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第63話 エリクサラマンダー

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俺が2次ジョブを取得した後、俺たちは約3時間ほど、ひたすら歩いていた。

そう、さっきの襲撃以降モンスターはどこかへ消えてしまったのか1匹も現れないのである。


『ここまで静かだと逆に怖いですね?』
俺がそう言うと、ヘレンさんが毒を吐く。

『だからって、またあんなにモンスターを呼び寄せないで下さいね?1日にあれを2回は経験したくないです。』

『はい。気をつけます。』


(ヘレンさんもだいぶ俺といることに慣れたらしい。最初に比べると会話の距離感は近づいてきてる気がする。

俺だけでなく、人間不信自体が治ればいいんだけどな。その為にも、原因になっているアルマさんの病気を何とかしなければいけないな…)


俺はこの時、俺自身もヘレンに少なからず情が湧いてることに気づいてもいなかった。


結局モンスターと一切出会うことなく、目的地に到着した。そう、エリクサラマンダーの岩山への入り口である。

『私の目的地は、ここから約1時間の岩山です。本当に危険な場所ですよ?急ぎでラトルに向かう途中なのに、本当に一緒に来るのですか?』

『どちらにしろ、そんなに変わらないと思います。今からエリクサラマンダーの尻尾を手に入れ、今夜ここで夜営を一緒にした方が、明日ある程度はゆっくり寝た状態でお互いに別々の道を進むことができます。』

『アランさんが、エリクサラマンダーの尻尾を手に入れることを簡単なことのように言うのだけは、ずっとそれが出来なくて苦労している私としては、看過できないのですけど…』

『それは、あくまでも相性の問題です。ヘレンさんには相性の悪いモンスターでも、俺には相性の良い場合もあります。

お伝えした作戦通りに行動してもらえれば、きっとエリクサラマンダーの尻尾は手に入りますよ!』


『その作戦のことも、全く理解出来ないのです。その作戦だと、私とましろちゃんの役目はただの不測の事態に備えての待機です。

アランさんが1人で戦い、尻尾を手に入れるというあまりにも無謀としかいえない作戦です。』


『お伝えした作戦内容が変わってますよ。俺はエリクサラマンダーと戦わないですよ!あくまでも、尻尾をありがたく頂戴してくるだけです。エリクサラマンダーはおそらく喜んで尻尾をくれると思います。』

『それが分からないと言ってるんです。あのエリクサラマンダーが大事な尻尾を戦わずに差し出すとは到底思えないのです。

縄張り意識がとても強く、縄張りに入るだけで攻撃してきます。近づいた時点で戦いが始まります。』


『そこは、俺を信じてただ見てて下さい!

ただ、もう1つお伝えした注意点だけは必ず守って下さいね!?』


『その注意の理由も分からないですし、分からないことだらけで頭がおかしくなりそうです。』


『まあ、口で説明しても理解出来ないこともあるんです。その目で実際に見たら納得できますよ。

さあ、エリクサラマンダーのところへ行きましょう?』



こうして、ヘレンの納得は得られないまま、俺たちはエリクサラマンダーの住むという岩山へ向けて歩み出した。


そこは、全てが大きな岩が重なることでできてる、大きな岩山だった。岩と岩の間の隙間には、生き物も生息しているようだ。

その中でも一際目立つ存在が、エリクサラマンダーである。その巨大な身体は雄に1メートルを越え、今回の目的である尻尾は、電撃を帯びて綺麗に光っている。


『それでは、作戦を開始します。まずは、どのエリクサラマンダーなら尻尾をくれるか調べます。』

そう言って、俺は遠くに見えるエリクサラマンダーを見ながら口笛を吹く。しかし、何の反応もない。

ましろとの戦闘の時は使ったことがなかったため、いちいち声に出していたが、その後の検証の結果、どの個体かを意識して口笛を吹くだけでスキルが発動することが判明したのだ。

『あの子は、駄目です。次のエリクサラマンダーを探しましょう。』

『今ので何が分かるのですか?小さめで戦うにはよい個体だと思うのですが…』
ヘレンは何がなにやら状態である。


次の個体にも口笛を吹く…反応なし。

『あの子も、駄目です。次です。』



繰り返すがなかなか反応するエリクサラマンダーが現れない。この辺りにいるのは、オスばかりのようだ。

俺が何をしているかというと、遠くから口笛を吹くことで、メスの個体を探しているのである。メスでないと、遊び人のスキルが発動しないからである。



10匹目の個体は、とびきり大きなエリクサラマンダーだった。他の個体は1メートルから2メートルの中、4メートルを越える巨大な身体を持ち、王のような貫禄を持っていた。

