握しているのである。
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