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十日間だけの甘い閨1
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ランの体は、美しかった。
真っ白な肌が興奮に色づき、夕焼けに染まる。
甘く潤んだ瞳は悦びの涙を零し、夢見るように私を見た。
細い腕が縋るように私の背中に回され、離れまいと言うようにきつくしがみつく。
「閣下ッ、あぁ、……っあ!んっ」
最初に見せた余裕の表情が嘘のように、私の至らない愛撫にも、ランは容易に乱れた。
けれど、快楽に怯えるかのように身を仰け反らせながらも、ランはこの情交のひとつひとつを忘れまいとするかのように、食らいついてくる。
私から与えられる愛撫も言葉も、私が見せる表情ひとつ見逃すまいと、快楽のたびにキュッと閉じそうになる目を必死に開けていた。
この情交を、記憶に刻みつけようとでもするかのように。
「あぁ、ああッ、愛しています!愛しております、あなたを!」
「……っ、ランッ」
悲鳴のような声が綴るのは、私への愛の言葉だ。快楽に溺れ、絶え間ない刺激に喘ぎながらも叫ばれるそれは、神への懇願か、もしくは宣誓にも似ていた。
まるでランの本心のように思える言葉に、「それは惚れ薬のせいだ」と理解していながらも、私はどうしようもなく煽られた。
「ラン……ラン、可愛いラン、私のラン……ッ」
熱心に何度も名前を呼び、渇いた獣のようにその肌を舐める。目尻に溜まる涙を吸いとり、塩味のある汗を恍惚と味わった。
「あっ、アアッ、ふっ、んぁッ、……閣ッ、下ぁ……ッ」
「ラン……ふっ、ん」
獣のように四つ這いになったランの後ろから劣情のままに打ち付ければ、華奢な体は崩れ落ちそうになりながらぶるぶると震える。
「ふぁ、あぁああーっ」
「っん、ぐぅッ」
「あ、ああぁッ」
白濁を飛び散らせて絶頂に達したランの中に、耐えていたものを吐き出せば、中への刺激にランはますます感じ入って、背中を痙攣させた。
「あ…あぅ、はぁっ……っ!」
「ラン……上手に達けたね」
びくん、びくんと大きく震えるランを後ろから抱きしめて、額や首筋に何度も唇を落とす。
落ち着くまで待ち、私はずるりと己を抜き取って、力が入らないランの体を横たえる。
そして。
ちゅぅ……
「アッ、閣下、そんな……ッ」
恥じらい慌てるランの制止を無視して、私はランの足側に移動して、華奢な男の証を口に含んだ。
「あ……あ……あ……ッ」
私の舌の動きや、残滓を吸い取ろうとする口腔内の蠢きに合わせて、ランは素直に腰を跳ねさせた。出し尽くしたはずの白い欲望が、びゅっ、びゅっ、と不連続的に押し出される。私は、溢れ出した白濁を余さず飲み干し、ランの全てを喰らい尽くした。
「……ラン」
口元を腕で拭い、私は放心したように虚脱した体を敷布に横たえるランの上に覆い被さる。
どれほど抱いても飽きることはなく、抱き足りない。
日頃、欲望の発散のために呼び寄せる商売女を抱く時とは比べ物にならないほど昂揚し、私は目の前の白い体にのめり込んだ。
あの乱暴でがさつな皇帝が、少し腹を立てて力を込めたら、ポキリと折れてしまいそうな細い首を、下からすぅっと舐め上げる。
巨漢の男にのし掛かられたら潰れてしまいそうな華奢な肢体を、指と唇で隅々まで大切に愛でる。
ランの体は、どこもかしこもが美しく、そして気の狂いそうになるほどに甘やかだった。
(この子を、私はあの愚かな男の後宮に送り込むのか)
この手の中に隠してしまいたい、そう考えた自分に愕然とした。
