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三章 央都也の居場所

三章 央都也の居場所 その5

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(今更なに、心配したふり? それとも、ぼくになにかがあったら寝覚めが悪いのかな。ぼくなんか放っておいて、結婚でもなんでもすればいいのに)

「さあ、その人は偽物じゃないかな。兄さんは仕事中だと思うけど」
 そろそろ引き上げ時だと思っていたが、やめた。

 央都也は部屋の中央で、ゆっくりと部屋全体を映した。
「どこか気になるところ、ある?」

《隙間があいてるクローゼット》
《中になんか置いてあるっぽいよ》

「そうだね、じゃあ開けてみようか」
 軋んだ音を立てながら扉を開けると……。

 央都也は瞠目した。
 コメントの流れも一瞬止まる。
 クローゼットは央都也の腰あたりで上下に仕切られていて、下の段はがらんどう。
 上の段には、香炉、お鈴(りん)、線香、蝋燭がポツポツと置かれている。その隣りには缶ジュースやお菓子が積み上げられていた。

 そして、その奥。

 幼児が抱きかかえるのに丁度よさそうな大きさの人形やぬいぐるみが所狭しと押し込められていた。暗闇から無数の目がこちらを見ている。以前は可愛かったのだろうが、埃をかぶって薄汚れていると、不気味でしかない。

《これ、完全に子供の供養だよね》
《未成年同士って、子供?》
《ここは仏壇代わりってことか》
《ちゃんと弔われてたんだね》
《クローゼットの中だぞ。適当すぎるだろ》
《ここは殺害現場だからで、ちゃんとした仏壇は別にあるのかもよ》

 コメントが怒涛のように流れた。
 央都也はずっと寒気を感じていたが、背中に冷水を浴びせられたかのように冷たくなった。
 立ち眩みがして額を押さえる。

(だめだ、頭痛もしてきた。さすがにもう出るか)

 央都也が踵を返したとき、部屋の電気が明滅した。とっさに蛍光灯のある天井を見上げる。

(電気が)
 消えた。

 部屋が暗くなる。幸い部屋のドアは開けていたので、廊下の明かりが入っていた。つまり、停電ではないようだ。蛍光灯が切れたのか。
 央都也は念のため懐中電灯をポケットから取り出して電源を入れた。

 その時。

「痛っ」

 ふくらはぎ辺りに激痛が走り、央都也はしゃがんだ。まるでナイフで切り付けられたかのように、パンツが切れて血が滲んでいる。
 そして目の前に、フランス人形の顔があった。
 央都也がギクリと固まる。

(なぜ、ここに?)

 人形はすべてクローゼットの中だったはずだ。
「あっ」

 央都也は人形に突き飛ばされて倒れ込む。手に持っていたスマートフォンや懐中電灯が部屋に転がった。舞った埃を大量に吸い込んでしまい、央都也はむせかえった。

「くっ、これ、は……」

 四つん這いの状態から起き上がろうとしたが、身体が動かなかった。そこに横腹をなにかに蹴られ、転がって央都也は仰向けになる。また埃を吸ってむせた。
 
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