約束 〜幼馴染みの甘い執愛〜

紺乃 藍

文字の大きさ
86 / 95
最終章 Side:愛梨

23話

しおりを挟む

 扉が閉まるパタンという音が聞こえた気がして、浅い眠りからふっと意識が浮上する。うっすらと目を開けると、そこは自分のベッドの上だった。仄暗い室内で視線を動かすと、扉を閉めた人影がベッドの傍に近付いてきた。

「……ユキ…?」
「あぁ、愛梨。起きた?」

 声を発すると、雪哉も愛梨の目覚めに気付いたらしい。パチ、と音がしてベッドの傍にあったスタンドライトにオレンジ色が灯ると、雪哉がそっと顔を覗き込んできた。

「身体辛い?」
「え、いや……大丈夫、だけど…」

 体調を確認されてぼんやりと答える。手を動かすと一応布団が掛けられているが、その下は何も身につけていない状態だと気付く。

 そこでようやく自分が置かれている状況を思い出した。自分のベッドに裸で入ったことなどあるはずもなく奇妙な羞恥心を感じたが、雪哉が

「恥ずかしい?」

 と笑いながら耳元に問いかけてくるので、急激に先程の体験を思い出して一気に覚醒した。

 雪哉との行為の最初から最後までを映像付きで高速再生した愛梨は、ぼんっと発火した顔を両手で慌てて包み込む。

(ユキは恥ずかしくないの……?)

 愛梨は顔から火が出そうなほど恥ずかしかったのに。あんなに近くで雪哉の体温と香りを感じて、本当の意味では知らなかった雪哉の『15年間』をまざまざと教え込まれて、もういっぱいいっぱいだったのに。しかも雪哉も、苦しそうな顔までしてたのに。

 普通に立って歩いてる。愛梨は……多分、今はまだ立てないと思うのに。

「あれ? ユキ、服が違う…?」

 ベッドに腰掛けて顔を覗き込んでくる雪哉の服装が記憶と異なる。確か先程までは裸で、その前まではスーツを着ていた筈なのに、今は見たことがない薄手のロングシャツとスウェットを身に着けている。

「ああ、勝手に鍵借りてごめん。1回、着替え取りに家に帰ったから」

 あっけらかんと言う雪哉に驚きはしたものの、結局『はぁ』と気の抜けた返事をする。どうやら愛梨が眠っている間に、この部屋の鍵を施錠して一旦帰宅し、着替えて必要なものを手にし、またこの部屋に戻って来たようだ。言われて時刻を確認すると丁度日付を跨いだところ。愛梨が眠っていたのは2時間程らしい。

「そのまま帰ったらよかったのに…」

 もう週末だし、雪哉も疲れているはずだ。新聞受けから中に鍵を入れて、メッセージでも残して置いてくれればそれでよかったのに。なんて考えていると、雪哉の指先が愛梨の頬をむにっと摘まみ上げた。

「愛梨? それ、彼氏に対して言う言葉?」

 にっこりと意地悪な笑顔を浮かべた雪哉だが、怒っている様子はない。むしろ嬉しそうだ。

(彼氏……ユキは、彼氏、なんだ……)

 その顔を眺めながらぼんやりと思う。ごく自然に『彼氏』だと主張してくる雪哉には一切の迷いも淀みもない。甘い関係へ色変わりした響きを胸の奥に掴まえ、愛梨は1人でこっそりと照れた。

 思い出すと、また恥ずかしくなる。散々『初めては痛い』と周りに笑って脅され、実際確かに痛かったが、思ったよりは、気持ちよかった。と思う。でもそれ以上に恥ずかしかった……。

「勝手にシャワー借りたけど、何かすごい甘い香りがする」

 照れに照れを上塗りしていると、雪哉が腕を動かして自分の身体の香りを確かめ出した。どうやら一旦自宅に赴き、風邪を引かないように戻ってきてからこの部屋でシャワーを浴びたようだ。よく見ると雪哉の黒髪はまだしっとりと濡れている。