私はそのためにこの子を育ててきたというのに。
(私は、愚かだな……)
綺麗な耳朶、形の良い額、長いまつ毛、まろやかな頬、優美な紅唇、濁りない瞳、すらりと伸びた手足、薄い胸に載った薔薇色の小さな蕾……、そして、まるで乙女のように慎ましやかでありながら、男を飲み込んで悦楽の頂点へと駆り立てる、秘められた後孔。
ランの全てが私を惹きつけ、魅了し、惑わせた。
「ラン……可愛い私の拾い子……」
「かっか……」
ぼんやりとした焦点の合わない目で、ゆっくりと私を見つけて、さも幸福そうに笑むランに、私は稲妻に打たれたような衝撃を受けた。
(あぁ、そうか)
私にとってランは、まさしく掌中の珠と言うべき存在なのだ。
そのことを私は、この時になって痛いほどに理解した。
そして同時に、全てが今更だということも理解していた。
「……ラン、君にはもう少し、『恋人』としての勉強が必要だね。後宮に入るまでの間は、私と閨を共になさい」
「はい、閣下。嬉しゅうございます」
私の身勝手な言葉にランは従順に頷き、嬉しそうに笑って、すぅっと目を閉じた。
「……あぁ、そうだ。皇帝をきちんと騙すためには、やはりきちんと『恋人として振る舞う』ための勉強が必要だ。あと十日、しっかりと学びなさい」
私はもっともらしく頷き、誰にともなく言い訳を呟く。そして、ランの美しい髪の一房に口づけた。
「おやすみ、ラン。……この十日間だけ、恋人の君を愛しているよ」
まるで、大人が子供に繰り返し言い聞かせるように、何度も『この関係は十日間だけ』と口にする。疲れ果てて眠りに落ちたランに聞こえていないことなど分かっていた。あれは、自分の中に潜む、我儘な子供に対する言葉だった。
それから十日間。
私は、これは恋人との別れを惜しむ振りだと、皇帝を完璧に騙すために必要なのだと言い張って、初めて公務を休み、溺れるようにランを抱いた。
真っ白な肌が興奮に色づき、夕焼けに染まる。
甘く潤んだ瞳は悦びの涙を零し、夢見るように私を見た。
細い腕が縋るように私の背中に回され、離れまいと言うようにきつくしがみつく。
「閣下ッ、あぁ、……っあ!んっ」
最初に見せた余裕の表情が嘘のように、私の至らない愛撫にも、ランは容易に乱れた。
けれど、快楽に怯えるかのように身を仰け反らせながらも、ランはこの情交のひとつひとつを忘れまいとするかのように、食らいついてくる。
私から与えられる愛撫も言葉も、私が見せる表情ひとつ見逃すまいと、快楽のたびにキュッと閉じそうになる目を必死に開けていた。
この情交を、記憶に刻みつけようとでもするかのように。
「あぁ、ああッ、愛しています!愛しております、あなたを!」
「……っ、ランッ」
悲鳴のような声が綴るのは、私への愛の言葉だ。快楽に溺れ、絶え間ない刺激に喘ぎながらも叫ばれるそれは、神への懇願か、もしくは宣誓にも似ていた。
まるでランの本心のように思える言葉に、「それは惚れ薬のせいだ」と理解していながらも、私はどうしようもなく煽られた。
「ラン……ラン、可愛いラン、私のラン……ッ」
熱心に何度も名前を呼び、渇いた獣のようにその肌を舐める。目尻に溜まる涙を吸いとり、塩味のある汗を恍惚と味わった。
「あっ、アアッ、ふっ、んぁッ、……閣ッ、下ぁ……ッ」
「ラン……ふっ、ん」
獣のように四つ這いになったランの後ろから劣情のままに打ち付ければ、華奢な体は崩れ落ちそうになりながらぶるぶると震える。
「ふぁ、あぁああーっ」
「っん、ぐぅッ」
「あ、ああぁッ」
白濁を飛び散らせて絶頂に達したランの中に、耐えていたものを吐き出せば、中への刺激にランはますます感じ入って、背中を痙攣させた。
