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ラーン王国編―終章―(メルトSIDE)
―閑話ー 第一騎士団長の多忙な日々3
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御前試合で平民のメルトが優勝をした。
まっすぐな彼に理不尽なアドバイスなど出来はしなかった。貴族に勝ちを譲れとは、私も是としてなかったからだ。
史上初の平民騎士の優勝。
貴族出身の騎士たちは面白くはなかったようだ。
いきなり、第四騎士団の団長から、第一騎士団の仕事を学ばせたいと一部隊をねじ込んできた。試合のあったすぐ後だ。
その部隊を率いるリーダーはメルトに敗北したミハイル・オルロフだった。
彼はメルトと同期で、貴族の中では有望な出世株だった。父親(ダッド)であるオルロフ男爵は清廉な騎士で、第一騎士団の伝説になっている。騎士団での活躍が今の男爵の地位や人脈を築いたのだから気負うのは仕方のないことだ。
第三子の彼は爵位は継げない身分で、騎士として騎士爵をもらわないと、ただの貴族の子でしかない。厳密には貴族ではない。しかし早くから手柄を立てていて心配はないと思われたが。
その手柄に曇りがあるような気がしてならない。
最初の手柄は一次ポレシ戦役だ。大量の帝国兵を屠った手柄ということになっている。
彼がいた部隊はメルトのいた部隊で、彼と一緒に戦ったほかの騎士からはメルトが活躍したと聞いた。
だがふたを開けてみれば真逆の評価で、その隊を率いていたのは第四の下士官だった。
そもそも彼がそれだけの戦果を挙げるには、配置された場所が奥に居すぎていて難しいし、防具や剣もそれだけの兵を斬ったにしては綺麗だった。
メルトは一部隊以上斬ったはずなのに数人の戦果になっていた。それは3回ともだ。
おかしいと思っても、私は戦争に参加したが作戦本部に詰めていて報告される情報しか手元になかった。
最終試験でも彼の相手は不自然に負けていて、メルトに至っては不戦敗だった。
ありえないと思った。
しかし何も証拠はなく、たびたび、平民の手柄をかすめ取ったような彼の成果は、きちんとした彼の成績として評価されていたのだった。
そしてそのグループは第一騎士団に不協和音をもたらし、メルトを徹底的に虐げていった。
その事実を知ったのは事件が起きてしまってからだったが。
雪もほとんど解けて暖かくなってきた3月のある日、メルトが私に直接声をかけてきた。
「実は呼び出しを受けていて。何もないとは思うのですが、夕食後に兵舎の裏の鍛錬所に一人で来いと、ミハイル・オルロフに。用事はなにかはわかりませんが。私はこう見えてもフィメルですし、メイルの彼に呼び出されるのは断りたいのですが平民の私には拒否権がありませんので……」
彼はそう言いつつも実際に事が起こるとは思っていなかったようだ。せいぜい殴る蹴るの暴行を受けて、放置されたら死ぬかもしれないから、保険のためにと、そう声をかけたのだと。自分は治癒魔法を受けられないからと。
私が会議を終わって駆け付けた時はもう遅く、暴行を受けたメルトが反撃に出て全員半死で転がっていた。ミハイルに斬りかかろうとしていたメルトをすんでのところで止めた。
ミハイルはイチモツをさらけ出した格好で座り込んでいた。
私は何があったか察してしまった。
こいつらは寄ってたかってメルトを強姦したのだ。
メルトは一応ズボンを履いてはいたが乱れていた。
魔力視のできる魔術医師に診てもらった。強姦されかかったのは間違いないが、相手は一人だけでそれも軽くで済んでいるとのことだった。ほとんど魔力の交わりがなかった、が、まったく何もなかったわけではないという診断だった。メルトは魔法治療は受けられないから、身ぎれいにさせた後で、謹慎部屋に入ってもらった。
もちろん、ミハイル達は治癒魔法を受けさせた後、メルトとは別棟の謹慎部屋に閉じ込めた。
悔しいが平民の彼は被害者なのに裁かれる立場だった。
もう少し私が早く行っていれば。
そう後悔するが起こってしまったことは仕方がない。オルロフ男爵に事の顛末を書いた手紙を送った。早馬で一日で着くようにした。
それから、騎士団のほかの団長と処遇について会議があった。
死刑に決まっている、というもの。
御前試合の優勝者が不祥事は団の歴史に傷が残るからやめさせてから斬ってはどうだ、とか。
この団長たちは本当に騎士なのだろうか。
平民の騎士たちのほうがよっぽど清廉で騎士らしい。
そこにオルロフ男爵が、処遇について嘆願があるとやってきた。
私は内心メルトが助かる道はないのかと心が痛んだ。
「私の不肖の子が、愚かなことをしでかした。どうか、被害者の彼は無罪放免にしていただきたい。」
そう貴族の彼が頭を下げて嘆願したのだ。
