零れおちる滴

佐倉真稀

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澤野千疾

第2話

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「……ん……」
 何度も口腔を貪るように吸い上げて彼の舌が俺の舌を絡め取る。

 舌の根が痺れるほどに吸い上げられて、上がった熱を含んだ吐息が俺の口から漏れた。
 覆いかぶさる彼の手が俺の肌をまさぐる。
 その手が俺の胸にある突起に触れると、そこを指で弄ぶ。
 少し陥没してた小さなそれが、次第にぷくりと存在を主張し始める。その刺激に背筋が震えた。

 唇が離れて、唾液の糸を引いて、途中で切れて口の端に垂れた。
 それを彼が舌で舐めとって俺の顔を覗き込む。欲望の色を宿した彼の瞳を見て、ああ、αでもβに欲情すんだなあと妙に感心した。
 その彼の舌が首筋を通って胸へと降りていく。くすぐったいような、痺れるような感覚に俺は戸惑った。

 なにせネコは初体験である。相手にしたことはあれど、された経験は皆無なのだ。期待のような恐れのような感覚が足先に震えを走らせた。

「んッ……あ……」
 突起を吸い上げられて甘い声が漏れた。自分の声じゃない気がした。股間に熱が伝わって、俺の雄が持ち上がった。

「可愛い……」
 彼の声に目元が染まった。何だ、可愛いって。目が腐ってるぞ。そんなのは番のΩに言ってやれ!!まあ、まだ出会ってないからこうしてるんだろうけど。

 彼の舌が俺の肌を余すところなく味わうように這いまわる。時折吸い上げられる感覚にピクリとその度に震えた。俺の先端からすでに透明な蜜が溢れ出て、彼の肌を濡らしていた。

「…ん…あっ…あっ…」
 彼の舌が茂みを這っていき、俺の敏感な場所に辿り着く。彼の舌先に嬲られてあっけなく果てた。
 俺の放った白い飛沫が彼の口元に散っていて、それを舐める仕草が異様に色っぽかった。

「俺のも舐めてくれる?」
 そう言われて彼の股間を見て思わず驚いた。
 目にしないようにしていたんだけれど、勃ち上がったそれはまさに凶器でしかない長さと太さだった。
 もちろんしゃぶるには適さないことも付けたしておく。

 まあ、この長さがないと、男のΩの生殖器官には届かないという話だから、それは仕方ないと思うけど。
 俺の息子に比べると赤ちゃんと成人男性、いや馬とかオットセイとか……それくらい違う。
 いや、俺が小さいとかそんな話じゃないぞ? 俺はβの平均よりは立派なはずだ。
 形状自体はβのそれと同じで大きさが違うように見えるけど、挿入時根元にこぶのようなものができて抜けなくなるそうだ。

「俺、こんなのやっぱ入んないと思うぞ。口にもさ。頑張るけど。」
 手を添えて、根元から舐めあげた。びくりとそれは震えて固さを増す。
 なんだか、凶器だけど、可愛く思えて夢中でしゃぶった。
 その凶器が俺の唾液まみれになった頃、俺は先端を口に含んだ。両手で幹を扱きながら吸い上げ、舌先で割れ目をくすぐるようにして蜜を啜る。その度に、彼の雄は反応して震えるのだ。

「……ッ……出る……から離せ……」
 俺はその呟きにきつく吸い上げてしまって、喉奥に叩きつけるような迸りにビックリした。
咽ないようにして飲み込んだが、飲みきれずに唇を離してしまった。そういえば、αって際限ないんだっけ?

「……ッ……こほっ……」
 咽て、離した瞬間に顔にかかる。その瞬間にひっくり返されて四つん這いにされた。
 股間に彼のまだ放出しきってない雄が当てられた。
 背中に覆いかぶさった彼が顔を寄せて、耳元に息が吹きかけられる。

「まだ、しばらくかかるから、させてくれ……」
 いつのまにかローション塗れになった彼の雄で俺のそれが擦られる。
 俺は太ももで挟むようにして締め付けた。素股の経験もないけど、なんとなくやり方はわかる。

 尻に腰が打ちつけられて本当にセックスしてる気分になった。
 それは彼がすべて吐き出すまで続けられて、多分30分くらいはかかったんじゃないかと、すべて終わった後に思った。

 四つん這いから正常位にされて、足を持ち上げられてそれを閉じられた。
 腰が上がった体勢で何度も突かれた。汗が飛び散って、腹には彼の出した精液が水たまりを作った。
 俺も何度か達してそれに混じった。
 彼のそれがすべてを出し切った時に俺は終わったんだと思って力を抜いた。
 もう汗と精液まみれでドロドロだ。αとしたのは初めてだけど、Ωに少し同情した。いや、これ身体が持たないんじゃね?

「……は……はあ……はあ……」
 素股でも、ものすごく興奮した。もうほとんどセックスだった。凄かった。そんなことを呆けた頭で考えていたら、後孔に冷たさを感じた。

「……え?」
 思わず目を開けたら彼と目があった。思いっきり微笑まれた。
「指、入れていいよね?」

 終わってなかった!!

