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三章 家族で仲良く暮らしたい、城島啓太
家族で仲良く暮らしたい、城島啓太 2
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「きっと近いうちに弾けるようになる。弾けるようになってもらわないと俺も困るしな」
雄一郎は慰めるように拓斗の肩を叩いた。
拓斗はその言葉がひっかかった。雄一郎を見上げる。
「ぼくが弾けるようにならないと、なぜ雄一郎が困るの?」
雄一郎は黙って拓斗を見返した。豊かだった表情がすっと消える。顔の造形が整っているぶん無機質な人形のようになった。
「ねえ雄一郎、ぼくに隠しごとしてる?」
「そんなの、いくらでもしてるに決まってるだろ」
拓斗は立ち上がった。数センチ高い位置にある雄一郎の目を真っすぐに見る。
「愛紗ちゃんが、雄一郎はここに来たばかりのころ近寄りがたかったって言ってた。そんなの雄一郎らくしくないよ。なにかあったんじゃないの?」
雄一郎は切れ長の瞳をわずかに細めた。
「もしそうだとしても、おまえに言う必要はない」
拒絶された。
胸が痛んで、拓斗は顔をしかめた。
「雄一郎の夢はなに? ここにいるならあるんでしょ?」
雄一郎の瞳がかすかに揺れた。
「それは……」
雄一郎の言葉は、大きな泣き声にかき消された。
「啓太の声だ」
雄一郎が振り向く。
声は玄関から聞こえる。二人は玄関に近いドアを開いた。大家の腰に腕を巻きつけた啓太が泣いている。
「ばあちゃん、啓太はどうしたんだ?」
「今、陽子が帰ったところ」
大家の言った「陽子」とは誰だろうと思っていると「ばあちゃんの娘で、啓太の母親だ」と雄一郎が拓斗に耳打ちした。
そういえば、啓太は祖母である大家とここで暮らしているとは聞いていたが、両親の話題が出たことはなかった。別の家で暮らしていたのか。
「とうとう離婚するって」
啓太は六歳だ。離婚の意味を知っているのだろう、大家の言葉に泣き声が一段と大きくなった。
「あまり事情を知らないが、離婚するほどの内容じゃなかった気がしたんだけど」
雄一郎がそう言うと、大家もうなずいた。
「陽子が頑なになってしまって。これから弁護士を雇って、家庭裁判所に調停を申し立てるって」
「そうなると後戻りし難くなりそうだな。隆さんはなんて言ってるんだ?」
「話し合いに応じないそうよ」
話の流れからして、隆とは啓太の父親だろう。
「つまり、まともに話もしていないのに調停離婚に持ち込むってことか。それじゃ、二人が迎えに来るのを待っていた啓太が可哀そうだな」
「ユウイチロウ兄ちゃん……!」
雄一郎は泣きついてくる啓太を抱き上げた。
「もうすぐ迎えに来るからねって。ママと二人で暮らそうねって、言われたの」
「啓太はパパも好きなのにな」
「うん。ボク、パパも一緒じゃなきゃイヤだよ。パパもママも、本当は仲良しだって知ってるもん」
「どうだろうなあ……」
天井を見上げながら雄一郎は考えるようにつぶやいた。
「とりあえず、弁護士のところに行く前に陽子さんを捕まえて、詳しく話を聞いてみるか」
「ママたち、別れないよね」
「そうなるように善処する」
「ぜんしょ?」
「兄ちゃん、頑張ってくる」
「うん!」
啓太は雄一郎の首にぎゅっと抱きついた。雄一郎は小さな頭を一なでして啓太をおろす。
「つことで、拓斗行くぞ」
「えっ、ぼくも?」
ぼんやりとやり取りを聞いていたので、不意に声をかけられて拓斗は驚いた。
雄一郎は慰めるように拓斗の肩を叩いた。
拓斗はその言葉がひっかかった。雄一郎を見上げる。
「ぼくが弾けるようにならないと、なぜ雄一郎が困るの?」
雄一郎は黙って拓斗を見返した。豊かだった表情がすっと消える。顔の造形が整っているぶん無機質な人形のようになった。
「ねえ雄一郎、ぼくに隠しごとしてる?」
「そんなの、いくらでもしてるに決まってるだろ」
拓斗は立ち上がった。数センチ高い位置にある雄一郎の目を真っすぐに見る。
「愛紗ちゃんが、雄一郎はここに来たばかりのころ近寄りがたかったって言ってた。そんなの雄一郎らくしくないよ。なにかあったんじゃないの?」
雄一郎は切れ長の瞳をわずかに細めた。
「もしそうだとしても、おまえに言う必要はない」
拒絶された。
胸が痛んで、拓斗は顔をしかめた。
「雄一郎の夢はなに? ここにいるならあるんでしょ?」
雄一郎の瞳がかすかに揺れた。
「それは……」
雄一郎の言葉は、大きな泣き声にかき消された。
「啓太の声だ」
雄一郎が振り向く。
声は玄関から聞こえる。二人は玄関に近いドアを開いた。大家の腰に腕を巻きつけた啓太が泣いている。
「ばあちゃん、啓太はどうしたんだ?」
「今、陽子が帰ったところ」
大家の言った「陽子」とは誰だろうと思っていると「ばあちゃんの娘で、啓太の母親だ」と雄一郎が拓斗に耳打ちした。
そういえば、啓太は祖母である大家とここで暮らしているとは聞いていたが、両親の話題が出たことはなかった。別の家で暮らしていたのか。
「とうとう離婚するって」
啓太は六歳だ。離婚の意味を知っているのだろう、大家の言葉に泣き声が一段と大きくなった。
「あまり事情を知らないが、離婚するほどの内容じゃなかった気がしたんだけど」
雄一郎がそう言うと、大家もうなずいた。
「陽子が頑なになってしまって。これから弁護士を雇って、家庭裁判所に調停を申し立てるって」
「そうなると後戻りし難くなりそうだな。隆さんはなんて言ってるんだ?」
「話し合いに応じないそうよ」
話の流れからして、隆とは啓太の父親だろう。
「つまり、まともに話もしていないのに調停離婚に持ち込むってことか。それじゃ、二人が迎えに来るのを待っていた啓太が可哀そうだな」
「ユウイチロウ兄ちゃん……!」
雄一郎は泣きついてくる啓太を抱き上げた。
「もうすぐ迎えに来るからねって。ママと二人で暮らそうねって、言われたの」
「啓太はパパも好きなのにな」
「うん。ボク、パパも一緒じゃなきゃイヤだよ。パパもママも、本当は仲良しだって知ってるもん」
「どうだろうなあ……」
天井を見上げながら雄一郎は考えるようにつぶやいた。
「とりあえず、弁護士のところに行く前に陽子さんを捕まえて、詳しく話を聞いてみるか」
「ママたち、別れないよね」
「そうなるように善処する」
「ぜんしょ?」
「兄ちゃん、頑張ってくる」
「うん!」
啓太は雄一郎の首にぎゅっと抱きついた。雄一郎は小さな頭を一なでして啓太をおろす。
「つことで、拓斗行くぞ」
「えっ、ぼくも?」
ぼんやりとやり取りを聞いていたので、不意に声をかけられて拓斗は驚いた。
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