『あれは手を出したら絶対に駄目です。おそらく、この辺りのエリクサラマンダーを従えるボスのような存在です。見つからないよう、早く離れましょう。』

ヘレンは、額に汗を滲ませながら言ってくる。


俺は、今までと同じように口笛を吹く。すると、その巨大な体を持ち上げ、こちらをじっと見てくる。

『きゃー!見つかっちゃいました!!逃げましょう。縄張りの外に逃げれば、追いかけて来ないはずです!!!』

『あれが俺の探してた個体です。あの子の尻尾を貰ってくるので、他の個体が俺たちに近づかないよう警戒をお願いします。』

『何を言ってるんですか?あれは確実にヤバいです。』
『ダーリン行ってらっしゃいにゃ!』

あたふたしてる、ヘレンは無視して俺は動き出す。
それと同時にスキルを発動させる。

『絶技!』
『流し目』
『流し目』
『流し目』
『流し目』
『流し目』
『流し目』
『流し目』
『流し目』
『流し目』

・・・・・・俺はエリクサラマンダーのところへ到着するまで間髪入れず、流し目を使い続ける。以前ましろにも、使った方法だが、ただ近づくことに特化させれば、異性には効果抜群だ。

そして、エリクサラマンダーに優しく触れる…エリクサラマンダーは突然襲ってくる感じたこともない快楽に目を回す。


『ごめんな…多分絶技の気持ちいい状態だと、尻尾を切っても痛みは感じない筈だ。このまま、貰うからね!』



俺は左手は、エリクサラマンダーの身体に触れたまま、右手にナイフを持ち、魔力を込めてその立派な尻尾を斬る。太すぎて一撃では切れずに、何度も斬るとことなってしまった。

『痛くなかったか?ごめんな…大事な尻尾を…
大事に使わせて貰うからね。ありがとう。』


『ヘレンさん!こちらに来て、尻尾をマジックバッグに仕舞って下さい。』


ヘレンはその声にビクッとなり、我に返る。
目の前で起きている信じられない光景に、頭がパニックになっていたのだ。

あのどう見てもヤバい個体を本当に戦うこともなく、今まで自分がどんなに頑張っても手に入れられなかった尻尾を、目の前でアッサリと切ってみせたアランは、まるで神の使いであった。

そのせいでヘレンの頭の中から、アランの出してた指示は完全に抜け落ちていた。

そう…


作戦中はアランに決して触れてはいけない!

…という指示だ!!


ヘレンは、アランの指示の通りマジックバッグに尻尾を仕舞うと、そのままアランに…

『ありがとうございます!!!これで、母さんを救えます。アランさんは私たち親子にとって恩人です!本当にありがとうございました。

この恩は生涯をかけて返させて貰います!!』

と言いながら、アランの手を握ってしまったのだ…



『あっ!俺には触っちゃ駄目です!!』


それは数秒・・
だが、時既に遅し…



快楽のあまり、脱力して地面に倒れたヘレンは、

大好きな母さんのことですらどうでもよいと思えるほどの快楽の世界に沈んでいった…そこにあるのは、アランという絶対的な存在に塗り替えられた、新たな価値観であった。


『あちゃ~。。これは予定外だ。絶技の効果が切れるまで、ヘレンさんに触れられないか…?』


本来は、このままエリクサラマンダーが絶技の効果でピクピクなうちに、街道まで急ぎ逃げる予定だった。


予定通りに一番近い形で事を進めるには、今すぐエリクサラマンダーから手を離し、ヘレンを抱えて街道まで逃げること。

しかし、この状況で絶技の発動中にヘレンにこれ以上触れるのは、ヘレンの精神に多大な影響を与えそうである。


一番の安全策とは分かっているが選択できない。


では、どうするか…
このまま、エリクサラマンダーに触れたまま、ヘレンの回復を待つ。

もし、絶技の発動中に回復したら、当初の予定通りに逃げる。

もし、絶技が終了するまで回復しなければ、絶技が切れたら直ぐ、ヘレンを抱えて街道へ逃げる。


これしかないだろう…


この作戦の弱点は、約30分という長い時間、他のエリクサラマンダーに俺たちの存在に気付かれない前提というかなりの不安要素を含んでいるところだ。


果たしてバレずに過ごせるだろうか…


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