驚いたのは私だけではなかった。彼は一部の騎士にとっては英雄だった。
その英雄のファンはこの場にも数人いた。
そしてますます会議は紛糾し、貴族を切った罪は騎士資格はく奪の上退団ということで取ってもらうこととなった。
ただ、事件が事件なので、公表すると団が分裂の恐れがあった。平民のフィメルをメイルの貴族の騎士が集団暴行したのだ。
平等に扱うということは性差を持ち込まないことだ。なのに彼らはそこを犯してしまった。
フィメルの騎士にも貴族はいる。フィメルの怒りは恐ろしい。
メイルの騎士に従わない可能性もある。もとより、市民を守るべき騎士が犯罪を犯したのだ。
フィメルへの性的暴行は平民のメイルも罪として裁かれるのだ。
王都を守る騎士としての信頼が揺らぐ。
結局、メルトは自主的にやめたように対外的にも内部的にも思わせることになった。
メルトの名誉も守れるようにという措置になった。
メルトはメイル恐怖症になっていた。これ一つとっても彼らを許しがたい。
ミハイルはオルロフ男爵が徹底的に管理して領地から出さないと言っていた。
他の者も退団となった。
相手が平民であろうが団の規律を破った彼らは裁かれねばならない。
メルトはしばらく他国へ行ってもらうことになった。
退職金に関しても揉めたが、火竜の剣について私は脅しをかけた。
「アルデリアの工房に問い合わせをしますよ。所有者が誰かと。盗まれたと思われるでしょうね。」
「だ、だったらメルトじゃないのか?」
「メルトは正当な所持者ですよ。所有権は彼にあります。」
「なに?」
「彼は剣を鞘から抜くことができましたよ。疑うならやってみてもらえばよろしい。あの剣一つで何人分の退職金になるでしょうね?」
顔を青くした彼は退職金支払の書類にサインをしたのだった。
本当の所有者が、彼を所持者にしたのだと思うがね。彼が国を出るなら、彼はその者と出会うかもしれない。
いずれにせよ、たぶんその剣がそこに収まっているのはそう長い間ではあるまい。
マジックバッグを買ってほしいといわれたから私の持っていたもう使わない背負い式のマジックバッグをメルトにプレゼントした。餞別だ。優秀な騎士を辞めさせねばならない私の力不足の詫びも込めて。
私の伴侶に次の街まで送ってもらうことにした。
「僕だったらそいつらのあれ、ちょん切ってるとこだけどねえ。」
背筋が凍った。
馬車が出ていくのを見送ってため息をつく。
不甲斐ない上司ですまなかった。いい旅と出会いを祈っている。
まっすぐな彼に理不尽なアドバイスなど出来はしなかった。貴族に勝ちを譲れとは、私も是としてなかったからだ。
史上初の平民騎士の優勝。
貴族出身の騎士たちは面白くはなかったようだ。
いきなり、第四騎士団の団長から、第一騎士団の仕事を学ばせたいと一部隊をねじ込んできた。試合のあったすぐ後だ。
その部隊を率いるリーダーはメルトに敗北したミハイル・オルロフだった。
彼はメルトと同期で、貴族の中では有望な出世株だった。父親(ダッド)であるオルロフ男爵は清廉な騎士で、第一騎士団の伝説になっている。騎士団での活躍が今の男爵の地位や人脈を築いたのだから気負うのは仕方のないことだ。
第三子の彼は爵位は継げない身分で、騎士として騎士爵をもらわないと、ただの貴族の子でしかない。厳密には貴族ではない。しかし早くから手柄を立てていて心配はないと思われたが。
その手柄に曇りがあるような気がしてならない。
最初の手柄は一次ポレシ戦役だ。大量の帝国兵を屠った手柄ということになっている。
彼がいた部隊はメルトのいた部隊で、彼と一緒に戦ったほかの騎士からはメルトが活躍したと聞いた。
だがふたを開けてみれば真逆の評価で、その隊を率いていたのは第四の下士官だった。
そもそも彼がそれだけの戦果を挙げるには、配置された場所が奥に居すぎていて難しいし、防具や剣もそれだけの兵を斬ったにしては綺麗だった。
メルトは一部隊以上斬ったはずなのに数人の戦果になっていた。それは3回ともだ。
おかしいと思っても、私は戦争に参加したが作戦本部に詰めていて報告される情報しか手元になかった。
最終試験でも彼の相手は不自然に負けていて、メルトに至っては不戦敗だった。
ありえないと思った。
しかし何も証拠はなく、たびたび、平民の手柄をかすめ取ったような彼の成果は、きちんとした彼の成績として評価されていたのだった。
そしてそのグループは第一騎士団に不協和音をもたらし、メルトを徹底的に虐げていった。
その事実を知ったのは事件が起きてしまってからだったが。
雪もほとんど解けて暖かくなってきた3月のある日、メルトが私に直接声をかけてきた。
「実は呼び出しを受けていて。何もないとは思うのですが、夕食後に兵舎の裏の鍛錬所に一人で来いと、ミハイル・オルロフに。用事はなにかはわかりませんが。私はこう見えてもフィメルですし、メイルの彼に呼び出されるのは断りたいのですが平民の私には拒否権がありませんので……」
