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一章 狙われる唇
狙われる唇 5
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(おばあちゃんは、なんと言おうとしていたんだろう)
老婆は、魔道士二人からアレクサンドラを守ろうとしている様子だった。
十七年間、老婆はアレクサンドラと共に山奥に隠れ住んでいた。
(何のために? ……誰のために?)
「残念ですが、目覚めを待つことはできません、王女殿下」
フランシスが表情を曇らせる。
「先ほどはとっさのことで、彼女に魔法を強くかけすぎました。一週間は眠り続けるでしょう。アーウィンの国民たちは、今この時も苦しんでいます」
「なんてこと! おばあちゃんは体調を崩しているのに」
「大丈夫です、眠っているだけですから。それに手紙を託すついでに、ご近所さんにご婦人の世話を頼んでおきました」
フランシスはニッコリと微笑んだ。
「その樹は私がいなくても十七年大丈夫だったんでしょ? 一週間くらい遅れても……」
「マナに余裕があった頃と、枯渇した今とでは話が違います。一日延びれば、その分飢える者が増える。一刻の猶予もなりません」
「……」
この魔道士たちの話は本当なのか、どこまで信用できるのか、アレクサンドラには判断できない。共に暮らし、育ててくれた老婆の話も聞きたかった。
しかし、アレクサンドラには分かっている。いくら魔道士たちが紳士的な態度で意向を伺っているように見えても、アレクサンドラを王都に連れていくことは決定事項だろう。逃がしてもらえるはずがない。
「……分りました」
アレクサンドラはため息をついた。
(従うしかないよね)
ただし、希望もある。
オスカーの話が本当なら、両親に会うことができるのだ。
「ついて行くけど、ひとつお願いがあるの」
「なんでしょう、王女殿下」
そう言ったフランシスを、アレクサンドラは指さした。
「それ。王女殿下はやめて。自分のことだって思えないわ。アレクサンドラって名前で呼んで。堅苦しい言葉も使わなくていいから。私もそうする」
「それは出来かねる」
オスカーが拒否した。
「ぼくはアレクサンドラ様って呼ばせてもらいますね。ぼくのことはフランシスと呼んでください」
差し出された手袋ごしの手をアレクサンドラは握った。するとオスカー同様、フランシスもビクリと肩を振るわせて動きをとめた。アレクサンドラは不安になる。
「あの、私の手、なにかおかしい?」
「……いえ。むしろ、ずっと握っていたいです」
アレクサンドラは引き寄せられて、ハグをされた。フランシスのサラサラの銀髪が、ふわりとアレクサンドラを包む。
「アレクサンドラ様、いい香りです」
「え、そうかな」
気にしていなかったアレクサンドラは戸惑う。香料を付けているのか、フランシスこそ甘い香りがした。細身で女性的な容姿に見えるが、制服越しに引き締まった肉体を感じる。
「フランシス、いい加減にしろ」
「ふふ、隊長に怒られちゃった」
いたずらっ子ように笑うフランシスに、アレクサンドラもつられて笑う。王都までの旅がどれくらいかかるのかは分からないが、フランシスは付き合いやすそうだと、アレクサンドラは思った。
旅の準備といっても、たいした時間はかからない。普段から動きやすい服装をしているし、着替える服の持ち合わせは元々少ない。水や干し肉などの食料と弓矢を持ったら終了だ。
「おばあちゃん、すぐに帰ってくるからね」
ベッドで眠る老婆に声をかけ、アレクサンドラはログハウスの外に出た。
老婆は、魔道士二人からアレクサンドラを守ろうとしている様子だった。
十七年間、老婆はアレクサンドラと共に山奥に隠れ住んでいた。
(何のために? ……誰のために?)
「残念ですが、目覚めを待つことはできません、王女殿下」
フランシスが表情を曇らせる。
「先ほどはとっさのことで、彼女に魔法を強くかけすぎました。一週間は眠り続けるでしょう。アーウィンの国民たちは、今この時も苦しんでいます」
「なんてこと! おばあちゃんは体調を崩しているのに」
「大丈夫です、眠っているだけですから。それに手紙を託すついでに、ご近所さんにご婦人の世話を頼んでおきました」
フランシスはニッコリと微笑んだ。
「その樹は私がいなくても十七年大丈夫だったんでしょ? 一週間くらい遅れても……」
「マナに余裕があった頃と、枯渇した今とでは話が違います。一日延びれば、その分飢える者が増える。一刻の猶予もなりません」
「……」
この魔道士たちの話は本当なのか、どこまで信用できるのか、アレクサンドラには判断できない。共に暮らし、育ててくれた老婆の話も聞きたかった。
しかし、アレクサンドラには分かっている。いくら魔道士たちが紳士的な態度で意向を伺っているように見えても、アレクサンドラを王都に連れていくことは決定事項だろう。逃がしてもらえるはずがない。
「……分りました」
アレクサンドラはため息をついた。
(従うしかないよね)
ただし、希望もある。
オスカーの話が本当なら、両親に会うことができるのだ。
「ついて行くけど、ひとつお願いがあるの」
「なんでしょう、王女殿下」
そう言ったフランシスを、アレクサンドラは指さした。
「それ。王女殿下はやめて。自分のことだって思えないわ。アレクサンドラって名前で呼んで。堅苦しい言葉も使わなくていいから。私もそうする」
「それは出来かねる」
オスカーが拒否した。
「ぼくはアレクサンドラ様って呼ばせてもらいますね。ぼくのことはフランシスと呼んでください」
差し出された手袋ごしの手をアレクサンドラは握った。するとオスカー同様、フランシスもビクリと肩を振るわせて動きをとめた。アレクサンドラは不安になる。
「あの、私の手、なにかおかしい?」
「……いえ。むしろ、ずっと握っていたいです」
アレクサンドラは引き寄せられて、ハグをされた。フランシスのサラサラの銀髪が、ふわりとアレクサンドラを包む。
「アレクサンドラ様、いい香りです」
「え、そうかな」
気にしていなかったアレクサンドラは戸惑う。香料を付けているのか、フランシスこそ甘い香りがした。細身で女性的な容姿に見えるが、制服越しに引き締まった肉体を感じる。
「フランシス、いい加減にしろ」
「ふふ、隊長に怒られちゃった」
いたずらっ子ように笑うフランシスに、アレクサンドラもつられて笑う。王都までの旅がどれくらいかかるのかは分からないが、フランシスは付き合いやすそうだと、アレクサンドラは思った。
旅の準備といっても、たいした時間はかからない。普段から動きやすい服装をしているし、着替える服の持ち合わせは元々少ない。水や干し肉などの食料と弓矢を持ったら終了だ。
「おばあちゃん、すぐに帰ってくるからね」
ベッドで眠る老婆に声をかけ、アレクサンドラはログハウスの外に出た。
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