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最終章 Side:愛梨
24話
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『おはよう、愛梨。今日なんか予定ある?』
朝早くに雪哉から入ったメッセージを、寝ぼけ眼で確認する。
仕事で昨日までの3日間福岡に行ってくると聞いていたから、てっきり今日はまだ疲れて寝ていると思った。なのに雪哉は、愛梨より早く起きているらしい。
ぼんやりする頭で予定はないと返答すると
『じゃあ出掛けよう。迎えに行くから』
と、すぐに返事が返って来た。眠たい頭で雪哉と会う時間を決めて、もぞもぞと身支度を開始する。元気な彼氏と異なり、愛梨は休日は昼まで眠っていたい派だ。
雪哉は愛梨と離れて15年の歳月を過ごすうちに、嘘をつくのが本当に上手になったようだ。
愛梨が雪哉と恋人になったあの日、副社長に呼び出されて事情を説明したので、週明けにはゴシップのネタにされるかもしれないと言われていた。だから愛梨は相当びくびくしながら出社したと言うのに、実際は誰かに問い詰められる事はなかった。
どういう事かと雪哉に聞くと、週明けには会社中の人が知ってる『かもしれない』とは言ったけど、絶対そうなるなんて言ってない、と悪気もなく笑われた。
といいつつ副社長に呼び出された所までは本当の話らしく、社内でたまたま遭遇したまだ若い副社長に『あ、もしかして君が雪哉くんの彼女? 大変だねえ、頑張ってねえ』とニコニコ笑われてしまった。
何が本当で何が嘘なのかわからなくなり、怒りのまま雪哉を殴ってやりたい気持ちになったが、雪哉を殴って玲子と友理香と崎本課長に恨まれるのは怖かった。仕方がないので、頭の中で雪哉を思い切り踏みつけるだけで愛梨のささやかな復讐は幕を閉じた。
弘翔にことの経緯と現在の状況を報告すると、弘翔は『よかったじゃん』『愛梨が幸せなら、俺はそれが1番だから』と笑ってくれて、少し胸が切なくなった。弘翔はやっぱり弘翔で、愛梨が安心できる存在である事はこれからもきっと変わらない。
弘翔のそんな笑顔にぼんやり見惚れていると、たまたま通りかかった雪哉に腕を掴まれ、そのまま通訳室に引きずって行かれた。
中学1年生の頃から、雪哉に対する周りの評価は『クール』『大人っぽい』といった声が多いが、実際はぜんぜんそんなことはない。雪哉はかなり嫉妬深くて、友理香や浩一郎がいないと通訳室に連れ込まれて説教をされることがあるので、油断がならない。付き合い出してからずっとこんな調子で、愛梨と雪哉の関係が社内で噂にならないのが逆に不思議なぐらいだ。
もしかして派遣の通訳は暇なのかな?と思ったが、実際は本当に暇らしい。というより、暇に『なってきた』ようだ。
プロジェクトの概要をインプットし、関連する既存資料の翻訳作業をおおよそ終え、ビジネス語学講座の運用が軌道に乗ると、クライアント先に毎日出社する必要はなくなる。外出や出張、大きな商談などで通訳を必要とする場合は来社するが、それ以外は雪哉も週に数回の勤務に変更になるため、社内で会う事が滅多になくなると聞かされた。
また嘘ついてるんじゃないのかなぁと疑心暗鬼になっていたところで、雪哉はやっぱり愛梨に嘘をついた。いや、今回は嘘というより、騙し討ちだった。
朝早くに雪哉から入ったメッセージを、寝ぼけ眼で確認する。
仕事で昨日までの3日間福岡に行ってくると聞いていたから、てっきり今日はまだ疲れて寝ていると思った。なのに雪哉は、愛梨より早く起きているらしい。
ぼんやりする頭で予定はないと返答すると
『じゃあ出掛けよう。迎えに行くから』
と、すぐに返事が返って来た。眠たい頭で雪哉と会う時間を決めて、もぞもぞと身支度を開始する。元気な彼氏と異なり、愛梨は休日は昼まで眠っていたい派だ。
雪哉は愛梨と離れて15年の歳月を過ごすうちに、嘘をつくのが本当に上手になったようだ。
愛梨が雪哉と恋人になったあの日、副社長に呼び出されて事情を説明したので、週明けにはゴシップのネタにされるかもしれないと言われていた。だから愛梨は相当びくびくしながら出社したと言うのに、実際は誰かに問い詰められる事はなかった。
どういう事かと雪哉に聞くと、週明けには会社中の人が知ってる『かもしれない』とは言ったけど、絶対そうなるなんて言ってない、と悪気もなく笑われた。
といいつつ副社長に呼び出された所までは本当の話らしく、社内でたまたま遭遇したまだ若い副社長に『あ、もしかして君が雪哉くんの彼女? 大変だねえ、頑張ってねえ』とニコニコ笑われてしまった。
何が本当で何が嘘なのかわからなくなり、怒りのまま雪哉を殴ってやりたい気持ちになったが、雪哉を殴って玲子と友理香と崎本課長に恨まれるのは怖かった。仕方がないので、頭の中で雪哉を思い切り踏みつけるだけで愛梨のささやかな復讐は幕を閉じた。
弘翔にことの経緯と現在の状況を報告すると、弘翔は『よかったじゃん』『愛梨が幸せなら、俺はそれが1番だから』と笑ってくれて、少し胸が切なくなった。弘翔はやっぱり弘翔で、愛梨が安心できる存在である事はこれからもきっと変わらない。
弘翔のそんな笑顔にぼんやり見惚れていると、たまたま通りかかった雪哉に腕を掴まれ、そのまま通訳室に引きずって行かれた。
中学1年生の頃から、雪哉に対する周りの評価は『クール』『大人っぽい』といった声が多いが、実際はぜんぜんそんなことはない。雪哉はかなり嫉妬深くて、友理香や浩一郎がいないと通訳室に連れ込まれて説教をされることがあるので、油断がならない。付き合い出してからずっとこんな調子で、愛梨と雪哉の関係が社内で噂にならないのが逆に不思議なぐらいだ。
もしかして派遣の通訳は暇なのかな?と思ったが、実際は本当に暇らしい。というより、暇に『なってきた』ようだ。
プロジェクトの概要をインプットし、関連する既存資料の翻訳作業をおおよそ終え、ビジネス語学講座の運用が軌道に乗ると、クライアント先に毎日出社する必要はなくなる。外出や出張、大きな商談などで通訳を必要とする場合は来社するが、それ以外は雪哉も週に数回の勤務に変更になるため、社内で会う事が滅多になくなると聞かされた。
また嘘ついてるんじゃないのかなぁと疑心暗鬼になっていたところで、雪哉はやっぱり愛梨に嘘をついた。いや、今回は嘘というより、騙し討ちだった。
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