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ラーン王国編―終章―(メルトSIDE)
そして俺は運命と出会う
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俺はメイルを見ると反射的に怯えるようになった。
毎夜うなされてあの時の夢を見る。それは怖くて怖くて、セックスなんて子作りのためのモノだって思っていた俺にとって衝撃だった。
人を貶めるためにすることもあるのだと。
それに比べればリンド先輩のことなんてどうってことなかった。酒に酔っていたとはいえ、俺は同意したのだから。
メイルを見て震えだす俺を見て団長はフィメルの世話係を付けてくれた。
俺の処遇は死刑と決まっているから家族に類が及ばないよう嘆願書を書いた。
ミランにもあんなに世話になったのに。それぞれに宛てて手紙を書いた。それは俺が処刑された後渡してもらえるように頼もうと思う。
そうしてある日、牢から出されて面会室に連れていかれた。
そこには団長と貴族がいた。
俺を組み敷いたあの貴族と似ている。
そう思ったら吐き気がこみあげて、蹲ってしまった。
「すまない。騎士としてあるまじき行為だった。ミハイルは私が償わせる。といっても、目にしたくはないだろうからわが領地から出さないと誓おう。」
何を、言っているんだ?気持ち悪くて言葉が耳に入らない。
「ああ、息子のせいで、恐怖症になったとは聞いている。後で書面にしよう。そのほうが君も安心できるだろう。」
優しい声だ。似ているが、あの傲慢さはない。
意を決して顔を上げた。
「……私は、死刑、では?」
恐る恐る問いかけた。その貴族が首を振る。
「無罪放免にはできなかったが、騎士資格はく奪と退団で自由の身だ。この国では騎士には戻れないが他国ではどんな職業も選べる。この国でだって、騎士以外なら自由だ。ただしばらくは離れたほうがいいかもかもしれない。心無いものはいくらでもいるからね。」
そういって、部屋を出て行った。ミハイル・オルロフの父親でオルロフ男爵ということだった。ミハイルは第三子で、相続もないことから男爵が活躍した騎士団で騎士になって叙爵するのというのが希望だったと聞いた。そのために手段を選ばないところがあり、後で聞いたが俺の功績を掠め取っていたらしい。戦争の時のことだ。
俺は別にその点に関しては気にしなかったが、目を付けられていたのだろう。
「団からは退職金が出る。人目につかないよう馬車も用意させる。次の街まで送らせよう。もちろん馬車の中は一人で、御者はフィメルを用意する。外には出掛けられないが私が入用なものは用意しよう。出発は3日後だ。悪いと思ったが、部屋に入らせてもらって私物をまとめておいた。足りないものがあればもう一度探させるから確認してほしい。それまであの部屋で過ごしてもらわないといけないが許してほしい。君に非は一切ない。それだけは私が保証しよう。出発するとき親御さんにあっていくか?」
ノヴァク団長はそう、言ってくれた。それだけで気持ちが軽くなった。
「いいえ。しばらく国を出るとだけ、手紙を書くので渡してもらえますか?」
「わかった。必ず渡そう。」
それからは慌ただしかった。俺の退職金で買える、大きめのマジックバッグと、護身用の剣を頼んだ。それと野営の道具、旅に必要な物。さすが団長で必要な物がコンパクトにまとまっていた。
団の制服を返せば私物はそうなかった。あのペンダントは、マジックポーチ(ためた給与で買ってあったもの)に入れた。命を何度も救ってくれたペンダントだ。失くさないようにしよう。
冒険者風の服に着替えてマントを被った。まだ北方は冷える。
暖かい国に行こうか。近いところではアルデリア王国だ。
リュック型のマジックバックを背負ってベルトに革の小銭入れとマジックポーチを付けて夜明けにはまだ早いころ、裏門につけられた馬車に乗り込む。
「次の街までよろしく頼みます。」
「任せて。団長から頼まれたからね。護衛としても腕は立つから頼っていい。僕は団長の家の者だ。」