「あ…あぅ、はぁっ……っ!」
「ラン……上手に達けたね」
びくん、びくんと大きく震えるランを後ろから抱きしめて、額や首筋に何度も唇を落とす。
落ち着くまで待ち、私はずるりと己を抜き取って、力が入らないランの体を横たえる。
そして。
ちゅぅ……
「アッ、閣下、そんな……ッ」
恥じらい慌てるランの制止を無視して、私はランの足側に移動して、華奢な男の証を口に含んだ。
「あ……あ……あ……ッ」
私の舌の動きや、残滓を吸い取ろうとする口腔内の蠢きに合わせて、ランは素直に腰を跳ねさせた。出し尽くしたはずの白い欲望が、びゅっ、びゅっ、と不連続的に押し出される。私は、溢れ出した白濁を余さず飲み干し、ランの全てを喰らい尽くした。
「……ラン」
口元を腕で拭い、私は放心したように虚脱した体を敷布に横たえるランの上に覆い被さる。
どれほど抱いても飽きることはなく、抱き足りない。
日頃、欲望の発散のために呼び寄せる商売女を抱く時とは比べ物にならないほど昂揚し、私は目の前の白い体にのめり込んだ。
あの乱暴でがさつな皇帝が、少し腹を立てて力を込めたら、ポキリと折れてしまいそうな細い首を、下からすぅっと舐め上げる。
巨漢の男にのし掛かられたら潰れてしまいそうな華奢な肢体を、指と唇で隅々まで大切に愛でる。
ランの体は、どこもかしこもが美しく、そして気の狂いそうになるほどに甘やかだった。
(この子を、私はあの愚かな男の後宮に送り込むのか)
この手の中に隠してしまいたい、そう考えた自分に愕然とした。
私はそのためにこの子を育ててきたというのに。
(私は、愚かだな……)
綺麗な耳朶、形の良い額、長いまつ毛、まろやかな頬、優美な紅唇、濁りない瞳、すらりと伸びた手足、薄い胸に載った薔薇色の小さな蕾……、そして、まるで乙女のように慎ましやかでありながら、男を飲み込んで悦楽の頂点へと駆り立てる、秘められた後孔。
ランの全てが私を惹きつけ、魅了し、惑わせた。
「ラン……可愛い私の拾い子……」
「かっか……」
ぼんやりとした焦点の合わない目で、ゆっくりと私を見つけて、さも幸福そうに笑むランに、私は稲妻に打たれたような衝撃を受けた。
(あぁ、そうか)
私にとってランは、まさしく掌中の珠と言うべき存在なのだ。
そのことを私は、この時になって痛いほどに理解した。
そして同時に、全てが今更だということも理解していた。
「……ラン、君にはもう少し、『恋人』としての勉強が必要だね。後宮に入るまでの間は、私と閨を共になさい」
「はい、閣下。嬉しゅうございます」
私の身勝手な言葉にランは従順に頷き、嬉しそうに笑って、すぅっと目を閉じた。
「……あぁ、そうだ。皇帝をきちんと騙すためには、やはりきちんと『恋人として振る舞う』ための勉強が必要だ。あと十日、しっかりと学びなさい」
私はもっともらしく頷き、誰にともなく言い訳を呟く。そして、ランの美しい髪の一房に口づけた。
「おやすみ、ラン。……この十日間だけ、恋人の君を愛しているよ」
まるで、大人が子供に繰り返し言い聞かせるように、何度も『この関係は十日間だけ』と口にする。疲れ果てて眠りに落ちたランに聞こえていないことなど分かっていた。あれは、自分の中に潜む、我儘な子供に対する言葉だった。
それから十日間。
私は、これは恋人との別れを惜しむ振りだと、皇帝を完璧に騙すために必要なのだと言い張って、初めて公務を休み、溺れるようにランを抱いた。
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