25 / 115
探索開始
しおりを挟む
今回の隊列では、前衛にゲルドーシュとボクが付く事になるが、なるべく両側へ離れる形をとる。それは中衛に位置するザレドスが、前方を良く見えるようにするためだ。そして後衛にポピッカが付き、うしろからの敵に備える。
いささか異例の隊列ではあるものの、少ない人数ゆえと戦闘が少ないと予測される探索中心の任務ともなれば、これが最良の策であると思われる。
入り口付近にロビーのような広い空間がある事から、このダンジョンは比較的新しい時代のものなのだろう。禍々しい時代のそれとは違い、かなり洗練された印象である。壁には迷宮内を照らすために設けられた明り取りの魔使具が配置されており、こちらが射光機などの照明器具を使わなくても済むようになっている。
これらは州政府が設置したものとの話を聞いているが、ボクたちの探索前に十分なマジックエッセンスが充填されており、三週間は無補給でも迷宮内を照らし続けるという事だ。こちらとしては、少しでもマジックエッセンスを節約したいので有り難い。
「じゃぁ、まずこの階層の未踏破部分をさっさとクリアしていこう。それなりに多いので、あんまりノンビリしていると最深部の調査に使える時間が短くなってしまうからね」
リーダーとしての初命令である。これまでも探索リーダーを務めた事は何度かあるけれど、これだけの少数精鋭を率いた事は余りない。それもゲルドーシュ以外とは初顔合わせとなれば、初めての経験ではないだろうか。
「でもよぉ、リーダーの旦那。依頼のメインは最深部なんだろ? だったら早くそっちへ行っちまってさ、時間が余ったら残りを探索っていう風にした方がいいんじゃねぇのか」
ゲルドーシュが早速に横槍を入れる。
「それは道理ではあるんだけどね。最深部の謎が、最深部だけで解決する保証ってのはないわけさ」
ボクは歩みを早める。
「って言うと?」
ボクの左隣にいる前衛の戦士が尋ね返す。
「前に君とボクが探索したダンジョンにもあったじゃないか。最下層の宝物庫に入るためには、一階の入り口付近にある仕掛けを外しておかなくてはダメだったって事がさ。
役人や州兵の話では手ごわい敵はいなさそうだから、ダンジョンを進んでいくのにそれほど時間が掛かる事はないと思う。だから念のため、未踏破部分を潰していった方が結果としては効率的だと思うんだ」
「なーるへそ」
ゲルドーシュは確か三十路を越えたばかりだと思ったが、時々オッサンみたいな言葉を使う。まぁ、彼より遥かに”オッサン”のボクが言うのもおかしな話ではあるけれど。
「普通に考えれば、そうですわよね。ゲルは頭より、筋肉を働かす方に神経を集中してほしいものですわ」
後衛のポピッカが、ケラケラと笑う。
「んだと、コラ。じゃぁその筋肉で、頭をかち割ったろか?」
振り向いたゲルが、威嚇するポーズをとる。
「フン!出来るものならやってみなさいましよ。力ばかりの愚鈍な剣に、私が当たるはずもないですけどね」
白いフードを被った女僧侶が、今度は鼻で笑った。
「だ~っ! もう許せねぇ。目にもの見せてやる」
「ほらほら!ケンカはしない! 探索が始まったばかりなのに、何やってんの。そんなんだと、最深部の謎が解けなくて残金がもらえなくなるぞ」
ボクは、剣に手をかけようとした三十路の戦士を制する。
「ポピッカも余りゲルを刺激しないでよ。確かにからかうと面白いってのはわかるけどね。それに辺りを調べているザレドスの邪魔になってしまうよ」
「あぁ、確かにそうですわね。失礼致しました」
ポピッカが、しおらしく非を認める。ボクはそれに多少の違和感を覚えた。彼女とは昨日出会ったばかりだが、これほど素直に引き下がるとは意外である。
「や~い、怒られた~」
ゲルドーシュがはやし立てるが、今度はポピッカも相手にしない。
やれやれ、これじゃぁ先が思いやられるよ。そう思いながらザレドスの方へ目を向ける。中衛の細工師は今、風変わりな耳当て付きのゴーグルをかけている。それは探索用の魔使具であり、彼は迷宮内のささいな異音も聞き漏らさないようにし、また目に見えない罠や隠し扉などの僅かな痕跡を探ろうとしている。
「やぁ、スタン。お気遣いどうも。二人の掛け合いを聞くのも楽しいし、通常の獣は声を警戒して我々に近づいてこない。そういう意味では問題ないのですが、音の探索にはイササカよろしくないのでね」
穏やかに話す細工師が、こうべを迷宮のあちらこちらへと向ける。今回は探索が主な目的であるから、ある意味ザレドスがパーティーの要といって良い。他のメンバーは彼の護衛に過ぎないわけだ。
