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第一章 婚約破棄されたので魔王のもとに向かいます

19 魔女裁判は非科学的極まりないと思います②

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「お願いいたします……。そのような無体なことは、勘弁していただけますでしょうか……」

 ジャンやダミアン、ヴァレリーに見つめられた中で、ドレスを脱ぐなんてまっぴらごめんだ。
 悔しいが、私はアンリに懇願した。
 すると、アンリは、顎に手を当てて思案して見せる。

「う~ん、魔女の印を探すのが嫌だと言うのなら、ちょっと水に沈んでみる?」
「はあっ!!?」
「足を縛って、石の重しをつけて、川に沈んでもらうだけなんだけど……魔女なら、沈まないはずなんだよね」
「はあっ!? そ、そんなの、……沈むに決まっていますわ!」
「うん、大抵の人は沈むね。沈めば身の潔白を、証明できるんだけど……大抵、死んでしまうんだよねぇ……残念ながら」

(そりゃ、死ぬわ! このアンリって、プレイしてた時は、ただの女ったらしかと思っていたけど、サイコパスなんじゃないのか?!)

 いずれにせよ、私が魔女として断罪されるのが既定ルートなのであれば、そんな苦しい思いをしてまで裁判を受ける必要はない。
 さっさと罪を認めてしまった方が得策ではないか。

「そんな死ぬ危険性のある裁判なら、私、裁判を辞退いたしますわ」

「おい、待て。そなたは、辞退するということの意味をわかって言っているのか?」

 それまで、沈黙してアンリと私のやりとりを聞いていたジャンが口を開いた。

「ええ、私が自身を素直に魔女と認めればよいのですよね?」
「ああ、そういうことだ。ただし、魔女の烙印が押されれば、そなたはもう公爵令嬢でいられなくなるぞ。本当にいいのか?」
「ええ、わかっています」
「エレイン様、一時の感情でお決めにならない方がよいのではございませんか? 魔女ではないなら、水に沈められても身の潔白を証明できるわけですし……。きっと、沈んだことが確認できた途端、ここにいらっしゃる屈強な殿方たちが、エレイン様を川の底から救出してくださるはずですわ」

 このバカ女は何を言っているのか。
 同情する振りをして見せて、私が拷問を受けるのを見たいだけではないのか?
 川の底に沈んだからと言って、このバカ男たちが私を助けてくれる保証がどこにあるというのだろう。

「いいえ、もう結構です」

 私は、ジャンをはじめとする一同の前で胸を張った。

「私は魔女です。魔女ですから、素直に魔王のもとに参りますわ」

 まさか、こんなにも素直に、私が「魔女である」と自ら言い出すとは誰も予想していなかったのだろう。
 目の前には、唖然とした表情を浮かべたジャンたちがいた。

 それはそうだ、私が魔女となれば、その罪は私だけにとどまらない。当然父や母にも累が及ぶ。
 父は何も悪いことをしていないのに、爵位や領地を奪われてしまうことだろう。

「そなたが魔女だと認めるのであれば……。残念ながら、公爵閣下の爵位は剥奪となるであろう。国外追放を言い渡さねばなるまい。それでいいというのか?」

 ジャンが再度、私に問いかける。

「はい」

 私は、皆の前で頷いた。

(ああ、お父様、お母様、ごめんなさい! 婚約破棄と断罪は、悪役令嬢のエレインとして、避けられないイベントなのです。ですから、私は魔王のもとで一発逆転の人生を目指します!)

 頷きながら、私は心の中で父と母に詫びつつ、再起を誓った。
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