隠され姫のキスは魔道士たちを惑わせる

じゅん

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四章 それぞれの決意

それぞれの決意 15

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 シャルターの外では、激しい魔法戦が繰り広げられている。炎越しにアレクサンドラは目を凝らした。
「いい加減に攻撃をやめろ、フランシス」
「いくら隊長の命令でも、こればかりは聞けません。ここでアレクサンドラ様を諦めるのは、ぼくが生きてきた意味すら否定することになります」
 しかし、いくらフランシスの魔力が増幅していても、同じく魔力が増幅しているザックと、若くして隊長を任されるほどのエリート魔道士相手では分が悪かった。徐々に押され、最終的には二人に抑えられた。オスカーが用意していた首輪がフランシスにかけられる。魔力を抑制して魔法が発動できなくなるものだ。
「申し訳ございません。フランシスは厳罰に処す所存です」
 更に逃げられないようフランシスを縛り上げた縄をオスカーが握っている。フランシスは俯いて、大人しくしていた。
「厳罰なんて、そんなことしなくていいよ」
「そうは参りません」
「私は無事にここにいるんだし。王宮の人たちは眠っていて、この大騒ぎのこと知らないんでしょ? 庭が酷いことになっている責任は取らなきゃいけないかもしれないけど……これ魔法で直せないのかな」
 相当な費用をかけていただろう美しい庭園だったが、草木は折れ、炭となり、大地は穴だらけだった。
「特別室なんて行ってはいけません。ぼくがアレクサンドラ様を幸せにしなければならないんです」
「特別室に行くだと?」
 フランシスの言葉に、ザックが反応する。
 アレクサンドラは、静かな表情で頷いた。
「私は特別室に入ります」
そしてアレクサンドラはオスカーに顔を向けた。
「オスカーさん、フランシスさんをお願いします。これからも傍で見ていてくれるんでしょ?」
 宿屋での夜、ベランダでオスカーが話してくれた、フランシスへの気持ち。
「仕方がないですね。わたしの数少ない友人ですから」
「隊長。もう暴れませんから、拘束具を外してください」
 オスカーは眉間の皺を深めて考える仕草をしたが、結局首と体の拘束具を外した。
「アレクサンドラ様、この傷は治癒させてください。下手をしたら指が動かなくなりますよ。無茶はしないでください」
 無茶をさせた張本人の言葉とは思えなかったが、あまりに優しく穏やかに笑うので、アレクサンドラは思わず苦笑した。
 治癒を終えたフランシスは、アレクサンドラの手の甲に口づけた。
「今日のところは引きさがります。また会いましょう、アレクサンドラ様」
 オスカーとフランシスは王宮の敷地から出ていた。
 二人きりになると、ザックは腕を組んでアレクサンドラを見下ろした。
「で? 特別室に入るってなんだよ。これからオレと旅立つんじゃねえの?」
 アレクサンドラは首を横に振って、しっかりとザックを見た。そして、一晩考えた結論を全て話した。
「だから、国がこんなに傾いたのは自業自得だって昨日言っただろ。なんでお前がヤツらの尻拭いのために、人生を棒に振らなきゃならねえんだ」
「私にしか、できないからだよ」
 アレクサンドラは決めたのだ。
 ――お前が正しいと思ったことを信じろ。
 ザックの言葉が蘇る。
(私は、これが正しいと思う。たとえ自分やザックの意に反していても)
「これでみんな、丸くおさまるの」
 アレクサンドラは両手を強く握った。ザックに別れを告げるのが一番つらかった。
「私、ザックに会えてよかった。幸せになってね」
 アレクサンドラは笑顔を作った。最後は笑顔で別れたかった。夜通し泣き続けたから、もう涙は枯れたはずだ。
「お前、ふざけんなよ」
 押し殺したようなザックの声に驚いて、アレクサンドラは顔を上げた。両肩を痛いくらいに強く掴まれる。
「どうしてお前の言う“みんな”に、お前とオレだけ入ってねえんだ」
「ザック」
 こんなに怒ると思っていなかった。これは、悲しみの裏返しだ。こんなにも強く、ザックはアレクサンドラとの別れを悲しんでいる。
「お前のいないこの世に生きて、オレが幸せになれるはずねえだろ」
 アレクサンドラは強く抱きしめられた。
「考え直せ、アレクサンドラ」
 ザックの言葉が嬉しかった。
この広くて力強い、安心できる場所にずっといたかった。
しかし、それは叶わない。
アレクサンドラが、自分で選んだ道なのだ。
 口を開けば、弱音をはいてしまいそうだった。アレクサンドラは歯を食いしばって、涙を耐えた。ただ首を横に振る。
「……そんな顔をくしゃくしゃにして、いっそ泣けよ、バカ」
 優しい声と共に、大きな手がアレクサンドラの顔を撫でる。
 ザックが穏やかに微笑んでいた。
「こうなる予感もあった。お前はバカみたいにお人よしで、頑固だからな。そういうとこ、母親似だよな」
 ザックはアレクサンドラの頭を胸に押しつけた。
「お前がその気なら、オレにも考えがある」
 頭上から、強い決意を秘めた声が聞こえた。
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