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番外編

【拍手お礼①】アンネのつぶやき

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フォルダを漁っていたら出てきたので放出しちゃいます。
2019年の9月頃から、Web拍手のお礼に上げていたものです。
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 初めまして、私アンネと申します。
 しがない男爵家の長女で、縁あって十歳の頃にデルフィーヌ侯爵家に行儀見習いに出され、お仕えする事になったリィナお嬢様の可愛らしさにヤラれて早十三年。

 両親もデルフィーヌ侯爵ご夫妻も、まさかここまで居座るとは思っていなかった事でしょう。
 両親などは最近では見合いを理由に連れ戻そうと画策しているようですが……。
 私は実家に戻る気も結婚する気もなく、一生リィナ様にお仕えすると心に決めていますので、デルフィーヌ侯爵だんなさまにもそうお伝えしてあります。

 決して何か両親から酷い目にあっていただとか、過去に何かがあって男性が苦手だとか、そういう複雑な背景持ちではありませんのでご安心下さい。
 両親とも二つ下の弟とも、家族仲は至って良好ですし、男性も別に嫌いではありません。

 ただ家族愛よりも恋愛よりも、お嬢様愛が遙かに勝っていると、それだけの事でございます。


 さて、そんな私の可愛いお嬢様が七歳になられた頃に我が国と隣国との間で諍いが起こり、それは大きな戦へと発展してしまいました。

 最初の頃こそデルフィーヌ侯爵領にはそこまで影響はありませんでしたが、奥様とお子様方は早い段階で王都のお屋敷へと避難なさり、領地に残った旦那様の無事を祈る日々でございました。


 戦が始まり七か月程が経った頃、ついにデルフィーヌ侯爵領も戦地になってしまいました。

 不安がるお子様方に、私は市井で集めた『英雄』のお話をいたしました。


 戦が起これば必ず英雄と呼ばれる存在が誕生します。
 この時の戦においては、三名の人物の名が飛び交っていました。

 その内の一人──フェリクスという名の一兵士の活躍は、王都に住まう、特に市井の人々に大変人気がありました。
 お子様方も例に漏れず、せがまれるのはフェリクスという兵士の話ばかり。

 戦が始まって間もなく一年になる頃には、そのフェリクスという兵士は何と皇太子の近衛隊に配されたとか。
 本来近衛には騎士階級──貴族がなるものだというのに、その実力から兵士のまま近衛隊に配されるという、まさしく下剋上な出来事に、人々は大いに沸いたのでございます。


 そうして戦が始まって一年と三か月後、戦は我が国の勝利と言う形で幕を閉じました。


 フェリクスと言う兵士はその働きが認められ、伯爵位を与えられる事となりました。
 ご両親と共に爵位授与式に参加なさったお嬢様は、ぼんやりと……どこか熱に浮かされているようなお顔をなさってご帰宅なさいました。

 どうやら爵位授与式でのフェリクスという……いえ、フェリクス様、に一目惚れをなさったようです。


 その日からお嬢様の『フェリクス様一色』の生活が始まりました。

 英雄として市井の人々に人気のあったフェリクス様の絵姿が発売されたと聞いては買いに走り(私が)、
 買ってきた絵姿はご自身のお部屋の壁に貼って(私が)、
 一番気に入っている絵姿はベッドの天井に貼り(勿論私が)、
 毎日毎日飽きもせずうっとりと眺めておりました。


 ──正直に申しましょう。


 そんなしゃべりもしない絵の中の男よりも、以前のように私にもっと笑顔を見せて頂きたいっ!
 こんな凶悪犯のような顔面の男にお嬢様の愛を持っていかれるなんて!!
 お嬢様が憧れている男だろうが知りませんっ!

 許すまじ! 打倒フェリクス・ヴァルデマン伯爵!!


 なぁんて思って少しばかり鍛錬に力を入れていた時期もありました。

 私も十三歳と若かったものですから。
 えぇ、若かったのです。

 嫉妬に身を焦がしそうになって、鍛錬だけでは気持ちが収まらず、毎晩毎晩お屋敷の書庫で毒殺の方法を模索したりもしました。

 しかし程なくして、社交界でのフェリクス様の評判を耳にしました。
 ゴツくてデカくて気品なんて全く感じられない粗野で乱暴で筋肉バカな平民上がりの『野獣伯爵』(意訳)

 ──正直に申しましょう。

 フェリクス様のあまりの低評価具合に、一瞬「ザマァミロ」と思ったのは事実でございます。
 けれど同時に、そんな事を囁いている貴族たちに怒りも覚えました。

 戦で爵位を与えられる程の活躍をしたフェリクス様に対して、貴方方は何をなさっていらしたのでしょう、と。
 フェリクス様達の、人によっては真にフェリクス様の、ご活躍によって領地や命を救われたのではないのかと。

 フェリクス様をよく言わない人達は、恐らくは領地は家臣に任せる等して、本人は王都で縮こまっていたクズ共だろうと予想出来ました。

 何だかムカムカして、ムカムカしている事を不思議に思って、
 そして私は気付いてしまったのです。

 『英雄』の話を集めてお子様方に話しているうちに、
 強請られてフェリクス様の話ばかりを集めているうちに、
 本当のところ、私もフェリクス様のファンになっていたのだと。

 お嬢様のお心が捕われてしまって悔しいし寂しい。
 ひっじょーーーに!! 面白くない。

 けれど、戦でとんでもなく活躍した『英雄』に憧れているお嬢様の──まだ幼い少女の淡い恋心を、心からは無理だとしても、応援せずして何がお嬢様付きの侍女だというのでしょう。

 それにフェリクス様はお嬢様の倍も年上。
 どちらにしろそう遠くない未来にどこぞのご令嬢とご結婚なさって、お嬢様の淡い恋心は終わりを迎えるだろうという思いもありつつ、
 私は束の間、お嬢様の可愛らしい恋を応援する事にしたのです。


 その後、何故だかちっともご結婚なさらないフェリクス様にお嬢様の期待値は膨れ上がる一方で、
 そして私はお嬢様の御為、フェリクス様の"情報収集"に勤しむ事になるわけですが──

 この頃はまさか、お嬢様が成人を迎えられるまでフェリクス様が独身を貫く事になるなんて、夢にも思ってはいなかったのでございます。


❊❊❊❊❊ ✽ ❊❊❊❊❊

「……まぁ、結果オーライ、でしょうか」

 一人フェリクス様のお屋敷へと乗り込んで行ってしまわれたお嬢様の後を追ってヴァルデマン伯爵邸を訪れた私を待っていたのは、
 噂通りのゴツくてデカくて気品は確かにあまり感じられないけれど、十年経った今そこそこの身のこなしを体得されたらしい筋肉バカな平民上がりの、思ったよりも気さくで意外と常識人だった『野獣伯爵』と、
 ぐっちゃぐちゃのどろっどろになっているお嬢様がお泊りになった部屋のベッドシーツでございました。


 オーライ……ですよね?


~Fin.~
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