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爆発音
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豪快な勝利を得たゲルドーシュであったが、しばらくはその場に立ち尽くし、そのあと緊張の糸が切れたようにドスンと胡坐をかいた。手練れの戦士も、今回は命の危険を感じたらしい。
「大丈夫か、ゲル」
ボクは戦士の肩に手を置き労をねぎらう。
「あ、あぁ。少し苦戦したが、どうってことねぇよ」
「あら、あら、本当にそうですの? あやしいものですわ」
いつもの掛け合いが始まると思ったが、ゲルドーシュはやり返さない。よほど疲れたのだろう。ポピッカは少し不満そうだ。
「ゲル、ちゃんと立てるか? 皆、疲労している。いったん安全地帯へ戻るぞ」
「あぁ……、あぁ、そうだな」
一刻も早く最深部へ行きたがっていたゲルドーシュであるが、ここはボクの意見に大人しく従う。
膝に手を当て”どっこらしょ”と立ち上がるゲルドーシュ。散乱した敵から戦利品を得、死骸を焼却した後、皆、踵を返して安全地帯へと歩きはじめる。その時ポピッカの足元がぐらつき、ボクの方へ倒れ掛かって来た。
「大丈夫? ポピッカ」
「あぁ、すいません、大丈夫ですわ……。”あれ”を使うと、それなり以上に体力を消耗しますの……」
ポピッカが萎えた声でつぶやく。
戦いのさなかポピッカが見せた、まるで妖精のような羽根。多分その事を指しているのだろうと、皆、思っているようだ。
いまパーティーの間には”聞きたい事が山ほどある”という空気が漂っている。しかし誰もその事を口にはしない。好奇心旺盛なゲルドーシュですら今は何も聞かない。全ては安全地帯へ戻ってからだと考えているのだろう。
「おい、俺におぶされや」
ゲルドーシュがポピッカの前方に回り込む。
「いいですわよ。ちゃんと歩けます」
軽く手を振り、ゲルドーシュの横をすり抜けようとするポピッカ。
「いや、そうさせてくれ。俺の役目は以前お前が言っていたように、皆の盾になる事だ。でもさっきは、逆にお前を俺の盾にしちまった。戦士として恥ずかしい」
天敵といって良いポピッカに、こうも下手に出るとは、ゲルの奴、余程こたえたと見える。
「そうだよ。そうしてくれ。ポピッカ、これはリーダーとしての命令だ」
僅かの間うつむいていた僧侶は、ボクの顔を見上げると大人しくその命に従った。リーダー風は、こういう時にこそ吹かすものだ。無理をして気丈に振る舞っているポピッカも、リーダーの命令となれば聞かずばなるまい。彼女としては、それを言い訳に出来る。
ゲルドーシュに背負われた彼女は、すぐさまグッタリとして戦士の背中に体を預けた。
「彼女をスキャンしたところ、体力と魔力のバランスが著しく乱れているようです。やはり、さっきのアレは負担が大きいのでしょうね。
それに加えて私を守るために残留効果をつけた障壁を張った事、ヘキサシールドとリバースでボヨムルの攻撃を避け続けた事も体の不調に拍車をかけたようです」
自分とて彼女に負担をかけていたという罪悪感からか、ザレドスの口調も重い。
黙り込んで、安全地帯へと向かう一行。目的地まであと半分くらいのところへ戻った頃だろうか、ダンジョンの先から大きな音がした。
「なんだ!また崩落か!?」
ポピッカを背負ったまま、ゲルドーシュが身構える。
「スタン、あれは!」
「そうだな、引っ掛ったみたいだ」
ザレドスとボクは互いにうなずき合った。
「ゲル、急ぐぞ。ポピッカを落とすなよ」
何が何やらわからぬと言った表情のゲルドーシュであったが、ポピッカをおぶったまま、ボクとザレドスの後を追って安全地帯へとひた走る。
「コ、コリャなんだい!?」
安全地帯へ到着するやいなや、ゲルドーシュが声を上げた。
無理もない。安全地帯に張られた結界の少し手前のところ、通路、壁、床が一定範囲にわたって黒焦げとなっている。また床には点々と血が飛び散っている上に、これまた黒焦げになった布のようなものの一部が散乱していた。
「これ、もしかして、さっきスタンとザレドスが何かやっていた事と関係ありますの?」
ゲルドーシュの背中に揺られていたポピッカが目を覚ます。
「ゲル、もういいですわ。ありがとうございました」
戦士の背中から降りた僧侶が、辺りを見回す。
「実はさっき、チョットした罠を仕掛けておいたんだよ」
ボクは安堵の表情を浮かべる。いや、杞憂だとは思ったが、仕掛けをしておいて本当に良かった。でなければ救援を待たずして、パーティー全滅の憂き目にあっていたかも知れない。でも、ただ安心ばかりはしていられない。
「ポピッカ、疲れているところを悪いが、是非お願いしたい事がある。まずは安全地帯の中へ入ろう」
ザレドスが結界を通るゲートを出現させ、一同は安全地帯の中へと入る。そこで備え付けのタンクからポピッカにマジックエッセンスの補充をしてもらい、癒しの魔法を使って自らの体調を回復させる処置を施させた。
その後、例の魔使具人形を使い、ザレドスが新たに用意した三センチ四方ある魔使具十数個を、地下2階~7階までの、全ての安全地帯の入り口付近に設置する。
「さてと……」
安全地帯のソファーにドッカリと腰を下ろしたゲルドーシュが口火を切る。
「そろそろ色んな事、教えてもらおうか!」
