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探索開始
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今回の隊列では、前衛にゲルドーシュとボクが付く事になるが、なるべく両側へ離れる形をとる。それは中衛に位置するザレドスが、前方を良く見えるようにするためだ。そして後衛にポピッカが付き、うしろからの敵に備える。
いささか異例の隊列ではあるものの、少ない人数ゆえと戦闘が少ないと予測される探索中心の任務ともなれば、これが最良の策であると思われる。
入り口付近にロビーのような広い空間がある事から、このダンジョンは比較的新しい時代のものなのだろう。禍々しい時代のそれとは違い、かなり洗練された印象である。壁には迷宮内を照らすために設けられた明り取りの魔使具が配置されており、こちらが射光機などの照明器具を使わなくても済むようになっている。
これらは州政府が設置したものとの話を聞いているが、ボクたちの探索前に十分なマジックエッセンスが充填されており、三週間は無補給でも迷宮内を照らし続けるという事だ。こちらとしては、少しでもマジックエッセンスを節約したいので有り難い。
「じゃぁ、まずこの階層の未踏破部分をさっさとクリアしていこう。それなりに多いので、あんまりノンビリしていると最深部の調査に使える時間が短くなってしまうからね」
リーダーとしての初命令である。これまでも探索リーダーを務めた事は何度かあるけれど、これだけの少数精鋭を率いた事は余りない。それもゲルドーシュ以外とは初顔合わせとなれば、初めての経験ではないだろうか。
「でもよぉ、リーダーの旦那。依頼のメインは最深部なんだろ? だったら早くそっちへ行っちまってさ、時間が余ったら残りを探索っていう風にした方がいいんじゃねぇのか」
ゲルドーシュが早速に横槍を入れる。
「それは道理ではあるんだけどね。最深部の謎が、最深部だけで解決する保証ってのはないわけさ」
ボクは歩みを早める。
「って言うと?」
ボクの左隣にいる前衛の戦士が尋ね返す。
「前に君とボクが探索したダンジョンにもあったじゃないか。最下層の宝物庫に入るためには、一階の入り口付近にある仕掛けを外しておかなくてはダメだったって事がさ。
役人や州兵の話では手ごわい敵はいなさそうだから、ダンジョンを進んでいくのにそれほど時間が掛かる事はないと思う。だから念のため、未踏破部分を潰していった方が結果としては効率的だと思うんだ」
「なーるへそ」
ゲルドーシュは確か三十路を越えたばかりだと思ったが、時々オッサンみたいな言葉を使う。まぁ、彼より遥かに”オッサン”のボクが言うのもおかしな話ではあるけれど。
「普通に考えれば、そうですわよね。ゲルは頭より、筋肉を働かす方に神経を集中してほしいものですわ」
後衛のポピッカが、ケラケラと笑う。
「んだと、コラ。じゃぁその筋肉で、頭をかち割ったろか?」
振り向いたゲルが、威嚇するポーズをとる。
「フン!出来るものならやってみなさいましよ。力ばかりの愚鈍な剣に、私が当たるはずもないですけどね」
白いフードを被った女僧侶が、今度は鼻で笑った。
「だ~っ! もう許せねぇ。目にもの見せてやる」
「ほらほら!ケンカはしない! 探索が始まったばかりなのに、何やってんの。そんなんだと、最深部の謎が解けなくて残金がもらえなくなるぞ」
ボクは、剣に手をかけようとした三十路の戦士を制する。
「ポピッカも余りゲルを刺激しないでよ。確かにからかうと面白いってのはわかるけどね。それに辺りを調べているザレドスの邪魔になってしまうよ」
「あぁ、確かにそうですわね。失礼致しました」
ポピッカが、しおらしく非を認める。ボクはそれに多少の違和感を覚えた。彼女とは昨日出会ったばかりだが、これほど素直に引き下がるとは意外である。
「や~い、怒られた~」
ゲルドーシュがはやし立てるが、今度はポピッカも相手にしない。
やれやれ、これじゃぁ先が思いやられるよ。そう思いながらザレドスの方へ目を向ける。中衛の細工師は今、風変わりな耳当て付きのゴーグルをかけている。それは探索用の魔使具であり、彼は迷宮内のささいな異音も聞き漏らさないようにし、また目に見えない罠や隠し扉などの僅かな痕跡を探ろうとしている。
「やぁ、スタン。お気遣いどうも。二人の掛け合いを聞くのも楽しいし、通常の獣は声を警戒して我々に近づいてこない。そういう意味では問題ないのですが、音の探索にはイササカよろしくないのでね」
穏やかに話す細工師が、こうべを迷宮のあちらこちらへと向ける。今回は探索が主な目的であるから、ある意味ザレドスがパーティーの要といって良い。他のメンバーは彼の護衛に過ぎないわけだ。
「で、どうなんだよ、ザレドス。何か目新しいものはあったかい?」
戦士ゲルドーシュは、手持無沙汰のようだ。
「いや、特にないですねぇ。浅層階ですし、事前の資料と変わりありません。スタンの言う通り、未踏破部分のチェックを早いところ終わらせて、下層へ進んだ方が良さそうです。……おや!? 前方の十字路に注意して下さい。左側から何かやって来ます」
