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エピローグ 新大陸での生活
エピローグ 3【完】
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「……ん?」
ザックが胸元に手を当てる。
「魔力が消えた」
「えっ、ザックの?」
「ああ。あと、エンチャントリングも」
魔法が付加された指輪のことだ。たとえば、炎の魔法を封じ込めた指輪を持っていれば、魔力がない者でも炎が出せる。アレクサンドラがはめている指輪もエンチャントリングの一種だ。ザックは剣士なので握りに影響するのを嫌い、その類の指輪をネックレスチェーンに通して身に着けていた。
「そういえば、聞いたことがあるな」
魔法は恐ろしい凶器ともなりえる。無防備な町中で魔法戦が行われないよう、全域を魔力無効にする町があるようだ。そうザックが言う。
「この町も、そうだってことね」
と言うアレクサンドラの足元になにか柔らかいものが絡んで、転びそうになった。
「びっくりした。どうしたの?」
アレクサンドラの足を、五歳くらいの可愛らしい少女が両手で掴んでいる。
「どうかした?」
アレクサンドラがしゃがんで少女の目の高さに合わせると、その少女が抱きついてきた。
「お姉ちゃん、いい香りがする」
(あれ、これって……)
まずい、と思った時には遅かった。
「お姉ちゃんに触ると、気持ちいい」
「どうして気持ちがいいの?」
「ぼくにも触らせて」
近くで遊んでいた子供たちがアレクサンドラに群がってきた。引きはがそうにも、子供相手に乱暴なこともできず、アレクサンドラは触られるがままになるしかない。
(指輪の効果がなくなってるんだ)
「ダメダメ、お願い、離して」
転がされて、小さな無数の手で所構わず撫で擦られてはたまらない。しかも本来、アレクサンドラの気配は相当遠くに飛ぶものだ。だからこそ、山岳地帯の集落にいたのにもかかわらず、オスカーたちがアレクサンドラに辿りついたのだから。
恥ずかしいやら怖いやらで涙目になっているアレクサンドラの視界に、遠くから大人たちまでやって来ているのが映った。
(ま、まさか……)
――指輪を外したら誰もがオオカミになって、集団で襲ってくるぞ。男女問わずな。
ザックのそんな言葉を思い出して、アレクサンドラは真っ青になる。
「ザック、見てないで、早く助けて!」
「どうしようかな」
ザックはニヤニヤと笑っている。
「お前が率先して、この依頼を受けたんだろ」
「もう勝手に決めないから。やだ、そんなところ触らないで」
慌てふためくアレクサンドラを眺めて愉快そうに喉の奥で笑うと、ザックはアレクサンドラの前で屈んだ。
「じゃあ、助けてくださいお願いします何でもします、は?」
聞き覚えのある台詞だった。
こんなに人が困っているのに、なんてことを言うのだ、この男は。
アレクサンドラは心の中で思い切り叫んだ。
(やっぱりザックは最低よ――――――――――!!)
ザックが胸元に手を当てる。
「魔力が消えた」
「えっ、ザックの?」
「ああ。あと、エンチャントリングも」
魔法が付加された指輪のことだ。たとえば、炎の魔法を封じ込めた指輪を持っていれば、魔力がない者でも炎が出せる。アレクサンドラがはめている指輪もエンチャントリングの一種だ。ザックは剣士なので握りに影響するのを嫌い、その類の指輪をネックレスチェーンに通して身に着けていた。
「そういえば、聞いたことがあるな」
魔法は恐ろしい凶器ともなりえる。無防備な町中で魔法戦が行われないよう、全域を魔力無効にする町があるようだ。そうザックが言う。
「この町も、そうだってことね」
と言うアレクサンドラの足元になにか柔らかいものが絡んで、転びそうになった。
「びっくりした。どうしたの?」
アレクサンドラの足を、五歳くらいの可愛らしい少女が両手で掴んでいる。
「どうかした?」
アレクサンドラがしゃがんで少女の目の高さに合わせると、その少女が抱きついてきた。
「お姉ちゃん、いい香りがする」
(あれ、これって……)
まずい、と思った時には遅かった。
「お姉ちゃんに触ると、気持ちいい」
「どうして気持ちがいいの?」
「ぼくにも触らせて」
近くで遊んでいた子供たちがアレクサンドラに群がってきた。引きはがそうにも、子供相手に乱暴なこともできず、アレクサンドラは触られるがままになるしかない。
(指輪の効果がなくなってるんだ)
「ダメダメ、お願い、離して」
転がされて、小さな無数の手で所構わず撫で擦られてはたまらない。しかも本来、アレクサンドラの気配は相当遠くに飛ぶものだ。だからこそ、山岳地帯の集落にいたのにもかかわらず、オスカーたちがアレクサンドラに辿りついたのだから。
恥ずかしいやら怖いやらで涙目になっているアレクサンドラの視界に、遠くから大人たちまでやって来ているのが映った。
(ま、まさか……)
――指輪を外したら誰もがオオカミになって、集団で襲ってくるぞ。男女問わずな。
ザックのそんな言葉を思い出して、アレクサンドラは真っ青になる。
「ザック、見てないで、早く助けて!」
「どうしようかな」
ザックはニヤニヤと笑っている。
「お前が率先して、この依頼を受けたんだろ」
「もう勝手に決めないから。やだ、そんなところ触らないで」
慌てふためくアレクサンドラを眺めて愉快そうに喉の奥で笑うと、ザックはアレクサンドラの前で屈んだ。
「じゃあ、助けてくださいお願いします何でもします、は?」
聞き覚えのある台詞だった。
こんなに人が困っているのに、なんてことを言うのだ、この男は。
アレクサンドラは心の中で思い切り叫んだ。
(やっぱりザックは最低よ――――――――――!!)
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