ここ二時間程の内に、様々な出来事があった。その答え合わせを彼が求めるのは当然の成り行きであろう。
「ん~、どこから話そうか……。じゃぁ、まず結界前の仕掛けについてからにしようかな」
ボクが話し始めると、好奇心旺盛な戦士はズイと身を乗り出した。
「大丈夫か、ゲル」
ボクは戦士の肩に手を置き労をねぎらう。
「あ、あぁ。少し苦戦したが、どうってことねぇよ」
「あら、あら、本当にそうですの? あやしいものですわ」
いつもの掛け合いが始まると思ったが、ゲルドーシュはやり返さない。よほど疲れたのだろう。ポピッカは少し不満そうだ。
「ゲル、ちゃんと立てるか? 皆、疲労している。いったん安全地帯へ戻るぞ」
「あぁ……、あぁ、そうだな」
一刻も早く最深部へ行きたがっていたゲルドーシュであるが、ここはボクの意見に大人しく従う。
膝に手を当て”どっこらしょ”と立ち上がるゲルドーシュ。散乱した敵から戦利品を得、死骸を焼却した後、皆、踵を返して安全地帯へと歩きはじめる。その時ポピッカの足元がぐらつき、ボクの方へ倒れ掛かって来た。
「大丈夫? ポピッカ」
「あぁ、すいません、大丈夫ですわ……。”あれ”を使うと、それなり以上に体力を消耗しますの……」
ポピッカが萎えた声でつぶやく。
戦いのさなかポピッカが見せた、まるで妖精のような羽根。多分その事を指しているのだろうと、皆、思っているようだ。
いまパーティーの間には”聞きたい事が山ほどある”という空気が漂っている。しかし誰もその事を口にはしない。好奇心旺盛なゲルドーシュですら今は何も聞かない。全ては安全地帯へ戻ってからだと考えているのだろう。
「おい、俺におぶされや」
ゲルドーシュがポピッカの前方に回り込む。
「いいですわよ。ちゃんと歩けます」
軽く手を振り、ゲルドーシュの横をすり抜けようとするポピッカ。
「いや、そうさせてくれ。俺の役目は以前お前が言っていたように、皆の盾になる事だ。でもさっきは、逆にお前を俺の盾にしちまった。戦士として恥ずかしい」
天敵といって良いポピッカに、こうも下手に出るとは、ゲルの奴、余程こたえたと見える。
「そうだよ。そうしてくれ。ポピッカ、これはリーダーとしての命令だ」
僅かの間うつむいていた僧侶は、ボクの顔を見上げると大人しくその命に従った。リーダー風は、こういう時にこそ吹かすものだ。無理をして気丈に振る舞っているポピッカも、リーダーの命令となれば聞かずばなるまい。彼女としては、それを言い訳に出来る。
ゲルドーシュに背負われた彼女は、すぐさまグッタリとして戦士の背中に体を預けた。
「彼女をスキャンしたところ、体力と魔力のバランスが著しく乱れているようです。やはり、さっきのアレは負担が大きいのでしょうね。
それに加えて私を守るために残留効果をつけた障壁を張った事、ヘキサシールドとリバースでボヨムルの攻撃を避け続けた事も体の不調に拍車をかけたようです」
自分とて彼女に負担をかけていたという罪悪感からか、ザレドスの口調も重い。
黙り込んで、安全地帯へと向かう一行。目的地まであと半分くらいのところへ戻った頃だろうか、ダンジョンの先から大きな音がした。
「なんだ!また崩落か!?」
ポピッカを背負ったまま、ゲルドーシュが身構える。
「スタン、あれは!」
「そうだな、引っ掛ったみたいだ」
ザレドスとボクは互いにうなずき合った。
「ゲル、急ぐぞ。ポピッカを落とすなよ」
何が何やらわからぬと言った表情のゲルドーシュであったが、ポピッカをおぶったまま、ボクとザレドスの後を追って安全地帯へとひた走る。
「コ、コリャなんだい!?」
安全地帯へ到着するやいなや、ゲルドーシュが声を上げた。
無理もない。安全地帯に張られた結界の少し手前のところ、通路、壁、床が一定範囲にわたって黒焦げとなっている。また床には点々と血が飛び散っている上に、これまた黒焦げになった布のようなものの一部が散乱していた。
「これ、もしかして、さっきスタンとザレドスが何かやっていた事と関係ありますの?」
ゲルドーシュの背中に揺られていたポピッカが目を覚ます。
「ゲル、もういいですわ。ありがとうございました」
戦士の背中から降りた僧侶が、辺りを見回す。
「実はさっき、チョットした罠を仕掛けておいたんだよ」
ボクは安堵の表情を浮かべる。いや、杞憂だとは思ったが、仕掛けをしておいて本当に良かった。でなければ救援を待たずして、パーティー全滅の憂き目にあっていたかも知れない。でも、ただ安心ばかりはしていられない。
「ポピッカ、疲れているところを悪いが、是非お願いしたい事がある。まずは安全地帯の中へ入ろう」
ザレドスが結界を通るゲートを出現させ、一同は安全地帯の中へと入る。そこで備え付けのタンクからポピッカにマジックエッセンスの補充をしてもらい、癒しの魔法を使って自らの体調を回復させる処置を施させた。
その後、例の魔使具人形を使い、ザレドスが新たに用意した三センチ四方ある魔使具十数個を、地下2階~7階までの、全ての安全地帯の入り口付近に設置する。
「さてと……」
安全地帯のソファーにドッカリと腰を下ろしたゲルドーシュが口火を切る。
「そろそろ色んな事、教えてもらおうか!」
ここ二時間程の内に、様々な出来事があった。その答え合わせを彼が求めるのは当然の成り行きであろう。
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