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1 心霊スポットMAPのはじまり

心霊スポットMAPのはじまり 3

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 窓一面が赤い手形で埋め尽くされた。窓がビシリと割れるような音がする。
「霊が入って来るぞ!」
「キャーーーーーーーーーーッ!」
 女子が悲鳴を上げ、ドアが開く音がした。廊下の光が差し込み、何人かが逃げ出す姿が見えた。
「冴子ちゃん」
 アカリは半泣きになって仲のいい冴子に抱きついていると、冴子は「だいじょうぶ」と言うようにアカリの背中をポンポンと軽く叩いてから立ち上がり、腰まである長い髪をなびかせてスタスタと窓に近づくと、手にしていたお札を窓に貼った。
 すると、ピタリと音がやんだ。手形も増えなくなった。
 部屋の豆電球が灯った。
 気づくと、窓の赤い手形が消えていた。
 部屋に残っていたクラスメイトたちが顔を見合わせる。
「……まぼろし?」
「ちがうよ、みんな見たでしょ」
 それから視線がアカリに集まった。
「やっぱり、アカリがいると心霊現象が起きるんだね」
 クラスメイトたちは「うん」とうなずき合っていた。
 心霊現象と同じくらい怖かったのは先生で、アカリの部屋に集まったメンバーは、しばらく正座で説教を受けた。
 その翌日。
 朝日に照らされた窓には、ひびが入っていた。
 そして、外側からつけられた手形の跡が無数に残っていた。
 アカリたちの部屋は三階でベランダもなく、イタズラで外から手形をつけるのは不可能なのに――。
(あれは怖かったな。冴子ちゃんがいなかったら、どうなっていたんだろう)
 窓が割れて、たくさんの怨霊が部屋になだれ込んだのだろうか。
 今考えてもゾッとする。
「あの修学旅行の夜は、ここ数年の中でもトップクラスでスリリングだったよな。心霊スポット巡り、楽しみになってきた」
 満面の笑顔を浮かべる翔陽に対して、京四郎はクッと顔をしかめた。
「ぼくもアカリくんの部屋に行けばよかった。あのころはまだ、心霊現象に興味がなかったんだ」
「そんなのに興味を持たなくていいよ。それにわたし、暗いところ苦手だから。翔ちゃんだって知ってるでしょ。その心霊スポット巡りには協力しないからね」
 勝手に計画に組み込まれても困る。
 アカリは普段、幽霊を見たりはしない。「霊感少女」とはいえ、心霊スポットにさえ近づかなければ、平和に過ごせるのだ。平和が一番だ。
「そういえばアカリ、暗いところはダメなんだっけ。いっしょに旅行に行ったとき、『トイレについてきて』って、夜中に起こされたもんな」
「それは小学三年生のときでしょ! 大昔だよ!」
 以前はよく、アカリと翔陽の家族みんなで旅行にでかけていた。
「じゃあ夜、一人でトイレに行けるようになったのか?」
「行けるよ! ……家じゅうの電気を全部つけるけど」
 ある出来事をきっかけに、アカリは暗闇が苦手になった。
 それからは部屋の電気をつけたまま寝ているし、暗い道は遠回りをしてでも避けている。どうしても外灯が少ない道を歩く時のために、懐中電灯を三つはカバンに入れていた。
「それって、不便じゃね?」
「仕方がないでしょ、怖いんだから」
 翔陽の言葉に、アカリはくちびるを小鳥のようにとがらせた。
「ぼくたちといっしょに心霊スポットに行くうちに、暗闇を克服できるよ。慣れは重要だからね」
「そう上手くいくはずがないよ」
「アカリくんだって不便だと思ってるんだろ。夜すれ違う人に、『なんでこの子、懐中電灯を三つも点けてるんだろう?』って目で見られたくないよね」
 京四郎が痛いところを突いてくる。アカリは目をそらした。
「頼むよアカリ! おれが母さんの助けになれるかは、おまえにかかってるんだ」
 翔陽がアカリの両手を握って椅子を近づけてきた。お人よしのアカリは、お願いされると弱い。特に翔陽には。
(わたしも翔ちゃんのお母さんの力になりたいけど、修学旅行みたいなことは絶対にイヤ! なんとか逃げないと)
「動画に映りたくないし……」
「その心配はない。アカリくんにはカメラマンになってもらおうと思ってるんだ。だから画面には映らない。それに、暗い場所で一人にさせないと約束する」
 ここぞとばかりに、京四郎も身を乗り出してきた。
「いっしょに心霊スポット探索をしているうちに、アカリくんはきっと暗闇恐怖症を克服できる。翔陽はユーチューバーになって親孝行できるし、ぼくは心霊スポットMAPを更新できる。アカリくんの決断次第で、みんなハッピーになれるんだ」
(うう……、京四郎くんってば口が上手い)
 これでは、頼みを断ったらアカリが悪いみたいではないか。
(暗いところも幽霊も怖いよ。どうしよう)
「おれたちが、絶対にアカリを守るから」
 翔陽は強く手をにぎって、キリリとした瞳でアカリを見つめる。
 アカリは自分の顔から冷汗がダラダラ流れているように感じた。逃げられそうもない。
「翔ちゃん、ホントに守ってくれる?」
「うん」
「……じゃあ、試しに、一回だけ……」
「やった! アカリ、サンキュー!」
 ぎゅっと翔陽にハグされた。
「翔ちゃん、やめてよ、もう」
 恥ずかしくなってアカリは翔陽の肩を押し返した。翔陽はスキンシップが激しい。
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