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chapter4
step.31-6 クリスマスとお墓参り
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さすがに疲れたのか、いつの間にか類さんは僕らに寄りかかって寝ていた。
ニャン太さんが彼を抱きかかえてベッドに運び、僕はみんなと後片付けをした。
それから順番にシャワーを浴びた。
前に買った手袋を類さんの枕元に届けに行けば、ソウさんが類さんの隣に潜り込んで寝ていた。
あどけない様子で寝息をこぼすふたりを見下ろしていると、なんとなく微笑ましい気持ちになる。
僕はこっそり手袋の入った袋をデスクに置くと、類さんの髪にキスを落として部屋を後にした。
自室の扉が鳴ったのは、ベッドに寝転がってしばらくしてからだ。
「デンデン。今日、一緒に寝ていーい?」
扉を開けると、枕を持ったニャン太さんがいた。
「構いませんが……どうかしましたか?」
てっきり彼はソウさんと一緒に類さんのベッドに潜り込むだろうと思っていた僕は、意外に思う。
「どうもしないよ。ただデンデンにくっつきたかっただけ~」
彼は足取り軽く僕のベッドに飛び込んだ。
僕も慣れたもので、彼の隣に寝転がる。
ニャン太さんはゴロゴロと心地良い位置を探してから一息つき、じっと天井を見上げた。
束の間の沈黙。
「あの、さ。……デンデン」
「はい?」
言葉を探すようにしてから、彼は僕の方を見た。
「いろいろ、ありがとね」
「え……?」
お礼を言われる理由がわからずキョトンとすれば、彼は身体ごとこちらを向いた。
「この前ね、類ちゃんいつもの病院に行ったら……通院の間隔、長くしても平気って言われたんだ。次は、薬も減るかもって」
「それって……」
「うん」と、彼は嬉しそうに表情を綻ばせる。
「治るまではまだ時間かかるみたいなんだけど、かなり落ち着いてきてるみたい。ぶっちゃけ、類ちゃんよくお医者さんの前でムリすることあるから疑ってたけど……今日の見て、確信したよ。類ちゃん、ホントのホントに前に進んでるんだって」
「良かったです……」
僕も身体ごとニャン太さんの方を向いた。
ちょっと泣きそうだ。
お医者さんが言うなら彼がいい状態へ進んでいるのは確かだろう。
ニャン太さんは昔を思い出すように遠くへと視線を投げると、唇を開いた。
「高校出てからさ、類ちゃん、どんどん不安定になってっちゃってて……落ちてる時は、ボクとか帝人じゃどうしようもなくて。ソウちゃんばかりに負担かかっちゃってさ。なんとか代わりになろうとして頑張ったりしたけど、全然ダメで……
ふたりして死んじゃうんじゃないかって、不安でたまらなく思うこともあった」
続いて僕の手を取り、微笑む。
「でも、デンデンが来て類ちゃん変わったんだ。何が、って具体的には言えないけど、諦めないようになったっていうか、今を見てくれるようになったっていうか……。
ボクさ……今日、凄く嬉しかったんだよ」
僕はゆるく首を振った。
「僕は何もしていません。たまたまタイミングが合っただけです。みんなが類さんのことを支えてきたから、今があるんですよ」
僕は何もしていない。類さんやニャン太さんに甘やかされてばかりだ。
「デンデン……」
「僕も今日、凄く楽しかったです。七面鳥もケーキも何もかも凄く美味しかったし、プレゼント交換もとても楽しかった。
ニャン太さんたちといると、人生で1番の幸せがどんどん更新されていきます」
類さんと出会い、心配に思うこともあるけれど、でも、毎日、怖いくらい幸せだ。
心から笑って、好きが溢れていて……誰かと想い合うことはこれほどまでに安らぐものなのかと、驚きの連続だった。
「また、来年も今日みたいにステキなクリスマスを過ごそうね」
ニャン太さんが小指を差し出してくる。
「はい。約束です」
「うん、約束」
それに小指を絡めて、僕らは指切りをした。
次いで、彼は僕の頬を両手で包み込んで額にキスをしてくれたから、僕もニャン太さんの鼻先に口付けを返した。
視線が交錯し、どちらからともなく唇が重なる。
触れるだけのキスを2度。
ふと気が付くと、ニャン太さんに組み敷かれていて、僕はゆっくりと瞬きをした。
彼とふたりきりでベッドにいるのは初めてだと思い至ったからだ。
と、ニャン太さんは何か言いたげに僕の目を覗き込んできた。
訝しげにすると、彼は困ったように眉根を下げてドサリと横に寝転がった。
「……おやすみ、デンデン。愛してるよ」
囁いて、ニャン太さんは目を閉じ身体を丸めた。
「僕もです。おやすみなさい」
僕は何故かホッと吐息をこぼすと、彼の肩まで毛布を持ち上げる。
それからカーテンの隙間から覗く窓の外の雪を眺めた。
来年も、再来年も、そのまた次の年も。
みんなと一緒に過ごせればいい。
他愛もないことで笑い合って、たくさんキスをして……
そして未来の自分が、今日という日を温かな気持ちで振り返ることができるといい。
僕は胸の上で手を組むと、瞼を閉じた。
