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あり得ませんわ

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段々と光に混じる朱色が濃くなってくる。
頭のどこかで帰らなくちゃと思っているのに、オーウェンから目が離せなくて、足も動きそうに無かった。

オーウェンの亜麻色の髪に陽が跳ねて輝く。サラサラと風に流れていき、乱れた前髪から覗く深い紺碧の瞳が私を射止めたまま離さない。

息が止まりそうだわ。

そっとオーウェンが私の膝の上にある手を取って持ち上げる。


「……アデレイズ。偶然とはいえ、婚約者として選ばれた事、とても嬉しく思っているんだ」


ザァァ…ゴゴ……ザァァァ


「本当は俺から言えたら良かったんだけど……」


ザァァァァ……ゴゴ、ゴゴゴ……ザァァ


「11年前に辺境に戻ってから、気付いたことがあったんだ。でも……言えなかった」

「……どうして?」

「君が婚約してしまったから。あまりのタイミングの悪さに、運命を呪ったくらいだ。はっきり自覚したのはもう少し先だったけど」


ザァァァァ……ゴゴ……ザァァ


「やっと仕舞い込み続けた事を、口にできる時が来た。諦めてしまわなくて本当に良かったよ」

「な……にを?」


オーウェンの真剣な瞳に熱が籠って、まるで蒼い炎のように揺らめく。恐らく赤くなっているだろう頬は、夕陽の赤で誤魔化されているかしら。そんな事を考えて、トクントクンと鳴り続ける胸をもう片方の手で押さえる。

取られた手がオーウェンの唇へと近づき、吐息を感じてしまう。

その先の言葉を聞きたいような、聞いたら最後逃れられなくなるような、そんな期待と不安で心は揺れていた。


「アデレイズ、俺…………ずっとお前の事がすk」

「アデレイズ!!!アデレイズか?!!おお!こんな所にっ!いい所にいた!!おい、アデレイズ!!」

ザァァザバザバザバザバっっ!



大事な最後の言葉に集中していた所に、耳に馴染んだ不躾な声が割り込んできて、オーウェンに釘付けだった意識が無理矢理引き剥がされてクラクラした。

何事かと声のした方へと顔を向ければ、大噴水の女神像の台座の小さな一面が横へとズレていて、噴水の中をジャバジャバとずぶ濡れで横断する元婚約者が居た。


「……………………は?」

「私がこんな目にあっているというのに、お前は何をしているんだ?浮気とは嘆かわしいっ。まぁ今はいい。ちょっと手を貸せ」


あたりに水を撒きながら噴水から出てきた、元婚約者ことハイデリウス第三王子殿下は、濡れた髪をかきあげて、そう宣ったのだった。
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