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5章 Side:愛梨
8話
しおりを挟む「どーせ昔から男っぽいですよーだ」
「え、そこ拗ねるとこ?」
「だって弘翔の今までの彼女は、ゲームなんかやらない女子力高い子ばっかりだったんでしょ?」
つん、とそっぽを向く振りをする。
別に不快感はなかったが、弘翔の歴代の彼女と自分のタイプが全然違うと指摘されているような気がして、何となく悔しかった。その感情を逃すように、顔を背けただけだったのに。
「………やきもち?」
弘翔にそっと確認されてしまう。
「え、やっ……! 違うよ!?」
「あーもう、可愛いな。困るなー、ほんと」
少しずれた方向に解釈したらしい弘翔に思い切りぐしゃぐしゃと髪を撫でられ、思わず『もう!違うから!』と声が出た。ゲームに負けて悔しそうにしていたはずの弘翔が、急に嬉しそうな笑顔になる。
「ちなみにホラーゲームもあるけど」
「絶ッ対!! 無理!!」
愛梨を揶揄うと決め込んだ弘翔に全力で抵抗する。けれど頭の中では全く別の事を考えてしまう。
(やきもち……)
弘翔の言葉を反復する。やきもち、嫉妬。昨日雪哉に言われた『彼氏に嫉妬してる』との発言と重なる。
今の愛梨は、弘翔をがっかりさせていたら申し訳ないと思う気持ちと、女子力の底上げを頑張ればいいんでしょうと闘争心に火が付いたような悔しい気持ちが半々だった。
(ユキはこういう気持ちってこと?)
別の異性と比較され、自分よりも相手の方が優れていると言われたように感じた、少しの敗北感と虚脱感。けれど比較されたところで事実はどうにもならない。だから、それはそれとしてサラッと諦められる程度の些細な気持ち。
これがやきもち、嫉妬なのだとしたら。
(こんなの、全然大したことないじゃん。弘翔に言われて初めて気付いたぐらいだもん)
やきもちや嫉妬がこの程度の感情だと言うのなら、やはり雪哉はやりすぎている。このぐらい『なんだかつまらない』と思う程度で、自分で折り合いをつけて、自分で処理すべき感情だ。この程度の感情で、恋人がいる相手に無理矢理キスするなんてひどすぎる。
「ん?」
またも雪哉の事を考えてしまい、自分はどうにかしているんじゃないかと思ったところで、ベッドに置いてあったスマートフォンの音が鳴った。メッセージを受信したことに気付き、ロックを解除する。
『今、何してる?』
短いメッセージを送って来たのは、雪哉だった。気付いた瞬間、動きがピタリと停止する。
雪哉のことを考えてしまったせいで、引き寄せてしまったのかもしれないと妙な錯覚をする。昨日の今日で、よく普通に連絡して来れるなあと思ったのも、ほんの1秒だけ。
弘翔が気付く前にメッセージアプリを閉じて、そのまま元のベッドの上に放り投げる。
「どした? 玲子から?」
「ううん。ただの迷惑メール」
返信もせずにスマートフォンを手放した愛梨を見て、弘翔が首を傾げた。咄嗟に嘘を付くが、1度深呼吸するとあながち嘘を付いたわけでもないような気がしてきた。
(ほんと、迷惑だよ)
ある意味では、迷惑メールだ。
弘翔にまた小さな嘘をついてしまった。それを強要された訳ではないが、今の状況と心情のまま素直にメッセージの差出人を告げるのは躊躇われ、結局また雪哉の術中にはまっているような気がする。
(私は、弘翔の事が好き)
なのに。
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