53 / 95
5章 Side:愛梨
7話
しおりを挟む日頃の疲れを解放するように、目覚まし時計もかけずに気が済むまで眠り続けた。ほぼ同時に目を覚ました弘翔に顔を覗き込まれて、体調を確認される。
「身体辛い?」
「ううん。ちょっとお腹痛いだけ」
痛いのはお腹よりもう少し下だが、男性には存在しない器官なのでお腹が痛いという事で説明を省かせてもらう。
少し心配そうな顔をした弘翔に笑顔を作ると、2人でだらだらと動き出した。適当にブランチを済ませて顔を洗うとすぐに手持ち無沙汰になったので
「ゲームしよ、ゲーム」
と弘翔を誘った。
「愛梨、結構ゲーム好きだよな」
「うん。RPGはやらないけど、パズル系とアクション系は昔から結構好き。あと音楽系」
ゲーマーという程ではないが、弘翔の家にはテレビやネットで話題になっているテレビゲームが一通り揃っている。実家から持ってきたものもあるようで、中には懐かしいソフトも紛れていた。
愛梨がその中からレースゲームを選ぶと、準備のためにケーブルを解いていた弘翔に、首を傾げながら問いかけられる。
「河上さんとしてたの?」
起きてから今この瞬間まですっかり忘れていた人物の名前を出され、思わず黙る。
脳裏に浮かんだ昨日のキスを思い出さないように懸命に精神統一を図りながら顔を上げると、何故か弘翔の視線が泳いでいた。愛梨はふと、その視線の意味に気付く。
「……いじわる……?」
「や、違う。ごめんごめん」
どうやら探りを入れられていたらしい。気になっていることを素直に気になっていると言えないところも、弘翔の可愛いところだ。子供っぽいやり口で愛梨の過去を確かめようとした弘翔に、思わずくすくすと笑ってしまう。
「それもあるけど、うち弟がゲーム好きで。割と何でも揃ってたから」
嘘をつく必要などないので、ありのままを説明する。確かに小学校を卒業するまでは、雪哉ともよくテレビゲームをして遊んでいた。けれど雪哉と離れてからも、弟とたまに遊んでいたのでその話に偽りはない。
(こういう事は、話せるんだけどな)
秘密のウェイトが違う。昨日の資料室での出来事はヘビー級だが、昔の思い出話などせいぜいライト級だ。本当は弘翔に隠し事などしたくないのに、話すと全てが崩壊してしまいそうで、とても口には出せそうにない。
何とか溜息を押し隠して、コントローラーを握る。
画面の中では、愛梨が選んだ女の子のレーサーがトラップやアイテムが散りばめられたコースを爆走していく。見事に1着でゴールしたキャラクターがくるりと踊ると、まんまと愛梨に出し抜かれた弘翔が、ちぇっと唇を尖らせた。
「ちゃんと上手いなぁ。画面と一緒に体が傾くレベルだと思ってたのに」
「えー? 体動かしても、画面の中は動かないでしょ」
「いやいや、それは愛梨が出来るからだって。出来ない子はホントに体傾くの」
そう言われて思い出す。弘翔の言う通り、同級生の女子はテレビゲームをやると画面の中のキャラクターにつられて本人の身体も動いたり傾いたりしていた。けれどそういう子は、決まってテレビゲームなどに全く興味のない子だ。
女子同士でつるんでは流行の文房雑貨や少女漫画などに熱量を注ぎ、中学校に入る頃にはいち早く色恋沙汰に身を投じる、いわゆる女子力の高い子たち。男勝りだった愛梨とは早々に趣味が合わなくなった、女子の中の女子だ。
11
あなたにおすすめの小説
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
小野寺社長のお気に入り
茜色
恋愛
朝岡渚(あさおかなぎさ)、28歳。小さなイベント企画会社に転職して以来、社長のアシスタント兼お守り役として振り回される毎日。34歳の社長・小野寺貢(おのでらみつぐ)は、ルックスは良いが生活態度はいい加減、デリカシーに欠ける困った男。
悪天候の夜、残業で家に帰れなくなった渚は小野寺と応接室で仮眠をとることに。思いがけず緊張する渚に、「おまえ、あんまり男を知らないだろう」と小野寺が突然迫ってきて・・・。
☆全19話です。「オフィスラブ」と謳っていますが、あまりオフィスっぽくありません。
☆「ムーンライトノベルズ」様にも掲載しています。
甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・
希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!?
『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』
小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。
ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。
しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。
彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!?
過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。
*導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。
<表紙イラスト>
男女:わかめサロンパス様
背景:アート宇都宮様
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
最推しと結婚できました!
葉嶋ナノハ
恋愛
入社二年目の奥寺夕美(24)は、社長である神原千影(29)を推していた。顔良し、性格良し、仕事も出来る完璧な千影の幸せを願いながら、誰にも秘密の推し活を楽しんでいた夕美。だがある日、遠くから見るだけで良いと思っていた千影と、なぜかお見合いをすることに。夕美を気に入っていた千影は結婚を前提に付き合いたいと言ってくる。晴れて千影と恋人になった夕美だが、彼に内緒で密かに推し活を続けていた。一方、優しくて穏やかな千影は夕美を大切にしてくれるが、彼もまた夕美に話せない秘密を持っていて……!? 一途に社長を推すOLヒロインと、ヒロインを溺愛する執着ヒーローのお話です。(ムーンライトノベルズ、エブリスタにも掲載中)
魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――
包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~
吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。
結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。
何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。
年下ワンコは狼でした
音無野ウサギ
恋愛
「恋って楽しいことだけでいいの?」
森野スミレはいつものBARで一人ごちた。30歳の足音が近づくにつれ仲良したちが結婚しはじめて気付けば一人で飲み歩くようになっていたそんなある日のこと。
「人生ちゃんと考えないと!」ふわふわ恋愛からの卒業を誓うスミレに声をかけてきたのはかわいい年下くん。
どう考えても最後の恋の相手になりそうにない彼なのに昔の飼い犬を思わせるかわいさに絆されて一杯だけ付き合うことに。
戸瀬つぐみさま企画「はじめまして恋におちました」参加作品です。
#はじ恋企画
他サイトでも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる