中学生ユーチューバーの心霊スポットMAP

じゅん

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1 心霊スポットMAPのはじまり

心霊スポットMAPのはじまり 2

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「これを見てほしい」
 京四郎は自慢げに、カバンの中から自由研究で使うような大きな模造紙を取り出した。盗み聞きをするつもりはなかったものの、流れで話を聞いていたアカリも上半身を起こして模造紙を覗き込む。
 京四郎が翔陽の机の上で紙を広げると、手書きで描かれた日本地図が、びっしりと心霊スポットで埋め尽くされていた。説明文は細かい字で書かれているものの、字はきれいで読みやすい。京四郎の几帳面な性格を表しているようだ。
(すごい。これを作るのにどれくらい時間がかかったんだろう)
「京四郎が描いたのかよ。よく調べたな。つか、このMAPなにに使うんだよ。さすがに引くわ」
 そうなのだ。容姿や頭脳は文句の付け所がないのだが、京四郎はちょっとどころではなく変わっている。
「全国の心霊スポットMAPを完成させたいんだ」
「もうできてるじゃん」
「現地に行って、うわさの現象が本当に起こるのか検証しなければ、完成とは言えない」
「これ全部かよ、ご苦労なこって」
「なにを他人事のように言っている。翔陽がやるんだぞ」
「あっ、さっき言ってた心霊スポット巡りのチャンネルって、これの調査か。……うん、MAPをコンプリートするって、ゲームみたいでおもしろいかも。ありだな」
「だろ」
 心霊スポットに行くのは、きっと夜なのだろう。アカリは暗いところが苦手だ。もちろん幽霊だって好きではない。実際にイヤな目にもあっている。
(よくやるなあ。こういうの、好きな人は好きだよね)
 アカリは眉を寄せて、自分の机にもはみ出している模造紙に視線を落とした。
「でもさ、心霊スポットの探検チャンネルなんて、もういっぱいあるじゃん」
「だから、ほかの動画と差別化をしないとね。ぼくならテレビ並みの編集ができる」
「さすが京四郎!」
「それに、必ず心霊現象が起こるチャンネルが、注目されないはずがない」
「ん? それって、もしかして……」
 京四郎がうなずいた。
「アカリくんの出番だ」
「えっ」
 名前を呼ばれたアカリは驚いて顔を上げると、京四郎と目が合った。ニッコリとほほ笑んでいる。
「……わたし?」
 ただ聞いていただけなのに、突然同じ土俵にのせられても、理解が追いつかない。
「そっか、アカリがいれば幽霊が出てくるもんな!」
 翔陽はなっとくしたように手を打った。
「アカリくんの心霊現象の伝説は有名だから」
「ちょっと京四郎くん、わたしが現象を起こしたみたいな言い方はやめてっ」
 アカリは「シーッ!」と口の前で人差し指を立てながら、人に聞かれていないか周囲を見回した。中学ではアカリの黒歴史を知らない人もいるのに。
 実はアカリは、いわゆる「霊感少女」なのだ。
 実際に幽霊を見ることは少ないが、霊の気配を感じてしまう。
 そしてアカリがいると、不思議な現象が起こりやすい。
 それを同級生に知られることになったのは、小学校五年生の林間学校だった。
 バンガローの近くの川からイヤな気配がすると思ったら、案の定、過去に入水自殺があったと言われる場所だった。その死者がさみしがり、夜な夜な人を川に誘うのだという。
 キャンプファイヤーが終わって、就寝間際、トントンとドアをノックする音がした。
 アカリがドアを開けると、そこには誰もおらず、水たまりができていた。
 この日は晴れていて地面も乾いていたが、バーべーキューで洗い物もあったので、ドアの前がぬれていたのだろう、くらいにしか思わなかった。
 その晩、アカリはなにかに足首を掴まれて目が覚めた。それは氷のように冷たく、下半身まで凍るようだった。そして、強い力で下に引っ張られた。
「きゃああっ」
 悲鳴はアカリだけではなく、何人かのクラスメイトも声をあげていた。
 友達の冴子が電気をつけると、グループ五人が出口の近くまで引きずられていて、足や布団がビショビショにぬれていた。
 その水は明らかに水道水とは違い、藻やじゃりがついていることから、川の水だと思われた。こんな現象が起きたのは、アカリたちのバンガローだけだった。
 自殺をした霊が迎えに来たのだと、大騒ぎになった。
 ――その翌年に行った修学旅行の場所は、かの有名な自殺の名所だった。
 アカリは、イヤな予感しかしなかった。
 アカリに霊感があることを翔陽が広めたこともあって、アカリのいる部屋は心霊現象が起こるに違いない、と期待されていた。
 そこで消灯時間後、幽霊を見たいオカルト好きがアカリの部屋に集まった。女子の部屋に異性は入ってはいけない決まりだったが、集まった半数は男子だった。旅館の八人部屋に十五人もいて、ギュウギュウだ。
(なにも起きませんように!)
 アカリは両手を組んで祈った。今年もアカリのいる部屋で不思議なことが起こったら、もう偶然では済まされない。
 豆電球をつけてトランプをしたり、コソコソとおしゃべりしたりして過ごし、なにも起こらないから解散しようか、と話し始めたころ。
 豆電球がチカチカと明滅して、そして消えた。
 真っ暗ななか、おおっと声が上がったのは、悲鳴ではなく喜びの声だった。さすがオカルト好きだ。
 それぞれが懐中電灯やスマートフォンのライトをつけると、部屋のあちこちからビシッ、バキバキッとラップ音が聞こえ始めた。まるで壁や天井がはがれるような激しい音だが、ライトに照らされた天井や壁に異常はない。
 本格的な霊現象に、クラスメイトたちは身を寄せ合った。
 そのうち、窓ガラスが強く叩かれた。
 翔陽がカーテンを全開にした。みんなのライトが壁一面にある横に長い大きな窓を照らす。
 ベタン! ベタン!
 窓が叩かれるたびに、赤い手形がついた。
 大人のような大きな手。
 ベタン!
 赤ちゃんのような小さな手。
 ベタン!
 その手は血に染まっているかのようヌラヌラと赤く、ねっとりとしたしずくが窓から滴り落ちる。
 そして。
 ベタベタベタベタベタベタベタベタベタベタベタベタベタベタベタベタベタベタベタベタベタベタタタタタタタタタタタタタタタッ!
 窓一面が赤い手形で埋め尽くされた。窓がビシリと割れるような音がする。
「霊が入って来るぞ!」
「キャーーーーーーーーーーッ!」
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