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魔道院始末
決着
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ジャイロはマイクを手に取った。
「いよいよ大将戦だな。」
ここで副学長が何を言い出すのかと、一同は固唾を飲んだ。
魔剣研究会の圧勝。少し事情がわかっているものでも四勝一敗で幕を閉じるはずの対抗戦が、ここまで5分の星である。
試合に賭けることは、公式にも禁じられていなかったので、自分の懐具合を鑑みても、否応もなく盛り上がっていた試合である。
「ここまで二勝二敗。双方よく戦った・・・と言いたいが。」
ジャイロは、ぎろりと会場を睨んだ。
もちろん、本気で腹を立てているわけではない。演技である。しかし何十年も教職についているとこんな演技もうまくなってくるのだ。
「まるでなっておらん!」
ざわざわ。
会場が、一体ジャイロが何を言いたいのかわからずにざわめいた。
「そもそもが、魔法を取り入れた拳法がそれ自体有効なものであるかを証明する戦いであろう。」
ジャイロは、涼しげな顔のジウル・ボルテック、救護班に治癒施術を受けているアレフザードを睨んだ。
ジウルの隣には、年端も行かぬ少女(のように見える)エピオネルが、ぴったりと付き添っている。その隣には、彼が手篭めにしたドロシーとかいう女性も付き添っていた。
“あんたはいったい、何をやっている。”
と、ジャイロは呻いた。
“魔道院を放り出したのは、武者修行のためと聞いていたが、あれか、若い女にうつつを吐かすためだったのか?”
「魔剣研究会は、そんなものは役には立たず。魔法の実戦運用として、魔剣を使用を研鑽するためのものではなかったか。」
魔剣研究会の中でも、心あるものは若干俯いている。
研究も研鑽もなく、ただ、学内をいばり散らかして闊歩している現状に(特に新顧問のアレフザードが就任してから顕著になった)に全員が納得しているわけでもないのだ。
「確かに星取り自体は、互角だ。しかし、内容を見てみろ。
魔剣研究会の二勝は共に、技術と戦略で圧倒されながらの反則勝ち。特に魔剣も拳法も使わない試合ばかりだ。
こんなものは対抗戦とは認めらん!」
ジャイロはどっかりと審査長席に座り込むと、宣言した。
「最終戦は、剣と拳で勝負を行え! 出来なければ、勝敗に関わらず、どちらも廃部とする。」
「しかし・・・魔剣研究会は初代会長ボルテック卿から、今日に至るまで100年の歴史が。」
「それについては、ボルテック前学院長からの抗議でもない限り認めんな!」
ジャイロは、そっぽを向いた。
「双方が廃部にならない方法も明示した。その条件において勝利を収めればいいだけだ。
つべこべ言わずに戦え!
正々堂々と、な!」
「何を言っている?」
シホウが、ジウルに囁いた。
「確かに、本来の趣旨とは違う戦い方だったかもしれないが、文句を言われるものでもあるまい?」
ジウルはニヤニヤと笑った。
妖怪ジジイだった時には、世にも恐ろしげな笑いだったが、20代の彼がやると苦み走ったいい笑いに見えなくもない。
見つめるエピオネルの頬が赤く染まり、ドロシーがそれをこまったように見守る。
「これで、まあ、勝とうが負けようが、魔法拳法研究会も魔剣研究会も潰さないで済む布石だろうな。」
「政治の世界、というやつか。」
笑顔のまま、平気で人を壊すシホウという男にも、苦手はあるのか、太った愛嬌のある顔を顰めてシホウは言った。
「俺は、あまり好かんな。」
「好き嫌いではない。人は必要とされることを覚えて、それを実行できるようになる。
それを周りのものは『成長した』と称するのだが、果たして、本人がそれで幸せなのかどうか?」
試合会場では、ジウルの荒ぶるひひひ・・ひ孫くらいのアフラが、鞘から剣を抜きもせずに、一撃で、ヤンを打ち倒していた。
するり、と抜いた剣をヤンの首元に近づける。
「参ったをしろ。余計な怪我はしたくないだろう?」
