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本編
69. 乙女と野獣は生涯を誓う。1
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「何でこうなった???」
フェリクスは目の前で微笑んでいる人物に、思わず唸った。
間もなく誓約式が始まるという時間になって、リシャールが物凄くわざとらしく「アイタタタ僕ちょっとお腹痛いので、立会人無理かも」とか言い出して、「は?何言ってんだ?」と返してる間にリシャールがさっさか新郎用として用意された部屋を出て行って「立会人は丁度通りかかったこの方にお願いしましょう。では!僕はお腹痛いのでこれで失礼します!」と『ちょうど通りかかったこの方』とフェリクスを室内に残して逃げて行った。
そう、あれは絶対逃げたに違いない。
あの野郎あとで覚えてやがれ、とフェリクスは心の中で悪態をつく。
「何でって……リックを伯爵にしたのも僕、リィナ嬢がリックに一目惚れした爵位授与式をやったのも僕、リィナ嬢にリックとの結婚の許可を出したのも僕──つまり僕って2人の仲人だよね。立会人に最適だろう?」
「『最適だろう?』じゃねーよ!俺はリシャールに頼んでんだ。帰れ!」
「折角ここまで来たんだから帰らないよ。リシャールも侯爵家の娘も利用するならさ、ダメ押しで利用しときなよ。国王の署名」
お前なっ!と怒鳴ろうとしたその時、ブリジットがお時間ですよと顔を覗かせて、そしてセヴィオを見てあら?と首を傾げる。
「急で申し訳ないけど、立会人は僕がやる事になったので。よろしく」
にこりと微笑んだセヴィオに、ブリジットは特に詮索する事もなく「あらまぁ、そうでございましたか」と微笑んで、それではどうぞと案内する為に歩き出した。
「ほら、意外と気付かれないだろう?」
フェリクスに向かって小声でそう呟いてぱちりとウィンクなどしてみせたセヴィオに、フェリクスはちっと舌打ちを落とす。
セヴィオの本来明るい金の髪は茶色く染まっているし、普段はセットされている髪も無造作に下ろされている。
しかも普段はかけていない眼鏡なぞかけて、確かに一見これが国王だとは誰も思わないかもしれない……とフェリクスは呆れるやら感心するやらで、諦めてはーあと溜息を落とした。
「髪まで染めて……それどうすんだよ?」
「んー、数日で落ちるらしいよ。だから、最近ちょっと忙しくてゆっくり出来なかったからさ。ついでに3日程休むことにしたんだ」
「は?」
「それでセリスと小旅行でもしようかな、と」
「はぁぁ???」
「大丈夫。何かあったらマティアスが全部何とかしてくれる。ハズ」
「宰相殿に同情する──仕事はまぁ良いとして、セリスティア様まで連れてなんて、護衛とかどうすんだ……今日もゾロゾロ連れて来たのか?」
「大丈夫。ヴィクトールと、近衛2人だけだよ」
「いや、それで旅行とやらに行くつもりか?全然大丈夫じゃねーだろ」
「フェリクス様?」
一向に出てこないフェリクス達に、ブリジットが部屋のドアから顔を覗かせた。
「悪い、今行く」と答えたフェリクスの背を、セヴィオがぽんと叩く。
「まぁ僕達の事は気にせず、リックは自分の事に集中しなよ」
そう言って歩き出したセヴィオが、ふとフェリクスを振り返る。
「あぁ、そうだリック」
「何だよ」
不機嫌を滲ませた返事を気にも留めず、セヴィオは言葉を続ける。
「すごく似合ってるよ、騎士団の正装」
「………どーーーも」
❊❊❊❊❊ ✽ ❊❊❊❊❊
神父の入場を告げる声に、目の前の扉が開く。
誓約式自体の参列者はリシャール一家と、屋敷の使用人達、そしてデルフィーヌ侯爵一家と、アンネ・ベティ・クラーラだけだ。
リィナの友人なんかは良かったのかと確認したら「往復8時間は申し訳ないので、お誘いしていません」とあっけらかんと笑っていたので心底リィナの交友関係が心配になったフェリクスだったが、「その代わり落ち着いたらお家に招待しても構いませんか?」と言われて、勿論だと安堵の息を落とした。
聖壇へと続く絨毯の上を、セヴィオを伴う形で歩いていく。
通りがかりにリシャールをじっとりと睨んでおいたが、視線は僅かに逸らされ続けたままだった。
