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16、嘘つきと偽物、紛い物、フェイクとイミテーションその4

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「ランゴバルド博物館の件。」
と、ぼくが言うと、ああ、とエミリアは答えた。
とたんにやる気がなくなったのが、これも表情に現れていた。

そうですか。
これを見てもその表情が続けられるかな?

~~~~~よ。



ぼくはポケットから、手のひらに収まる程度の極彩色に輝く破片を取り出した。
さすがにあまり大っぴらでもなく、食卓の下でそっと。

がりっ。

いやな音がした。
エミリアがスプーンを噛み砕いた音だった。

ばり。
ばり。

ごり。

木製のスプーンを咀嚼している。
ゴクリ。

と喉がなる。

「それは?」

「ランゴバルド博物館の隠し部屋の一品。」

バンとテーブルをたたいて、エミリアが立ち上がる。
それほど、混み合ってはいなかったが、昼食どきの学食だった。

周りの目が集まる。

エミリアはどこからか取り出したのか、頑丈そうな木の棒を構えている。
身長に近い長さのそんな武器をどこに隠し持っていたのか。

この間合いならば、一撃でこのぼくを昏倒させられる。

で、昏倒させてどうする。

どうする。

どうする。

どうにもならないことに気がついたのか。

エミレアはもう一度、座った。
ぽて。

と、お尻が椅子に着地した可愛い音がした。

「ほ、ほ、ホ、」

「本物かと言われればそう。」

「な、な、な、なに、に、に、」

「考えたんだ。

博物館は、一般の人たちもたくさん出入りする。あそこでは、とても守りきれない。

ならばいっそ、ぼくが持っていた方が、確実に守れるのではないか、と。」

「に、に、に、にふ、」

「ニフフ副館長はさすがに知りません。」

「ど、ど、どう、どうして」

「アモンは『神竜の鱗』のイミテーションを集めるのが、趣味で。
一つもらって、こっそり入れ替えてきました。

どう言うものか、ぼくはニフフ副館長に信頼が厚くてね。」

「わ、わかった。」

口調が少し変わっていた。

「で、当日はどうする?」

「黒蜥蜴なる賊を捕まえることに全力を集中しようと思うけど、どうだろう?」

「わかった。ならば、わざと警備の冒険者をあの部屋から遠ざけよう。
黒蜥蜴は、イミテーションをつかまされた挙句に、わたしたちにお縄になる。」

「そして、神竜の鱗をもとに戻してめでたしめでたし、と。」

エミリアの顔色はまだすぐれない。

「黒蜥蜴は何ものか、な。」

ぼくは余裕たっぷりに笑って見せた。

「だって、今までなんの活動歴もないただの道化もんだよ。
ぼくはむしろ、もう一つの方を心配してるんだ。」

「もう、一つ・・・てなに、かな?」

「神竜の鱗が自分達のものだと主張するロゼル一族とかいう、連中だ。
盗賊としてより、殺し屋として名高いらしい。

そいつらも実は、神竜の鱗を手中におさめようと暗躍している。」

「そ、そうなの?」

「そしてその黒幕は、迷宮に潜む古竜。深淵竜ゾールと名乗っているようだ。」

「な、なんだかわからないなあ。」

「ロゼル一族は、神竜の鱗を5枚、集めたがっている。
深淵竜ゾールはなにが目的なんだろう?

どうもそいつは、黒竜ラウレスには、まったく別のことを要求したようなんだ。

つまり。

なにものかが、神竜の鱗を集めている。と、それを阻止しろ、と。」

「古竜の考えなんてわからない!」

「ただの育ちすぎの蜥蜴だ。」
ぼくは、アモンからの受け売りでそんな言葉を使った。
「賢いものもいるが、そうでもないものもいる。

だが、仮にロゼル一族なるものが、神竜の鱗を集めているとして、彼らは場所もわからない竜の都や旅路に数年を要する東域からも、鱗をに盗み出せるほどの力のある組織なんだろうか。

もし、そんな力あったら、ランゴバルド博物館の警護なんてないも同然だ。

とっくに、手に入れて。」

エミリアは、顔を青くしたかと思えば、真っ赤になり、可哀想なくらい狼狽しきっていた。

「手に入れてどうするつもりなんだろう。

神竜の鱗は貴重品すぎて、売りさばくことも不可能に近い。
あの、都市伝説。」

ぼくは、視線の先にアモンの姿を認めた。「神竜騎士団」を三、四人引き連れている。
遠目に会釈すると、ニッと笑って応えてくれた。

「神竜が現れて、願いを叶えてくれる、というお伽話を信じているのか。
なら、その願いとはなんだろう。」

ぼくは、神竜の鱗をポケットに戻して、立ち上がった。

「明日は、夕食を済ませたら、正門前に集合。ドロシーも加えて、三人でまる一日、ランゴバルド博物館に詰めるよ。

出来ればその前に、ロゼル一族と接触したいんだけど。
どうも奴らは、深淵竜とか自称する蜥蜴に、いいように利用されているだけかもしれない。」







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