団長よりちょっと若い細身の背の高いフィメル。身のこなしが強さを感じさせた。
「あ、ありがとう。その時はよろしくお願いします。」
次の街まで約3日、馬車はちゃんとベンチがあって、クッションもきいている少し高級な馬車だった。
途中、魔物が出たが俺の出番はなかった。
次の街の門の前までで別れた。別れ際に言われたことがショックだった。
「実は僕、団長の伴侶なんだよ。とても心配してた。メイルが怖いだろう?でもね、好きなメイルができたら怖くなくなるから。嘘だと思っても試してみて。」
好きな人。できるのだろうか。この俺に。
門番はメイルだったが、なんとか震えずに済んだ。馬車を乗り継いでさっさと国を出ることにした。
夜は悪夢を見る。あの日の夢だ。宿の狭いベッドで体をまるまって寝る。
悪夢の頻度は日を経るごとに減っていったが、メイルに対する恐怖症はまだ治らない。
だが俺はやはりメイルに見られるようで、意識したほうが変に見える。
だから、人が多くなる前に食事を済ませて早めに寝る。人が多くなる前に人の少ない馬車に乗る。
それを繰り返して1か月。
なんとか側に寄られない限りは怯えずに済んでいる。ただ背後に立たれると怖い。
それでも観光するくらいの余裕はできて、露店を冷かしたりした。
屋台でスープや串焼きを買ったり、武器や防具を見たり。
途中、冒険者らしきグループを見た。何も職につけなかったら冒険者をやるのも悪くない。剣を振らないのは呼吸をしないよりつらい。
最近は朝夕の鍛錬をするようになった。だんだんと感覚が戻ってくる。やっぱり俺は剣が好きだ。
騎士はもう俺は慣れないけれど、剣を職業にすることならできる。
ふらふらと行く先のない旅を続けてルーシ王国に入った。戦争が始まる前、演習で寄ったマジル。
すっかり活気を取り戻していて、戦争の爪痕はもうないようだった。でも、また戦争が始まればここは真っ先に巻き込まれるところだった。
白狼亭という宿に泊まった。宿賃の割にはいい宿だった。俺が思わずメイルに怯えたのを見た副主人が奥の部屋に通してくれた。手前の部屋はフィメルが泊っていると言っていた。夕飯は部屋で食べていいと言ってトレーに乗せて持たせてくれた。ベッドが小さいかもといって恐縮してたが、気遣いに嬉しくなった。食事はとてもおいしくて、機会があったらまた来ようと思った。
マジルを出て二つの村を超えたらもうアルデリアの領域に入る。その村を出るとき、次の村まで1日かからないという話だったから、歩きにしたのが間違いだった。
森の獣道みたいなところを歩いているとき、もしかして迷ったのだろうか、という疑惑が頭をもたげた。
街道じゃない。ここはどう考えても森の中の獣道。
迷った。
一本道だと宿の人は言っていたのに、迷うとは。
まいったな。しかも、森が静まり返っていて様子が変だ。剣を腰に佩いて警戒しながら歩きだすと何やら人の声のようなものが聞こえて、目の前に人が落ちてきた。
迷ったから木に登って方角を見てたら落っこちたという少年はかなりの美形で紺色の髪に水色の目をしていた。
(水色、---の色。でも年が違う。)
一緒に行動することになり、しばらく歩いて野営できそうな場所に出た。
「えっと、僕はヒュー。君は?とりあえず夕飯作ろうと思うけど、何か好き嫌いはある?」
「ああ、俺は、メルトだ。よろしく。好き嫌いはないが…」
こんなところで料理はできないと思うが……。
『ヒュー!?』
心の奥がざわめいた気がした。
あっという間に出来上がった夕飯に度肝を抜かれた。
もらった器に盛られたスープは湯気を立てていた。火傷しないように飲んだスープはとてもおいしかった。食べたことないのに、懐かしさを感じた。
『ヒューの味だ!ヒューの!ヒュー?縮んじゃった?』
しばらくともに森を歩いて何日かたった、ある日のこと。
うなされて目を覚ましたら、知らないメイルがいた。俺を抱きしめている20歳くらいのメイル。涼やかな香りがする。紺色の髪と水色の目、小顔で絶世の美形だ。微笑む顔は懐かしささえ感じた。