隣でアリスが楽しそうに笑っていたので、きっと侯爵一家含め皆知っていたのだろうと思うと舌打ちを落としたくなったが、アリスの隣にしれっとセリスティアが立っているのを見止めて、フェリクスは思わず二度見をした。
小旅行には一旦王都に戻ってから行くのかと思っていたのに、このまま──むしろ2人の小旅行は既に始まっているらしいと気付いて、フェリクスはひくりと頬を引き攣らせる。
こちらも本来ストロベリーブロンドの髪がダークブロンドに変わっているし、メイクのせいか顔の印象も違っている。
セリスティアからひらひらと小さく手を振られて、もう勝手にしやがれと、フェリクスは舌打ちを落としたいのを場が場なので必死に堪えた。
聖壇の前に到着したフェリクスは、神父に一礼をするとゆっくりと扉を振り返る。
続いて神父がリィナの入場を告げて再び扉が開かれると、ジェラルドと腕を組んだ、純白の衣装を纏ったリィナが立っていた。
リィナの表情はベールのせいできちんとは見えないが、真っすぐに顔を上げて聖壇の方を──恐らくはフェリクスを、見ているようだ。
僅かな間の後、リィナが少しだけ顔を後ろに向けて、そしてジェラルドと頷き合ってからゆっくりと歩き始める。
ベールガールを務めるテレーザとカリーナを気遣う余裕がある辺りは、さすがの肝の据わりっぷりだとフェリクスは内心で笑う。
流石は侯爵家──なのだろう。
絨毯が敷かれている事もあって2人の足音はほとんど聞こえず、リィナの歩に合わせてさらさらと衣擦れの音だけが響く。
そしてリィナの装いの素晴らしさに、恐らくは使用人達の口からほぅっと感嘆の息が漏れた。
緩やかなハートネックのデコルテラインに、左の腰下につけられた大き目の一つ花からドレープが柔らかに流れていて、ドレープの下はふんわりとしたティアードスカートになっている。
背中側の腰の部分には前についている花よりも小ぶりな、同じ形の花が3つ飾られていて、そこからたっぷりとしたレースのロングトレーンが伸びている。
ヘッドドレスやイヤリング、ネックレスなどのアクセサリー類は全て同じ花のモチーフで統一されていて、手にしているキャスケードブーケは白の中に淡いピンクと小さな青を混ぜた、リィナが随分と色合いにこだわっていたものだ。
試着の段階では付いていなかった長い布──トレーンの存在に気付いたフェリクスは、あの後縫い付けたのか??と内心で首を傾げた。
けれどリィナのドレスの事よりも、緊張しすぎているせいか何だか歩き方がおかしくなっているテレーザとカリーナをひやひやとした思いで見ながら、フェリクスはジェラルドと共にゆっくり進んでくるリィナを待った。
❊❊❊❊❊ ✽ ❊❊❊❊❊
誓約式の当日は、昔からのしきたりで新郎と新婦は式の時まで顔を合わせる事が出来ない。
だからこの日、フェリクスとリィナは屋敷の中でも顔を合わせることが出来ていなかった。
フェリクスが朝から忙しそうにしているのは、伝わってくる空気や使用人達の話から何となくリィナも分かっていたし、会わないのがしきたりだと言われてしまえば無理に会うのもいけない事のような気がして、だから本当は「おはようございます」の挨拶くらいしたかったのをぐっと堪えた。
馬車で屋敷を出る時に外からアンネと話している声だけは微かに聞こえて来たものだから、リィナは馬車の中でアンネずるいと頬を膨らませていたのだ。
教会に着いてからはヘアメイクに着付けに……と自分はほとんど動けないのに忙しい、という状態で、あっという間に時間が過ぎて──
そしてお時間です、と声をかけられて、リィナは後ろで緊張でカチコチに固まっているテレーザとカリーナに微笑む。
「ちょっと張り切り過ぎて長くしてしまったから、私がもつれて転んでしまわないように、お願いね?」
「は、はいっ!しっかり握ってます!」
「カリーナ、握ったら皺になっちゃうから、ふんわりよ、ふんわり!」
さっき練習させて貰ったトレーンの持ち方を思い出して、テレーザが慌てたように訂正する。
リィナはそんな2人の様子に小さく笑って、控室の外で待っているジェラルドの元へ向かう。
「──行こうか」
純白に身を包んだ娘に目を細めたジェラルドは、短くそう言ってリィナに手を差し出す。
リィナも「はい」と小さく頷いて、ジェラルドの手にそっと自身の手を重ねた。
(────かっ……!こいい……です!!)
