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三章 央都也の居場所

三章 央都也の居場所 その6

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「くっ、これ、は……」

 四つん這いの状態から起き上がろうとしたが、身体が動かなかった。そこに横腹をなにかに蹴られ、転がって央都也は仰向けになる。また埃を吸ってむせた。吐きそうだ。

 そこからは、いくら力を入れても身体が痙攣する程度しか動かなくなった。かろうじて首が振れる程度だ。

(金縛り……?)

 廊下からの暖色の明かりが部屋の一部に差し込んで、なんとか部屋全体が見える。壁向きに止まってしまった懐中電灯も、ほのかに部屋の明度を上げることに貢献していた。
 カメラにしているスマートフォンは床の荷物に乗りあがる形で止まっていて、倒れている央都也と、カーテンが半分破れて垂れ下がっている窓が映っている。半分近く見える窓の奥はただの暗闇だ。

 スマートフォンは央都也からは手が届かない位置にあり、字が小さくて流れるコメントがよく読めない。目を凝らすと、

《ペケくん、大丈夫?》
《なにが起こったの⁉》
 というようなコメントが流れているようだ。

「……っぁう」

(声が出ない)
 影が動いて見えた。

 視線で周囲を見渡すと、いつの間にか央都也は人形に囲まれていた。
(うそ、だろ)
 人形が勝手に動いている。

 ――こっちに、おいでよ。

 声に目を向けると、未就学生くらいのおかっぱ髪のシルエットが浮かんでいた。

(女の子の幽霊? 兄さんがいないのに、なぜぼくに見えるんだ)
 それだけ、霊の力が強いということか。

「うぐっ、ぁが、あっ……」

 突然の腹の衝撃に、央都也は呻いた。園児ほどの大きさのクマのぬいぐるみが、木製のバットを振り下ろしたのだ。その奥には大柄な男の影がある。

 ――おまえもオレたち側の人間だろ。社会と上手くやっていけなくてさ。仲間に入れてやるよ。感謝しろ。

(二人目? 霊は二人いるのか)

 キチキチと音がしたかと思うと、なにかが光った。とっさに首を動かすと、すぐ横の床にカッターが突き刺さった。フランス人形が両手でカッターを持っていた。

 ――なぜ避けるの? その顔、嫌いなんでしょ。

 背中まで届くロングヘアの女のシルエットが、フランス人形に重なっている。
 更にその奥には、また別の細身の男のシルエットもあった。

(霊が四人? いったいこの部屋で、なにが起こったんだ)

 央都也は冷汗で全身が濡れていた。顔には埃が泥のようになってはりついている。
 ――知りたい?
 フランス人形はカッターを持ったまま、小さな手を央都也の額にのせた。カッターの尖った刃が、見開いた央都也の眼球の前に来る。

「あっ……!」

 頭の中で、閃光が走った。
 脳に映像が浮かび上がる。
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