「ほんとだ……ユキから甘い匂いがする」

 雪哉の手を取って香りを確かめると、愛梨の好きな花の香りが広がった。SUI-LENでは洗顔料とボディーソープの取り扱いはあるが、シャンプー類の開発が進んでおらず使用しているのは自社製品じゃない。

 愛梨が気に入って使っているシャンプーはフローラルな甘い香りがするので、男性はあまり好まないのかもしれない。

 ユキはこの香り嫌い?
 鼻先に近付けていた雪哉の手を離しながら、そんな事を訊ねようと顔を上げると、熱を含ませた視線がまたじっと愛梨を見下ろしていた。

「もう1回しようか、愛梨」
「え、え……!?」

 何を、と言うのは聞かなくてもわかる。ベッドに乗り上げて上に跨ってきた雪哉が、愛梨の身体をシーツの上に押し戻してくる。そのまま顔の横に両肘をつき顔を近付けられた。

「いや、無理無理無理」
「無理って言わないの」

 甘美な視線で誘う雪哉の片腕が顔の隣から外され、そのまま下に降りていく。そして裸の肌をゆっくりと撫でられると、布越しに触れた場所が、またほんのりと熱を持つ。

「俺は、何回しても全然足りない」

 まだ15年分の感情を表現しきれていなくて、15年分の愛梨の感覚を取り戻していない。

 そう言って首筋に舌を這わせる雪哉の力には適わず、愛梨はまた甘い声を上げさせられ、夜の長さを味わった。

しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

小野寺社長のお気に入り

茜色
恋愛
朝岡渚(あさおかなぎさ)、28歳。小さなイベント企画会社に転職して以来、社長のアシスタント兼お守り役として振り回される毎日。34歳の社長・小野寺貢(おのでらみつぐ)は、ルックスは良いが生活態度はいい加減、デリカシーに欠ける困った男。 悪天候の夜、残業で家に帰れなくなった渚は小野寺と応接室で仮眠をとることに。思いがけず緊張する渚に、「おまえ、あんまり男を知らないだろう」と小野寺が突然迫ってきて・・・。 ☆全19話です。「オフィスラブ」と謳っていますが、あまりオフィスっぽくありません。 ☆「ムーンライトノベルズ」様にも掲載しています。

甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・

希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!? 『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』 小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。 ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。 しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。 彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!? 過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。 *導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。 <表紙イラスト> 男女:わかめサロンパス様 背景:アート宇都宮様

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

最推しと結婚できました!

葉嶋ナノハ
恋愛
入社二年目の奥寺夕美(24)は、社長である神原千影(29)を推していた。顔良し、性格良し、仕事も出来る完璧な千影の幸せを願いながら、誰にも秘密の推し活を楽しんでいた夕美。だがある日、遠くから見るだけで良いと思っていた千影と、なぜかお見合いをすることに。夕美を気に入っていた千影は結婚を前提に付き合いたいと言ってくる。晴れて千影と恋人になった夕美だが、彼に内緒で密かに推し活を続けていた。一方、優しくて穏やかな千影は夕美を大切にしてくれるが、彼もまた夕美に話せない秘密を持っていて……!? 一途に社長を推すOLヒロインと、ヒロインを溺愛する執着ヒーローのお話です。(ムーンライトノベルズ、エブリスタにも掲載中)

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

年下ワンコは狼でした

音無野ウサギ
恋愛
「恋って楽しいことだけでいいの?」 森野スミレはいつものBARで一人ごちた。30歳の足音が近づくにつれ仲良したちが結婚しはじめて気付けば一人で飲み歩くようになっていたそんなある日のこと。 「人生ちゃんと考えないと!」ふわふわ恋愛からの卒業を誓うスミレに声をかけてきたのはかわいい年下くん。 どう考えても最後の恋の相手になりそうにない彼なのに昔の飼い犬を思わせるかわいさに絆されて一杯だけ付き合うことに。 戸瀬つぐみさま企画「はじめまして恋におちました」参加作品です。 #はじ恋企画 他サイトでも公開しています。

処理中です...