神父に入場を告げられて開かれた扉の先──聖壇の前で、フェリクスがこちらを振り返っている。
その姿を一目見た瞬間に、リィナは10年前の、爵位授与式の時と同じくらいの衝撃を味わっていた。
もしかしたらそれ以上かもしれないわ、とリィナは騎士団の制服を纏っているフェリクスに見惚れる。
騎士団の制服は上下とも濃い緑──翠色で統一されている。
詰襟型の上衣に、右の肩章からは金糸で編まれた飾緒が垂らされ、第一釦に止められている。
普段はその上から長衣を纏うのだが、正装時は長衣ではなく、それが膝のあたりまであるマントに変わる。
(素敵……フェリクス様素敵。歩いたらマントが翻ったりするのかしら。どうしましょう、絶対絶対、素敵……!)
もはや「素敵」しか出てこない脳内で、マントを翻して颯爽と歩くフェリクスや、ついでに腰に佩いている剣を振るっている姿などを一瞬で妄想したリィナは、興奮のあまり思わず手にしているブーケをぎゅうっと握りしめてしまって、そしてはたと気付いて慌てて手の力を抜く。
妄想が暴走してブーケを握りつぶしてしまったなんて事になっては、後々皆に何を言われるか分からない。
危なかったわ、とふぅと息をついてから、テレーザとカリーナに視線を向けると、2人とも小さく頷いた。
そして隣のジェラルドを見上げる。
声には出さずに「良いかい」と確認をされて、リィナはジェラルドの腕に絡ませた手にきゅっと力を入れて、頷いた。
*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
改稿時に騎士団の制服の色を変更しました。
どちらも濃緑ですが 「天鵞絨色(#00451E)」 → 「翠色(#013224)」 です。
どこまで濃緑なのか興味ある方は上記カラーコードで検索してみて下さいませ~
フェリクスは目の前で微笑んでいる人物に、思わず唸った。
間もなく誓約式が始まるという時間になって、リシャールが物凄くわざとらしく「アイタタタ僕ちょっとお腹痛いので、立会人無理かも」とか言い出して、「は?何言ってんだ?」と返してる間にリシャールがさっさか新郎用として用意された部屋を出て行って「立会人は丁度通りかかったこの方にお願いしましょう。では!僕はお腹痛いのでこれで失礼します!」と『ちょうど通りかかったこの方』とフェリクスを室内に残して逃げて行った。
そう、あれは絶対逃げたに違いない。
あの野郎あとで覚えてやがれ、とフェリクスは心の中で悪態をつく。
「何でって……リックを伯爵にしたのも僕、リィナ嬢がリックに一目惚れした爵位授与式をやったのも僕、リィナ嬢にリックとの結婚の許可を出したのも僕──つまり僕って2人の仲人だよね。立会人に最適だろう?」
「『最適だろう?』じゃねーよ!俺はリシャールに頼んでんだ。帰れ!」
「折角ここまで来たんだから帰らないよ。リシャールも侯爵家の娘も利用するならさ、ダメ押しで利用しときなよ。国王の署名」
お前なっ!と怒鳴ろうとしたその時、ブリジットがお時間ですよと顔を覗かせて、そしてセヴィオを見てあら?と首を傾げる。
「急で申し訳ないけど、立会人は僕がやる事になったので。よろしく」
にこりと微笑んだセヴィオに、ブリジットは特に詮索する事もなく「あらまぁ、そうでございましたか」と微笑んで、それではどうぞと案内する為に歩き出した。
「ほら、意外と気付かれないだろう?」
フェリクスに向かって小声でそう呟いてぱちりとウィンクなどしてみせたセヴィオに、フェリクスはちっと舌打ちを落とす。
セヴィオの本来明るい金の髪は茶色く染まっているし、普段はセットされている髪も無造作に下ろされている。
しかも普段はかけていない眼鏡なぞかけて、確かに一見これが国王だとは誰も思わないかもしれない……とフェリクスは呆れるやら感心するやらで、諦めてはーあと溜息を落とした。
「髪まで染めて……それどうすんだよ?」
「んー、数日で落ちるらしいよ。だから、最近ちょっと忙しくてゆっくり出来なかったからさ。ついでに3日程休むことにしたんだ」
