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順調すぎる探索
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十字路の陰から飛び出してきたのは、一匹のゴルマラウルフであった。オオカミと言っても小型であり、野良犬に毛が生えた程度の獣である。
「グワァァー、ダァーッ!!」
凄まじい雄たけびが、ダンジョン内に響き渡る。
ただし声の主はオオカミではなく、ゲルドーシュであった。獣の如く凄まじい咆哮に、哀れな動物は至極怯えた表情で一目散に元来た通路へと走り去る。
「チェッ! なんでぇ、つまらねぇなぁ」
ゲルドーシュが、ツンと口を尖らせた。
「まぁ、体力温存っていう意味では良かったじゃないか」
ボクがなだめると、稀代の戦士は渋々納得する。
「もっとこう、骨のある奴が出てこないもんかね。なんかダンジョンに来たって感じがしねぇや」
愚痴る大男に僧侶が一言。
「今回の仕事はあくまで謎解きがメインですからね。何者かに邪魔されるような事があれば、貴方には死ぬまで盾になって頂きますので、それまでは出来るだけ無事でいてもらわなくては困りますわ」
「へいへい、ただしお前の盾にだけはならねぇからな。覚えとけ」
ぞんざいに返すゲルドーシュ。
「えぇ、自分の身は自分で守りますからご心配なく。私は絶対に謎を解いて……」
と言いかけて、ポピッカは口を閉ざした。
深層部の謎を解かなければ残金は出ない。また彼女ものっぴきならない金銭的な事情を抱えて、この依頼を引き受けたのだろう。
「さぁ、急ぎましょう。今のゲルの一声で、大抵の獣は暫く私たちに近づきませんよ。早いところ、この階の未踏破部分の調査を終わらせましょう」
メンバーに対して様々な想像をめぐらせているボクに、一人黙々と仕事をこなしているザレドスが促した。
細工師の言う通り、あれ以降、獣や魔物の類は全く出現せず調査は順調に進む。最初は不自然に残された未踏破部分に意味があるのかと思っていたが、何か特別な仕掛けがあったり魔物が隠れている事もなかった。いささか拍子抜けである。
地上階の探索を早々に終え、パーティーは下層へと向かった。通常は下へ行くほど強力なモンスターや、恐ろしい罠が仕掛けられているというのが定番だ。皆の間に緊張が走る。
「おっと、忘れるところだった!」
ボクは、事前に役人より渡されていたアイテムをとり出した。それは連絡用の使い魔を封印したものである。下の階へ降りる時には報告を兼ねて、逐一使い魔を送り出さねばならない契約であった。
ボクは魔方陣が描かれた、直径7センチ程度の薄い円盤をとり出す。円盤の裏に書いてある呪文を確認し、それを静かに床に置く。その言葉を唱えると、魔方陣から連絡用の使い魔が召喚される段取りだ。郵便代わりに使われる使い魔と同種のものである。
現れた彼に地上階でのあらましを言うと、この小さな伝達者は入口の方へと飛び去った。
「あいつ、ちゃんと外まで行けるのかいな」
ゲルドーシュが不安げにつぶやく。
「大丈夫ですよ、予めダンジョン内の地図を教え込んであるでしょうからね」
ザレドスが答える。
「私は余りいい気がしませんわ。何か彼らを物のようにこき使っているようで……」
「へっ、お優しいこって! 俺の事は肉の盾として、こき使おうっていうのによ」
ポピッカの言葉に、ゲルドーシュが毒づく。
僧侶の意見にボクは心の中で同意をしたが、今は依頼主の言う事に従うほか道はない。
さて、気を取り直して地下一階へと降りる。見た目は地上階と変わらず、州兵が設置した明かりが煌々と灯っている。この階にもそれなりに多くの未踏破部分があるので、ザレドスの指示の元、端から踏破していく。
「う~ん、この階も地上階と同じ感じですねぇ。未踏破部分にこれといった意味はなさそうだし、深層部の謎解きに必要であると思しき仕掛けもない」
ザレドスが、ため息をつく。
「何だよ、ザレドス。簡単に事が進んでいるわけだから、いい事じゃねぇか。何でまたそんな溜息なんぞを漏らすんだい?」
自らの肩越しに前衛のゲルドーシュが尋ねる。
