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思い出
しおりを挟むアイツとの思い出が詰まったガラケーは、未だに持ち歩いてしまう。
幼馴染である俺とアイツは春休みのとある1日、病室で楽しく遊んでいたゲームの映画化を見るため外出した。
…とは言え、いつもアイツが入院していた病院と映画館は同じ駅の線路を挟んであちらとこちらの位置関係だ。
映画が終わったら、いつも世話になっている看護師長さんへお土産のお菓子をデパ地下で買ってから病院へ行くという、中3にしては短い大冒険になる予定だった。
しかし……
映画を楽しく見終え、映画館から出た直後だった。
俺の直ぐ後ろを歩いていたアイツは、トサッという静かな音と共に倒れた。
そして病院の名前の入った救急車で病院へ向かう道すがら、俺とアイツは異世界へ《勇者》として召喚された。
まぁ、あちらへ到着してみると、《勇者》はアイツだけで俺はただの巻き添えだった。
召喚された薄暗い神殿の中、どういった経緯で召喚したのかなどを説明される。
けれど、不思議なことに何と喋っているのかわかった。
その時にあちらの神官が話していた言葉。
「こちらへは、お二人の魂のみお迎え致しましたので、こちらではあちらとは別の強靭な体を使って頂くことになっております。
ですから今なら《道》が繋がっています。あちらの世界へ帰ることができます。
どうされますか?」
「「決めました。もちろん…」」
答えた言葉は同じだった。
でも、続く言葉が違った。
俺は、
「帰ります。」
アイツは、
「残ります。だって、ずっと《勇者》に憧れてた。剣の鍛錬もしたい。魔物をバッタバッタ倒しても、苦しくないしあちこち痛くない体になってみたいと何度願ったことか。
だからシン。僕はこちらの世界で《勇者》をやらせてもらうことに決めたんだ。」
アイツの目は真剣だった。
入退院を繰り返してずっと体育も運動会も水泳記録会もマラソンも球技大会も…みんな見学だったアイツ。
幼馴染でずっと寂しそうに見学する姿を見てきた俺には、
「一緒に帰ろう!」
なんて言えなかった。
「それでは、貴方様のみあちらへ送らせて頂きます。」
神官の翳す杖が光に包まれた時、アイツはこのガラケーを俺の手の中へ捩じ込んで来た。
《魂》だけの召喚と言ったのに、なぜ俺がこれを握っていたのかはわからない。
気付けばそこは救急車の車内で、アイツは救急隊の人に囲まれて処置を受けていた。
勇者になったであろうアイツは元気だろうか。
きっと元気だろう。
だって《異世界で勇者》は、アイツにとって、叶えたいけどどう叶えて良いかわからない夢だったから。
逆パターンでアイツがヒーローになってるゲームやラノベも探したけど…
未だに見つけることができない。
この世界では、もう戸籍をなくしてしまったアイツ。
昔のガラケーだから、ロックなんてしてなくて…
そこに残された写真。
俺の知らない男と楽しそうに笑い合う写真。
もう10年以上になるのに、アイツとの思い出は色鮮やか過ぎて今でも眩しいほどだった。
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