よろず魔法使いの日記帳 【第一部 ダンジョンの謎】

藻ノかたり

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おかしな敵たち

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「そうですの。では使いどころが肝心ですわね。ゲルが変に慌てて無駄遣いしてしまうんじゃないかと心配ですわ」

ポピッカが心配そうな顔をする。

「俺がそんなヘマをやると思っていやがるのか?」

「えぇ、もちろん」

小腹を立てたゲルドーシュに、平然と抗するポピッカ。

「まぁまぁ、ゲルもいつもより少し気をつけるって事で頼むよ。いざって時に最も確実な方法は、剣での物理攻撃なんだからさ。それと組み合わせて使用できる技は、大切に使って行こう」

ボクは機嫌の悪くなりかけた戦士を取り成した。それに嘘をついているわけではない。アンデッドでもない限り、結局のところは相手の肉体を破壊すれば大抵の事は解決するし、たとえ物理攻撃を無効化する魔法を使われても、ボクやポピッカがそれを更に無効化すれば済む話である。

「おっ、旦那、さすがわかってるじゃねぇか」

ゲルドーシュが色を直す。

「スタン、あんまりゲルを甘やかさない方が良いですわよ。単純な輩が調子に乗るとロクな事はないですから」

わかってる。わかってるさ、ポピッカ。彼の事はあなたより、ボクの方がずっと良く知っている。お願いだから、もう少しボクに彼を上手く操縦させてくれないか!

「よぉ、ポピッカ。この際だからキチット……」

ゲルドーシュの機嫌が再炎上しそうになった時、今度はザレドスが間に入る。

「二人とも、その元気は最下階の探索のためにとっておきましょうよ。今ここで揉めても、何の得にもなりませんよ」

至極まっとうな理屈である。しかしその正論が、特にゲルドーシュに通用するだろうか。

「……それもそうだな。俺が剣技を発揮するのは、嬢ちゃん僧侶じゃなくて、魂をたぎらせる事が出来る大物だけだぜ」

ほぉ、意外だ。これまでだったら,、絶対にいきり立っていたところである。先ほどの戦闘で奴の戦士魂に火がついたのだろうか。これから現れるだろう更なる強敵との邂逅の前には、小さな争いは無意味だと悟ったのかも知れない。

「あら、大人になったこと」

ポピッカが皮肉を言う。

「ポピッカ!」

ボクは僧侶を一喝する。

「あ……、すいません、つい」

最下界へ向かう緊張で、彼女も平常心ではいられないらしい。どうやら修羅場をくぐり抜けてきた経験という点では、ゲルドーシュの方が一枚も二枚も上手のようだ。

いつも通り、ザレドスが安全地帯を守る結界にゲートを出現させ、ボクたちはいよいよ最深部への道を辿り始める。

前衛左がゲルドーシュ、右がボク、中衛にザレドス、後衛にポピッカという基本陣形を保ったまま、地下7階を一路地下8階に通じる階段へと向かう。今のところ敵とは遭遇していない。

「あと少しで最下階への階段に辿り着きますが、周囲に敵や罠の反応はありませんな」

探索用魔使具からの情報をザレドスが皆へ伝える。一同の間に鈍い緊張が走る。

「下の階へ行ったら、イレギュラー的な”何か”があるのでしょうかね」

張り詰めた空気の中、ザレドスが独り言のようにつぶやく。心にある引っ掛かりを内に秘めておけなくなったのだろう。

いつもならすぐに聞き返すゲルドーシュは黙ったままだ。既に覚悟を決めたとみえる。

「イレギュラー的なとは、どういう意味ですの」

戦士に代わって、僧侶が尋ねた。

「皆さんも気づいておられるでしょうが、敵の出方が明らかに変ですよね。ほとんど顔を合わせないと思っていたら、いきなり強力な魔物が出てきたりと、通常では考えられません。それにさっき遭遇した三体のモンスター、州兵の隊長さんの話には全く出てきませんでした。あれほどの強い魔物は、このダンジョンにはいないはずなんですよ」

僅かに不安を帯びた声で細工師が語る。

「召喚されたという事はないかな。妨害者が魔法使いであったり、召喚魔使具を持っていた場合、元々いない魔物をダンジョン内で召喚する事は可能だと思う」

ボクがザレドスの疑問に、一つの可能性を示した。

「そうですね。可能性が高いのは魔使具の方でしょう。あれだけ高位の魔物を召喚するにはかなりのマジックエッセンスが必要です。我々と一緒に閉じ込められている妨害者からすれば、崩落が除去されて身の安全を確保するまでは、マジックエッセンスを極力節約したいはずです。

それに一度に三匹も魔法で召喚した場合、いくら妨害者が隠ぺい能力に長けているとしても、私の探索魔使具に引っ掛らないわけはありません」

確かにボクも、ザレドスの言う可能性の方が高いと思う。

「私が知っている範囲だと、高位のモンスターを召喚する魔使具は、恐ろしく高額だったと思いますわ。その点は、どうなんですの?」

ポピッカが疑問を指しはさむ。

「正に、おっしゃるとおり。そもそも高位の魔物を召喚する魔使具を扱っている所は非常に限定的です。需要自体が大変限られますからね。私が承知しているところでは、あの三匹の魔物を召喚できる魔使具の価格は……、そうですねぇ、残金を含めて我々が今回もらう依頼料と同じくらいですか」

「へぇ~! そいつぁ豪儀だ」

ザレドスの解説に、ゲルドーシュが久々となる声を発した。

「そこまでして、何でこんな事をするのか……。わかりかねますわね」

ポピッカの真っ当な疑問に一同がうなずく。

しかし金に糸目をつけず魔物を召喚するような奴だとすると、この先も常識では考えられない敵を差し向けて来るかも知れない。果たしてこのまま先へ進んで良いものだろうか。
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