「は?」
「それでセリスと小旅行でもしようかな、と」
「はぁぁ???」
「大丈夫。何かあったらマティアスが全部何とかしてくれる。ハズ」
「宰相殿に同情する──仕事はまぁ良いとして、セリスティア様まで連れてなんて、護衛とかどうすんだ……今日もゾロゾロ連れて来たのか?」
「大丈夫。ヴィクトールと、近衛2人だけだよ」
「いや、それで旅行とやらに行くつもりか?全然大丈夫じゃねーだろ」
「フェリクス様?」
一向に出てこないフェリクス達に、ブリジットが部屋のドアから顔を覗かせた。
「悪い、今行く」と答えたフェリクスの背を、セヴィオがぽんと叩く。
「まぁ僕達の事は気にせず、リックは自分の事に集中しなよ」
そう言って歩き出したセヴィオが、ふとフェリクスを振り返る。
「あぁ、そうだリック」
「何だよ」
不機嫌を滲ませた返事を気にも留めず、セヴィオは言葉を続ける。
「すごく似合ってるよ、騎士団の正装」
「………どーーーも」
❊❊❊❊❊ ✽ ❊❊❊❊❊
神父の入場を告げる声に、目の前の扉が開く。
誓約式自体の参列者はリシャール一家と、屋敷の使用人達、そしてデルフィーヌ侯爵一家と、アンネ・ベティ・クラーラだけだ。
リィナの友人なんかは良かったのかと確認したら「往復8時間は申し訳ないので、お誘いしていません」とあっけらかんと笑っていたので心底リィナの交友関係が心配になったフェリクスだったが、「その代わり落ち着いたらお家に招待しても構いませんか?」と言われて、勿論だと安堵の息を落とした。
聖壇へと続く絨毯の上を、セヴィオを伴う形で歩いていく。
通りがかりにリシャールをじっとりと睨んでおいたが、視線は僅かに逸らされ続けたままだった。
隣でアリスが楽しそうに笑っていたので、きっと侯爵一家含め皆知っていたのだろうと思うと舌打ちを落としたくなったが、アリスの隣にしれっとセリスティアが立っているのを見止めて、フェリクスは思わず二度見をした。
小旅行には一旦王都に戻ってから行くのかと思っていたのに、このまま──むしろ2人の小旅行は既に始まっているらしいと気付いて、フェリクスはひくりと頬を引き攣らせる。
こちらも本来ストロベリーブロンドの髪がダークブロンドに変わっているし、メイクのせいか顔の印象も違っている。
セリスティアからひらひらと小さく手を振られて、もう勝手にしやがれと、フェリクスは舌打ちを落としたいのを場が場なので必死に堪えた。
聖壇の前に到着したフェリクスは、神父に一礼をするとゆっくりと扉を振り返る。
続いて神父がリィナの入場を告げて再び扉が開かれると、ジェラルドと腕を組んだ、純白の衣装を纏ったリィナが立っていた。
リィナの表情はベールのせいできちんとは見えないが、真っすぐに顔を上げて聖壇の方を──恐らくはフェリクスを、見ているようだ。
僅かな間の後、リィナが少しだけ顔を後ろに向けて、そしてジェラルドと頷き合ってからゆっくりと歩き始める。
ベールガールを務めるテレーザとカリーナを気遣う余裕がある辺りは、さすがの肝の据わりっぷりだとフェリクスは内心で笑う。
流石は侯爵家──なのだろう。
絨毯が敷かれている事もあって2人の足音はほとんど聞こえず、リィナの歩に合わせてさらさらと衣擦れの音だけが響く。
そしてリィナの装いの素晴らしさに、恐らくは使用人達の口からほぅっと感嘆の息が漏れた。
緩やかなハートネックのデコルテラインに、左の腰下につけられた大き目の一つ花からドレープが柔らかに流れていて、ドレープの下はふんわりとしたティアードスカートになっている。
背中側の腰の部分には前についている花よりも小ぶりな、同じ形の花が3つ飾られていて、そこからたっぷりとしたレースのロングトレーンが伸びている。
ヘッドドレスやイヤリング、ネックレスなどのアクセサリー類は全て同じ花のモチーフで統一されていて、手にしているキャスケードブーケは白の中に淡いピンクと小さな青を混ぜた、リィナが随分と色合いにこだわっていたものだ。
