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第一章 婚約破棄されたので魔王のもとに向かいます
1 突然、婚約破棄を言い渡されました
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「エレイン・ド・サヴァティエ、私はそなたに婚約破棄を申し入れる」
広間には、聖堂騎士団の団長であるジャン・ノエル・ド・ベルナールの凜とした声が響き渡った。
今日は、創造神ファシシュがこの世をお創りになられたとされる聖なるファシシュの日。
その祝祭日を祝うため、宮中の広間には、着飾った多くの貴族たちが集まっていた。
ジャンの声に、周囲で輪舞を踊っていた人々が、動きを止める。
「私と……婚約破棄を……?」
「ああ、そうだ」
思いも寄らぬジャンの申し出に、私は、身体中から力が抜けていくのを感じた。
私とジャンは、親の決めた婚約者同士だ。
しかし、聖カトミアル王国の貴族の間では、当人の意思とは関係なく、家柄に見合った相手と結婚するのは当たり前のことだったし、そういう意味では、私とジャンは実にふさわしい間柄だったと思う。
代々、異教徒と聖戦の最前線で戦ってきた聖カトミアル王国修道会騎士団総長・ベルナール伯の息子であり、自らも聖堂騎士団を率いるジャン。
そして、聖カトミアル王国の草創期より、政治に関わり、宰相も多く排出してきた由緒正しき大貴族であるサヴァティエ公爵家。王家に嫁ぐこともできる名門、サヴァティエ家の長女として生まれ、公爵令嬢として最高の教育を受けてきた、私、エレイン。
今日まで、特に何の問題もなく、ごく普通の貴族の婚約者同士、うまくやってきていたはずだ……と思っていた、私だけは。
私は、くずおれてしまいそうな膝に力を入れ、問い返す。
「なぜですの? 私に何か落ち度がございましたか……?」
「ふ~ん、そうきたか。そなた、しらを切るつもりなのか」
ジャンの美しい唇が歪む。
苛立ちを隠さず、ジャンは右手で金色の髪をくしゃくしゃと掻き上げた。
「『しら』……? 私には、皆目、見当が付きませぬ」
「それを、『しらをきる』と言うのだ! そなた、ヴァレリー・フルニエ嬢にしてきた数々の非礼を忘れたとでも言うのか?」
「ヴァレリー嬢……?」
「そうだ、そなたより身分が低いからと言って、馬鹿にしているのではあるまいか?」
「ジャン様、エレイン様はそんな方ではございません!」
ジャンの横に立つ、可憐な美少女が口を開く。
甘いピンクブロンドのふわふわの巻き毛が、薄桃色のチュニックの上で踊っていた。
そういえば、そんな男爵令嬢がいた気がする。
もとは平民だったが、つい最近、爵位を買ったとかで、宮中に出入りを始めたとかいう、ご令嬢。
悪い子じゃないとは思う。いや、……思いたい。
ただ、出自のせいか、誰にでもいい顔をするクセがあるようで、そのために誤解をしてしまう殿方が多いのだ。
「自分は、ヴァレリー嬢に愛されている」と。
それで、殿方の方が暴走してしまい、うまくいかなくなったカップルがいくつもあるのだ。
そのことを注意したような記憶は……、確かに、ある。
それが、いけなかったと言うの……?
そんなことで、婚約破棄されてしまうと言うの──?
広間には、聖堂騎士団の団長であるジャン・ノエル・ド・ベルナールの凜とした声が響き渡った。
今日は、創造神ファシシュがこの世をお創りになられたとされる聖なるファシシュの日。
その祝祭日を祝うため、宮中の広間には、着飾った多くの貴族たちが集まっていた。
ジャンの声に、周囲で輪舞を踊っていた人々が、動きを止める。
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「ああ、そうだ」
思いも寄らぬジャンの申し出に、私は、身体中から力が抜けていくのを感じた。
私とジャンは、親の決めた婚約者同士だ。
しかし、聖カトミアル王国の貴族の間では、当人の意思とは関係なく、家柄に見合った相手と結婚するのは当たり前のことだったし、そういう意味では、私とジャンは実にふさわしい間柄だったと思う。
代々、異教徒と聖戦の最前線で戦ってきた聖カトミアル王国修道会騎士団総長・ベルナール伯の息子であり、自らも聖堂騎士団を率いるジャン。
そして、聖カトミアル王国の草創期より、政治に関わり、宰相も多く排出してきた由緒正しき大貴族であるサヴァティエ公爵家。王家に嫁ぐこともできる名門、サヴァティエ家の長女として生まれ、公爵令嬢として最高の教育を受けてきた、私、エレイン。
今日まで、特に何の問題もなく、ごく普通の貴族の婚約者同士、うまくやってきていたはずだ……と思っていた、私だけは。
私は、くずおれてしまいそうな膝に力を入れ、問い返す。
「なぜですの? 私に何か落ち度がございましたか……?」
「ふ~ん、そうきたか。そなた、しらを切るつもりなのか」
ジャンの美しい唇が歪む。
苛立ちを隠さず、ジャンは右手で金色の髪をくしゃくしゃと掻き上げた。
「『しら』……? 私には、皆目、見当が付きませぬ」
「それを、『しらをきる』と言うのだ! そなた、ヴァレリー・フルニエ嬢にしてきた数々の非礼を忘れたとでも言うのか?」
「ヴァレリー嬢……?」
「そうだ、そなたより身分が低いからと言って、馬鹿にしているのではあるまいか?」
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甘いピンクブロンドのふわふわの巻き毛が、薄桃色のチュニックの上で踊っていた。
そういえば、そんな男爵令嬢がいた気がする。
もとは平民だったが、つい最近、爵位を買ったとかで、宮中に出入りを始めたとかいう、ご令嬢。
悪い子じゃないとは思う。いや、……思いたい。
ただ、出自のせいか、誰にでもいい顔をするクセがあるようで、そのために誤解をしてしまう殿方が多いのだ。
「自分は、ヴァレリー嬢に愛されている」と。
それで、殿方の方が暴走してしまい、うまくいかなくなったカップルがいくつもあるのだ。
そのことを注意したような記憶は……、確かに、ある。
それが、いけなかったと言うの……?
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