金の野獣と薔薇の番

むー

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番外編 瑠可/楓

番外編【後日談】 瑠可のおうちの話 前編

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楓の番になると決心した日。

「番になる前に、瑠可の家族に挨拶行っていいか?」

楓が言った。
なんか結婚の挨拶みたい!

ボクは浮かれて、帰宅後すぐ実家に電話した。

『はい、深月です』
「…あ…お義母さん。ボク、瑠可です」
『…何ですか?』

家ではほとんど話したことがないお義母さんの声に、ボクは一気に緊張した。

「…あ、あの…」
『………』

顔が見えないこの沈黙が怖いけど、拳を握って声を振り絞る。

「あ、あのっ…会って欲しい人が居るんだ。お父さんとお義母さんと…お兄ちゃんも居る日に」
『……それは、番予定の相手なの?』
「うん」

耳に響く冷たいお義母さんの声に、震える声で返事をすると、はぁーと大きなため息が聞こえた。

『電話で話すことではないけど、あなたの結婚相手はお父さんが決めるから、番を作ることは認められないわ。その人も連れてこないでちょうだい』
「ぇ…。そ、そんな話聞いてない!」
『お父さんが決めることをあなたに話す必要がある?……じゃあ、切るわよ』

電話を切られた。
涙が出そうになって必死に堪えて、楓に『忙しくて時間が取れないって』とメッセージを送った。
すぐに楓から電話が来た。

「も、もしもし」
「瑠可…大丈夫か?」
「……っ、か、かえでぇ…」

堪えていた涙は楓の声で簡単に流れた。

「まあ、簡単にいくとは思ってなかったし気にするな」
「で、でも…」
「俺から連絡するよ」
「だっ、ダメっ!もう一度ボクから連絡するから、待って」

そう言って電話を切った。


とはいえ、完全門前払いのお義母さんを頑張って説得できても、お父さんまでいくのは難しい。
そもそも、お義母さんの攻略すらできないかも…。
考えれば考えるほど弱気になる。

頭を抱えていると、また電話が鳴った。
スマホの画面を見ると実家からだった。

「…も、もしもし…」
『瑠可?』
「えっ…お兄、ちゃん?』
『ああ』

受話器からは久しぶりに聞く兄の声だった。
最後に口を交わしたのは、中3の夏休みのあの時だ。

「ど、どうしたの?」
『お前、僕たち家族に紹介したい人がいるんだろ』
「なんで…」
『さっき、母さんから聞いた。……瑠可、2週間後の日曜日、その人を家に連れて来れるか?』

2週間後は、確か楓とデートの予定だ。
水族館に行く計画をしている。

「たぶん、大丈夫だと思う。会う予定だったから」
『一応確認して、分かったら家電じゃなく僕の携帯の方に連絡して』
「う、うん」
『じゃあ』

そう言ってお兄ちゃんは電話を切った。
えっ?
どういうこと?


❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎

2週間後。

楓と一緒にボクの実家に着いた。
約束は14時だ。

「瑠可、緊張してる?」
「き、緊張……するに決まってるでしょ…」

緊張のあまりカタカタ震える手を楓に見せると、楓はぷっと笑ってその手を握ってくれた。
その手はボクよりちょっとだけ冷たくて、楓も緊張しているんだって分かった。
それだけでボクの震えは治った。

「じゃあ、行くぞ」
「うん!」

呼び鈴を押した。


我が家の応接室のソファーにボクと楓、向かいのソファーにはボクの両親、横の1人掛けにはお兄ちゃんが座った。
お父さんは不機嫌丸出しの渋い顔で、お義母さんとお兄ちゃんは無表情だ。

「初めまして、如月楓と申します。瑠可くんと交際させていただいています」

凍りつくような空気を破るように楓が口を開いた。

「今回、ご挨拶させていただいたのは」
「楓くんと言ったかな。瑠可には然るべき相手と卒業後に籍を入れ番になる予定ですので、申し訳ないが今すぐ別れていただきたい」
「なっ、お父さんっ」

不躾なお父さんの話に抗議しようとしたボクの手を楓が握り引き止めた。
その目は「大丈夫だ」と言っていた。

「君はまだ若いし、見目も良い。これからもっと良い出会いがあるのだから、瑠可に拘る必要はないだろう。それに瑠可はオメガだ。親として、より良い相手と番って幸せになって欲しいんですよ。君には理解できないかもしれないだろうけど」

一方的なお父さんの言葉はボクの気持ちを無視したもので、ボクの心を抉るものだった。
横目で楓を見ると、眉がピクピクと動いていて、握る手が少し強くて怒っているのが分かった。

「確かに俺はアルファで、まだ学生です。瑠可を支えられる力はまだありませんが、一生をかけて守る覚悟はあります」
「楓…」

かっこよくて泣きそうになる、
もうこれってプロポーズだよね。

「ダメなものはダメだ。私は忙しいから話はこれで終いだ。おい、帰って頂きなさい」
「お父さんっ」

お義母さんは無表情が崩れて少し困惑した顔をしていたけど、お父さんに逆らえずに立ち上がろうとした。

「あ…」
「いい加減にしろよ」

楓の言葉を遮ったのはお兄ちゃんだった。
これには全員が驚いて一斉にお兄ちゃんを見た。

「しゅ、愁、どうしたの?」

お義母さんは困惑した顔でお兄ちゃんに声を掛けた。

「どうしたもこうしたもない。…何が親としてだよ。父さんは子供のことを母さんに押しつけて何もしてないじゃないか。そうやって父さんはどれだけ母さんを傷つけているか分かってないだろ。そのせいで瑠可も」
「やめなさい」

パシッ

お義母さんがお兄ちゃんを叩いた。
その目には涙が溢れていた。

「やめないよ。だって、母さん、瑠可のこと嫌いじゃないでしょ?」
「……えっ……」

お兄ちゃんの言葉にボクは声を失った。
お母さんはボクのこと嫌いじゃないの?
思わず楓の方を向くと、楓は微笑みながら頷いた。

「父さんが…父さんが他所で女作って母さんを蔑ろにしたから、…瑠可を引き取った後も黙って押し付けたから、母さんはこんなにも苦しんだんじゃないかっ。それに、母さん。瑠可を寮があるあの学園に入れたのは、本当は瑠可を守るためだろ」
「……お願い…もう、やめて」

お義母さんはソファーに崩れ落ちる様に座り込み、顔を手で覆って静かに泣いた。


____________________

後半は0時更新予定です。
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