隣から聞こえる吐息とぬくもりは、速やかに僕を夢の世界へと連れ去っていった。
step.31「クリスマスとお墓参り」おしまい
ニャン太さんが彼を抱きかかえてベッドに運び、僕はみんなと後片付けをした。
それから順番にシャワーを浴びた。
前に買った手袋を類さんの枕元に届けに行けば、ソウさんが類さんの隣に潜り込んで寝ていた。
あどけない様子で寝息をこぼすふたりを見下ろしていると、なんとなく微笑ましい気持ちになる。
僕はこっそり手袋の入った袋をデスクに置くと、類さんの髪にキスを落として部屋を後にした。
自室の扉が鳴ったのは、ベッドに寝転がってしばらくしてからだ。
「デンデン。今日、一緒に寝ていーい?」
扉を開けると、枕を持ったニャン太さんがいた。
「構いませんが……どうかしましたか?」
てっきり彼はソウさんと一緒に類さんのベッドに潜り込むだろうと思っていた僕は、意外に思う。
「どうもしないよ。ただデンデンにくっつきたかっただけ~」
彼は足取り軽く僕のベッドに飛び込んだ。
僕も慣れたもので、彼の隣に寝転がる。
ニャン太さんはゴロゴロと心地良い位置を探してから一息つき、じっと天井を見上げた。
束の間の沈黙。
「あの、さ。……デンデン」
「はい?」
言葉を探すようにしてから、彼は僕の方を見た。
「いろいろ、ありがとね」
「え……?」
お礼を言われる理由がわからずキョトンとすれば、彼は身体ごとこちらを向いた。
「この前ね、類ちゃんいつもの病院に行ったら……通院の間隔、長くしても平気って言われたんだ。次は、薬も減るかもって」
「それって……」
「うん」と、彼は嬉しそうに表情を綻ばせる。
「治るまではまだ時間かかるみたいなんだけど、かなり落ち着いてきてるみたい。ぶっちゃけ、類ちゃんよくお医者さんの前でムリすることあるから疑ってたけど……今日の見て、確信したよ。類ちゃん、ホントのホントに前に進んでるんだって」
「良かったです……」
僕も身体ごとニャン太さんの方を向いた。
ちょっと泣きそうだ。
お医者さんが言うなら彼がいい状態へ進んでいるのは確かだろう。
ニャン太さんは昔を思い出すように遠くへと視線を投げると、唇を開いた。
「高校出てからさ、類ちゃん、どんどん不安定になってっちゃってて……落ちてる時は、ボクとか帝人じゃどうしようもなくて。ソウちゃんばかりに負担かかっちゃってさ。なんとか代わりになろうとして頑張ったりしたけど、全然ダメで……
ふたりして死んじゃうんじゃないかって、不安でたまらなく思うこともあった」
続いて僕の手を取り、微笑む。
「でも、デンデンが来て類ちゃん変わったんだ。何が、って具体的には言えないけど、諦めないようになったっていうか、今を見てくれるようになったっていうか……。
ボクさ……今日、凄く嬉しかったんだよ」
僕はゆるく首を振った。
「僕は何もしていません。たまたまタイミングが合っただけです。みんなが類さんのことを支えてきたから、今があるんですよ」
僕は何もしていない。類さんやニャン太さんに甘やかされてばかりだ。
「デンデン……」
「僕も今日、凄く楽しかったです。七面鳥もケーキも何もかも凄く美味しかったし、プレゼント交換もとても楽しかった。
ニャン太さんたちといると、人生で1番の幸せがどんどん更新されていきます」
類さんと出会い、心配に思うこともあるけれど、でも、毎日、怖いくらい幸せだ。
心から笑って、好きが溢れていて……誰かと想い合うことはこれほどまでに安らぐものなのかと、驚きの連続だった。
「また、来年も今日みたいにステキなクリスマスを過ごそうね」
ニャン太さんが小指を差し出してくる。
「はい。約束です」
「うん、約束」
それに小指を絡めて、僕らは指切りをした。
次いで、彼は僕の頬を両手で包み込んで額にキスをしてくれたから、僕もニャン太さんの鼻先に口付けを返した。
視線が交錯し、どちらからともなく唇が重なる。
触れるだけのキスを2度。
ふと気が付くと、ニャン太さんに組み敷かれていて、僕はゆっくりと瞬きをした。
彼とふたりきりでベッドにいるのは初めてだと思い至ったからだ。
と、ニャン太さんは何か言いたげに僕の目を覗き込んできた。
訝しげにすると、彼は困ったように眉根を下げてドサリと横に寝転がった。
「……おやすみ、デンデン。愛してるよ」
囁いて、ニャン太さんは目を閉じ身体を丸めた。
「僕もです。おやすみなさい」
僕は何故かホッと吐息をこぼすと、彼の肩まで毛布を持ち上げる。
それからカーテンの隙間から覗く窓の外の雪を眺めた。
来年も、再来年も、そのまた次の年も。
みんなと一緒に過ごせればいい。
他愛もないことで笑い合って、たくさんキスをして……
そして未来の自分が、今日という日を温かな気持ちで振り返ることができるといい。
僕は胸の上で手を組むと、瞼を閉じた。
隣から聞こえる吐息とぬくもりは、速やかに僕を夢の世界へと連れ去っていった。
step.31「クリスマスとお墓参り」おしまい
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