「で、どうなんだよ、ザレドス。何か目新しいものはあったかい?」
戦士ゲルドーシュは、手持無沙汰のようだ。
「いや、特にないですねぇ。浅層階ですし、事前の資料と変わりありません。スタンの言う通り、未踏破部分のチェックを早いところ終わらせて、下層へ進んだ方が良さそうです。……おや!? 前方の十字路に注意して下さい。左側から何かやって来ます」
細工師の思わぬ一言に皆が緊張する。
「おう、やっと俺の出番が来たか!」
歓喜の表情を浮かべ身構えるゲルドーシュ。彼の獲物となる事も知らず、ダンジョンの辻から黒い影が飛び出して来た。
いささか異例の隊列ではあるものの、少ない人数ゆえと戦闘が少ないと予測される探索中心の任務ともなれば、これが最良の策であると思われる。
入り口付近にロビーのような広い空間がある事から、このダンジョンは比較的新しい時代のものなのだろう。禍々しい時代のそれとは違い、かなり洗練された印象である。壁には迷宮内を照らすために設けられた明り取りの魔使具が配置されており、こちらが射光機などの照明器具を使わなくても済むようになっている。
これらは州政府が設置したものとの話を聞いているが、ボクたちの探索前に十分なマジックエッセンスが充填されており、三週間は無補給でも迷宮内を照らし続けるという事だ。こちらとしては、少しでもマジックエッセンスを節約したいので有り難い。
「じゃぁ、まずこの階層の未踏破部分をさっさとクリアしていこう。それなりに多いので、あんまりノンビリしていると最深部の調査に使える時間が短くなってしまうからね」
リーダーとしての初命令である。これまでも探索リーダーを務めた事は何度かあるけれど、これだけの少数精鋭を率いた事は余りない。それもゲルドーシュ以外とは初顔合わせとなれば、初めての経験ではないだろうか。
「でもよぉ、リーダーの旦那。依頼のメインは最深部なんだろ? だったら早くそっちへ行っちまってさ、時間が余ったら残りを探索っていう風にした方がいいんじゃねぇのか」
ゲルドーシュが早速に横槍を入れる。
「それは道理ではあるんだけどね。最深部の謎が、最深部だけで解決する保証ってのはないわけさ」
ボクは歩みを早める。
「って言うと?」
ボクの左隣にいる前衛の戦士が尋ね返す。
「前に君とボクが探索したダンジョンにもあったじゃないか。最下層の宝物庫に入るためには、一階の入り口付近にある仕掛けを外しておかなくてはダメだったって事がさ。
役人や州兵の話では手ごわい敵はいなさそうだから、ダンジョンを進んでいくのにそれほど時間が掛かる事はないと思う。だから念のため、未踏破部分を潰していった方が結果としては効率的だと思うんだ」
「なーるへそ」
ゲルドーシュは確か三十路を越えたばかりだと思ったが、時々オッサンみたいな言葉を使う。まぁ、彼より遥かに”オッサン”のボクが言うのもおかしな話ではあるけれど。
「普通に考えれば、そうですわよね。ゲルは頭より、筋肉を働かす方に神経を集中してほしいものですわ」
後衛のポピッカが、ケラケラと笑う。
「んだと、コラ。じゃぁその筋肉で、頭をかち割ったろか?」
振り向いたゲルが、威嚇するポーズをとる。
「フン!出来るものならやってみなさいましよ。力ばかりの愚鈍な剣に、私が当たるはずもないですけどね」
白いフードを被った女僧侶が、今度は鼻で笑った。
「だ~っ! もう許せねぇ。目にもの見せてやる」
「ほらほら!ケンカはしない! 探索が始まったばかりなのに、何やってんの。そんなんだと、最深部の謎が解けなくて残金がもらえなくなるぞ」
ボクは、剣に手をかけようとした三十路の戦士を制する。
「ポピッカも余りゲルを刺激しないでよ。確かにからかうと面白いってのはわかるけどね。それに辺りを調べているザレドスの邪魔になってしまうよ」
「あぁ、確かにそうですわね。失礼致しました」
ポピッカが、しおらしく非を認める。ボクはそれに多少の違和感を覚えた。彼女とは昨日出会ったばかりだが、これほど素直に引き下がるとは意外である。
「や~い、怒られた~」
ゲルドーシュがはやし立てるが、今度はポピッカも相手にしない。
やれやれ、これじゃぁ先が思いやられるよ。そう思いながらザレドスの方へ目を向ける。中衛の細工師は今、風変わりな耳当て付きのゴーグルをかけている。それは探索用の魔使具であり、彼は迷宮内のささいな異音も聞き漏らさないようにし、また目に見えない罠や隠し扉などの僅かな痕跡を探ろうとしている。
「やぁ、スタン。お気遣いどうも。二人の掛け合いを聞くのも楽しいし、通常の獣は声を警戒して我々に近づいてこない。そういう意味では問題ないのですが、音の探索にはイササカよろしくないのでね」