彼はそう言いつつも実際に事が起こるとは思っていなかったようだ。せいぜい殴る蹴るの暴行を受けて、放置されたら死ぬかもしれないから、保険のためにと、そう声をかけたのだと。自分は治癒魔法を受けられないからと。
私が会議を終わって駆け付けた時はもう遅く、暴行を受けたメルトが反撃に出て全員半死で転がっていた。ミハイルに斬りかかろうとしていたメルトをすんでのところで止めた。
ミハイルはイチモツをさらけ出した格好で座り込んでいた。
私は何があったか察してしまった。
こいつらは寄ってたかってメルトを強姦したのだ。
メルトは一応ズボンを履いてはいたが乱れていた。
魔力視のできる魔術医師に診てもらった。強姦されかかったのは間違いないが、相手は一人だけでそれも軽くで済んでいるとのことだった。ほとんど魔力の交わりがなかった、が、まったく何もなかったわけではないという診断だった。メルトは魔法治療は受けられないから、身ぎれいにさせた後で、謹慎部屋に入ってもらった。
もちろん、ミハイル達は治癒魔法を受けさせた後、メルトとは別棟の謹慎部屋に閉じ込めた。
悔しいが平民の彼は被害者なのに裁かれる立場だった。
もう少し私が早く行っていれば。
そう後悔するが起こってしまったことは仕方がない。オルロフ男爵に事の顛末を書いた手紙を送った。早馬で一日で着くようにした。
それから、騎士団のほかの団長と処遇について会議があった。
死刑に決まっている、というもの。
御前試合の優勝者が不祥事は団の歴史に傷が残るからやめさせてから斬ってはどうだ、とか。
この団長たちは本当に騎士なのだろうか。
平民の騎士たちのほうがよっぽど清廉で騎士らしい。
そこにオルロフ男爵が、処遇について嘆願があるとやってきた。
私は内心メルトが助かる道はないのかと心が痛んだ。
「私の不肖の子が、愚かなことをしでかした。どうか、被害者の彼は無罪放免にしていただきたい。」
そう貴族の彼が頭を下げて嘆願したのだ。
驚いたのは私だけではなかった。彼は一部の騎士にとっては英雄だった。
その英雄のファンはこの場にも数人いた。
そしてますます会議は紛糾し、貴族を切った罪は騎士資格はく奪の上退団ということで取ってもらうこととなった。
ただ、事件が事件なので、公表すると団が分裂の恐れがあった。平民のフィメルをメイルの貴族の騎士が集団暴行したのだ。
平等に扱うということは性差を持ち込まないことだ。なのに彼らはそこを犯してしまった。
フィメルの騎士にも貴族はいる。フィメルの怒りは恐ろしい。
メイルの騎士に従わない可能性もある。もとより、市民を守るべき騎士が犯罪を犯したのだ。
フィメルへの性的暴行は平民のメイルも罪として裁かれるのだ。
王都を守る騎士としての信頼が揺らぐ。
結局、メルトは自主的にやめたように対外的にも内部的にも思わせることになった。
メルトの名誉も守れるようにという措置になった。
メルトはメイル恐怖症になっていた。これ一つとっても彼らを許しがたい。
ミハイルはオルロフ男爵が徹底的に管理して領地から出さないと言っていた。
他の者も退団となった。
相手が平民であろうが団の規律を破った彼らは裁かれねばならない。
メルトはしばらく他国へ行ってもらうことになった。
退職金に関しても揉めたが、火竜の剣について私は脅しをかけた。
「アルデリアの工房に問い合わせをしますよ。所有者が誰かと。盗まれたと思われるでしょうね。」
「だ、だったらメルトじゃないのか?」
「メルトは正当な所持者ですよ。所有権は彼にあります。」
「なに?」
「彼は剣を鞘から抜くことができましたよ。疑うならやってみてもらえばよろしい。あの剣一つで何人分の退職金になるでしょうね?」
顔を青くした彼は退職金支払の書類にサインをしたのだった。
本当の所有者が、彼を所持者にしたのだと思うがね。彼が国を出るなら、彼はその者と出会うかもしれない。
いずれにせよ、たぶんその剣がそこに収まっているのはそう長い間ではあるまい。
マジックバッグを買ってほしいといわれたから私の持っていたもう使わない背負い式のマジックバッグをメルトにプレゼントした。餞別だ。優秀な騎士を辞めさせねばならない私の力不足の詫びも込めて。
私の伴侶に次の街まで送ってもらうことにした。
「僕だったらそいつらのあれ、ちょん切ってるとこだけどねえ。」
背筋が凍った。
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不甲斐ない上司ですまなかった。いい旅と出会いを祈っている。
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