「確かに未踏破部分の探索だけならその通りなんですけどね。我々の最終目的は最深部の謎を究明する事でしょう? 未踏破部分などに仕掛けやヒントがあるのなら、それはある意味収穫と言えるわけですよ。しかし今のところ、それが全くない……」
「つまりこのままだと、ボクらはヒントなしの手ぶらで、最深部の謎と向き合わなきゃいけなくなるって事さ」
細工師の説明をボクが引き継いだ。
「え~?そりゃ大変じゃないか、旦那! 大丈夫なのかよ。まぁ、こう言っちゃなんだが、俺は頭はそれほど良くないしさ、謎解きは旦那たちに任せて、こっちは行く手を阻む輩をぶっ飛ばすのが役目だと思っているんで、しっかりしてもらわなくちゃ困るぜ全く」
ゲルドーシュが、ようやく事態の深刻さに気付く。
「頭がそれほど良くない……ですか。まぁ、”それほど”の部分は、余計というものですわね。もっともこちらも筋肉の盾であるあなたに、謎解きの成果を期待してはいませんですけれど」
毒づきながらも、ポピッカの表情も暗い。謎解きのプレッシャーが、どんどん大きくなっているのだろう。
「はぁ~? いちいち突っかかってくるねぇ、僧侶の嬢ちゃんよ。だったらお前さんには、何か謎解きのヒントでもわかっているのかい?」
ゲルドーシュが向き直り、ザレドスを挟んで彼女を睨んだ。
「わかっていたら、苦労しませんわ!」
僧侶のイラついた声が迷宮に響き渡る。
「あ~、こらこら!そこまで! ケンカはしない!」
ボクは慌てて止めに入った。
「ねぇ、ザレドス。実は僕も未踏破部分には何か意味があると思っていたんだけど、今のところそうではない感じだ。このまま未踏破部分を一つ一つ潰してくのは、時間の浪費なのだろうか」
「いや、私はこのまま調べていくのが妥当だと思います。もしかしたら、そう思わせるのが”誰か”の意図かも知れませんからね。これだけ簡単に未踏破部分をクリアして行けば、どうしても気が緩んで探索がぞんざいになるでしょう」
細工師の適切なアドバイスが飛ぶ。
「よぉ、”誰か”とか”意図”とか、一体何の話だよ。俺の”それほど”良くない頭でもわかるように説明してくれよ」
ゲルドーシュとしては、ポピッカに皮肉を言ったつもりなのだろうが、あまり的確には通じていないようだ。
「グワァァー、ダァーッ!!」
凄まじい雄たけびが、ダンジョン内に響き渡る。
ただし声の主はオオカミではなく、ゲルドーシュであった。獣の如く凄まじい咆哮に、哀れな動物は至極怯えた表情で一目散に元来た通路へと走り去る。
「チェッ! なんでぇ、つまらねぇなぁ」
ゲルドーシュが、ツンと口を尖らせた。
「まぁ、体力温存っていう意味では良かったじゃないか」
ボクがなだめると、稀代の戦士は渋々納得する。
「もっとこう、骨のある奴が出てこないもんかね。なんかダンジョンに来たって感じがしねぇや」
愚痴る大男に僧侶が一言。
「今回の仕事はあくまで謎解きがメインですからね。何者かに邪魔されるような事があれば、貴方には死ぬまで盾になって頂きますので、それまでは出来るだけ無事でいてもらわなくては困りますわ」
「へいへい、ただしお前の盾にだけはならねぇからな。覚えとけ」
ぞんざいに返すゲルドーシュ。
「えぇ、自分の身は自分で守りますからご心配なく。私は絶対に謎を解いて……」
と言いかけて、ポピッカは口を閉ざした。
深層部の謎を解かなければ残金は出ない。また彼女ものっぴきならない金銭的な事情を抱えて、この依頼を引き受けたのだろう。
「さぁ、急ぎましょう。今のゲルの一声で、大抵の獣は暫く私たちに近づきませんよ。早いところ、この階の未踏破部分の調査を終わらせましょう」
メンバーに対して様々な想像をめぐらせているボクに、一人黙々と仕事をこなしているザレドスが促した。
細工師の言う通り、あれ以降、獣や魔物の類は全く出現せず調査は順調に進む。最初は不自然に残された未踏破部分に意味があるのかと思っていたが、何か特別な仕掛けがあったり魔物が隠れている事もなかった。いささか拍子抜けである。
地上階の探索を早々に終え、パーティーは下層へと向かった。通常は下へ行くほど強力なモンスターや、恐ろしい罠が仕掛けられているというのが定番だ。皆の間に緊張が走る。