頬に置かれる手は暖かくて懐かしくて……。
『ヒューだ!ヒューだった!』
心の奥底が歓喜に震える。
そして俺は、運命と出会う。
この、魔の森で。
毎夜うなされてあの時の夢を見る。それは怖くて怖くて、セックスなんて子作りのためのモノだって思っていた俺にとって衝撃だった。
人を貶めるためにすることもあるのだと。
それに比べればリンド先輩のことなんてどうってことなかった。酒に酔っていたとはいえ、俺は同意したのだから。
メイルを見て震えだす俺を見て団長はフィメルの世話係を付けてくれた。
俺の処遇は死刑と決まっているから家族に類が及ばないよう嘆願書を書いた。
ミランにもあんなに世話になったのに。それぞれに宛てて手紙を書いた。それは俺が処刑された後渡してもらえるように頼もうと思う。
そうしてある日、牢から出されて面会室に連れていかれた。
そこには団長と貴族がいた。
俺を組み敷いたあの貴族と似ている。
そう思ったら吐き気がこみあげて、蹲ってしまった。
「すまない。騎士としてあるまじき行為だった。ミハイルは私が償わせる。といっても、目にしたくはないだろうからわが領地から出さないと誓おう。」
何を、言っているんだ?気持ち悪くて言葉が耳に入らない。
「ああ、息子のせいで、恐怖症になったとは聞いている。後で書面にしよう。そのほうが君も安心できるだろう。」
優しい声だ。似ているが、あの傲慢さはない。
意を決して顔を上げた。
「……私は、死刑、では?」
恐る恐る問いかけた。その貴族が首を振る。
「無罪放免にはできなかったが、騎士資格はく奪と退団で自由の身だ。この国では騎士には戻れないが他国ではどんな職業も選べる。この国でだって、騎士以外なら自由だ。ただしばらくは離れたほうがいいかもかもしれない。心無いものはいくらでもいるからね。」
そういって、部屋を出て行った。ミハイル・オルロフの父親でオルロフ男爵ということだった。ミハイルは第三子で、相続もないことから男爵が活躍した騎士団で騎士になって叙爵するのというのが希望だったと聞いた。そのために手段を選ばないところがあり、後で聞いたが俺の功績を掠め取っていたらしい。戦争の時のことだ。
俺は別にその点に関しては気にしなかったが、目を付けられていたのだろう。
「団からは退職金が出る。人目につかないよう馬車も用意させる。次の街まで送らせよう。もちろん馬車の中は一人で、御者はフィメルを用意する。外には出掛けられないが私が入用なものは用意しよう。出発は3日後だ。悪いと思ったが、部屋に入らせてもらって私物をまとめておいた。足りないものがあればもう一度探させるから確認してほしい。それまであの部屋で過ごしてもらわないといけないが許してほしい。君に非は一切ない。それだけは私が保証しよう。出発するとき親御さんにあっていくか?」
ノヴァク団長はそう、言ってくれた。それだけで気持ちが軽くなった。
「いいえ。しばらく国を出るとだけ、手紙を書くので渡してもらえますか?」
「わかった。必ず渡そう。」
それからは慌ただしかった。俺の退職金で買える、大きめのマジックバッグと、護身用の剣を頼んだ。それと野営の道具、旅に必要な物。さすが団長で必要な物がコンパクトにまとまっていた。
団の制服を返せば私物はそうなかった。あのペンダントは、マジックポーチ(ためた給与で買ってあったもの)に入れた。命を何度も救ってくれたペンダントだ。失くさないようにしよう。
冒険者風の服に着替えてマントを被った。まだ北方は冷える。
暖かい国に行こうか。近いところではアルデリア王国だ。
リュック型のマジックバックを背負ってベルトに革の小銭入れとマジックポーチを付けて夜明けにはまだ早いころ、裏門につけられた馬車に乗り込む。
「次の街までよろしく頼みます。」
「任せて。団長から頼まれたからね。護衛としても腕は立つから頼っていい。僕は団長の家の者だ。」
団長よりちょっと若い細身の背の高いフィメル。身のこなしが強さを感じさせた。
「あ、ありがとう。その時はよろしくお願いします。」
