人狼坊ちゃんの世話係

Tsubaki aquo

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番外編2

♡セシルくんは素直になりたい。(13)

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「ま、待ってよ。
 もしかして、お前がボクとエッチしなかったのって……
 その、ちゃんとしてなかった、からなの? それだけ?」

「それ以外の理由があるのか?」

「あるでしょ! スキじゃないとか、
 性的な目で見れないとか、イロイロ……」

「スキでもない相手に欲情はしない」

 ボクは全身から力が抜けるのを感じた。

「おま、お前――――真面目か!!?」

 ああ……でも、そうだ。
 彼は教会で青春時代を過ごして、
 教会を去ってからは、ボクと人目を忍んで旅をしてきていて。
 真面目なんだ。すれていないんだ。
 ……意気地がないわけじゃ、なかったんだ。

「は、はは……
 ってか、お前、ボクのこと……スキだったの……
 どこが? 自分で言うのもなんだけど……
 ボク、結構、酷い性格してるよ?」

「自覚があったのか」

「……やっぱり性格悪いって思ってるんじゃん!」

「悪いとは言っていない。酷いとは思うが」

「同じでしょ! お前、ホントはやっぱりボクのことなんて――」

「だが、可愛いと思うんだ。仕方ないだろう」

「か、かわっ……」

 真っ直ぐに告げられて、顔に熱が集まる。
 ボクはヴィンセントの服を握り締めると、俯いた。

「そ、そりゃ、ボクは可愛いけど……
 …………ホントに、スキなの。こんな、ボクのこと」

 俄には信じられない。
 20数年一緒にいて、
 ボクのダメなところはヴィンセントが一番知っているはずだ。
 ボクなら、絶対にスキになったりしない。

 そんなことを思っていると、顎を持ち上げられた。

「一緒に生きたいと言った。
 俺としては……あれは、一世一代の告白だったんだがな」

『愛している』
 そんな囁きと共に、唇を塞がれる。

「……っ!」

 優しく触れて、唇が離れると、
 ボクは即座に顔を背けた。
 ヴィンセントのことを、真っ直ぐ見れない。

「お……お前、趣味が悪過ぎるよ……」

 掠れる声で言って、ボクは目を閉じた。
 それから、ヴィンセントの方へ顔を向けて唇を突き出すようにする。

「……ほら。もっと……して、いいよ」

「ああ」

 大きな手が、優しく顔を包み込み、
 確かめるようにボクの頬を撫でた。
 
 それから、再び唇が重なった。

* * *

 口付けは次第に激しさを増し、
 ボクはベッドに運ばれそうになると、
 ストップをかけて浴室に逃げ込んだ。

 体の隅々まで洗って出れば、
 ヴィンセントが交代でシャワーを浴びに行く。

 その間に、ボクはこの前、オシャレした服に着替えてみた。
 髪を結ってから、ヴィンセントがくれた髪飾りを付けて、
 ベッドにちょこんと座って、彼が戻るのを待つ。

 膝の上で握り締めた手が、震えていた。
 やっぱり、シャワーなんて浴びない方が良かったかもしれない。
 こういうコトは、勢いが大事だったんだ。

 今更気づいても遅い。
 心臓がバクバクと高鳴って、顔が熱くて、火を噴きそうだ。

 ヴィンセントが浴室から出てきた。
 彼はズボンに上半身裸のラフな格好だった。
 濡れた髪から水滴が落ちて、引き締まった体を滑り落ちる。

 ボクは咄嗟に目を伏せた。
 なんというか……
 すっごい、色っぽいと思ってしまった。
 
「着替えたのか」

「うん。……ま、まあ、どうせ脱ぐんだけど、さ。
 なんとなく、可愛い方がいいかなって……」

「脱がせるかどうかは、決めていないが」

 ベッドがギシリと軋んだ。
 ヴィンセントがボクの隣に座ったのだ。

 沈黙。
 長い、長い、沈黙。

 ちらりとヴィンセントを見れば、
 視線に気付いたのか、彼もこちらに顔を向けた。

 ヴィンセントはいつもと変わらない。
 ボクばかりが……ドキドキしてる。

「……なんで、お前……そんなに落ち着いてるんだよ」

「そう見えるか?
 だとしたら、乗り越えてきた死線の違いだな」

 手を握られた。
 上がりきっていたように思う自分の体温が、限界を突破する。

 血が沸騰したと思った。唇が震えた。
 ヴィンセントから目を離せない。

 ボクは、今まで彼の何を見てきたんだろう。
 ……というか、コイツ、こんなにカッコ良かったっけ?

 大きくて、厳つくて、分厚い体にばかりに気を取られていたけれど、
 彼はとても上品な顔立ちをしていた。
 若い頃のヴィンセントは、たぶん、凄く美男子で、
 これはもう絶対、めちゃくちゃモテた。
 甘い美貌の片鱗が見えるんだ。

 それが、たくさんの修羅場を乗り越えて、年を取り、
 精悍さに磨きがかかって、更には濃厚な色気まで手に入れて……

 ゆるやかに後ろになでつけた焦げ茶の髪の、
 ちょっと跳ねた毛先が、なんだか凄く可愛く見えた。

 笑うと浮かぶ目尻の皺が、泣きたくなるほど優しげだ。

 ぼうっとヴィンセントを見つめていると、
 彼はボクの顔を覗き込むようにした。

 吐息が鼻先をかすめ、それから――

「んっ……」

 触れるだけのキス。
 でも、その瞬間、雷に打たれたような痺れが、
 足先から脳天に突き抜けた。

 視界がチカチカと点滅する。呼吸が浅くなる。

「……もっと。もっとしてよ、ヴィンセント」

 瞼を閉じて上を向けば、ベッドに押し倒された。
 節張った手が頬を撫でて、再び唇を塞がれる。
 今度は貪るようなキスだった。

「ん、んん、んむぅ……」

 唇を割って、ザラついた舌が侵入してきて、
 ボクは逞しい背に手を伸ばした。

「ヴィンセン……ト……」

 口中をぐちゅぐちゅと太い舌に舌を絡ませれば、
 顔に触れていた手が、首筋を滑り、
 やがてシャツのボタンに移動した。

 1つ、1つ、ボタンが外されていく。
 しかし、その手は途中で止まってしまった。

 コルセットが邪魔だったんだ。
 ボクはもっと脱ぎやすい服にしておけば良かったと、
 心底後悔した。

「ごめん。すぐ、外すから……」

「いや、そのままでいい」

「え……?」

 ヴィンセントの手がボクの背に回り、
 コルセットの紐を緩める。
 それから、シャツを引っ張り上げると、
 彼は引き続きボタンを外していった。

 はだけたシャツの間から覗く胸に、熱い手が触れる。

「ひゃっ……」

 乳輪の縁を指先で何度かなぞられるだけで、
 ふにゃっとしていた中央の突起が充血していく。
 
「……本当に、感じやすいな」

 ヴィンセントは小さく笑むと、
 胸の中心に吸い付いてきた。
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