「おっと、忘れるところだった!」
ボクは、事前に役人より渡されていたアイテムをとり出した。それは連絡用の使い魔を封印したものである。下の階へ降りる時には報告を兼ねて、逐一使い魔を送り出さねばならない契約であった。
ボクは魔方陣が描かれた、直径7センチ程度の薄い円盤をとり出す。円盤の裏に書いてある呪文を確認し、それを静かに床に置く。その言葉を唱えると、魔方陣から連絡用の使い魔が召喚される段取りだ。郵便代わりに使われる使い魔と同種のものである。
現れた彼に地上階でのあらましを言うと、この小さな伝達者は入口の方へと飛び去った。
「あいつ、ちゃんと外まで行けるのかいな」
ゲルドーシュが不安げにつぶやく。
「大丈夫ですよ、予めダンジョン内の地図を教え込んであるでしょうからね」
ザレドスが答える。
「私は余りいい気がしませんわ。何か彼らを物のようにこき使っているようで……」
「へっ、お優しいこって! 俺の事は肉の盾として、こき使おうっていうのによ」
ポピッカの言葉に、ゲルドーシュが毒づく。
僧侶の意見にボクは心の中で同意をしたが、今は依頼主の言う事に従うほか道はない。
さて、気を取り直して地下一階へと降りる。見た目は地上階と変わらず、州兵が設置した明かりが煌々と灯っている。この階にもそれなりに多くの未踏破部分があるので、ザレドスの指示の元、端から踏破していく。
「う~ん、この階も地上階と同じ感じですねぇ。未踏破部分にこれといった意味はなさそうだし、深層部の謎解きに必要であると思しき仕掛けもない」
ザレドスが、ため息をつく。
「何だよ、ザレドス。簡単に事が進んでいるわけだから、いい事じゃねぇか。何でまたそんな溜息なんぞを漏らすんだい?」
自らの肩越しに前衛のゲルドーシュが尋ねる。
「確かに未踏破部分の探索だけならその通りなんですけどね。我々の最終目的は最深部の謎を究明する事でしょう? 未踏破部分などに仕掛けやヒントがあるのなら、それはある意味収穫と言えるわけですよ。しかし今のところ、それが全くない……」
「つまりこのままだと、ボクらはヒントなしの手ぶらで、最深部の謎と向き合わなきゃいけなくなるって事さ」
細工師の説明をボクが引き継いだ。
「え~?そりゃ大変じゃないか、旦那! 大丈夫なのかよ。まぁ、こう言っちゃなんだが、俺は頭はそれほど良くないしさ、謎解きは旦那たちに任せて、こっちは行く手を阻む輩をぶっ飛ばすのが役目だと思っているんで、しっかりしてもらわなくちゃ困るぜ全く」
ゲルドーシュが、ようやく事態の深刻さに気付く。
「頭がそれほど良くない……ですか。まぁ、”それほど”の部分は、余計というものですわね。もっともこちらも筋肉の盾であるあなたに、謎解きの成果を期待してはいませんですけれど」
毒づきながらも、ポピッカの表情も暗い。謎解きのプレッシャーが、どんどん大きくなっているのだろう。
「はぁ~? いちいち突っかかってくるねぇ、僧侶の嬢ちゃんよ。だったらお前さんには、何か謎解きのヒントでもわかっているのかい?」
ゲルドーシュが向き直り、ザレドスを挟んで彼女を睨んだ。
「わかっていたら、苦労しませんわ!」
僧侶のイラついた声が迷宮に響き渡る。
「あ~、こらこら!そこまで! ケンカはしない!」
ボクは慌てて止めに入った。
「ねぇ、ザレドス。実は僕も未踏破部分には何か意味があると思っていたんだけど、今のところそうではない感じだ。このまま未踏破部分を一つ一つ潰してくのは、時間の浪費なのだろうか」
「いや、私はこのまま調べていくのが妥当だと思います。もしかしたら、そう思わせるのが”誰か”の意図かも知れませんからね。これだけ簡単に未踏破部分をクリアして行けば、どうしても気が緩んで探索がぞんざいになるでしょう」
細工師の適切なアドバイスが飛ぶ。
「よぉ、”誰か”とか”意図”とか、一体何の話だよ。俺の”それほど”良くない頭でもわかるように説明してくれよ」
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