ヤンの手がその剣を握った。抜き身の刃だ。指から血が滴り、落ちる。
「おい・・・・何を・・・・」
雷撃。
「いよいよ大将戦だな。」
ここで副学長が何を言い出すのかと、一同は固唾を飲んだ。
魔剣研究会の圧勝。少し事情がわかっているものでも四勝一敗で幕を閉じるはずの対抗戦が、ここまで5分の星である。
試合に賭けることは、公式にも禁じられていなかったので、自分の懐具合を鑑みても、否応もなく盛り上がっていた試合である。
「ここまで二勝二敗。双方よく戦った・・・と言いたいが。」
ジャイロは、ぎろりと会場を睨んだ。
もちろん、本気で腹を立てているわけではない。演技である。しかし何十年も教職についているとこんな演技もうまくなってくるのだ。
「まるでなっておらん!」
ざわざわ。
会場が、一体ジャイロが何を言いたいのかわからずにざわめいた。
「そもそもが、魔法を取り入れた拳法がそれ自体有効なものであるかを証明する戦いであろう。」
ジャイロは、涼しげな顔のジウル・ボルテック、救護班に治癒施術を受けているアレフザードを睨んだ。
ジウルの隣には、年端も行かぬ少女(のように見える)エピオネルが、ぴったりと付き添っている。その隣には、彼が手篭めにしたドロシーとかいう女性も付き添っていた。
“あんたはいったい、何をやっている。”
と、ジャイロは呻いた。
“魔道院を放り出したのは、武者修行のためと聞いていたが、あれか、若い女にうつつを吐かすためだったのか?”
「魔剣研究会は、そんなものは役には立たず。魔法の実戦運用として、魔剣を使用を研鑽するためのものではなかったか。」
魔剣研究会の中でも、心あるものは若干俯いている。
研究も研鑽もなく、ただ、学内をいばり散らかして闊歩している現状に(特に新顧問のアレフザードが就任してから顕著になった)に全員が納得しているわけでもないのだ。
「確かに星取り自体は、互角だ。しかし、内容を見てみろ。
魔剣研究会の二勝は共に、技術と戦略で圧倒されながらの反則勝ち。特に魔剣も拳法も使わない試合ばかりだ。
こんなものは対抗戦とは認めらん!」
ジャイロはどっかりと審査長席に座り込むと、宣言した。
「最終戦は、剣と拳で勝負を行え! 出来なければ、勝敗に関わらず、どちらも廃部とする。」
「しかし・・・魔剣研究会は初代会長ボルテック卿から、今日に至るまで100年の歴史が。」
「それについては、ボルテック前学院長からの抗議でもない限り認めんな!」
ジャイロは、そっぽを向いた。
「双方が廃部にならない方法も明示した。その条件において勝利を収めればいいだけだ。
つべこべ言わずに戦え!
正々堂々と、な!」
「何を言っている?」
シホウが、ジウルに囁いた。
「確かに、本来の趣旨とは違う戦い方だったかもしれないが、文句を言われるものでもあるまい?」
ジウルはニヤニヤと笑った。
妖怪ジジイだった時には、世にも恐ろしげな笑いだったが、20代の彼がやると苦み走ったいい笑いに見えなくもない。
見つめるエピオネルの頬が赤く染まり、ドロシーがそれをこまったように見守る。
「これで、まあ、勝とうが負けようが、魔法拳法研究会も魔剣研究会も潰さないで済む布石だろうな。」
「政治の世界、というやつか。」
笑顔のまま、平気で人を壊すシホウという男にも、苦手はあるのか、太った愛嬌のある顔を顰めてシホウは言った。
「俺は、あまり好かんな。」
「好き嫌いではない。人は必要とされることを覚えて、それを実行できるようになる。
それを周りのものは『成長した』と称するのだが、果たして、本人がそれで幸せなのかどうか?」
試合会場では、ジウルの荒ぶるひひひ・・ひ孫くらいのアフラが、鞘から剣を抜きもせずに、一撃で、ヤンを打ち倒していた。
するり、と抜いた剣をヤンの首元に近づける。
「参ったをしろ。余計な怪我はしたくないだろう?」
ヤンの手がその剣を握った。抜き身の刃だ。指から血が滴り、落ちる。
「おい・・・・何を・・・・」
雷撃。
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