試着の段階では付いていなかった長い布──トレーンの存在に気付いたフェリクスは、あの後縫い付けたのか??と内心で首を傾げた。
けれどリィナのドレスの事よりも、緊張しすぎているせいか何だか歩き方がおかしくなっているテレーザとカリーナをひやひやとした思いで見ながら、フェリクスはジェラルドと共にゆっくり進んでくるリィナを待った。
❊❊❊❊❊ ✽ ❊❊❊❊❊
誓約式の当日は、昔からのしきたりで新郎と新婦は式の時まで顔を合わせる事が出来ない。
だからこの日、フェリクスとリィナは屋敷の中でも顔を合わせることが出来ていなかった。
フェリクスが朝から忙しそうにしているのは、伝わってくる空気や使用人達の話から何となくリィナも分かっていたし、会わないのがしきたりだと言われてしまえば無理に会うのもいけない事のような気がして、だから本当は「おはようございます」の挨拶くらいしたかったのをぐっと堪えた。
馬車で屋敷を出る時に外からアンネと話している声だけは微かに聞こえて来たものだから、リィナは馬車の中でアンネずるいと頬を膨らませていたのだ。
教会に着いてからはヘアメイクに着付けに……と自分はほとんど動けないのに忙しい、という状態で、あっという間に時間が過ぎて──
そしてお時間です、と声をかけられて、リィナは後ろで緊張でカチコチに固まっているテレーザとカリーナに微笑む。
「ちょっと張り切り過ぎて長くしてしまったから、私がもつれて転んでしまわないように、お願いね?」
「は、はいっ!しっかり握ってます!」
「カリーナ、握ったら皺になっちゃうから、ふんわりよ、ふんわり!」
さっき練習させて貰ったトレーンの持ち方を思い出して、テレーザが慌てたように訂正する。
リィナはそんな2人の様子に小さく笑って、控室の外で待っているジェラルドの元へ向かう。
「──行こうか」
純白に身を包んだ娘に目を細めたジェラルドは、短くそう言ってリィナに手を差し出す。
リィナも「はい」と小さく頷いて、ジェラルドの手にそっと自身の手を重ねた。
(────かっ……!こいい……です!!)
神父に入場を告げられて開かれた扉の先──聖壇の前で、フェリクスがこちらを振り返っている。
その姿を一目見た瞬間に、リィナは10年前の、爵位授与式の時と同じくらいの衝撃を味わっていた。
もしかしたらそれ以上かもしれないわ、とリィナは騎士団の制服を纏っているフェリクスに見惚れる。
騎士団の制服は上下とも濃い緑──翠色で統一されている。
詰襟型の上衣に、右の肩章からは金糸で編まれた飾緒が垂らされ、第一釦に止められている。
普段はその上から長衣を纏うのだが、正装時は長衣ではなく、それが膝のあたりまであるマントに変わる。
(素敵……フェリクス様素敵。歩いたらマントが翻ったりするのかしら。どうしましょう、絶対絶対、素敵……!)
もはや「素敵」しか出てこない脳内で、マントを翻して颯爽と歩くフェリクスや、ついでに腰に佩いている剣を振るっている姿などを一瞬で妄想したリィナは、興奮のあまり思わず手にしているブーケをぎゅうっと握りしめてしまって、そしてはたと気付いて慌てて手の力を抜く。
妄想が暴走してブーケを握りつぶしてしまったなんて事になっては、後々皆に何を言われるか分からない。
危なかったわ、とふぅと息をついてから、テレーザとカリーナに視線を向けると、2人とも小さく頷いた。
そして隣のジェラルドを見上げる。
声には出さずに「良いかい」と確認をされて、リィナはジェラルドの腕に絡ませた手にきゅっと力を入れて、頷いた。
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改稿時に騎士団の制服の色を変更しました。
どちらも濃緑ですが 「天鵞絨色(#00451E)」 → 「翠色(#013224)」 です。
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