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Ⅶ それぞれの道
①
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あれから黙り込んでしまった蓮を残してルカは自宅に戻った。カレンダーを見れば蓮の家に行って十日が経っていた。時間も日にちも忘れるくらい幸福な時間だった。だけど、このままじゃダメだ。ルカは自分の足で立っていたい。耐えて頑張ってきた時間を投げ出したくない。せっかくモデル業で芽が出て来た今を大切にしたい。だから蓮にも分かって欲しい。夢を捨てずに自分の力で生きて欲しい。
所属事務所に連絡を入れた。ルカは休職中として問題行動になっていなかった。涼とノボルは公の場でアルファの威圧を使ったことがバースハラスメント対象事案となり一週間の謹慎処分。すでに謹慎も解けてモデル活動を再開している。川口さんは本社に戻っていた。川口さんに関しては詳しく教えてもらえなかった。多分、ルカに関する情報漏洩が問題となったのだと思った。良い人だと思っていたのに、ズキリと心が痛んだ。
まだルカの報道が出て半月だけれど世間はすっかり過去のニュース扱い。つい数日前に大物政治家の汚職事件が発覚し、ワイドショーは大物政治家報道に切り替わっている。世の中の流れの速さにただ驚いている。ルカは徐々にもとの生活に戻っている。ルカの評価が下がったわけではなくモデルとして仕事が続けられることに安堵した。
「ルカ君、行こうか」
「はい」
今日は撮影現場が郊外。車で移動する。新たにマネージャーとしてついてくれたのは二十八歳ベータ男性の田村さん。田村さんは川口さんと違いプライベートに入ってこない。もしかしたらコレが普通なのかな、と感じている。
「ルカ君、今日は時計会社のブランドライン撮影だよ。向こうから指名してきてくれているから、張り切って行こうね」
「はい。田村さん、俺、そろそろ発情期になります。仕事は調整してもらえますか?」
「大丈夫だよ。発情期の周期はこちらで把握しているから。あと、突発的な発情期にも対応するよ。その辺はこれまでと変わらないよ。ついでに効くけれど、何かサポートはいる?」
「あの、できたら発情期中は外出できなくて、食べ物なんかを一週間お願いできたら助かります」
「うん。わかったよ。ちなみにその期間だけ蓮さんに連絡したほうがいいかな? 一応、事務所同士での連絡は可能だよ」
少し考える。確かに番だと周囲に知られているし、蓮と一緒に過ごしても問題ないのかもしれない。でも、気まずい。直ぐに返事が出来ずに悩む。
「わかった。じゃ、状況によって蓮さんに連絡とるよ。申し訳ないけれど川口さんのように発情期の対応までは僕には無理だからね」
「はい。分かっています」
ルカはそっとため息をつく。発情期か。疑似アルファフェロモン薬を使っても本当の番のフェロモンを知ってしまった今では発情期が以前以上に辛いはず。啖呵を切った手前、発情期だけでも一緒に居られたら、などと都合のいいことは言えない。あの幸せな蓮との時間を思い出すと蓮の腕の中にずっと入っていたい欲望が沸き上がる。本当は蓮と居たい。蓮と愛し合いたかった。蓮と過ごすうちに分かっていた。誠実でルカに嘘をつかない蓮に惹かれていた。憎らしい気持ちもあるけれど、それでも蓮に惹かれていくルカの心は止められなかった。あの優しい蓮の腕の中に納まっていられたら幸福だったろう。思い出すと悲しくて涙が滲む。でも、ダメだ。蓮がやっと掴んだ俳優の道を投げ捨ててはいけない。ルカと居るために夢を捨てるなんて嫌だ。蓮、気が付いて。お願いだ。苦しい気持ちを呑み込み、滲んだ涙がバレないように車外を眺める。
所属事務所に連絡を入れた。ルカは休職中として問題行動になっていなかった。涼とノボルは公の場でアルファの威圧を使ったことがバースハラスメント対象事案となり一週間の謹慎処分。すでに謹慎も解けてモデル活動を再開している。川口さんは本社に戻っていた。川口さんに関しては詳しく教えてもらえなかった。多分、ルカに関する情報漏洩が問題となったのだと思った。良い人だと思っていたのに、ズキリと心が痛んだ。
まだルカの報道が出て半月だけれど世間はすっかり過去のニュース扱い。つい数日前に大物政治家の汚職事件が発覚し、ワイドショーは大物政治家報道に切り替わっている。世の中の流れの速さにただ驚いている。ルカは徐々にもとの生活に戻っている。ルカの評価が下がったわけではなくモデルとして仕事が続けられることに安堵した。
「ルカ君、行こうか」
「はい」
今日は撮影現場が郊外。車で移動する。新たにマネージャーとしてついてくれたのは二十八歳ベータ男性の田村さん。田村さんは川口さんと違いプライベートに入ってこない。もしかしたらコレが普通なのかな、と感じている。
「ルカ君、今日は時計会社のブランドライン撮影だよ。向こうから指名してきてくれているから、張り切って行こうね」
「はい。田村さん、俺、そろそろ発情期になります。仕事は調整してもらえますか?」
「大丈夫だよ。発情期の周期はこちらで把握しているから。あと、突発的な発情期にも対応するよ。その辺はこれまでと変わらないよ。ついでに効くけれど、何かサポートはいる?」
「あの、できたら発情期中は外出できなくて、食べ物なんかを一週間お願いできたら助かります」
「うん。わかったよ。ちなみにその期間だけ蓮さんに連絡したほうがいいかな? 一応、事務所同士での連絡は可能だよ」
少し考える。確かに番だと周囲に知られているし、蓮と一緒に過ごしても問題ないのかもしれない。でも、気まずい。直ぐに返事が出来ずに悩む。
「わかった。じゃ、状況によって蓮さんに連絡とるよ。申し訳ないけれど川口さんのように発情期の対応までは僕には無理だからね」
「はい。分かっています」
ルカはそっとため息をつく。発情期か。疑似アルファフェロモン薬を使っても本当の番のフェロモンを知ってしまった今では発情期が以前以上に辛いはず。啖呵を切った手前、発情期だけでも一緒に居られたら、などと都合のいいことは言えない。あの幸せな蓮との時間を思い出すと蓮の腕の中にずっと入っていたい欲望が沸き上がる。本当は蓮と居たい。蓮と愛し合いたかった。蓮と過ごすうちに分かっていた。誠実でルカに嘘をつかない蓮に惹かれていた。憎らしい気持ちもあるけれど、それでも蓮に惹かれていくルカの心は止められなかった。あの優しい蓮の腕の中に納まっていられたら幸福だったろう。思い出すと悲しくて涙が滲む。でも、ダメだ。蓮がやっと掴んだ俳優の道を投げ捨ててはいけない。ルカと居るために夢を捨てるなんて嫌だ。蓮、気が付いて。お願いだ。苦しい気持ちを呑み込み、滲んだ涙がバレないように車外を眺める。
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