穏やかに話す細工師が、こうべを迷宮のあちらこちらへと向ける。今回は探索が主な目的であるから、ある意味ザレドスがパーティーの要といって良い。他のメンバーは彼の護衛に過ぎないわけだ。
「で、どうなんだよ、ザレドス。何か目新しいものはあったかい?」
戦士ゲルドーシュは、手持無沙汰のようだ。
「いや、特にないですねぇ。浅層階ですし、事前の資料と変わりありません。スタンの言う通り、未踏破部分のチェックを早いところ終わらせて、下層へ進んだ方が良さそうです。……おや!? 前方の十字路に注意して下さい。左側から何かやって来ます」
細工師の思わぬ一言に皆が緊張する。
「おう、やっと俺の出番が来たか!」
歓喜の表情を浮かべ身構えるゲルドーシュ。彼の獲物となる事も知らず、ダンジョンの辻から黒い影が飛び出して来た。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
【完結】一途すぎる公爵様は眠り姫を溺愛している
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
リュシエンヌ・ソワイエは16歳の子爵令嬢。皆が憧れるマルセル・クレイン伯爵令息に婚約を申し込まれたばかりで幸せいっぱいだ。
しかしある日を境にリュシエンヌは眠りから覚めなくなった。本人は自覚が無いまま12年の月日が過ぎ、目覚めた時には父母は亡くなり兄は結婚して子供がおり、さらにマルセルはリュシエンヌの親友アラベルと結婚していた。
突然のことに狼狽えるリュシエンヌ。しかも兄嫁はリュシエンヌを厄介者扱いしていて実家にはいられそうもない。
そんな彼女に手を差し伸べたのは、若きヴォルテーヌ公爵レオンだった……。
『残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました』『結婚前日に友人と入れ替わってしまった……!』に出てくる魔法大臣ゼインシリーズです。
表紙は「簡単表紙メーカー2」で作成しました。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
異世界で『魔法使い』になった私は一人自由気ままに生きていきたい
哀村圭一
ファンタジー
人や社会のしがらみが嫌になって命を絶ったOL、天音美亜(25歳)。薄れゆく意識の中で、謎の声の問いかけに答える。
「魔法使いになりたい」と。
そして目を覚ますと、そこは異世界。美亜は、13歳くらいの少女になっていた。
魔法があれば、なんでもできる! だから、今度の人生は誰にもかかわらず一人で生きていく!!
異世界で一人自由気ままに生きていくことを決意する美亜。だけど、そんな美亜をこの世界はなかなか一人にしてくれない。そして、美亜の魔法はこの世界にあるまじき、とんでもなく無茶苦茶なものであった。
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。
いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成!
この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。
戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。
これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。
彼の行く先は天国か?それとも...?
誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。
小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中!
現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。
「元」面倒くさがりの異世界無双
空里
ファンタジー
死んでもっと努力すればと後悔していた俺は妖精みたいなやつに転生させられた。話しているうちに名前を忘れてしまったことに気付き、その妖精みたいなやつに名付けられた。
「カイ=マールス」と。
よく分からないまま取りあえず強くなれとのことで訓練を始めるのだった。
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる