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三章 央都也の居場所
三章 央都也の居場所 その3
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《冷蔵庫を開けてみようよ》
「そうだね、見たい人も多いようだし」
央都也は淡々と、すすけたような薄いブルーの冷蔵庫に素手で触れた。「ギャー」などと阿鼻叫喚のコメントが勢いよく流れていく。
央都也としても気持ち悪いとは思うのだが、感情が靄がかかったように鈍くなっていた。
「見たくない人は目を閉じてね、いくよ。三、二、一、オープン」
央都也は冷蔵庫を開ける。
開けた瞬間、いくつかの虫がウゾウゾと這いだしてきた。内側はビッシリとかびがついて緑や黒に染まっている。ジュースや牛乳、ジャムやドレッシングなどが入っていて、原形がわからないほど変色し、カビが浮いている。野菜や肉らしきものもあるが、干からびて元がよくわからない。
《ウワアアアッ》
《キモい!》
《Gが! Gがっ!》
悲鳴がチャットを埋め尽くした。
「思っていたほどひどくはないね。カビの匂いはするけど、腐敗臭みたなものはないよ。五年も経つと腐敗しきっちゃうんだろうね。はい、冷蔵庫のドアを閉めたから、もう目を開いていいよ」
《ペケくん冷静!》
《なんだか、いつもより頼もしい》
《さすが殺人物件に住む男、肝が据わってる!》
《それじゃ、家が人を憑り殺すみたいだろw》
(盛り上がってる)
コメントを見ながら、よしよしと思う。
(どんどん再生数を増やして、どんどん投げ銭をして。ぼくの安息の日が近づくから)
今の央都也には、早く一人になることしか考えられなかった。あのメールを見た時から、心の一部が凍り付いてしまったのかもしれない。
こうして央都也は、今までの事故物件企画と同じく、部屋を一つ一つ説明していった。今回は部屋数が多いので時間がかかる。しかもどの部屋も荒れているので、廃墟ツアーのような趣だ。
一階が終わり、二階に移動する。
《わっ、二階やばい。わたし霊感が強いほうなんだけど、背筋がゾクゾクしてきた》
《私も!》
「鋭いね。殺人現場は二階だから」
またチャットの速度が増した。
二階の廊下の壁に、青いスプレーで大きく「マサルKINGDAM」と下手な字で書いてある。
(キングダム? 王国? スペルが違うけど、間違えたのかな)
更に壁に相合傘が書かれていたり、いくつか穴が開いたりしていた。岩でも打ち付けたかのようだ。
《二階の世紀末っぷりがヤバい》
《公衆便所の落書きみたいだな。こんな家初めて見た》
《ヤンキーの溜まり場だったのかな?》
《それっぽい》
「このドアの先が、殺人現場だよ。ぼくもまだ入ってない」
オレLOOM。ノックしろ! 勝手に入ったら殺す!
「ドアに直接、黒マジックで書かれているね。さっきの壁の字と同じ筆跡っぽい。それに、またスペルを間違えてる」
《はっ、もしや暗号?》
《いや、バカなだけだろ。自信がなかったら、ペンで書く前に辞書で調べるよな》
《その知恵さえないんだろ》
《え、これスペル違うの?》
《ググれ》
央都也は流れていくチャットを見ながら、ドアノブに手をかけた。
(さすがに緊張するな)
五年経っているとはいえ、殺人現場なんて初めて見る。央都也は呼吸を整えた。といっても、思いきり吸いたい空気ではない。
「そうだね、見たい人も多いようだし」
央都也は淡々と、すすけたような薄いブルーの冷蔵庫に素手で触れた。「ギャー」などと阿鼻叫喚のコメントが勢いよく流れていく。
央都也としても気持ち悪いとは思うのだが、感情が靄がかかったように鈍くなっていた。
「見たくない人は目を閉じてね、いくよ。三、二、一、オープン」
央都也は冷蔵庫を開ける。
開けた瞬間、いくつかの虫がウゾウゾと這いだしてきた。内側はビッシリとかびがついて緑や黒に染まっている。ジュースや牛乳、ジャムやドレッシングなどが入っていて、原形がわからないほど変色し、カビが浮いている。野菜や肉らしきものもあるが、干からびて元がよくわからない。
《ウワアアアッ》
《キモい!》
《Gが! Gがっ!》
悲鳴がチャットを埋め尽くした。
「思っていたほどひどくはないね。カビの匂いはするけど、腐敗臭みたなものはないよ。五年も経つと腐敗しきっちゃうんだろうね。はい、冷蔵庫のドアを閉めたから、もう目を開いていいよ」
《ペケくん冷静!》
《なんだか、いつもより頼もしい》
《さすが殺人物件に住む男、肝が据わってる!》
《それじゃ、家が人を憑り殺すみたいだろw》
(盛り上がってる)
コメントを見ながら、よしよしと思う。
(どんどん再生数を増やして、どんどん投げ銭をして。ぼくの安息の日が近づくから)
今の央都也には、早く一人になることしか考えられなかった。あのメールを見た時から、心の一部が凍り付いてしまったのかもしれない。
こうして央都也は、今までの事故物件企画と同じく、部屋を一つ一つ説明していった。今回は部屋数が多いので時間がかかる。しかもどの部屋も荒れているので、廃墟ツアーのような趣だ。
一階が終わり、二階に移動する。
《わっ、二階やばい。わたし霊感が強いほうなんだけど、背筋がゾクゾクしてきた》
《私も!》
「鋭いね。殺人現場は二階だから」
またチャットの速度が増した。
二階の廊下の壁に、青いスプレーで大きく「マサルKINGDAM」と下手な字で書いてある。
(キングダム? 王国? スペルが違うけど、間違えたのかな)
更に壁に相合傘が書かれていたり、いくつか穴が開いたりしていた。岩でも打ち付けたかのようだ。
《二階の世紀末っぷりがヤバい》
《公衆便所の落書きみたいだな。こんな家初めて見た》
《ヤンキーの溜まり場だったのかな?》
《それっぽい》
「このドアの先が、殺人現場だよ。ぼくもまだ入ってない」
オレLOOM。ノックしろ! 勝手に入ったら殺す!
「ドアに直接、黒マジックで書かれているね。さっきの壁の字と同じ筆跡っぽい。それに、またスペルを間違えてる」
《はっ、もしや暗号?》
《いや、バカなだけだろ。自信がなかったら、ペンで書く前に辞書で調べるよな》
《その知恵さえないんだろ》
《え、これスペル違うの?》
《ググれ》
央都也は流れていくチャットを見ながら、ドアノブに手をかけた。
(さすがに緊張するな)
五年経っているとはいえ、殺人現場なんて初めて見る。央都也は呼吸を整えた。といっても、思いきり吸いたい空気ではない。
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