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ちょっと待ってですわっ

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数秒が数時間にも感じられるほど目を見開いた。

あまりのあり得ない事態に、脳みそが処理するのを拒否する事ってあるのね~っと思って、半分魂が抜けたような感覚でいると、ハッと気を取り戻して立ち上がった。

周りをぐるりと見渡すと、幸いなことに今は誰もいない。それからオーウェンを振り返ると、オーウェンは指笛を鳴らして誰かを呼び寄せていた。


「ここを人払いしていて良かった。1人は王宮へ報告。2人はアレを塞げ。残りは続けて人払を」


道理で人通りが異様に少ないと思ったら、人払いをしていたらしい。今回はそれで助かったけれどもっ


「何だ貴様、何処の家の者だ」

「ディモアール辺境伯のオーウェンです。この度はとんでも無い事をしでかしてくれやがりましたね。しかもわざわざ私の目の前で……かつ大事な場面でっ」


さっきまでキラキラと輝いていた筈のオーウェンは、魔王の如くどす黒いオーラを背負って微笑みを浮かべていた。

とても器用だけれども、昨日似た感じのを見た気がするわ。


「なっ、貴様無礼なっ」

「黙りやがれ。おい誰か……ってびしょ濡れのままでは拙いな。仕方がない、1人適当に靴を含めた服一式を買ってこいっ」


テキパキと指示を出すオーウェンに、内心で拍手を送りながら、私は他に抜けなどが無いかを確認した。

とりあえず問題はなさそうかしら……


ビチョビチョのハイデリウス殿下元婚約者を「はいはい」と以前のように宥めて日当たりのいい場所へと誘導して、足りるとは思えないけれど、取り敢えずハンカチも渡してあげた。


「ふん、タオルは無いのか。気が利かないなっ」

「無理に使わなくて結構ですよ?」

「可愛げのないっ」

「お互い様ですわね」


そうこうしているうちに、指示を出した1人がもどって来て、急ぎ購入したと思われる服と、気を利かせたのか一緒にタオルも差し出した。


「……馬車かな」

「そうですわね。一先ず上だけでも着替えられては如何?流石に殿下でも風邪を召されるでしょう?」

「こんな所でか?!」

「何処かに部屋があるように見えまして?」

「ぐっっ、では誰か着替えを」



……今なら引っ叩いても許されるんじゃないかしら?


まだまだ騒ぎそうな殿下の頭にタオルを適当に被せたオーウェンは、問答無用とばかりに首根っこを引っ掴んで半ば引きずるように歩き出したのだった。
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