次の街まで約3日、馬車はちゃんとベンチがあって、クッションもきいている少し高級な馬車だった。
途中、魔物が出たが俺の出番はなかった。
次の街の門の前までで別れた。別れ際に言われたことがショックだった。
「実は僕、団長の伴侶なんだよ。とても心配してた。メイルが怖いだろう?でもね、好きなメイルができたら怖くなくなるから。嘘だと思っても試してみて。」
好きな人。できるのだろうか。この俺に。
門番はメイルだったが、なんとか震えずに済んだ。馬車を乗り継いでさっさと国を出ることにした。
夜は悪夢を見る。あの日の夢だ。宿の狭いベッドで体をまるまって寝る。
悪夢の頻度は日を経るごとに減っていったが、メイルに対する恐怖症はまだ治らない。
だが俺はやはりメイルに見られるようで、意識したほうが変に見える。
だから、人が多くなる前に食事を済ませて早めに寝る。人が多くなる前に人の少ない馬車に乗る。
それを繰り返して1か月。
なんとか側に寄られない限りは怯えずに済んでいる。ただ背後に立たれると怖い。
それでも観光するくらいの余裕はできて、露店を冷かしたりした。
屋台でスープや串焼きを買ったり、武器や防具を見たり。
途中、冒険者らしきグループを見た。何も職につけなかったら冒険者をやるのも悪くない。剣を振らないのは呼吸をしないよりつらい。
最近は朝夕の鍛錬をするようになった。だんだんと感覚が戻ってくる。やっぱり俺は剣が好きだ。
騎士はもう俺は慣れないけれど、剣を職業にすることならできる。
ふらふらと行く先のない旅を続けてルーシ王国に入った。戦争が始まる前、演習で寄ったマジル。
すっかり活気を取り戻していて、戦争の爪痕はもうないようだった。でも、また戦争が始まればここは真っ先に巻き込まれるところだった。
白狼亭という宿に泊まった。宿賃の割にはいい宿だった。俺が思わずメイルに怯えたのを見た副主人が奥の部屋に通してくれた。手前の部屋はフィメルが泊っていると言っていた。夕飯は部屋で食べていいと言ってトレーに乗せて持たせてくれた。ベッドが小さいかもといって恐縮してたが、気遣いに嬉しくなった。食事はとてもおいしくて、機会があったらまた来ようと思った。
マジルを出て二つの村を超えたらもうアルデリアの領域に入る。その村を出るとき、次の村まで1日かからないという話だったから、歩きにしたのが間違いだった。
森の獣道みたいなところを歩いているとき、もしかして迷ったのだろうか、という疑惑が頭をもたげた。
街道じゃない。ここはどう考えても森の中の獣道。
迷った。
一本道だと宿の人は言っていたのに、迷うとは。
まいったな。しかも、森が静まり返っていて様子が変だ。剣を腰に佩いて警戒しながら歩きだすと何やら人の声のようなものが聞こえて、目の前に人が落ちてきた。
迷ったから木に登って方角を見てたら落っこちたという少年はかなりの美形で紺色の髪に水色の目をしていた。
(水色、---の色。でも年が違う。)
一緒に行動することになり、しばらく歩いて野営できそうな場所に出た。
「えっと、僕はヒュー。君は?とりあえず夕飯作ろうと思うけど、何か好き嫌いはある?」
「ああ、俺は、メルトだ。よろしく。好き嫌いはないが…」
こんなところで料理はできないと思うが……。
『ヒュー!?』
心の奥がざわめいた気がした。
あっという間に出来上がった夕飯に度肝を抜かれた。
もらった器に盛られたスープは湯気を立てていた。火傷しないように飲んだスープはとてもおいしかった。食べたことないのに、懐かしさを感じた。
『ヒューの味だ!ヒューの!ヒュー?縮んじゃった?』
しばらくともに森を歩いて何日かたった、ある日のこと。
うなされて目を覚ましたら、知らないメイルがいた。俺を抱きしめている20歳くらいのメイル。涼やかな香りがする。紺色の髪と水色の目、小顔で絶世の美形だ。微笑む顔は懐かしささえ感じた。
頬に置かれる手は暖かくて懐かしくて……。
『ヒューだ!ヒューだった!』
心の奥底が歓喜に震える。
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