細工師の思わぬ一言に皆が緊張する。
「おう、やっと俺の出番が来たか!」
歓喜の表情を浮かべ身構えるゲルドーシュ。彼の獲物となる事も知らず、ダンジョンの辻から黒い影が飛び出して来た。
いささか異例の隊列ではあるものの、少ない人数ゆえと戦闘が少ないと予測される探索中心の任務ともなれば、これが最良の策であると思われる。
入り口付近にロビーのような広い空間がある事から、このダンジョンは比較的新しい時代のものなのだろう。禍々しい時代のそれとは違い、かなり洗練された印象である。壁には迷宮内を照らすために設けられた明り取りの魔使具が配置されており、こちらが射光機などの照明器具を使わなくても済むようになっている。
これらは州政府が設置したものとの話を聞いているが、ボクたちの探索前に十分なマジックエッセンスが充填されており、三週間は無補給でも迷宮内を照らし続けるという事だ。こちらとしては、少しでもマジックエッセンスを節約したいので有り難い。
「じゃぁ、まずこの階層の未踏破部分をさっさとクリアしていこう。それなりに多いので、あんまりノンビリしていると最深部の調査に使える時間が短くなってしまうからね」
リーダーとしての初命令である。これまでも探索リーダーを務めた事は何度かあるけれど、これだけの少数精鋭を率いた事は余りない。それもゲルドーシュ以外とは初顔合わせとなれば、初めての経験ではないだろうか。
「でもよぉ、リーダーの旦那。依頼のメインは最深部なんだろ? だったら早くそっちへ行っちまってさ、時間が余ったら残りを探索っていう風にした方がいいんじゃねぇのか」
ゲルドーシュが早速に横槍を入れる。
「それは道理ではあるんだけどね。最深部の謎が、最深部だけで解決する保証ってのはないわけさ」
ボクは歩みを早める。
「って言うと?」
ボクの左隣にいる前衛の戦士が尋ね返す。
「前に君とボクが探索したダンジョンにもあったじゃないか。最下層の宝物庫に入るためには、一階の入り口付近にある仕掛けを外しておかなくてはダメだったって事がさ。
役人や州兵の話では手ごわい敵はいなさそうだから、ダンジョンを進んでいくのにそれほど時間が掛かる事はないと思う。だから念のため、未踏破部分を潰していった方が結果としては効率的だと思うんだ」
「なーるへそ」
ゲルドーシュは確か三十路を越えたばかりだと思ったが、時々オッサンみたいな言葉を使う。まぁ、彼より遥かに”オッサン”のボクが言うのもおかしな話ではあるけれど。
「普通に考えれば、そうですわよね。ゲルは頭より、筋肉を働かす方に神経を集中してほしいものですわ」
後衛のポピッカが、ケラケラと笑う。
「んだと、コラ。じゃぁその筋肉で、頭をかち割ったろか?」
振り向いたゲルが、威嚇するポーズをとる。
「フン!出来るものならやってみなさいましよ。力ばかりの愚鈍な剣に、私が当たるはずもないですけどね」
白いフードを被った女僧侶が、今度は鼻で笑った。
「だ~っ! もう許せねぇ。目にもの見せてやる」
「ほらほら!ケンカはしない! 探索が始まったばかりなのに、何やってんの。そんなんだと、最深部の謎が解けなくて残金がもらえなくなるぞ」
ボクは、剣に手をかけようとした三十路の戦士を制する。
「ポピッカも余りゲルを刺激しないでよ。確かにからかうと面白いってのはわかるけどね。それに辺りを調べているザレドスの邪魔になってしまうよ」
「あぁ、確かにそうですわね。失礼致しました」
ポピッカが、しおらしく非を認める。ボクはそれに多少の違和感を覚えた。彼女とは昨日出会ったばかりだが、これほど素直に引き下がるとは意外である。
「や~い、怒られた~」
ゲルドーシュがはやし立てるが、今度はポピッカも相手にしない。
やれやれ、これじゃぁ先が思いやられるよ。そう思いながらザレドスの方へ目を向ける。中衛の細工師は今、風変わりな耳当て付きのゴーグルをかけている。それは探索用の魔使具であり、彼は迷宮内のささいな異音も聞き漏らさないようにし、また目に見えない罠や隠し扉などの僅かな痕跡を探ろうとしている。
「やぁ、スタン。お気遣いどうも。二人の掛け合いを聞くのも楽しいし、通常の獣は声を警戒して我々に近づいてこない。そういう意味では問題ないのですが、音の探索にはイササカよろしくないのでね」
穏やかに話す細工師が、こうべを迷宮のあちらこちらへと向ける。今回は探索が主な目的であるから、ある意味ザレドスがパーティーの要といって良い。他のメンバーは彼の護衛に過ぎないわけだ。
「で、どうなんだよ、ザレドス。何か目新しいものはあったかい?」
戦士ゲルドーシュは、手持無沙汰のようだ。
「いや、特にないですねぇ。浅層階ですし、事前の資料と変わりありません。スタンの言う通り、未踏破部分のチェックを早いところ終わらせて、下層へ進んだ方が良さそうです。……おや!? 前方の十字路に注意して下さい。左側から何かやって来ます」
細工師の思わぬ一言に皆が緊張する。
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