金の野獣と薔薇の番

むー

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本編

4月 ③

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目を開けると懐かしい天井が見えた。
ここは、7歳になるまでいたオレの部屋だ。

「ゆう」

優しく呼びかける声に導かれ視線を動かす。

「お、とぅさん?お母さん?」
「ゆう、大きくなったね」
「ゆう、また会えて嬉しいわ」

懐かしい声に感情が追い付く前に涙がボロボロと溢れた。

「おと…さん…ふ…おかぁさん…」

オレの心はあっという間に7歳の子供に戻り、2人に抱きつきわんわんと泣いた。

涙も落ち着き顔を上げると、両親の後ろに妹の陽菜と義両親と義兄がいた。
義父と義兄は微笑み、陽菜と義母の目には大粒の涙が溜まっていた。

「もうお父さんとお母さんばっかりズルい!」

突然、立ち上がった陽菜は寄ってきて、両親をかき分けるとオレに抱きついた。

「お兄ちゃん!お兄ちゃん…良かったぁ」
「陽菜、ありがとう」

意識を失う直前、視界の隅に陽菜が見えた。
そこで、陽菜がみんなを連れてきてくれたのだと分かった。

「神凪さん、私たちもいいですか?」
「もちろんです」
「ほら陽菜、避けなさい」
「えー」

両親と陽菜は後ろに回り、代わりに義両親が来た。

「ゆう、体調は?」
「ちょっと怠いけど大丈夫」
「ゆう、本当に良かった…」
「ちょっ…叔母さん…」

義母がオレに抱きつき泣き出してしまったため義父と後ろにいる義兄に目で助けを求めるが、肩を竦めて苦笑されてしまった。
義母は本当の両親に気を遣ってか、今まで過度なスキンシップはしてこなかった。
だけど、オレが直面した恐怖は同じオメガである義母としか共有できない。
だからこそ、こうして無事だったオレにほっとして抱きついたのかもしれない。
そっとその背中に腕を回した。

「わたしもお兄ちゃんにハグされたい…」
「クスッ、今度な」

そんな父と妹の会話が聞こえてきたけど、今は聞かなかったことにしよう。


❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎

助けられた翌日。
軽い食事と強めの抑制剤を飲み落ち着いた頃を見計らって母と広間に向かった。

広間にはすでに父と妹、義両親と義兄、望月先輩と前に街で助けてくれたスーツの男、そして皇貴先輩がいた。
そこで今回の救出についてのあらましを聞いた。

オレを連れ戻しを指示したのは祖父だった。
人を雇って各学校のオメガの生徒の血液を採取し、DNA鑑定をしてオレを見つけたそうだ。
そしてスキー旅行中の副担任に怪我を負わせ、臨時教諭として学園に赴任した清暙兄さんが確認し、監視が薄くなった卒業式の日にオレを連れ去った。

両親は清暙兄さんの両親に監視されていて動けなかったため、妹の陽菜が望月先輩のお父さんと連絡を取り救出準備を進めた。
そこで使用人2人と通いの家政婦さんを味方に付けたそうだ。

スーツの男が望月先輩のお父さんだったのには驚いたけど、それ以上に陽菜と連絡をとっていたことに驚いた。
望月先輩のお父さんって何者だ?

当日は、父は神社で清暙兄さんの父を引きつけ、母と家政婦さんは清暙兄さんの母と使用人2人を引きつける役だったらしい。
陽菜は案内役となっていたが、不審に思った使用人の1人が追いかけてきたため望月先輩のお父さんに気絶させたそうだ。
蔵の前にいた2人の使用人は協力者だった。

ちなみに牢屋の入口を破壊したチェーンソーは、望月先輩のお父さんが事前に用意したものを陽菜が蔵の中に隠したそうだ。
ドヤ顔で話す妹に、望月父子以外は若干引き気味な反応を示した。

でも、たくさんの人がオレのために動いてくれたんだと知り感動した。

オレは居住まいを正し、手を着きお礼の言葉を添えて深々とお辞儀した。
横でオレの両親と妹もお辞儀をしたのが視界に入った。


❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎

「こんなところにいて良いのか?」
「ぁ…皇貴先輩」

オレの傍に来ると横にどかっと座った。

「懐かしいな」
「はい」

ここはオレが皇貴先輩と出会った湖だ。
今見るとちょっと大きい池だった。
それから、お互い何も発することなく小さな湖を眺める。

どのくらいそうしていたのだろうか。
ヒュウっと風が吹いて思わず身震いをした。
よくよく考えたら、オレ、浴衣の上に羽織りしか着てなかった。
発情期中で少し体温が高めだったのと、抑制剤が余りにもよく効いていたから忘れてた。

そんなことを考えていると、フワリと肩に何かが掛かり皇貴先輩の香りに包まれた。

「風邪をひくから着てろ」

先輩は着ていたコートをオレに貸してくれたけど、どう見ても今度は先輩が寒そうだ。

「でもそれじゃあ先輩が…」
「少ししたらお前と一緒に戻るように言われているから大丈夫だ」
「…そう、ですか…」

もっと一緒に居たいと思ってたオレは少しガッカリした。

「結季、ここでしたおまじない覚えてるか?」
「はい…」

オメガにならないおまじない。
結局、オメガになったけど。

「その後した約束、覚えてるか?」
「約束…?」

霞がかってまだ思い出せない記憶なのかもしれない。
思い出そうとコメカミに手を当てる。

「記憶全部戻ってないんだろ。無理に思い出さなくていいよ。……俺さ、あの時から……いや、たぶん、初めてゆうと会った時から…」
「こぅきせんぱーー」

オレは抱きしめられた。

「結季、お前が好きだ……お前の傍で……お前の唯一になりたい…」

耳元で囁かれる。
少し掠れた言葉は、まるで懇願しているように聞こえた。

「せ、先輩……オレ、も……オレも先輩が…好き…です」

わからないと思っていた自分の気持ちはこの時、ハッキリ形になった。
なのに、溢れる涙と嗚咽で言葉がうまく紡げない。
言葉の代わりにぎゅっと抱きしめ返すと、応えるようにさらに強く抱きしめられた。

「せ、先ぱ……く、苦し…」
「あ、悪い…」

抱きしめる腕が緩まりふぅと息を吐くと、ふふっと2人で笑った。

「結季、キスしていい?」
「ふはっ、先輩、今までオレの許可なんて取らずに3回もしたのに今更何ですか?」
「じゃあ、許可取らない」
「なっ」

オレの言葉は皇貴先輩の口に吸い込まれた。
清暙兄さんの唇は気持ち悪くて仕方がなかったのに、先輩の唇はすごく気持ちがいい。
何度も上唇や下唇を食まれ、吐息ごと吸い込まれると肉厚な舌が差し込まれる。
オレの口の中を隅々まで舐め、舌を絡め取る。

「ふっ…」

クチュと音がして唇が離れる。

「その顔、気持ちいいのか?」

薄目を開けると星のようにキラキラな瞳と目が合う。

「ぅん…もう少し…」

首に回した腕で引き寄せ、自分から唇に触れると唇が薄く開きオレを受け入れてくれた。
それから唇が腫れるんじゃないかと思うくらいキスをして、息が上がったところで止めた。

「オレも先輩の唯一になりたい、です……。でも、」
「その前に、お前の家族に報告しないとな」

オレの言いたいことをアッサリ理解するなんて、ちょっとズルいな。
そんなことをちょっとだけ思った。

「ふっ、はい」

もう一度、触れるだけのキスをした。

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