 力なく頷いたら、また全開で嬉しそうな顔をされて、何かいろいろ諦めた。

「俺は蒼羽あおばだ。名前を教えてくれ。」
 俺はきょとんとした顔をしたみたいだ。
「君に名前を呼んで欲しいし、呼ばれたい。」
 だめか?と耳元で囁かれたら勃起した。俺は多分真っ赤になっていたんだろう。
「……千疾ちはやだ。蒼羽…」
 と言うしかないじゃないか。くっそ、俺どこで間違ったんだろうか。

 そんな会話をしていたら、指が入ってきた。そうっと、傷つけないようにだ。
 冷たかったのはローションのようだった。ぐちゅぐちゅと水音だけが響いた。指が抜き差しされて違和感が凄い。思わず締め付けてしまった。

「力抜いて千疾……千疾の中熱いよ……」
 馬鹿、言うなよ! 恥ずかしい……。顔が熱くなって彼から見えないよう背けた。
「あ……ッ……あふ……」
 入口を広げるように指が回される。もう一本入ってきた。その指も長い。中で蠢いてかき回される。排泄器官でしかないそこを弄って、何でこんなに嬉しそうなのか。
「俺、子供産めないし、そもそも広がらないから、突っ込めないよ? いいのかよ、蒼羽……」
 掠れて、息が乱れた上ずった声で告げると、いきなりキスされた。

「可愛い、千疾……いいんだよ。俺が千疾としたいんだから……俺の我儘なんだ。千疾のここ、触ったの俺が初めてなんだろう? それだけで嬉しいし、光栄なんだけど……」

 何を言ってるのか、こいつは。

 そうこう言っている間も、蒼羽の指は止まらなかった。そしてある一点に触れると目の前に火花が散った気がした。
「ひ、あっ……あっ……」
 びくびくっと身体が跳ねて震える。俺の雄もまた勃ち上がった。
「ここがいいのか、千疾……」
 ぐりぐりと前立腺を刺激されて目尻から涙が零れた。それを舌で蒼羽が舐めとった。
「あっ……変だ……そこ、気持ち、イイっ……」
 指で蕩けていたそこが、きつくその指を締め付けた。

 ごくりと蒼羽の喉が鳴った。
「千疾もう一回……」
 そうして、俺は後孔を指で犯されながら、蒼羽と二度目の素股でのセックスをする羽目になったのだった。

 途中で俺は撃沈して、目が覚めたら朝だった。身体は綺麗になっていて、情事のあとを残すベッドではなくもう一つのベッドで蒼羽に抱かれて寝てたのだった。

 寝息を立てる蒼羽を見て、俺はため息をついた。
(昨夜はうやむやに寝ちゃったけど、こんなのもうないだろうな。俺のどこが気に入ったのかわかんないけど。まあ、誘ったのは俺だけど)

 起き上がろうとして腕を掴まれた。
「千疾……」
「起きたのか、蒼羽……その、シャワー浴びたいんだけど……」
 離してくれという前に蒼羽に遮られた。
「俺もシャワーを浴びたい。行こう。」

 ええ??
 ホテルのベッドから浴室なんてそんなに歩かない。なのにどうしてお姫様だっこをしてるんだお前は!!

 トイレにまで着いてこようとしたので、さすがに怒ったら諦めた。
 浴室で俺は一方的にイかされて(お尻にも指を入れられましたとも!)腰砕けになったため、モーニングを取ってくれて部屋代も払ってくれた。タクシーで送るよと言われて、今、俺の部屋だ。

 1DKの寝に帰るだけの部屋。もともと荷物は少なく殺風景な典型的な一人身の男の部屋。

 で、何でお前、俺の部屋の中にいるのかな。タクシーで帰れよ!!

「ねえ、千疾。」
 それでも俺は大人だからティーバックの紅茶くらい出したよ。
「一緒に住もうよ。」

 それは盛大に飲みかけた紅茶を噴き出しましたとも。蒼羽にかからなくてよかったよ。
「はああああ???」
 俺の額には青筋が立っていたと思う。さすがに蒼羽はひきつった顔をしてた。

「ね、一目惚れなんだよ。千疾と付き合いたいんだ。」
 握られた手は離さないからという脅しが籠っていて、俺はもう諦めの境地だ。

 そりゃあ、こいつは俺の好みだし、一緒にいたって嫌な気持ちはしなかったけど。
 俺だって、その一目ぼれに近い気持ちはあったけど。
 セックスはきっと最後までできないし。
 そもそも番のΩがいるはずだし。

 出会って一日も経たないで同棲ってどうなんだって気もするけど、大型のわんこに懐かれてるような気がして、もう俺は降参したのだった。

「あんたのつがいが現れるまでならいいよ。」

 もうそう言うしかなかった。
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